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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
12月

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287/296

40話 魔人⑨





―――――





 ――西欧某所。


 人の気配が途絶えた山間部。


 その奥に、巨大な施設が建っていた。


 かつては鉱山の採掘施設として使われていた場所。


 今では廃棄され、地図からも存在を消されたはずの建物だった。


 しかし。


「……ここだな」


 施設から少し離れた岩陰に、一人の少年が立っていた。


 桑原巧。


 本来ならば、ここに来るはずではなかった。


 いや、来てはいけなかった。


 ヴィクトリアからは待機命令が出ている。


 レグルスとの戦闘は禁止。


 陽菜の救出も、ジャティスが動くまで待て。


 それが正式な命令だった。


「……分かってるよ」


 巧は腰の【ハヤテ】へ手を添える。


「命令違反だってことくらい」


 それでも来てしまった。


 妹が連れ去られたと知って、何もしないなんてできなかった。


「待ってろ、陽菜」


 巧は施設を睨む。


「今、助けるから」


 そして――。


 少年は闇の中へ身を滑り込ませた。


 施設内部。


 巧は壁際を走っていた。


「……警備が多いな」


 廃墟とは思えない。


 最低限の照明。


 監視カメラ。


 そして、武装した見張り。


 どうやらレグルスは、ここを一時的な拠点として利用しているらしい。


「……正面突破は無理か」


 巧は天井を見上げる。


 配管。


 その隙間。


「なら――上から行く」


 近くの階段を駆け上がる。


 足音を殺しながら二階へ。


 角を曲がった瞬間。


『――誰だ!』


「っ!」


 見張りと目が合った。


 巧は迷わなかった。


「悪い!」


 踏み込む。


 刀の柄で相手の腕を打ち、武器を落とさせる。


 続けざまに足を払う。


『ぐっ!』


 男が倒れる。


「一人……」


 巧は周囲を確認する。


 だが。


『侵入者だ!』


「しまった!」


 警報が鳴り響いた。


 赤いランプが施設内を照らす。


 同時に、複数の足音が近づいてくる。


「……やるしかないか」


 巧は【ハヤテ】を抜いた。


「来い!」


 次々と襲いかかってくる男たち。


 巧は刀を振るう。


 斬らない。


 峰を使う。


 柄で打つ。


 足を払う。


 敵の武器を弾き飛ばす。


 一人。


 二人。


 三人。


 巧は次々と敵を倒していく。


『こいつ……!』


『ただのガキじゃないのか!?』


『何者だっ!?』 


「――っ」


『まさか……ジャティスか?』


「だったら何だ!」


 再び踏み込む。


「俺は陽菜を助けに来た!」


 最後の一人を床へ叩き伏せる。


 静寂の中巧は息を整えた。


「……陽菜」


 施設の奥を見る。


 そして、巧は走り出した。


 ――さらに奥。


 長い廊下を抜けた先。


 鉄製の扉があった。


「……」


 巧は足を止める。


 扉の向こうから――。


「……お兄ちゃん?」


「……!」


 聞き間違えるはずがない。


「陽菜!」


 巧は扉へ駆け寄る。


 施錠されていたドアを勢いよく破った。


「陽菜!」


「お兄ちゃん!」


 部屋の奥。


 そこには陽菜がいた。


 拘束されているわけでもない。


 大きな怪我もない。


 ただ、不安そうな顔でこちらを見ている。


「……よかった」


 巧は胸を撫で下ろす。


「怪我はないか?」


「うん……」


「エヴァは?」


「大丈夫。私を庇ってくれたけど、無事だって」


「そうか……」


 巧は安心した。


 だが。


「――感動の再会は終わったか?」


「……!」


 背後から声がした。


 巧が振り返る。


 そこには。


 一人の大男が立っていた。


「……レグルス」


「よう、小僧」


 レグルス・クレイマー。


 魔人。


 その存在を目にした瞬間。


 巧の身体が僅かに強張った。


 圧倒的な威圧感。


 これまで戦ってきた相手とは明らかに違う。


「お兄ちゃん……」


「陽菜。下がってろ」


「でも――」


「いいから」


 巧は一歩前へ出る。


「俺を倒してからだ」


 レグルスが笑った。


「……何?」


「妹を連れて帰りたいんだろ?」


 拳を握る。


「なら、俺を倒してみろ」


 巧は【ハヤテ】を抜いた。


「……上等だ」


 レグルスは楽しそうに笑う。


「その歳で一人か。ジャティスってのは随分と人手不足らしいな」


「俺一人で十分だ」


「……言うじゃねぇか気に入ったぜ」


 レグルスが一歩踏み出す。


 ただ、それだけ。


 それだけなのに。


 床が軋んだ。


「だったら見せてみろ」


「――!」


 次の瞬間。


 レグルスの巨体が消えた。


「ッ!」


 巧は反射的に刀を振るう。


 ガギィンッ!!


 拳と刀が激突した。


「ぐっ……!」


 凄まじい衝撃。


 巧の身体が後ろへ弾き飛ばされる。


 だが、倒れない。


 足を滑らせながら着地し、すぐさま構え直す。


「……やっぱり、速いな」


「へぇ」


 レグルスが目を細めた。


「今のを受けて立ってるか」


「父さんの方が強かった」


「……何?」


「俺の父親は、お前なんかよりずっと強かった」


 巧の目が鋭くなる。


「だから――俺も負けるわけにはいかない」


「ククッ……」


 レグルスは笑った。


「面白ぇ」


 再び踏み込む。


「なら、死ぬ気で来い!」


「――ッ!」


 巧も駆け出した。


 刀を振るう。


 一閃。


 二閃。


 三閃。


 レグルスはそれを紙一重でかわしていく。


「甘ぇ!」


 拳が迫る。


 巧は身体を捻って避ける。


 そのまま懐へ入り込み、刀の柄でレグルスの腕を打ち抜いた。


「そこだ!」


「おっと」


 レグルスが腕を引く。


 巧は追撃する。


 だが――。


 ガンッ!


「――ぐっ!」


 肩を掴まれた。


「捕まえたぞ」


「しまっ――」


 巧の身体が軽々と持ち上げられる。


 そのまま投げ飛ばされた。


「うわぁっ!」


 床を転がる。


「……っ」


 痛みを堪えながら立ち上がる。


 息が荒い。


 それでも。


 刀を落としてはいなかった。


「まだやるか?」


「当然だ」


 巧は刀を構え直す。


「……魔甲は使わねぇのか?」


「……!」


 レグルスの問いに、巧の動きが止まった。


「ジャティスなんだろ?」


「……」


「なら、あれを使えばいいじゃねぇか」


 レグルスは笑う。


「それとも――使えねぇのか?」


「違う」


 巧は即答した。


「使える」


「ほう」


「だけど……」


 巧は【ハヤテ】を握り締める。


「まだ、俺に魔甲は早いんだよ」


 父の言葉が蘇る。


『魔甲を使えるだけでは、ジャティスにはなれない』


「だから、今は自分の力で戦う」


「……なるほどな」


 レグルスは笑みを浮かべた。


「随分と真面目な小僧だ」


「俺は――」


 巧は一歩踏み出す。


「父さんの名前を借りて戦ってるわけじゃない」


 刀を正眼に構える。


「俺自身の力で、陽菜を取り戻す!」


「だったら――」


 レグルスが拳を握る。


「その意地ごと叩き潰してやるよ!」


「来い!」


 二人が同時に駆け出した。


 刀と拳。


 鋼と肉体。


 魔甲を纏わない少年と、肉弾戦最強の魔人。


 その力の差は、あまりにも大きかった。


 



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