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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
12月

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289/299

41話 魔甲②




―――――






 ――魔甲を纏った巧は、それでも立っていた。


「……はぁ……はぁ……」


 荒い息が漏れる。


 全身を覆う白銀の魔甲には、無数の傷が刻まれていた。


 装甲の一部はひしゃげ、肩口からは火花が散っている。


 それでも、巧は【ハヤテ】を握ったまま倒れなかった。


「……まだ……だ」


「まだやるのか?」


 目の前のレグルスが、呆れたように笑う。


「魔甲まで使って、そのザマだぞ?」


「……うるさい」


 巧は震える脚に力を込める。


「俺には……やらなきゃならない理由があるんだ!」


 床を蹴った。


 魔甲によって強化された脚力が、巧の身体を一気に加速させる。


「――ッ!」


 一瞬で間合いを詰める。


 【ハヤテ】が閃いた。


 狙いはレグルスの肩。


 しかし――。


 ガキィンッ!


「なっ――!」


 レグルスは腕一本で刀を受け止めていた。


「惜しいな」


「くっ……!」


 巧は刀を引く。


 そのまま横薙ぎ。


 さらに一歩。


 斜めから二撃目。


 続けざまに三撃目。


 巧の剣閃が連続して走る。


 だが。


「遅ぇ」


 レグルスは、その全てを紙一重でかわしていく。


「――ッ!」


 次の瞬間。


 拳が迫った。


 ドゴォンッ!!


「ぐあっ!」


 魔甲へ拳が叩き込まれる。


 巧の身体が宙へ浮いた。


 そのまま数メートル吹き飛び、壁へ激突する。


「お兄ちゃん!」


「来るな……!」


 陽菜の声を制し、巧は瓦礫を押し退ける。


「……っ」


 立ち上がる。


 魔甲が衝撃を受け止めてくれた。


 それでも。


 身体の芯まで響くような痛みが残っている。


「これが……魔人……」


 巧は荒い呼吸を繰り返す。


 視線の先。


 そこに立つレグルスには、ほとんど傷がない。


「どうした?」


 レグルスが拳を鳴らす。


「もう終わりか?」


「……まさか」


 巧は刀を構え直した。


「まだ……これからだ!」


「……そうか」


 レグルスの口元が僅かに吊り上がる。


「なら――少しだけ付き合ってやる」


「……?」


 その瞬間だった。


 レグルスの表情から、笑みが消えた。


「――《ビーストハート》」


 ドクン。


 低い音が響いた。


 それは、心臓の鼓動。


 しかし、ただの鼓動ではない。


 空気そのものが震えた。


「……っ!」


 巧の身体が強張る。


 レグルスから放たれる圧力が、一気に膨れ上がった。


「お兄ちゃん……」


 陽菜も思わず後ずさる。


 目の前にいるのは、先ほどまでのレグルスではない。


 身体の奥底から、何か巨大なものが目を覚ましたような感覚。


 魔力。


 それだけではない。


 もっと原始的で、純粋な力。


 まるで――。


 巨大な獣が、今まさに檻から解き放たれたかのようだった。


「これが俺の《ビーストハート》だ」


 レグルスは胸元へ手を当てる。


「心臓から全身へ、限界まで力を送り込む」


 ドクン。


 再び鼓動。


 筋肉が軋む。


 魔力が全身を巡り、身体能力そのものを底上げしていく。


「力も」


 ドクン。


「速度も」


 ドクン。


「反応も――全部上がる」


 レグルスが顔を上げる。


「まあ……今のところ三割程度だがな」


「……三割……?」


 巧の額を冷たい汗が伝う。


 ――今まででさえ、まるで歯が立たなかった。


 それなのに。


 まだ三割。


「……冗談だろ」


「残念ながら、本気だ」


 レグルスが拳を握る。


「――行くぞ」


「……!」


 消えた。


「速――」


 巧の視界から、レグルスの姿が消失する。


 次の瞬間。


 目の前に拳があった。


「――ッ!」


 咄嗟に【ハヤテ】を立てる。


 ガァンッ!!


「ぐ――ッ!」


 刀身へ衝撃が走った。


 腕が痺れる。


 魔甲が軋む。


 そのまま巧の身体が吹き飛ばされた。


「お兄ちゃん!」


「まだ……!」


 空中で身体を捻る。


 壁へ足をつけた。


 魔甲の補助を利用して壁を蹴り、そのまま反転。


「うおおおおっ!」


 再びレグルスへ突っ込む。


 刀を振り下ろす。


「――ッ!」


 レグルスは避けない。


 拳を握る。


 ガギィィンッ!!


 刀と拳が激突した。


「……!」


 押し負ける。


 巧の刀が、ゆっくりと押し戻されていく。


「まだまだ経験不足だな」


「……っ!」


「技術も悪くねぇ」


 レグルスが笑う。


「身体能力も十分だ」


「なら――!」


「だがな」


 拳に力が籠もる。


「経験が足りねぇ」


「――ッ!」


 刀が弾き飛ばされる。


「しまっ――」


 レグルスの拳が迫る。


 ドンッ!


「ぐあっ!」


 魔甲が大きくへこむ。


 巧の身体が再び吹き飛んだ。


 床を転がる。


「お兄ちゃん!」


「……来るな……!」


 巧は震える腕で身体を起こす。


 視界が揺れていた。


 息が苦しい。


 魔甲を纏っているはずなのに。


 まるで自分の身体そのものを殴られているようだった。


「……くそ」


 巧は歯を食いしばる。


(勝てない)


 認めたくなかった。


(俺じゃ……レグルスには勝てない)


 魔甲を使った。


 これまで以上の力を引き出した。


 それでも目の前の男には、ほとんど届いていない。


(このままじゃ……)


 巧は陽菜を見る。


 少女は不安そうにこちらを見つめていた。


(陽菜を連れて帰れない)


 ならば。


(せめて……)


 巧は【ハヤテ】を握り直す。


(陽菜だけでも――)


 目的は最初から一つだった。


 レグルスを倒すことじゃない。


 陽菜を取り戻すこと。


 ならば、戦い方を変えるしかない。


「どうした?」


 レグルスが歩み寄る。


「怖気づいたか?」


「……」


「さっきまでの威勢はどうした?」


 挑発。


 それは分かっている。


 だが、巧は動かなかった。


(どうする……)


 そのとき――。


「巧さんっ!!」


「――!?」


 聞き覚えのある声が、施設内に響き渡った。


「エ、エヴァ!?」


 巧が振り返る。


 そこには息を切らしながら、こちらへ駆けてくる少女がいた。


「やっと……追いつきました……!」


「なんで……ここに……」


「そんなの決まっています!」


 エヴァは巧を睨む。


「本当に一人で来るなんて、無茶にもほどがあります!」


「……ごめん」


「謝って済む問題ではありません!」


 怒っている。


 それでもその声には、安堵も混じっていた。


 そしてエヴァは、巧の隣に立つ陽菜へ視線を向ける。


「陽菜ちゃん!」


「エヴァ……!」


「無事でよかったです……!」


 エヴァは胸を撫で下ろす。


 だが、次の瞬間。


「――ほぉ、このガキを連れていく前に邪魔した女か。まだ痛めつけるのが足りなかったか?」


 レグルスは楽しそうに笑った。


「女に手を挙げる人はサイテーですよ!」


 エヴァが巧へ目を向ける。


「巧さん」


「……何?」


「一人で勝てないなら――」


 エヴァはカードを握り直す。


「二人なら、どうでしょう?」


「……」


 巧は理解していた。


 二人でもレグルスに太刀打ち出来ないことを。


 レグルスは二人を見つめ――。


「……面白ぇ。まとめて相手してやるよ」


「ーーーエヴァ、頼みたいことがあるんだ」


 巧は陽菜に聞こえないようにエヴァに耳打ちをした。







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