40話 魔人③
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数日後。
ジャティス本部。
その一室に、一人の少女が案内されていた。
「こちらがジャティスの本部になります」
「……なるほど」
エヴァンジェ・ソトは、周囲を興味深そうに見回していた。
訓練場では魔甲を纏った隊員たちが激しい訓練を行っている。
巨大な装甲。
魔力を動力とした特殊兵装。
魔術士から見ても興味深い技術のはずだった。
「……」
エヴァは数秒だけ眺める。
「ふむ」
『……興味ありませんか?』
案内役の隊員が尋ねる。
「いえ。大変興味深いですよ」
『そうですか』
「ですが、それよりも」
エヴァは周囲を見渡す。
「日本人の方はどこですか?」
『…………』
案内役が固まった。
『……日本人?』
「はい!」
エヴァは勢いよく頷く。
「今回、私が聞いているのは日本人の少年についてです!」
『ああ……桑原巧のことか』
「そう! その人です!」
エヴァの目が輝いた。
「本当に日本人なのですか!?」
『確かに桑原は日本人ですけど、生まれも育ちもここの国ですよ?』
「それでも日本人の血が流れているのですね!?」
『えぇ……まぁ、そうですね』
「ぜひ会わせてください!」
『まずは総隊長への挨拶が先ですね』
「分かっています!」
そう言いながらも。
エヴァは完全にそわそわしていた。
「本物の日本人……」
『……』
「日本語を話す日本人……!」
『いや、日本語を話せるだけなら君も――』
「私は違います!」
エヴァは食い気味に否定した。
「私は北欧生まれ北欧育ちです!」
『知ってるよ』
「ですが、日本文化を愛しています!」
『それも聞いている』
「ならば問題ありません!」
『何が?』
「早く会いましょう!」
『……』
案内役は諦めた。
『分かったよ』
「ありがとうございます!」
――そして。
数十分後。
総隊長室。
「失礼します」
扉が開く。
エヴァは背筋を伸ばして部屋へ入った。
「エヴァンジェ・ソトです。本日より――」
そこで。
エヴァの言葉が止まった。
部屋の隅。
一人の少年が立っていた。
黒髪。
日本人らしい顔立ち。
腰には一本の刀を差している。
「……」
エヴァの視線が少年へ吸い寄せられる。
総隊長が口を開く。
「紹介しよう。桑原巧だ」
「…………」
エヴァは動かない。
「桑原、こちらはエテルナ魔術学院から派遣された――」
「日本人ですか!?」
「え?」
巧が目を丸くする。
次の瞬間。
「本物だぁぁぁぁっ!」
「うわっ!?」
エヴァが突然、巧へ駆け寄った。
「ちょ、ちょっと!」
「本当に日本人ですか!?」
「え、まあ……」
「日本に住んでいたことは!?」
「たまに行くぐらいは……」
「日本語は!?」
「話せますけど……」
「おおおおっ!」
「何なんだ、この人……」
巧が困惑している間にも、エヴァの質問は止まらない。
「日本食は!?」
「普通に食べます」
「お寿司は!?」
「……食べたことはあります」
「天ぷら!」
「あります」
「ラーメン!」
「あります」
「おにぎり!」
「ありますけど……」
「素晴らしい!」
エヴァが両手を握りしめる。
「本物の日本文化を知っている人が目の前に!」
「いや、俺はこっちにいる期間の方が長いですよ?」
「それでも日本人でしょう!」
「まあ……」
巧は苦笑する。
「そうですけど」
エヴァは感動したように巧を見つめる。
「……すごい」
「?」
「私、ずっと日本に行ってみたかったんです」
「そうなんですか?」
「はい!」
エヴァは満面の笑みを浮かべた。
「日本の歴史! 文化! 神社! お寺! 妖怪! 侍! 忍者! コスプレ!」
「最後の二つ、ちょっと偏ってない? 後、最後のはどうかと……」
「全部好きです!」
「……そうですか」
巧はどう反応すればいいのか分からず、頭を掻いた。
そんな二人を見ていたヴィクトリアは、深いため息をつく。
「エヴァ」
「はい!」
「魔甲には興味がないのか?」
「もちろんあります」
エヴァは即答する。
「ですが!」
巧を指差す。
「こちらの方が重要です!」
「俺!?」
巧が驚く。
「魔甲は資料で勉強できます!」
「……」
「しかし、日本人と直接話せる機会なんて滅多にありません!」
「そんなに珍しいのか?」
「この辺りでは珍しいです!」
「なるほど……」
巧は納得しかける。
「では、巧さん!」
「はい?」
「日本について教えてください!」
「だから俺、日本に詳しいわけでは……」
「では、日本人としての知識を!」
「それもそんなにないですよ」
「……」
エヴァが固まる。
「え?」
「俺、生まれも育ちもここなので」
「…………」
数秒の沈黙。
そして。
「――それはそれで興味深いです!」
「どうして!?」
ジャティス本部に、エヴァの楽しそうな声が響き渡った。
魔甲。
魔術。
魔人。
そんなものよりも。
日本文化研究同好会部長(部員は一人)・エヴァンジェ・ソトにとって。
目の前にいる日本人の少年の方が、よほど魅力的な研究対象だった。




