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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
12月

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40話 魔人③








―――――








 数日後。


 ジャティス本部。


 その一室に、一人の少女が案内されていた。


「こちらがジャティスの本部になります」


「……なるほど」


 エヴァンジェ・ソトは、周囲を興味深そうに見回していた。


 訓練場では魔甲を纏った隊員たちが激しい訓練を行っている。


 巨大な装甲。


 魔力を動力とした特殊兵装。


 魔術士から見ても興味深い技術のはずだった。


「……」


 エヴァは数秒だけ眺める。


「ふむ」


『……興味ありませんか?』


 案内役の隊員が尋ねる。


「いえ。大変興味深いですよ」


『そうですか』


「ですが、それよりも」


 エヴァは周囲を見渡す。


「日本人の方はどこですか?」


『…………』


 案内役が固まった。


『……日本人?』


「はい!」


 エヴァは勢いよく頷く。


「今回、私が聞いているのは日本人の少年についてです!」


『ああ……桑原巧のことか』


「そう! その人です!」


 エヴァの目が輝いた。


「本当に日本人なのですか!?」


『確かに桑原は日本人ですけど、生まれも育ちもここの国ですよ?』


「それでも日本人の血が流れているのですね!?」


『えぇ……まぁ、そうですね』


「ぜひ会わせてください!」


『まずは総隊長への挨拶が先ですね』


「分かっています!」


 そう言いながらも。


 エヴァは完全にそわそわしていた。


「本物の日本人……」


『……』


「日本語を話す日本人……!」


『いや、日本語を話せるだけなら君も――』


「私は違います!」


 エヴァは食い気味に否定した。


「私は北欧生まれ北欧育ちです!」


『知ってるよ』


「ですが、日本文化を愛しています!」


『それも聞いている』


「ならば問題ありません!」


『何が?』


「早く会いましょう!」


『……』


 案内役は諦めた。


『分かったよ』


「ありがとうございます!」


 ――そして。


 数十分後。


 総隊長室。


「失礼します」


 扉が開く。


 エヴァは背筋を伸ばして部屋へ入った。


「エヴァンジェ・ソトです。本日より――」


 そこで。


 エヴァの言葉が止まった。


 部屋の隅。


 一人の少年が立っていた。


 黒髪。


 日本人らしい顔立ち。


 腰には一本の刀を差している。


「……」


 エヴァの視線が少年へ吸い寄せられる。


 総隊長が口を開く。


「紹介しよう。桑原巧だ」


「…………」


 エヴァは動かない。


「桑原、こちらはエテルナ魔術学院から派遣された――」


「日本人ですか!?」


「え?」


 巧が目を丸くする。


 次の瞬間。


「本物だぁぁぁぁっ!」


「うわっ!?」


 エヴァが突然、巧へ駆け寄った。


「ちょ、ちょっと!」


「本当に日本人ですか!?」


「え、まあ……」


「日本に住んでいたことは!?」


「たまに行くぐらいは……」


「日本語は!?」


「話せますけど……」


「おおおおっ!」


「何なんだ、この人……」


 巧が困惑している間にも、エヴァの質問は止まらない。


「日本食は!?」


「普通に食べます」


「お寿司は!?」


「……食べたことはあります」


「天ぷら!」


「あります」


「ラーメン!」


「あります」


「おにぎり!」


「ありますけど……」


「素晴らしい!」


 エヴァが両手を握りしめる。


「本物の日本文化を知っている人が目の前に!」


「いや、俺はこっちにいる期間の方が長いですよ?」


「それでも日本人でしょう!」


「まあ……」


 巧は苦笑する。


「そうですけど」


 エヴァは感動したように巧を見つめる。


「……すごい」


「?」


「私、ずっと日本に行ってみたかったんです」


「そうなんですか?」


「はい!」


 エヴァは満面の笑みを浮かべた。


「日本の歴史! 文化! 神社! お寺! 妖怪! 侍! 忍者! コスプレ!」


「最後の二つ、ちょっと偏ってない? 後、最後のはどうかと……」


「全部好きです!」


「……そうですか」


 巧はどう反応すればいいのか分からず、頭を掻いた。


 そんな二人を見ていたヴィクトリアは、深いため息をつく。


「エヴァ」


「はい!」


「魔甲には興味がないのか?」


「もちろんあります」


 エヴァは即答する。


「ですが!」


 巧を指差す。


「こちらの方が重要です!」


「俺!?」


 巧が驚く。


「魔甲は資料で勉強できます!」


「……」


「しかし、日本人と直接話せる機会なんて滅多にありません!」


「そんなに珍しいのか?」


「この辺りでは珍しいです!」


「なるほど……」


 巧は納得しかける。


「では、巧さん!」


「はい?」


「日本について教えてください!」


「だから俺、日本に詳しいわけでは……」


「では、日本人としての知識を!」


「それもそんなにないですよ」


「……」


 エヴァが固まる。


「え?」


「俺、生まれも育ちもここなので」


「…………」


 数秒の沈黙。


 そして。


「――それはそれで興味深いです!」


「どうして!?」


 ジャティス本部に、エヴァの楽しそうな声が響き渡った。


 魔甲。


 魔術。


 魔人。


 そんなものよりも。


 日本文化研究同好会部長(部員は一人)・エヴァンジェ・ソトにとって。


 目の前にいる日本人の少年の方が、よほど魅力的な研究対象だった。





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