表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
12月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

273/285

39話 出会い、1/7






――十年前。


 雪が降っていた。


 白く染まった街。


 吐く息は白く、歩道には冷たい雪が積もっている。


 そんな街の片隅に、一人の小さな少女が座り込んでいた。


 三歳ほどの少女。


 まだ幼い彼女には、自分がどうしてここにいるのか、自分が何者なのか。


 そして、これからどうすればいいのか。


 そんなことは何一つ分からなかった。


 ただ、寒かった。


 怖かった。


 そして、寂しかった。


「……」


 小さな身体をぎゅっと抱き締める。


 周囲にはたくさんの人が歩いている。


 けれど、誰も足を止めない。


 誰も声を掛けない。


 幼い陽菜にとって、それは当たり前の光景だった。


 世界には、助けてくれる人なんていない。


 そう思っていた。


 その時だった。


「……あれ?」


 幼い少年の声が聞こえた。


「大丈夫?」


 少女がゆっくりと顔を上げる。


 そこに立っていたのは、一人の男の子。


 まだ程の少女より少し年上なだけの、小さな少年だった。


 少年は心配そうに少女を見つめている。


「……」


 陽菜は何も答えない。


 知らない人。


 怖い。


 そう思い、ただ黙って俯いた。


「えっと……」


 少年は困ったように頭を掻く。


「寒い……よね?」


 そう言うと、自分の着ていた上着を脱ぎ始めた。


 もちろん、五歳の少年に余裕なんてない。


 彼の頬も真っ赤で、吐く息は小刻みに震えている。


 それでも。


「はい」


 少年は上着を陽菜へ差し出した。


「これ着て」


 陽菜は驚いたように目を丸くする。


「……あなたは?」


「俺?」


 少年はにこっと笑った。


「俺は大丈夫!」


 そう言ったものの、声は少し震えていた。


 その姿を見て。


 陽菜は初めて思う。


(この人も……寒い)


 なのに。


 どうして。


 自分に上着をくれるんだろう。


「……どうして?」


 小さな声だった。


 それが陽菜が久しぶりに口にした言葉だった。


「どうして助けるの?」


 少年は少しだけ考えてから、当たり前のように笑う。


「困ってるから」


「……」


「困ってる人がいたら助けるんだって、お母さんが言ってた!」


 その言葉は、とても単純だった。


 だからこそ。


 少女の胸に、真っ直ぐ届いた。


「名前は?」


 少年が尋ねる。


 少女は少しだけ考える。


 だが、どれだけ考えても思い出せない。


「……分かんない」


「えっ?」


 少年は目をぱちくりさせた。


「自分の名前が分からないの?」


「うん」


「そっかぁ……」


 少年は困ったように笑う。


「俺は巧!」


「桑原巧!」


 その笑顔を。


 陽菜は、生涯忘れることはなかった。




 ―――――





「えーっと……つまり」


 巧は腕を組み、小さな頭を一生懸命働かせる。


「名前も分からないし、お家も分からないってこと?」


「うん」


「うーん……」


 五歳の少年には、どうすればいいのか分からない。


 目の前の女の子を助けたい。


 でも、その方法が分からなかった。


『おーい、巧ー!』


 遠くから男性の声が響く。


『どこ行ったんだー?』


「あっ、お父さん!」


 巧はぶんぶんと手を振った。


 雪を踏みしめながら、一人の男性が近付いてくる。


「巧、勝手に走って行くなって……ん?」


 男性は陽菜を見るなり表情を変えた。


「どうした?」


「お父さん!」


 巧は慌てて事情を説明する。


「この子、名前も分からないんだ!」


「お家も分からないし、ずっと一人だった!」


「記憶消失の迷子なの!」


「記憶喪失な」


 父親は苦笑しながら訂正した。


 それからゆっくりしゃがみ込み、陽菜と目線を合わせる。


『こんにちは』


「……」


 突然話し掛けられ、陽菜はびくっと身体を震わせた。


 そのまま反射的に巧の後ろへ隠れる。


「あっ」


 巧が苦笑する。


「お父さん、この子怖がってる」


『そりゃそうだ』


 父親は少し考えた後、にやりと笑った。


「だったら、とっておきだ』


 何も持っていない右手をぎゅっと握り締める。


『よーく見てて?』


 そう言って手を開く。


 ―――すると、何もなかった掌の上に小さなチョコレートが現れた。


「――っ!」


 陽菜の目が大きく見開かれる。


『イッツ・マジック!』


「すごいでしょ?」


 巧は得意げに胸を張った。


「お父さん、マジック得意なんだ!」


 陽菜はチョコレートと男性の顔を何度も見比べる。


 するとほんの少しだけ、その小さな口元が緩んだ。


『おっ、笑った』


 父親は嬉しそうに笑う。


『よし』


 優しい声で続けた。


『まずは交番へ行こうか。君のお父さんやお母さんも、きっと心配して探してる』


「……」


 陽菜は小さく俯く。


 探してくれる人。


 その言葉に、なぜか胸が少し痛んだ。


「大丈夫!」


 巧が陽菜の前へ立つ。


「俺も一緒に行く!」


 そう言って、小さな手を差し出した。


「一人じゃないから」


「……」


 陽菜はその手を見つめる。


 冷たくなった自分の小さな手。


 そして、自分に向かって差し出された、温かい小さな手。


 ゆっくりとーー本当にゆっくりと。


 陽菜はその手を握った。


「よし!」


 巧は嬉しそうに笑う。


「行こう!」


 その日、雪の街で交わされた小さな手と小さな手。


 それが二人が兄妹になる物語の、始まりだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ