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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
12月

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38話 出発⑤







―――――





 夜。


 船内の照明が落とされ、昼間とは違う静かな時間が流れていた。


 資材室の中では、三人の少女が小さな机を囲んでいる。


「……問題発生」


 陽菜が真剣な表情で呟いた。


「何?」


 月菜が顔を上げる。


「夕食」


「……」


 月菜はすぐに意味を理解した。


「食料なら持ってきたよね?」


「ある」


 陽菜は頷く。


 机の上には、陽菜が用意した非常食と資材室に置いてある食料。

 数日分は問題なく過ごせる量だ。


 しかし。


「南極までの船旅を考えると、温存した方がいい」


 陽菜の言葉に、月菜も頷く。


「確かに……」


 目的地に着いてからも、何が起こるか分からない。

 食料は少しでも残しておきたい。


「じゃあ、今日は我慢かな」


 月菜が呟いた。

 

 ―――その瞬間。


 ぐぅ。


 小さな音が資材室に響いた。


「……」


 三人の視線が集まる。


「星菜ちゃん?」


「……」


 星菜はゆっくり目を逸らした。


「体が栄養を求めてるね♪」


「言い方を変えてもお腹が空いたってだけだからね!?」


 月菜のツッコミが響く。


 ―――すると、その時だった。


 資材室の外から足音が聞こえた。

 三人の表情が変わる。

 会話を止め、息を潜める。


 コツ。


 コツ。


 足音が扉の前で止まる。


 そして。


 コン。


 何かを置く音がして、足音は遠ざかっていった。


「……」


 月菜が慎重に扉を開ける。

 そこには、三つの保温容器。

 そして、一枚のメモ。


【夕食】


 短い文字だけが書かれていた。


「……」


 三人は顔を見合わせる。


 すると、少し離れた通路から船員たちの声が聞こえてきた。


『いやー、参ったな』


『どうした?』


『今日の夕食、人数確認を間違えたらしくてな』


『またか?』


『仕方ないだろ。急な変更があったんだから』


『余った分はどうするんだ?』


『捨てるのも勿体ないしな』


『じゃあ、誰か食べるしかないな』


 そんな会話が聞こえる。


 そして。


『とりあえずいつもの資材室前に置いておいたぜ』


『おいおい、そんなとこ置いてたら腐っちまうぞ』


 笑い声と足音が遠ざかっていく。


「……」


 月菜は保温容器を見る。


「偶然……かな?」


 星菜が小さく笑う。


「偶然じゃない?」


「星菜ちゃん」


「でも」


 星菜は肩を竦めた。


「そういうことにしておいた方が、みんな幸せじゃん?」


 月菜は少しだけ目を細める。

 確かに、誰が置いたのかなんて考えれば分かる。


 でも、今は――


「……いただこう」


 陽菜が静かに言った。

 蓋を開ける。

 温かな料理の香りが資材室へ広がった。


「……」


 陽菜は一瞬だけ黙る。


 そして。


「ありがとう」


 小さく呟いた。

「誰に?」


 月菜が尋ねる。


「……分からない」


 陽菜は答える。


 でも、きっと届いている気がした。



――――




 食事を終えた後。

 三人は少しだけリラックスしていた。


「なんか、普通の旅行みたい」


 月菜は笑っていた。

 それもそのはず、今のところは衣食住と困っている事が何一つないのである。


「行き先は南極だけどね……しかも密航」


「そこは忘れてよ……」


 星菜のツッコミに月菜は苦笑する。


 そんな二人を見ながら、陽菜は少しだけ表情を緩めた。


 兄を助けるためだけに乗り込んだ船。

 本当なら、もっと張り詰めているはずだった。


 でも、今は二人がいる。

 それだけで少し安心できた。





―――――





 時刻は夜八時。


 資材室の外へ出た三人は、第二浴室へ向かっていた。


「本当に使えるのかな」


 月菜が小声で尋ねる。


「紙には書いてあった」


 陽菜が答える。


「二十時から二十一時と。無理なら資材室のシャワーで我慢するしかない」


「えー、シャワーだけじゃ物足りないよ。お湯に浸かりたいなぁ」


 そんなこんなで第二浴室の前へ辿り着いた。


「……」


 三人は顔を見合わせた。

 ここまで来ても、本当に入っていいのかという迷いはあった。


「せっかくなら」


 星菜が扉を見る。


「南極に着く前に風邪引いたら笑えないし」


「それはそうだね」


 意を決して、浴室の扉を開けた。


 ―――扉の向こうからは、湯気が立ち込める暖かな空気が漂っていた。


「……で、どうするの?」


 脱衣所に入り、引き戸をしっかりと閉めたところで月菜がぽつりと呟いた。


 湿った熱気とほんのり漂う石鹸の香りに包まれながら、三人は脱衣カゴの並ぶ棚の前に立っている。


「どうするって、服脱ぐに決まってるでしょ♪」


 星菜は当然のように言いながら、手際よく着ていた上着のジッパーを下ろした。


「そりゃそうだけど……なんか、ちょっと緊張しない? ほら、三人で一緒に入るのって初めてだし」


「月菜ちゃん、今更?  密航して資材室で一緒に何時間もいるのに?」


「それはそれ! これとは話が別でしょ!」


 一人で顔を赤くしてバタバタしている月菜をよそに、陽菜は黙って自分の服に手をかけていた。


 カチリ、とベルトを外し、上衣とズボンを脱いで脱衣カゴへ丁寧に入れる。


 残されたのは、シンプルな無地のスポーティなブラと下着姿。


 無駄な飾りのない実用的なインナーが、陽菜の引き締まった身体のラインをくっきりと際立たせていた。


 まだ全体的に幼さの残る華奢な体つきで、胸元も少し膨らみ始めたばかりのつつましさだ。


「陽菜、迷いなさすぎ……」


「……早く入らないと、一時間はすぐ終わる」


 陽菜はクールなトーンのまま短く告げると、躊躇なくブラと下着を脱ぎ捨ててカゴへと重ねた。


「あ、待って、置いていかないで!」


 焦った月菜も慌ててシャツのボタンを外し始める。


 服を脱ぎ捨てて現れたのは、小さなフリルがついた可愛らしいピンク色の下着セット。


 同年代の女の子らしく全体的に柔らかで標準的な丸みを帯びた体型だが、チラリと覗く胸元や腰つきには年相応の膨らみがあり、照れくさそうに腕で隠しながらホックを外そうと四苦八苦している。


 星菜はそんなふたりを横目に、肩をすくめながら残りの服を脱いでいく。


 黒を基調とした少し大人びたレースのインナーに包まれた身体は、三人の中で頭ひとつ抜けて成長を感じさせるものだった。


 小柄ながら、しなやかに引き締まったウエストから丸みのあるヒップへの曲線、そしてレースの布地を内側から押し上げる豊かな胸の起伏が、薄暗い脱衣所にくっきりと浮かび上がる。


「きゃはは、月菜ちゃん、焦りすぎてホック引っかかってるよ」


「ちょっと星菜ちゃん見ないでよー! レースとか着てるし……なんか私と陽菜に比べて発育良すぎじゃない!?」


「見ないでも何も、同じ女の子同士じゃん。まぁ、あたしは絶賛成長期だからね♪ それにほら、陽菜ちゃんはもう行くよ」


 見れば、すべて脱ぎ終えて生まれたままの姿になった陽菜は、手に手ぬぐいを一枚持ち、静かに浴室のドアへと手をかけていた。


 照れも躊躇も一切ない、徹底した効率重視の動きである。


 ガラガラ……と引き戸を開けると、温かな湯気がいっせいに脱衣所まであふれ出してきた。


「あ、先入ってる」


 陽菜が足を一歩踏み入れる。


「あーもう、待って陽菜! 私もすぐ行くから!」


 月菜も大急ぎで下着を脱ぎ捨て、星菜と一緒に陽菜の後を追うようにして、白く煙る浴室の中へと足を踏み入れた。




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