37話 エストファミリア⑥
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「いやー、満腹満腹。一家に一台、万能家政夫のタクローくんが欲しいわ」
ショージは椅子にもたれながら腹をさする。
さっきまで死闘を繰り広げていたとは思えないほど呑気な顔だ。
「誰が万能家政夫だよ」
タクローは苦笑しながら空になった皿を重ね、慣れた手つきでシンクへ運んでいく。
地下とは思えないほど設備の整ったキッチンには、まだシチューの優しい香りが残っていた。
「あ、お兄ちゃん! 私も手伝う!」
「おー、助かる」
月菜はぱたぱたと駆け寄り、皿を受け取る。
二人がいつものように食器を運ぶ姿は、ついさっき住宅街で繰り広げられた激戦など嘘だったかのようだった。
――しかし。
「じゃなくてっ!!」
バンッ!
月菜は勢いよくテーブルを叩いた。
「ちゃんと説明して!!」
「まぁまぁ、そんな焦るなって」
タクローは冷蔵庫を開ける。
「食後のデザートいるか?」
「話を逸らさないで!!」
月菜はぴしゃりと言い返した。
「……でも、デザートはいる」
「どっちなんだよ」
タクローが思わず吹き出す。
冷蔵庫からプリンを取り出しながら肩をすくめた。
「うーん、説明しろって言われてもなぁ……」
「月菜ちゃんに同意です」
エヴァが真剣な表情で口を開く。
「何故、タクローさんたちは、自分たちがエストファミリアだという事実を隠していたのですか?」
「その方が格好いいからである!!」
ユウゲンが胸を張って高らかに宣言した。
「秘密組織たるもの、正体を隠してこそロマン!」
「ユウゲンのことは放っといて」
タクローは即座に切り捨てる。
「理由は田中さん……じゃなくてエヴァたちと似たようなもんだよ」
「…………」
部屋に少しだけ静寂が流れる。
その空気を破ったのは、ユウゲンだった。
「……おっ」
彼は階段の方へ目を向け、不敵に笑う。
「スペシャルゲストの到着である」
ギィ……
重い鉄扉が開いた。
「わぁーっ!」
元気いっぱいの声が地下室へ響く。
「かっこいいー! 本当に秘密基地みたい!」
先頭で駆け降りてきたのは佐々木星菜。
その後ろから、周囲を警戒するように歩いてきたのはエルンストだった。
「ここが……エストファミリアのアジト」
エルンストは部屋をゆっくり見渡す。
作戦机。
武器庫。
通信設備。
訓練スペース。
そして談笑する四人の高校生。
「反逆の王アズマ」
視線がユウゲンへ向く。
「狂気の爆弾魔ショー」
ショージが親指を立てる。
「静寂の死神アミア」
ミアは小さくため息をついた。
そして最後に。
「……魔人【ミシマ】」
タクローへ視線が止まる。
「エストファミリアの幹部が勢揃い、というわけか」
「エルンストさんに……星菜ちゃん!?」
月菜は目を丸くする。
「二人とも何でここに?」
「嘘みたいな話だけどね」
エルンストは苦笑した。
「そこのアズマ君から招待されてね。本当に君たちがいるとは思わなかったよ」
「あたしはタク先輩たちに用があっただけー」
星菜は慣れた様子で空いている椅子へ腰掛ける。
「星菜ちゃん……」
月菜は目をぱちぱちさせた。
「オカ研のみんながエストファミリアだって知ってたの?」
「もちろん!」
星菜は満面の笑みで頷く。
「でも正体まで知ったのは最近だよ」
そう言ってタクローへ視線を向ける。
「もっと前から知ってたのは、この人だけ」
「なるほど」
エルンストは納得したように頷いた。
「佐々木星菜――いや【ササキ】か。西と東、それぞれ退魔士の長同士なら顔見知りでも不思議じゃない」
「ご名答♪」
星菜は嬉しそうに笑う。
「つまりタク先輩とは運命の赤い糸で結ばれた仲なの!」
「いや、会合で何回か顔合わせただけだろ」
「細かいことは気にしなーい」
エルンストは腕を組み、小さく息を吐く。
「しかし……」
その視線はタクローから離れない。
「私でも、この状況を飲み込むには時間が必要だ」
「?」
「まさか、月菜ちゃんが慕っていた兄が【ミシマ】だったとはね」
「だから」
タクローは苦笑しながら頭を掻く。
「今は京田琢郎だ」
「世間で言う【ミシマ】の一族は親父の代でとっくに滅んでる」
一拍置き、月菜を見る。
「それに月菜は義理の妹だ。【ミシマ】の血なんて一滴も流れてない」
さらに付け加える。
「あと魔人とか変な二つ名を勝手につけるな」
「えー?」
ショージが不満そうに頬を膨らませた。
「俺は気に入ってるぞ? 狂気の爆弾魔!」
「我もだ」
ユウゲンが満足そうに頷く。
「反逆の王――キング・レジスタンス。実に響きがいい」
「私は嫌」
ミアは即答だった。
「静寂の死神なんて物騒すぎるもの」
「いや、お前が言うな」
ショージが苦笑する。
「昔は俺の首を狙ってライフル構えてたくせに」
「当然でしょ」
ミアは悪びれる様子もなく肩をすくめた。
「当時のアンタ、国際指名手配犯だったじゃない」
「まぁ、それは否定できねぇ」
ショージは頭をかきながら笑う。
「爆破事件を起こしすぎて、懸賞金まで掛けられてたしな」
「それで依頼を受けて追いかけ回したら……」
ミアはため息をつく。
「何故か今じゃ同じ組織で活動してるんだから、人生って分からないわよね」
「縁ってやつだな!」
「どの口が言うのよ」
ミアが呆れ顔で額を押さえる。
「毎回毎回、爆弾で壁を吹き飛ばしてるのは誰?」
「ロマンのため!」
「反省しなさい!」
そのやり取りを見ていた月菜たちは、思わず顔を見合わせた。
さっきまで命懸けの戦いをしていたとは思えない。
目の前にいるのは、世界から恐れられるエストファミリアではなく――ただ騒がしくて、どこか抜けている高校生たちだった。




