表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
12月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

248/261

36話 不穏③






―――――




 放課後。


 紫苑学園・日本文化研究同好会の部室では、ストーブの穏やかな暖かさに包まれながら、部員たちが思い思いの時間を過ごしていた。


 テーブルの上には、湯気の立つ紅茶とエヴァが焼いてきたクッキー。


 窓の外では、十二月の冷たい風が木々を揺らし、灰色の空からは今にも雪が降り出しそうだった。


 そんな中、紅茶を一口飲んだエヴァが、不思議そうに小首を傾げる。


「一つ、聞いてもいいですか」


「はい?」


 月菜がクッキーを頬張りながら顔を上げた。


「何故、この国ではクリスマスを祝うのでしょうか」


 部室が一瞬だけ静まり返る。


「え、えっと……」


 月菜は困ったように視線を泳がせた。


「ケーキが食べられるから……とか?」


「月菜ちゃんらしい答えですね」


 エヴァは口元を緩め、小さく笑う。


 すると窓際で本を読んでいた陽菜が、栞を挟みながら静かに口を開いた。


「本来はキリスト教の行事。でも日本では宗教というより、季節のイベントとして定着してる」


「イベント?」


「家族で食事をしたり、恋人と出掛けたり……そういう日」


「なるほど」


 エヴァは感心したように頷く。


「文化というものは、本来の意味から変化していくものなのですね」


「日本らしいよね」


 月菜が笑顔で言う。


「みんな、お祭りみたいな感覚だし」


「ケーキも食べます」


「チキンも食べる」


「プレゼントも交換する」


「イルミネーションも!」


「……恋人もできる」


 陽菜が淡々と付け加えた。


「うっ」


 月菜が胸を押さえる。


「な、何その最後だけ妙に刺さる言い方!」


「事実」


「陽菜、容赦ないよぉ!」


 そんなやり取りをしていると、


 バァンッ!


 勢いよく部室の扉が開いた。


「みんなー! 遊びに来たよー!」


 元気いっぱいの声とともに飛び込んできたのは星菜だった。


 藍色の長い髪を揺らしながら、いつものように満面の笑みを浮かべている。


「星菜ちゃん!」


「やっほー、月菜ちゃん!」


 星菜はそのまま月菜の隣へ腰を下ろすと、テーブルのクッキーを一枚つまみ、そのまま口へ放り込んだ。


「ん〜っ! おいし!」


「勝手に食べるな」


 陽菜が呆れたように言う。


「えー、減るもんじゃないし」


「減ってる」


「細かいことは気にしない!」


 星菜はケラケラと笑う。


「最近いろいろあるからさぁ。体が糖分を欲してるんだよね〜」


「何かあったの?」


「うん、まぁ色々とね〜」


 星菜は曖昧に笑って誤魔化した。


 本当は毎朝、冥夜との地獄のような鍛錬を受けている。


 だが、それを話すつもりはなかった。


 ――兄に鍛えられているなんて、何となく格好悪い。


 ただ、それだけの理由である。


「クソ兄ってば、何でもやってくれるんだよね〜」


「それ、自慢になるの?」


 陽菜が呆れ顔を向ける。


「もちろーん!」


 星菜は胸を張る。


「料理も洗濯も掃除も全部やってくれるし!」


「……少しは手伝いなさい」


「えへへ〜。あたし家事できないから無理♪」


「胸を張って言うことじゃない」


 陽菜の冷静なツッコミにも、星菜はどこ吹く風だ。


 すでに二枚目、三枚目とクッキーへ手を伸ばしている。


 そんな様子に月菜は思わず吹き出した。


「でも、冥夜さん優しいよね」


「えー? ただのシスコンだよ」


 そう言いながらも、その頬は少しだけ緩んでいる。


 兄のことを悪く言っているようでいて、本気ではないことは誰の目にも明らかだった。


「クリスマスケーキも予約してくれてるんだ!」


「いいなぁ……」


「月菜ちゃんは?」


「私は……お兄ちゃんと一緒に食べようかな」


 自然と笑みがこぼれる。


 タクローの作る料理は、どんな高級レストランにも負けない。


 今年もきっと腕によりをかけて、ご馳走を作ってくれるはずだ。


「タク先輩、料理上手だもんね!」


「うん!」


「羨ましいなぁ」


「星菜ちゃんも冥夜さんと過ごすんじゃないの?」


「たぶんね。でも、お兄ちゃんって真面目だからさ。クリスマスまで気合い入れて祝おうとしそうなんだよね」


「……一緒に過ごせるだけでも良い」


 陽菜がぽつりと呟く。


 その一言だけで、部室の空気が少しだけ静かになった。


 陽菜の兄は、今も魔人の一角――レグルスに囚われたままだ。


 その事実を、この場にいる全員が知っており、月菜は何か言おうとして、結局言葉を飲み込む。

 慰めは、今の陽菜が求めているものではないと分かっていたからだ。


 重くなりかけた空気を変えるように、エヴァが静かにティーカップを置いた。


「……それなら、今年のクリスマスは日文研でパーティーをしましょう」


「パーティー?」


 月菜が顔を輝かせる。


「はい。日本のクリスマス文化を学ぶのも、立派な研究です」


 エヴァはさらりと言ったが、その口元には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。


「つまり、経費でケーキを買えるってこと?」


 星菜が身を乗り出す。


「それは無理です」


「ちぇー」


「でも、料理はみんなで作りましょう」


「えっ!」


 月菜の目が輝く。


「それなら私、何品か作ってみるよ!」


「月菜ちゃんは……私と一緒に作りましょうか」


 聖夜のクリスマスにダークマターの生成を危惧したエヴァは堪らずフォローに入る。


「私は辛い料理担当」


 陽菜が真顔で言う。


「クリスマスなのに激辛?」


「問題ない」


「いや、あるよ!」


 月菜が慌てて止める。


「なら私はデザート担当!」


 星菜が元気よく手を挙げた。


「……大丈夫?」


 陽菜が疑いの眼差しを向ける。


「大丈夫大丈夫!」


 星菜は自信満々に親指を立てる。


「食べる担当だから!」


「作れ」


 陽菜の冷静な一言に、部室はどっと笑いに包まれた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ