36話 不穏②
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十二月。
街はイルミネーションに彩られ、一年で最も浮かれた季節がやってきた。
紫苑学園も例外ではない。
昇降口には大きなクリスマスツリーが飾られ、廊下には生徒会が用意したリースや装飾が並び、放課後になるとカップルらしき男女が校舎のあちこちで談笑している。
まさに青春。
まさにリア充。
そして――。
「タクローっ! もうすぐクリスマスだぞ!!」
その空気に、この世の終わりのような顔をしている男が一人。
ショージである。
「……知ってるけど」
「お前、本当に分かってるのか!?」
「カレンダー見れば分かるだろ」
俺が呆れながら答えると、ショージは机を勢いよく叩いた。
「違う! そういう話じゃない!」
「じゃあ何だよ」
「クリスマスだぞ!?」
「だから知ってるって」
会話にならない。
ショージは周囲を警戒するように見渡すと、懐から一枚の紙を取り出した。
そこには大きく、
【リア充撲滅委員会・設立趣意書】
と書かれていた。
「…………」
「いいかタクロー!」
ショージは勢いよく机へ紙を叩きつける。
「この甘ったるい季節を終わらせる!」
「何をどう終わらせる気だ」
「街を歩くカップルどものクリスマスを破壊する!」
「犯罪予告やめろ」
「イルミネーションを見て幸せそうに笑う男女!」
「やめろ」
「手を繋ぐ高校生!」
「やめろ」
「プレゼント交換!」
「普通だろ」
「全部許さん!」
「何でだよ!」
部室へ俺のツッコミが響くが、ショージは止まらない。
「今年こそ聖夜を地獄へ変える!」
「お前だけ地獄へ行け」
「タクロー、お前は俺の味方だろ!」
「違う」
「即答!?」
「当たり前だ」
俺は深々とため息をついた。
毎年この時期になると、ショージは必ず暴走する。
去年は巨大クラッカーに爆竹を仕込んで職員室へ持ち込もうとして没収。
さらにイルミネーションを全部赤色灯へ変えようとして停学寸前。
学習能力という言葉を知らない男である。
そんな騒ぎを聞きつけたのか。
ガチャリ、と部室の扉が開いた。
「面白い」
入ってきたのはユウゲンだった。
その目は完全に輝いている。
嫌な予感しかしない。
「その計画、我も乗ろう」
「ユウゲン、お前まで乗るな」
「安心しろ」
安心できる要素が一つもない。
「全校生徒の脳波を解析し、恋愛感情が高まった瞬間だけ自動的に花粉を散布する装置を作ればいい」
「安心どころかバイオテロじゃねぇか!」
「名称は――」
ユウゲンは黒板へ大きく書く。
【恋愛抑止型全自動超高性能花粉散布装置二号機】
「一号機あったの!?」
「試作段階で爆発した」
「当たり前だ!」
その横ではショージが拍手していた。
「さすが我らが部長だ!」
「褒めるな!」
二人が盛り上がっている横で。
「はぁ……」
ミアだけが深いため息をつく。
「アンタたちねぇ」
呆れたように腕を組む。
「街では最近、不審者が増えてるのよ?」
「そうだな」
「学園の周辺も警戒区域が広がってる」
「そうだな」
「そんな時くらい少しは真面目に――」
「つまり!」
ショージが遮る。
「リア充を爆破する暇がない!」
「違うわよ!!」
ミアの怒号が部室中へ響いた。
それでもショージは気にしない。
「タクロー!」
「何」
「お前クリスマス予定あるか?」
「ある」
「え?」
「月菜と飯食う」
「…………」
ショージが固まった。
「妹だぞ」
「血が繋がってない」
「余計ダメージ入ったぁぁぁ!!」
「いや何でだよ」
「お兄ちゃんとクリスマス過ごす妹なんて存在するのか!」
「うちはする」
「羨ましい!」
「羨ましがるところそこじゃないだろ」
ショージは床へ崩れ落ちる。
「神は不公平だ……」
「勝手に絶望するな」
その隣ではユウゲンが工具を取り出し、何やら機械を組み始めていた。
嫌な予感しかしない。
「おい」
「完成したぞ」
「早すぎる」
机の上には炊飯器くらいの大きさをした謎の機械。
中央ではアンテナが回転し、意味不明なランプが点滅している。
「これは?」
「リア充探知機だ」
「何で完成してるんだよ!」
「恋愛感情を検知するとサイレンが鳴る」
「怖すぎる!」
「さらに」
ユウゲンは胸を張る。
「半径五百メートル以内のカップルへ自動でクリスマスソングを爆音再生する」
「嫌がらせにも程がある!」
その瞬間。
ピピピピピッ!
機械が突然鳴り始めた。
「反応あり!」
「え?」
全員が窓の外を見る。
中庭。
ベンチで仲良くジュースを飲む男女。
「ターゲット確認!」
「確認するな!」
「発射準備!」
「するなぁぁぁ!!」
俺が飛びつく。
だが、その時にはもう遅かった。
部室中へ響き渡る、けたたましいクリスマスソング。
窓ガラスが震え、廊下の生徒たちまで一斉にこちらを見る。
そして。
『オカ研! 何やってるの!!』
教師の怒鳴り声が校舎中へ響き渡った。
「……ほら始まった」
俺は頭を抱えながら天井を見上げる。
街はクリスマス。
学園もクリスマス。
けれど、オカルト研究部だけは今日も平常運転だった。
――俺の平穏な放課後は、今年もまた訪れそうになかった。




