36話 強く⑦
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特訓の終盤、魔装の力を開放して星菜が放った渾身の連撃。
しかし、冥夜はそれをまるで赤子をあやすような余裕で捌ききった。
「はぁ、はぁ……っ。一発も、当てられなかった」
星菜は道場の中央で膝をつく。
対する冥夜は息切れ一つせず、汗の粒が頬を伝う妹を穏やかな眼差しで見つめていた。
「まあ、これは実戦経験の差かな。星菜の攻撃は鋭いけれど、少しばかり迷いが残っている」
「クソ兄……あんた、普段はそんなに強く見えないのに。あんま戦ってるとこ見たことないんだけど?」
不満げに抗議する星菜に、冥夜は道場の壁に視線を落とし、ふと遠い目をした。
「星菜は知らないだけで、裏では色んな抗争があったんだよ。平穏な日常を維持するためにね」
その声には、妹には決して触れさせたくない修羅の記憶が混じっていた。
だが、冥夜はすぐに表情を切り替え、星菜が身に纏う魔装へと視線を移す。
「しかし、星菜……その、だね」
兄の表情が、わずかに狼狽に揺れた。
「その服は中々に素敵だとは思うけど。……スカートの丈が、短すぎないかい?」
「はぁっ!? あんた、今そこで言うことそれ!?」
星菜は真っ赤になって立ち上がった。
「これは動きやすさを重視した構造なの! 魔力を効率よく巡らせるための最低限の……」
「いや、防衛という観点で見れば、防御範囲が少なすぎるような……」
「あんたの脳内は防衛より前に、あたしの服の心配ばっかりじゃない!」
兄としての過保護な本能が、妹の露出に対して過剰に反応してしまう。
星菜は木剣を床に叩きつけ、むっと膨れっ面をした。
「だいたい、あたしが強くなればそんな心配も無用でしょ! もう一回。今度はクソ兄に一撃入れてやる!」
「ああ、いいよ。何度でも付き合うよ」
冥夜は穏やかな笑みを浮かべ、再び木剣を構える。
その瞳の奥には、妹の成長に対する底知れぬ期待と、愛おしさが宿っていた。
「星菜。今の連撃、踏み込みの甘さは恐怖にある。自分をさらけ出すことを恐れるな。魔装を纏うということは、己の心そのものを剥き出しにするということだ」
「……やってみる!」
星菜は深く息を吐き、再び魔力を練り上げる。
先ほどよりもさらに強く、眩い光が道場を包んだ。
スカートの丈など気にならないほどの、戦士の闘気が彼女を纏う。
「さあ、こい!」
冥夜が合図をした瞬間、星菜が床を蹴った。
それは先ほどとは全く異なる、鋭い踏み込みだった。
異能という力がなくても、兄から叩き込まれた体術と、妹としての意地が、彼女の刃を研ぎ澄ます。
道場に響く、木剣の激しい衝突音。
月光が二人を照らし、影が激しく交差する。
兄は妹のすべてを受け止め、妹は兄という最強の壁を越えようと牙を剥く。
「そう、その執念だ!」
冥夜が吼える。星菜は、ただひたすらに前へ。
この小さな道場で重ねた研鑽が、やがて来る破滅を打ち砕く刃となる。
強さを求める妹の戦いは、今、ようやく本当の意味で始まったばかりだ。
冥夜は確信していた。この強固な意志があれば、どんな脅威が訪れようと、この妹は決して折れることはないと。
「……ッ、次は、当てる!」
星菜の瞳は、明日への戦いを予感させるほどに力強く輝いていた。




