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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
11月

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36話 強く④






―――――




『京田ぁぁぁっ!! 今すぐ生徒指導室へ来いっ!!』


 昼休みのチャイムが鳴り終わるかどうかというタイミングで、教室の扉が勢いよく開いた。


 鬼のような形相を浮かべた生徒指導の教師が、教室中を見回しながら俺を指差す。


「おっ、タクロー。とうとう何か法律でも破ったか?」


 隣の席のショージが、いかにも面白そうに肩を震わせる。


「破ってねぇよ! 先生、俺なんかしました!?」


『違う! 頼む! あいつを止めてくれ!!』


「あいつ?」


 その一言だけで嫌な予感しかしない。






―――――






 生徒指導室の扉を開けると同時に、高らかな笑い声が響いた。


「くっくっく……! このアズマに不可能など万に一つも存在せぬわ!」


「やっぱりお前かぁぁぁ!!」


 部屋の中央では、ユウゲンが椅子へふんぞり返り、腕を組んで仁王立ちならぬ仁王座りをしていた。


 その前では、生徒指導の先生が頭を抱え、机へ突っ伏している。


『……東くん。君のご実家には学園も世話になっている。だから強くは言えないんだ……』


「ならば問題あるまい」


『問題しかない!!』


 先生の悲鳴が部屋中へ響く。


「……ユウゲン。今度は何やった?」


「学園の食文化を革命しようと思ってな」


「嫌な予感しかしねぇ」


 先生が震える指で部屋の中央を指差した。


『部室にこんな物が置いてあったんだ……』


 そこに鎮座していたのは、歯車、電子基板、謎の配管、そしてなぜか炊飯器の蓋が融合した、どう見ても正気とは思えない機械だった。


 中心部では七色の光が妖しく明滅し……


 ――シュゴォォォ……


 蒸気を噴き上げている。


「……クトゥルフ?」


「違う」


「じゃあ何なんだよ」


 ユウゲンは得意げに胸を張る。


「名付けて──【究極全自動・多機能超常演算式カレー再現装置】! 食堂のカレーを某国の本場の味へ完全再現する」


「誰も頼んでねぇよ!」


「庶民は知らぬだけだ。本物を。」


「知らなくていい!」


 先生が恐る恐る口を開く。


『東くん……これは処分しよう。な?』


「何故だ」


『怖いからだ』


 即答だった。


『見た目からして爆発しそうなんだよ!!』


「安心しろ。環境にも配慮している」


「どこが」


「太陽光発電に蓄電池付きだ。」


「そこじゃねぇ!!」


 俺が頭を抱える横で、先生は遠い目をしていた。


『京田……頼む……君たちの部で管理してくれ……』


「先生まで投げるな!」


「よし、引き受けよう」


「お前は勝手に返事するな!」


 結局、俺たちはその謎の機械をオカルト研究部まで運ぶ羽目になった。








―――――




「お前のせいで貴重な昼休みが削られたぞ」


 ユウゲンは部室に入るなり弁当を広げ、俺の愚痴にもどこ吹く風のようだった。


 そして、部室へ怪しげなマシーン置いた瞬間だった。


 ブゥゥゥン……


 機械が勝手に起動する。


「おい」


「正常だ」


「正常じゃねぇ」


 ユウゲンは迷いなく炊飯器らしきマシーンの蓋を開けた。


 甘ったるい香辛料の匂いが広がる。


「ほら」


「全然カレーじゃない」


「細かいことを気にするな」


「気にするわ」


 次の瞬間だった。


 ガタガタガタガタ!!


 部室全体が激しく震え始める。


「ユウゲン!!」


「……む」


「『む』じゃねぇ!」


 七色の光が一点へ収束し……


 ――ポンッ!


 軽快な音とともに何かが飛び出した。


 そして、舞い上がる。


 一枚。


 二枚。


 三十枚。


 百枚。


「…………」


 部屋中へ降り注ぐ大量の折り紙。


 しかも全部、完璧な鶴だった。


「……説明しろ」


「どうやらカレー粉の分子構造と折り紙の分子構造が置換されたらしい」


「意味が分からねぇ」


「私にも分からん」


「作ったのお前だろ!!」


 部室中を鶴が舞う。


 幻想的なのに全く感動できない。


 結局その装置は【大量の鶴を生成する謎の機械】として部室の隅へ封印された。


「頼むから次はもっと普通の物を作れ」


 俺が心底疲れた声で言うと、ユウゲンは腕を組み、堂々と言い放つ。


「次は学園を空へ浮かべる」


「却下」


「そして衛星軌道上に天空食堂を―――」


「却下」


「世界初の」


「却下」


「……まだ何も言ってないぞ」


「どうせろくでもねぇ」


 俺は大きくため息を吐いた。


 部室の隅ではユウゲンが折り鶴を一羽手に取り、もう次の設計図を書き始めている。


 ユウゲンは間違いなく天才だ。


 ショージやミアと同じく、学年でも五本の指に入る頭脳の持ち主で、教科書を読めば全てを即座に記憶するし、複雑な数式も数秒で解く。


 だが、ユウゲンは「我の辞書にテストの解答などという言葉はない!!」と豪語して、あえて難解な古語や独自の論理で答案を埋めるせいで、成績は常にどん底に近い。


 まさに宝の持ち腐れとはこのことだ。


 俺は心の底から誓った。


 ――もう二度と、生徒指導室から呼び出されませんように。




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