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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
11月

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34話 お兄ちゃんサミット開催中!③






「あっ」

「あっ」


 冥夜がスマートに会計を済ませてくれたおかげで、俺の財布は無傷で済んだ。


 そんなわけで、二人で並んでレトロな純喫茶【シスター】のドアを押し開けて外に出た、まさにその瞬間のことだった。


 買い物帰りらしき、見慣れた女子二人組とバッタリ正面から出くわした。 


 我が妹・月菜と、その友人にして番長サマの最愛の妹・星菜ちゃんである。


「あ、お兄ちゃんずるーい! 自分だけ喫茶店でお洒落にお茶だなんて!」


 月菜は綺麗な眉を八の字に下げ、ぷくーっと頬を膨らませながら抗議の声を上げてくる。


 この間あんなに豪華な誕生日会をしたばかりだというのに、相変わらず食い意地が張っているというか、兄に対する要求のハードルが高い。


「悪い悪い。ほら、帰りにケーキ屋でも寄って、好きなやつ奢ってあげるから勘弁してくれ」


「やったぁ! さすがお兄ちゃん大好き!」


 さっきまでの不満顔はどこへやら、月菜は現金なもので嬉しそうにその場で小さく飛び跳ねていた。


 ――うん、実に見事なまでの兄妹の絆(?)である。


 それに対して……。


「やぁ、星菜。月菜ちゃんと一緒に帰りかい?」


 さっきまでの番長オーラを完全に霧散させ、どこか恐る恐る、けれど嬉しさを隠しきれないといった様子で冥夜が声をかける。


「……どうでもいいでしょ。それに何その【シスター】って店。わざわざそんな名前の店に行くとか、普通にきもいんだけど」


「…………」


 氷点下の眼差しと共に放たれた星菜ちゃんの一言に、番長が文字通り石化する。


 うん、知ってた。

 こっちの兄妹がまともに話せるようになるまでには、まだまだ気の遠くなるような時間が必要そうだ。


「もー、星菜ちゃん、そんなこと言ったらダメだよ? 今さっきだって一緒に歩きながら『どうやったらお兄ちゃんと自然に話せるんだろ……』って、すっごく真剣に相談してきたばかりじゃん」


「―――っ!!!? ちょ、ちょっと月菜ちゃんっっ付っっっ!???」


 爆弾発言。

 我が妹によるあまりにも無邪気な暴露に、星菜ちゃんの顔が一瞬にして沸騰した。


 おぉ……我が妹よ、まさか星菜ちゃんからそんな可愛い内容の相談を受けていたとはな。ナイスアシストすぎる。


「せ、星菜……! 今の話は本当かい!?」


 石化から大復活を遂げた冥夜が、まるで奇跡の光を見た信者のように瞳を輝かせて身を乗り出す。


「それに星菜ちゃん、冥夜さんのことが本当は――」

「あ、あたし、クソ兄なんて全然、これっぽっちも、一ミリも好きじゃないんだからねっっっっ!?」


 月菜のさらなる追撃を必死の形相で遮り、これ以上ないほどに教科書通りの美しいツンデレ発言を絶叫した星菜ちゃんは、そのまま真っ赤な顔をして脱兎のごとくどこかへ走り去っていった。


 その速度、まさに野生のウサギ並み。


「……やはり、僕は星菜に嫌われているのかな」


 走り去る妹の背中を見送りながら、ホロリと一粒の、美しくも悲しい涙が冥夜の頬を伝い落ちた。

 どんだけショック受けてんだお前は。


「いや、あれはあれだろ……いわゆる『思春期』ってやつだよ、きっと。気にするな」


「……それでもね、タク。傷つくものは傷つくんだよ」


 そう言って、胸のあたりをぎゅっと押さえる冥夜。


 まぁ、確かにこれを月菜に同じトーンで言われたら、俺だって一週間は寝込む自信がある。


 そう思うと、この哀れなシスコン番長に同情を禁じ得ない。


「もう、星菜ちゃん、素直じゃないなぁ」


 当の爆弾を落とした本人は、どこ吹く風でクスクスと楽しそうに笑っていた。


 うちの妹、地味に精神的な戦闘力が高くないか?


「……タク。僕は家に帰るよ。多分、星菜も帰っているとは思うし」


「おう、行ってやれ。優しくな」


 冥夜は涙を指先で拭うと、再び孤独な影を背負った男の顔になり、星菜ちゃんが消えた方向へと静かに歩き出した。


 歩調はゆっくりに見えるが、歩幅がデカいので一瞬で遠ざかっていく。


 頑張れよ、お兄ちゃん。


「さてと。それじゃあお兄ちゃん、約束通りケーキ屋さん、レッツゴー!」


「はいはい。何でも好きなの選べよ」


 月菜は俺の袖をぐいぐいと引っ張りながら、嬉しそうに歩き出す。


 あっちの兄妹が「不器用なすれ違い」を演じている一方で、うちの妹は今日も今日とて、兄の財布をスマートにカツアゲしていくのだった。









―――――





「…………」


 賑やかなその兄妹模様を、通りの陰から遠く見つめている人物がいた。


「……いいなぁ」


 スーパーの買い物袋を手に佇んでいたのは、陽菜だった。


 いつものクールな無表情。けれど、その瞳はひどく寂しげに、楽しそうに歩いていくタクローと月菜の背中を追っている。


 胸を締めつけるような羨望と、心の奥底に封じ込めていた記憶が、夕暮れの街に溶け出していく。


「お兄ちゃん……。……会いたいよぉ……っ……」


 ぽつりと、誰にも届かない小さな声が、夕風に消えた。


 

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