34話 お兄ちゃんサミット開催中!
「タク、君はこの現状をどう思うかい?」
「どう思うかいと言われてもな……」
現在、俺は冥夜と共に、とある駅前の喫茶店に来ている。
もちろん、男二人で楽しくパフェでも突っつき合おうという和やかな空気では断じてない。
どちらかと言えば、今にも血の雨が降り出しそうな緊迫した空気が、俺たちの座るテーブルを支配していた。
なぜこんなことになってしまったのかというと、時間は一時間ほど前に遡る。
―――――
「――タク、話をしよう」
放課後。
本日は部活が休みの為、早く帰って昨日のお泊まり会の片付けでもしようかと思っていた矢先のことだった。
別クラスの冥夜が、当たり前のような顔をして俺のクラスの教室へやってきたのだ。
「何だよ急に。周りの連中がガタガタ震えて怖がってるから、こっち来んなよ」
「そんな事はないさ。誰も僕には興味はないよ」
冥夜は前髪を払いつつ、ふっと哀愁を帯びた笑みを浮かべる。
だが、俺は教室のあちこちから聞こえてくるクラスメイトたちのヒソヒソ声を聞き逃さなかった。
『おい京田……お前、ついに番長にしめられるのか?』
『あいつ、何をトチ狂ってあの佐々木に喧嘩売ったんだよ……』
『っていうか、佐々木くん、今日も横顔が彫刻みたいにカッコイイな……』
――いや、思いのほか興味津々だぞ。
あと最後のはただのファンだろ。
相変わらずこいつは、自分の放つ威圧感と注目度に全く気づいていないらしい。
「それよりも、ここでは話しづらいから場所を変えよう」
「いや、俺は真っ直ぐ家に帰りたいんだが?」
「拒否権はない」
―――――
とまぁ、そんな感じで半強制的に連行され、現在に至るわけだ。
「で、わざわざ寄り道させてまで話したいことって何だよ?」
俺がトーンを落として尋ねると、冥夜は運ばれてきたアイスコーヒーのグラスを見つめ、痛ましいほどに表情を歪めた。
「……妹のことさ」
一瞬、身構えた俺だったが、その単語が出た時点で盛大に肩の力が抜けた。
あー、星菜ちゃんのことね。
「一昨日ぐらいに、星菜とのわだかまりが少しだけ解消されてね。ようやく普通に会話ができるようになったんだ。……だが、次の日にはもう元の、あの冷ややかな星菜に戻ってしまった。やはり、僕は星菜に嫌われているのかな?」
ふっ、と何かを悟ったような、この世の終わりみたいな表情で冥夜は語る。
「何の話かと思ったら、兄妹の仲についてかよ。そういう人生相談は俺じゃなくて別の奴に頼め。っていうか、お前……」
俺は視線をめぐらせ、この喫茶店の入り口に掲げられた看板を忌々しげに見つめた。
レトロなフォントでデカデカと書かれた店名は【シスター】。
どれだけシスコンなんだよお前は。わざわざ店名で選んで入ってんじゃねーよ。
「冷ややか、ねぇ……。俺の知る星菜ちゃんは、いつでもエンジン全開でうるさいくらいだけどな」
昨日の夜、我が家で「タクロー先輩ラヴ?」などとニヤニヤしながら月菜をいじり倒していた彼女の姿を思い出す。
あのテンションの星菜ちゃんが、このシスコン番長の前では冷ややかになるというのだから、兄妹という関係は不思議なものだ。
「……タク。今、何か思い当たる節があるような顔をしたね? 隠さずに言ってくれ。僕の知らないところで、星菜が何か悩みを抱えているなら、兄として知る義務がある」
冥夜が身を乗り出し、鋭い眼光で俺を睨みつけてくる。
相変わらず学校の連中が見たら「番長が京田を脅している!」と大騒ぎしそうな迫力だが、話している内容はただの過保護な兄貴の戯言だ。
「悩みっていうか、普通に元気そうだったぞ。……っていうかお前、星菜ちゃんが日文研で何やってるかとか、普段どんな奴らとつるんでるか、どこまで知ってんだ?」
「日文研、か。……あの同好会に入部してから、心なしか楽しそうにしている感じだね。詳しくは僕に話してくれないけれど」
冥夜は苦渋に満ちた声を出す。
どうやら、日文研で星菜ちゃんが具体的に何をしているのかまでは知らないらしい。
「まぁ、心配しすぎだろ。あいつ、お前が思ってるより何倍も図太いぞ。この間だってうちにお泊まりして――」
「……お泊まり?」
言いかけた俺の言葉に、冥夜の動きが完全に静止した。
アイスコーヒーに刺さったストローを咥えたまま、その切れ味の鋭い瞳が、獣のような鋭さで俺をロックオンする。
やべっ、地雷に触れてしまった…。
「タク。今、なんと言ったかい? 星菜が……君の家に、お泊まり、した……?」
「あ、いや、それは日文研のメンバー全員でだな、うちの母さんが無理やりだな――」
「詳しく聞こうか、タクロー。君の命の灯火が消え失せる前に、ね?」
冷徹極まる番長のオーラが、喫茶シスターの店内に吹き荒れていた。




