33話 月菜、ハピバっ!⑦
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「お風呂、いただきました!」
湯気と一緒にリビングへ戻ってきたのは、すっかりパジャマ姿に着替えた日文研のメンバーたちだった。
……なぜ、我が家でこのような事態になってしまったのかというと、時計の針を少しだけ巻き戻す必要がある。
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「――もうこんな時間。私はそろそろお暇させてもらおうかしら」
ケーキを囲んでのトークが盛り上がりに盛り上がり、ふと壁の時計を見上げれば、すでに夜も深い時間。
ミアが名残惜しそうに立ち上がった時のことだった。
「あら? みんな、今日は泊まっていかないのかしら?」
全ての元凶は、母さんのその鶴の一声だった。
「はい、はーい! あたしタクロー先輩のおウチに泊まりたーい!」
「佐々木星菜、いきなり泊まるのは迷惑……っ」
真っ先に元気よく挙手した星菜ちゃんを、陽菜ちゃんが嗜める。
俺は思わず淹れたてのコーヒーを吹き出しそうになった。
「おいおい、母さんや。急に何を言い出すんだ?」
「だって、こんなに可愛い女の子たちを、こんな夜遅くに歩かせるの? もし途中で何かあったら大変でしょ?」
母さんはもっともらしい顔で言うが、俺は心の中で静かに突っ込んだ。
いや、多分その辺の不審者よりも、ここにいる魔法少女の方が遥かに強いとは思うけどな。
「お泊まり、それはとっても素敵ですね! でも、急なことですし着替えなどを持ち合わせていなくて……」
田中さんが少し困ったように頬に手を当てると、母さんは「そんなの気にしなくていいのよ!」と快活に笑った。
「私と月菜の部屋着だったら、いくらでも貸してあげるわよ。シャンプーとかがお肌に合うかは分からないけれど、それでも良ければ」
「それでしたら、お言葉に甘えてみましょうか?」
「……由香里がそう言うなら、私は」
部長である田中さんの決定に、陽菜ちゃんもコクりと頷く。
こうして、日文研メンバーの突発お泊まり会が決定したのだった。
「ならなら! 俺も泊まるー! タクロー、ベッド半分貸せ!」
「帰れ」
「なんでさー!? 差別だ、これは明確な男権侵害だぞ!」
どさくさに紛れてこの空間に残留しようとするジョージの襟足を、俺は無言で掴み取る。
「ふむ。お言葉に甘えたいところではあるが、我は明日、早朝から用事があってな。今日は退散するとしよう」
「私も同じく、明日は朝から用事があるの。……いや、ジョージ。あなたに用事がないのは知っているけれど、あんたが残ったら日文研のメンバーが落ち着いて寝られないでしょ? ほら、帰るわよ!」
「オゥノーーっ!!! 俺も可愛い子とお泊まりしたいんだよぉぉぉぉぉ!!!!」
断末魔のような叫び声をあげるジョージは、ミアによって容赦なくずるずると引きずられ、玄関の向こうへと消えていった。
「……じゃあ、女の子たちは安心してお風呂に入ってきて頂戴。大丈夫よ、義和さんは私にゾッコンだし、もしタクローが何かおイタをしたら、お母さんが跡形もなく滅するから!」
「滅をされるのだけは勘弁願いたいんだけどな……」
まあ、妹の友達に手を出すような度胸も気概も、俺には一ミリも持ち合わせていないが。
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そんな経緯を経て、現在に至る。
「……ふぅ。お兄ちゃん、お待たせ。みんなお風呂終わったよ」
最後に髪を乾かした月菜に連れられて、リビングに美女と美少女たちが集結した。
母さんと月菜の服を借りたらしいが……これがまた、男子高校生の目には優しすぎるというか、毒が強すぎるというか。
田中さんは母さんの少し大人っぽい、ゆったりとしたパジャマ。
胸元が少し緩めで、視線のやり場に困る。
陽菜ちゃんと星菜ちゃんは月菜から借りてきたパジャマを着ていた。
普段月菜が来ている服を二人が着ていると何だかソワソワする感じがするな。
「サイズは大丈夫かしら?」
「大丈夫です! ただ胸元が少しきついかなぁ♪」
まぁ、月菜より星菜ちゃんの方がアレが大きいからな……
「わぁ、タクロー先輩、目をそらしましたね? 今、ちょっとドキッとしたでしょ!」
さっそく星菜ちゃんがニヤニヤしながら距離を詰めてくる。
「してねーよ。それより髪、ちゃんと乾かさないと風邪引くぞ」
「にゃはは、やっぱりお兄ちゃん気質ですねぇ♪」
いや、星菜ちゃんに風邪を引かれたら、俺が冥夜に殺されるのだが?
「……タクローさん、お茶、ありがとうございます」
陽菜ちゃんがトコトコと歩いてきて、俺が淹れておいた麦茶のグラスを両手で受け取る。
「ふふ、男の子の家に泊まるなんて、なんだかちょっと非日常的でワクワクしてしまいますね」
田中さんは相変わらずルンルンとした様子で、ソファにちょこんと腰掛けた。
「じゃあお兄ちゃん、私たちは月菜の部屋に移動して、これから【女子会】の続きをやるからね! お兄ちゃんは入室禁止だから!」
「言われなくても行かねーよ。夜更かしもほどほどにしろよ?」
月菜にビシッと指を差され、俺は苦笑しながら両手を挙げる。
女の子たちの賑やかな笑い声が月菜の部屋へと吸い込まれていくのを見送り、俺はようやく自分の部屋へと引き上げた。
ベッドに寝転がり、静かになった家の中で天井を見つめる。
本当に、波乱万丈な誕生日の一日だった。
コンコン。
そんなことを考えていると、俺の部屋のドアが遠慮がちにノックされた。
「……ん? 誰だ?」
ドアを開けると、そこには枕を抱え、少し顔を赤くした月菜が立っていた。
背後からは「月菜ちゃん、ずるーい!」という星菜ちゃんの小さな声が聞こえる。
「あのね、お兄ちゃん……。やっぱり、今日のうちに、もう一回だけ直接言いたくて」
月菜は抱えた枕に顎を埋めるようにして、上目遣いで俺を見つめた。
「お兄ちゃん、最高の誕生日をありがとう。……大好きだよ」
そう言って、ひまわりが咲くような満面の笑みを浮かべると、月菜はパタパタと足音を立てて女子たちの待つ部屋へと逃げていった。
「……ったく」
静まり返った自室で、俺は顔が熱くなるのを自覚しながら、ぽりぽりと頬を掻いた。




