33話 月菜、ハピバっ!⑥
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パーティーも最高潮を過ぎ、夜もすっかり更けてきた頃。
賑やかだったリビングの空気が、ふっと落ち着いた瞬間のことだった。
カチャリ、と玄関の鍵が開く音が、静かになった家の中に響き渡った。
「ただいまー。あら、なんだか凄く賑やかね?」
聞き慣れたのんびりとした声と共に、リビングのドアを開けて入ってきたのは、出張を終えて帰宅した母さんだった。
「あ、お母さん、おかえりなさい!」
月菜が嬉しそうに立ち上がると同時に、玄関の方から「おや?」ともう一つの足音が近づいてくる。
「なんだ、母さんも今帰ったところか。……おっ、リビングに靴が溢れていると思ったら、ずいぶんとたくさんのお客さんだな!」
なんと、タイミングを合わせたかのように親父殿まで同時に帰ってきたのだ。
手には仕事帰りのカバンと、何やら少し大きめのケーキの箱を下げている。
「お父さんもおかえりなさい! ちょうど今、みんなでお祝いしてくれてたんだよ!」
月菜が満面の笑みで出迎えると、親父殿と母さんは驚いたように顔を見合わせ、それから集まったメンバーを見渡して、実に嬉しそうに目を細めた。
「あらあら、ミアちゃんにジョージ君、ユウゲン君も。それにそちらの可愛らしいお嬢さんたちは、月菜のお友達かしら? みんな、娘のために集まってくれて本当にありがとうね」
母さんが優しい微笑みを浮かべてぺこりと頭を下げると、それまでワイワイ騒いでいた一同も、居住まいを正して挨拶を始める。
「こんばんは、おじさん、おばさん! いつもタクローをお世話しているジョージです!」
「夜分遅くにお邪魔して申し訳ありません、ミアです。本日は月菜さんの誕生日とお伺いしたので、お祝いに寄らせていただきました」
ミアが生真面目に完璧な挨拶を決める。
……それに比べて、ジョージの「お世話している」というセリフには多大なる違和感と嘘が含まれているのだがな。俺がお世話してやってる側の間違いだろ。
そして、日文研のメンバーもそれに続く。
「こんばんは! 日本文化研究同好会の田中由香里です! 月菜さんにはいつも同好会でお世話になっています!」
「……同じく、日文研の陽菜です。お邪魔、してます」
「星菜です! 月菜ちゃんとは大の仲良しです、よろしくお願いします!」
「フハハハ! 我が名はユウゲン! この館に満ちる生誕の祝祭に祝福を――」
「あ、こいつはスルーで大丈夫」
「おいタクロー!?」
俺がすかさずユウゲンの言葉を遮ると、親父殿と母さんは「おもしろいお友達ねぇ」と楽しそうに笑った。
「いいのよ、いいのよ、みんな気にせず上がってちょうだい。タクロー、ちゃんとおもてなし出来てた? あ、そうだ、義和さん」
母さんに話を振られた親父殿が、待ってましたとばかりに手に持っていた箱を机の上に掲げた。
「ふふ、これを見るのだ月菜、誕生日おめでとう! 母さんと内緒で、月菜の一番好きなケーキ屋さんのホールケーキを予約しておいたんだ」
「わぁ……っ! あそこのケーキ!? お父さん、お母さん、ありがとう!」
月菜は今日一番の歓声をあげて、目をキラキラと輝かせた。俺が作ったオードブルもほとんど平らげた後だったが、甘いものは完全に別腹らしい。
「よし、それじゃあ大人が帰ってきたところで、第二ラウンドといこうか! タクロー、お皿とフォークを追加で持ってきなさい」
「はいはい、分かりましたよ」
「ところでそのケーキはショートケーキ?」
俺が返事をした瞬間、なぜか部屋の隅からジョージがぬっと首を突っ込んできた。
「いや、月菜はチョコ派だからチョコレートケーキだぞ」
「とりあえずケーキなら、ショートケーキが王道に決まってるだろ!」
……お前は人様の、しかも主役の誕生日ケーキに何文句を言っているんだ?
ジョージの余計な一言のせいで、リビングは早くも「ケーキは何派か」という謎の議論で盛り上がりを見せ始めていた。
「とりあえず生クリーム一択!」と主張するジョージを置いて、俺が苦笑しながらキッチンへ向かおうとすると、ミアが「私も手伝うわ」とすっと立ち上がって後ろに付いてきてくれた。
リビングを振り返ると、ジョージはさっそく親父殿に調子よく話しかけてすっかり馴染んでいるし、田中さんや星菜ちゃんも母さんと楽しそうに話し込んでいる。
陽菜ちゃんも少し緊張が解けたのか、小さく微笑んでいた。
外はもうすっかり暗くなり、夜も深くなっていたけれど。
両親の帰宅によって、京田家のリビングはさらに一段と、温かい笑顔と賑やかな笑い声に包まれるのだった。




