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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
9月

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194/266

30話 妹たちがいる球技大会は落ち着かない。⑥





―――――





「はぁ……」


「……月菜。ため息、つきすぎ。幸せが逃げる」


 時間は流れ、ついに月菜たちの出場するバスケットボールの試合が始まろうとしていた。

 コートの周囲には大勢の観戦者が詰めかけ、その中にはタクローを含むオカ研メンバーも勢揃いでこちらを見守っている。


「……ねぇ陽菜。星菜ちゃんのことや、あの『事件』のこと……知ってた?」


 月菜の問いに、陽菜は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻った。


「……知ってる。私も、思うところは色々ある」


「そうだよね。……私、どうすればいいんだろう。あんな話聞いちゃったら、どう接していいか分かんなくなっちゃうよ」


 俯く月菜の肩に、陽菜がそっと手を置く。


「月菜、過去は変えられない。でも、今と未来は自分たちで変えられる。……それに、エヴァだってあの子を不幸にしたいわけじゃないはず」


「陽菜……」


「まずは目の前のことに集中して。ほら、あっちを見て」


 陽菜の視線の先――


『星菜ちゃーん、頑張れっ!!』

『可愛いぞ、ちくしょー! こっち向いてくれー!』


「ふふ、みんな、ありがとー♪ しっかり見ててねっ!」


 月菜たちの対戦相手は、まさにその星菜のクラスだった。


 コート中央で声援に応える彼女は、先ほどまでの悲痛な表情が嘘のように、眩しいほどの笑顔を振りまいている。


「……うぅ、あんなの見せられたら、余計にやりにくいよぉ……」


「甘い。勝負事に情けは不要。……叩きのめす」


「陽菜……なんでそんなにやる気満々なの? まさか、この間のリレーの件、まだ根に持ってる?」


「……根に持ってない」


「あ、これ絶対根に持ってるやつだ」


 試合開始直前、星菜がこちらにタッタッタと軽い足取りで近づいてきた。


「やっほー! 陽菜ちゃん、相変わらず怖い顔。まだあの時のこと怒ってるの?」


「……怒ってない」


「そっかぁ。黒の大人っぽい下着、陽菜ちゃんにピッタリだと思ったのになぁー♪」


「――っ!!」


 陽菜の顔が、一瞬で耳の付け根まで真っ赤に染まる。


「あはは! 陽菜ちゃん、分かりやすーい! じゃあさじゃあさ、また同じ賭け、してみない?」


「賭け……?」


「そう。あたしたちのクラスが勝ったらぁ……今日の陽菜ちゃんと――月菜ちゃんの下着の色、教えてもらう

よ!」


「えぇぇっ!? なんで私も巻き込まれるの!?」


 明らかに動揺し、胸元を隠すように身を縮める月菜。一方、陽菜は羞恥を通り越して冷静に計算を始めていた。


「……不平等。私と月菜、二人の情報を出すのに、佐々木星菜は一人。条件が合わない」


「あ、確かにそうだね。じゃあ……あたしが今着けてる下着、脱いであげちゃうよ♪」


「いらない。……不衛生」


「えー、マニアな人なら泣いて喜ぶのになぁ……。あ、分かった!」


 星菜はいたずらっぽく笑い、自分の胸に指を添えた。

「じゃあ、あたしのここの、正確なサイズを教えてあげる。どう?」


「………いい、それなら平等。乗った」


「陽菜!? ちょっと、勝手に決めないでよ!」


「大丈夫。……勝てばいいだけ」


 月菜が必死に仲裁しようとする声をかき消すように、試合開始を告げるホイッスルが体育館に高く響き渡った。


――試合開始


 ジャンプボールと同時に、陽菜が驚異的な瞬発力でボールを弾く。


「月菜、走って!」


「わ、わかった!」


 月菜がキャッチし、そのままドリブルで切り込む。だが、その前に立ちはだかったのは星菜だった。


「あははっ、月菜ちゃん、甘いよ!」


「きゃっ!?」


 星菜の素早いカット。ボールが奪われる。そのまま流れるようなバックビハインドパスが、星菜のクラスメイトへと渡る。


「さすが星菜ちゃん! ナイスパス!」


 星菜の動きは、まるで重力を無視しているかのように軽やかだった。


 悲しい過去も、背負った宿命も、今の彼女からは微塵も感じられなく、ただ純粋にこの瞬間を、この日常を全力で楽しんでいる――その姿は、痛々しいほどに強かった。


「……させない!」


 陽菜が猛烈なプレッシャーで星菜の前に壁を作る。


「わあ、陽菜ちゃん本気だぁ。やっぱり下着の色、教えたくない?」


「……黙って」


 陽菜の長い脚がコートを蹴る。星菜のフェイントを読み切り、鋭いスティールでボールを奪い返した。


 そのまま自らゴール下まで持ち込み、華麗なレイアップシュート。


 パサッ、と網を揺らす音。


「よしっ!」


 一進一退の攻防。

 月菜は、走りながら星菜の横顔を見た。

 星菜は汗を拭いながら、本当に楽しそうに、少しだけ挑発的な笑みを浮かべてこちらを見ている。


(……そうだよね。過去は変えられないけど、今は変えられる)


 月菜は強く拳を握り、自分の頬をパチンと叩いた。


「星菜ちゃん! 私、負けないからね!」


「いいよ! かかってきて!」


 九月の熱気がこもる体育館。

 下着の色とプライドを賭けた(?)、少女たちの熱い戦いが幕を開けた。




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