30話 妹たちがいる球技大会は落ち着かない。④
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「話って何ですか? あたし、タクロー先輩の試合を見に行きたいのだけど」
校舎裏の人気のないスペース。
フェンス越しに、遠くグラウンドから地鳴りのような歓声が響いてくる。どうやら、彼らが何かやらかしたらしい。
星菜はそちらが気になって仕方ない様子で、何度も視線を向けていた。
「それは私も非常に気になります。……ですが、それより先に話しておかなければならない事があります」
エヴァの声音は、いつになく真剣だった。
星菜はその異質な空気を敏感に察し、軽く眉をひそめる。
「……何かあったの?」
「はい。かなり」
一拍。
エヴァは周囲に人影がないことを再確認してから、静かに言葉を紡いだ。
「魔術学院から、星菜ちゃんの今後について通達がありました」
その瞬間。星菜の表情が、凍りついたように止まった。
「……は?」
「正確には、《テラ・コア》についてです」
エヴァは苦虫を噛み潰した様な表情で続ける。
「私がここにいる理由。星菜ちゃんなら、既にご理解されていますよね?」
「……まあ、大体ね」
「星核リリック。《テラ・コア》の調査……そして、回収」
避けては通れない言葉が、白日の下に晒される。
「星菜様。《テラ・コア》を、私に引き渡してはくれませんか?」
エヴァの透き通るような青い瞳が、わずかに細められた。
「嫌だと言ったら?」
星菜の声から、いつもの少女らしい軽快さが消失していた。
フェンスの向こうでは、再び大きな歓声が上がる。
けれど、この場所だけが世界から切り離されたみたいに、不気味なほど静まり返っていた。
「……その場合、学院は別の手段に移行します」
「別の手段?」
「強制回収です」
淡々とした、事務的な返答。
だが、その言葉の裏にある非情な重みを、星菜が聞き逃すはずもなかった。
星菜の指先が、微かな震えを刻む。
「……何それ。冗談じゃない」
「《星核リリック》は、学院側でも最上位の危険指定物件です。簡単に使用は認められません」
「だから、力ずくで取り上げるって?」
「適切な管理下に置く。……それが学院のロジックです」
「同じことでしょ」
ぴしゃりと言い切る星菜に、エヴァは否定を返さなかった。
「星菜様。……貴女が【ササキの一族】であることも、理由の一つです。今は私が上手く誤魔化していますが、それも限界が近い」
「…………」
「ササキの一族が、魔具の最奥たる星核リリックを使用することの……真の意味が」
星菜は耐えかねたように視線を逸らし、唇を強く噛んだ。
「……だからって。はいどうぞって渡せるわけないじゃん」
「ですよね……」
エヴァは静かに、けれど深く頷いた。
「ですから、学院も業を煮やしているのです」
「困ってるのはこっちの方なんだけど」
「その通りです」
エヴァは珍しく即答した。
「ですが、組織は個人の感情を優先しません。このままでは、貴女を傷つけてでも回収に動くでしょう」
「……っ」
「つまり……お兄様である冥夜さんをも巻き込むことになりかねません」
星菜の肩が、目に見えて大きく揺れた。
「お兄ちゃんは関係ないでしょ!!」
「星菜ちゃんがそう願っても、事態は止まりません。貴女に危害が及べば、冥夜さんは必ず動く。違いますか?」
「…………」
「東の破魔士当主、佐々木冥夜。若くして東の破魔士を束ねるその名を魔術師界隈で知らない人はいません」
「……でも、その破魔士たちを歴史から抹消しようとしたのは、あんたたち魔術師と政府の方でしょ!?」
星菜の瞳に、熱い涙が浮かび上がる。
「【無銘化事件】……。あれは、悲惨でした」
エヴァの口から漏れたその言葉が、星菜の逆鱗を叩いた。
「悲惨でした!? そんな他人事みたいに言わないでよ! あれのせいで、お父さんもお母さんも、みんな社会的に殺されて……居場所を奪われて死んじゃったんだ!! お兄ちゃんだって、どれだけ大変な目に遭ったと思ってるのよ!!」
吐き出される絶叫。
それは数年前から星菜が心の内に溜まっていた憎しみを吐くような叫びだった。
「……失礼しました。配慮に欠ける発言でした」
「あたしは、《テラ・コア》を誰にも渡さない。あんたたち魔術師が奪いに来るなら、全員叩きのめしてやる!」
星菜はそれだけ言い残すと、激しく踵を返して走り去っていった。
その後ろ姿を、エヴァは見送ることしかできなかった。
「……星菜ちゃん。私はただ、貴女の身を案じているのですよ」
エヴァの脳裏に、今日まで積み重ねてきた星菜との、他愛もない思い出の数々が蘇っていた。




