29話 俺たちの夏はまだ終わらないらしい④
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『はい、それじゃあバスケ組はこっち集合ー。まずは基本からいくわよー』
中等部体育館。
タクローたちが外で白球を追いかけ、熱中症寸前の青春を繰り広げている頃。
月菜たちのクラスは、バスケという名の屋内型灼熱地獄に放り込まれていた。
天井の大型扇風機が「ぶおんぶおん」と親の仇みたいに回っているが、あれはきっと「私は頑張っています」というアピール用の設備だ。
吐き出される風は、どこまでもぬるい。
「うわぁ……暑いぃ……溶けるぅ……」
月菜はぱたぱたと自分を扇ぎながら、ぐったりした顔で天井を見上げた。
「私の中のバニラアイスが溶け出してるよ……」
「月菜の中にバニラアイス食べてないでしょ」
陽菜が淡々とツッコむ。
「これ、本当に人間がスポーツしていい環境なのかな……?」
「夏の体育館なんて大体サウナ。慣れるしかない」
そう言いながら、陽菜はさらりと前髪をピンで留め直した。
他の女子たちが「無理ー」「死ぬー」と床に溶けかけている中、陽菜だけは妙に涼しげだ。
陽菜の周囲だけ冷房効いてる説あるな……と月菜は本気で思った。
『はい、まずは軽くドリブルとシュート練習ねー』
教師のホイッスルを合図に、生徒たちがボールを持って散らばっていく。
「よーし! やるぞー!」
月菜は気合を入れると、元気よくボールを抱えた。
ダム、ダム、ダム――。
「おっ」
陽菜が小さく目を細める。
月菜のドリブルは、初心者のそれとは明らかに違った。
重心の低いフォーム。
無駄のないボール捌き。
リズムよく響くドリブル音。
そのまま月菜は、スッと鋭く方向転換すると、一気にゴール前へ切り込む。
「えいっ!」
シュッ――。
放たれたボールは綺麗な放物線を描き、リングへ吸い込まれた。
『おおーっ!?』
周囲の女子たちからどよめきが上がる。
『月菜ちゃん上手っ!?』
『今の動き普通にバスケ部じゃん!』
「えへへ、そうかな?」
月菜は少し照れくさそうに笑った。
「昔、お兄ちゃんとよく遊んでたからかな!」
「……タクローと?」
陽菜の眉がぴくりと動く。
「うん! お兄ちゃん、ボール遊びとか結構付き合ってくれてたし!」
「……なるほど」
陽菜は妙に納得した顔をしていた。
『月菜ちゃんもう一回見たい!』
『次ドライブしてー!』
「いいよー!」
月菜は嬉しそうに再び走り出した。
ダムダムッ――。
軽快なステップ。
フェイント気味に身体を揺らし、架空のディフェンスを抜き去る。
「――っ!」
高く跳び上がり、そのままレイアップ。
ボールはバックボードへ当たり、綺麗にリングへ吸い込まれた。
『すごーい!』
『かっこいい!』
『月菜ちゃん王子様じゃん!』
「お、王子様!?」
月菜が顔を赤くする。
『三菜姫のエースって感じー!』
「そ、それはちょっと恥ずかしいかも……」
わいわいと女子たちに囲まれる月菜。
そんな様子を見ながら、陽菜も静かにボールを持った。
ダム、ダム――。
こちらは月菜とは対照的だ。
派手さはない。
だが、一つ一つの動きに無駄がない。
静かで鋭い。
そのまま最小限の動きで跳び、
シュッ。
放たれたシュートが、スパンッ、と綺麗な音を立ててネットを揺らした。
「わっ、陽菜も上手!」
「まあ、それなり」
「いや絶対それなりじゃないって!」
月菜が笑いながらツッコむ。
「陽菜ちゃん、動きめちゃくちゃ綺麗だもん!」
「月菜みたいに走り回るのは苦手」
「でもシュートすっごい安定してる!」
そんな風に笑い合いながら、二人は何度もコートを走る。
ボールが弾む音。
シューズが床を擦る鋭い音。
体育館を満たす、女子たちの賑やかな笑い声。
蒸し暑い空気さえ、今はどこか楽しく感じた。
「でも月菜、本当に速い」
「え? そうかな?」
「ディフェンス側からすると結構嫌なタイプ」
「ほんと!?」
「うん。一瞬で抜かれそう」
陽菜の言葉に、月菜はぱぁっと顔を輝かせた。
「えへへ……なんか嬉しい!」
その笑顔は、外の真夏みたいに、まっすぐで眩しかった。




