第八十五話「ハイエレメンタラー」
仮面を中心に薄氷が割れるような音が響き、耳の奥に木霊する。
天照が少し感情を覗かせただけで、この世界はこうも綻び始めてしまうものなのだろうか。
あたしは、今の天照と話したい。
言い聞かせたいんじゃない。
彼女と話しを、本当の声を、もっと聴いてみたいと思った。
「天照、話そう! そうしたら、あたしたちもっと――」
『……不要よ』
「え?」
彼女の声はやはり小さく震えていた。まるで不安や恐怖を感じているような、か細い声だった。
『わたしが力を分け与えたそのエネルギー体――仮面……。それすらあなたたちは成す術ないじゃない。やっぱり無理なのよ、ヒトが世界を創るなんて……』
天照の声は早くこの場から立ち去りたいと言わんばかりに、宙空から遠ざかって行く。
「待って天照ッ! あたしたちにも――」
『このままだと仮面はこの辺り一帯を何も無かったことにするわ。それを、どうにか出来たなら……。約束は、しないわ……』
天照からの曖昧な挑戦状……だけど、これはきっと踏ん張るところだ!
「分かった! だから、その場で見てて! どこにも行かず、あたしたちを見ててね!?」
天照からの返事は無かった。
だが、仮面からは相変わらず彼女の視線のようなものを感じていた。
シルフィに《回復》を掛けられる風待さんを横目に、あたしはアースの下へ走り出す。
彼女はまだ地面に片膝をついて蹲っていた。
「ごめんアース! 放ったらかして! 体調は!?」
「大丈夫です……」
彼女はひとつ咳払いし、薄く微笑むも、その目の下の隈と細い呼吸が大丈夫ではないことを物語っていた。あたしは顔には出さず奥歯を噛む。
アースの容態も芳しくない……。
世界は崩れ始めている……。
――違う。
正しくは、あたしの手の届かないところで全部が壊れようとしている。
焦るな、なんて無理だ。
考えろ、なんて、もっと無理だ。
それでも――
一呼吸置いてから、あたしはアースの目の奥を見て言う。
「アース、そのまま楽にして聴いて?
……前に、マリンから聴いたの。
多分、合ってると思うんだけど……。
アースたち精霊は、世界のバランスを担ってる、よね?
魔力の存在しない地球に来た時、
その強過ぎる魔力をセーブする為に
自然に魔力が弱まっていったって……」
「……はい」
アースはまっすぐあたしの目を見てからしっかりと答えてくれる。
「今このダイタニアが崩壊しだしてるのって、天照によって精霊がデータ化されちゃって少なくなっちゃったからかな?」
アースは少し考え込み、あたしの言葉を反芻してから答えた。
「……いいえ、恐らく違います。精霊は天照にとっても制御外の存在。データとしてではなく、この世界の理として、精霊は存在してます。今の、この地にも――」
そう言って宙空を見つめるアースにつられ、あたしも空を仰いだ。
空がガラス窓のようにヒビが走っている。あたしは一度身震いすると、またアースに向き直る。
「元々この世界を創ったのは風待さんやSANY……途中で管理者に代わったのが天照……」
「……そのようです。データの……集積が、この世界――」
アースは一度、言葉を切った。呼吸を整えるように、小さく息を吸う。
「――ですが、そこに“精霊”という概念が加わって構成されてきた世界でもあります」
「じゃあさ、やっぱり精霊の力を借りて、この世界の……ううん、仮面の力だけでも抑えること、出来ないかな?」
「ッ!?」
アースは一瞬ハッとした顔をした後、すぐに目を伏せて口元が僅かに緩む。
「精霊の力を、借りる? ふふ、あなたらしい……」
「え?」
「お忘れですか? あなたのメインジョブ」
「あッ!」
彼女のその燃えるような熱い眼差しがあたしの中の記憶を呼び起こした。
「まひる、あなたが願えば喜んで私たち精霊は力を貸すでしょう……なぜならあなたは――」
「《上級精霊使役者》……っ!」
『超次元電神ダイタニア』
第八十五話「ハイエレメンタラー」
「へくちっ」
白い大地の縁に磔にされたウィンドが、その乾いた風にひとつくしゃみをした。鼻を啜りながら愚痴る。
「もお〜、こんな乾燥したとこにずっと居たらお肌カサカサになっちゃう」
笑いが生まれ、張り詰めていた場の空気がそのひと言で少し解れた。
「ふふ。風子ちゃん、相変わらずだね」
飛鳥は再会の余韻がまだ冷めず、声を詰まらせながら笑った。
「ほんとね……早く帰ってゆっくりお風呂にでも浸かりたいわ……。ディーネ、状況は?」
流那がぶっきら棒に応えてディーネに問う。
「ああ……少し、ヤバそうかな……」
ディーネは遥か先の地で起きている異変を感知していた。
「あの仮面を外してから、何だかあそこだけ空間が変質しだしてる……?」
「どんな感じに!?」
ディーネの言葉にマリンが声を重ねてきた。ディーネは少し意外そうな顔を向けると、真剣な顔つきでまた前に向き直る。
「……仮面からデカいエネルギーを感じる。それが暴れて周りの空間を壊しているような、感じ?」
「……よく解らない」
ディーネの大雑把な説明に顔をしかめるマリン。
「仕方ねーだろ! あたしはお前みたいに頭よくねーんだ」
だが、マリンは小さく微笑むとディーネと同じく先のまひるたちに視線を戻し、言う。
「でも、世界を壊すほどのエネルギー……なら、それとは別方向の力が、必要だね……」
マリンの確証めいた呟きには、底しれぬ熱が込められていた。
その時――
『……聴こえるか、誰か――』
「「ッ!?」」
マリンとウィンドが大気に拘束されたまま、その身を硬直させた。
「……この声は……まさか!?」
「……球ちゃん?」
『……万理、それに、風子か!?』
「球子姉さんッ! 生きていたんだねッ!?」
マリンの驚きを肯定する声が大気に響き渡る。
『あなたたちこそ……ッ!』
アースの声が詰まり、震える。そしてひとつ咳払いをして今の想いをぐっと抑える。
『……距離があるので、念話で失礼する……』
その声は途切れ途切れで、ノイズのようなものが混じっていた。
二人は瞳に涙を滲ませ、長姉の次の言葉を待った。
『……着けていた仮面が暴走し、世界を壊し始めた。今こそ、あなたたち皆の力を、まひるに……』
「………」
それだけで二人には十分伝わった。
『……長くは……ッ』
念話が、一瞬ノイズに掻き消える。
『……保たない。だから……今だ』
声が、少し遅れて届いた。
念話だと言うのに弱々しく、必死に届けてくれた姉の声。
彼女がまひるのことを呼び捨てで呼んでいた違和感など、どうでもよくなるくらい、その事実が二人の胸を打った。
二人は滴る涙をどうすることもできず、その想いが伝わるよう、姉を心配させないよう、ただ笑顔を作った。
『解った球ちゃん。まひるちゃんの力に合わせてこちらも本来の在り方を示すんだね?』
『球子姉さんは無理せず待ってて! 必ず僕たちがやり遂げてみせる』
『ふふ……相変わらず、頼もしいな……』
『ちょおっと待ったぁ!』
『そういうことでしたら、わたくしたちも力添えできましてよ?』
姉妹たちの念話に突如入り込んできた二つの声。
マリンとウィンドが驚きながらその声の主の方を見る。
「ディーネ、ノーミー……」
「ま、どうなるかわからないけどね?」
ディーネが肩をすくめる。その横で、ノーミーは一瞬だけ視線を伏せた。
「……正直に言いますわ」
ノーミーは一度、喉を鳴らした。
「わたくし……怖いです。とても……」
その声は、いつもの気品を失っていた。
「世界が壊れるのも怖い。でも……それ以上に、何もせずに“知っていた”自分になるのが……怖いのです……」
マリンは震えながらも自分を奮い立たせようとするノーミーに、彼女の芯のある矜持を感じていた。
マリンは彼女の勇気を讃えるように無言で力強く頷き返した。
「……済まないが聴こえてしまった。私も微力ながら尽力させてもらおう」
「レオンさん!」
ウィンドがその静謐な声の申し出に歓喜の声を上げた。
レオンも顔を上げ前を見据える。その両の拳を硬く握ったまま――
マリンが微笑み、目を瞑り前に向き直る。皆の想いを噛み締めながらゆっくりとその瞳を開け、まひるたちがいる前を見据えた。
『球子姉さん、いつでも来いと、まひるに伝えて?』
大地に吹く温かい風の音を感じられるようになってきた。ここに来て集中力が高まってきたのかも知れない。
「風待さん! シルフィ! 試してみたいことがあります! 二人はあたしに何かあれば援護をお願いします!」
あたしは仮面に向いて腰を落とし、アースの脇で更に精神を集中させる。
こんな時に焦るなって方が無理!
だから、焦ってるあたしの声を聴いて欲しい!
両手を前にかざし、仮面に狙いを定める。立ち上がったアースの手が、あたしの肩に添えられた。
彼女の手の感触が、弱い。
その存在自体が消えかかってしまっているような、不安感でいっぱいになる。
「……世界を平穏に導くすべての精霊たち、聴いて――」
これはスキル発動のための詠唱ではあったが、今のあたしの嘘偽りない、祈りでもあった。
「目の前の脅威、万物の力をもって、共に鎮めよう――」
発動の瞬間、あたしの体の中に熱い想いのようなものがいくつも流れ込んできた。
世界の安寧、正常化、心配、怒り、焦り……そして、あたしへの――
受け取ったよ、みんな!
「《四属性結界陣》ッ!!」
あたしの手から放たれた青、緑、黄色の光線に加え、後から細い紅い光線も加わる。四色の光線が捻じれ、混ざり、静かな衝撃音と共に仮面へ直撃した。
「ぐッ……うぅ……ッ!!」
仮面の下に展開された魔法陣から光の柱が立ち上り、高純度の精霊エネルギーが天照の力と反発しあっている。
光線を発している両腕の負荷がハンパない。腰を落としていても、ゆっくりと地面を削り、後退させられていく。
これも効かないッ!? 攻撃と浄化を同時に与える精霊魔法の最上位スキルなのにッ!?
「《魔力増強》」
「え?」
突然あたしの隣りからバフを掛けられた。その声に驚き振り向くと、風待さんがシルフィに支えられ立っていた。
「ここにきて《四属性結界陣》か。確かにね……。届いてくれッ!」
「風待、無理をしてはいけません! 私はあなたの回復役ではないのですよ!?」
シルフィが困り顔で彼に《回復》を掛けながら真剣に怒っていた。
「風待さん、シルフィ……!」
「これでどうにかしないと――いや……するんだ!」
風待さんの渾身の《魔力増強》があたしの中に溢れて、光線の出力を大幅に上げてくれた。
でも、これって!
「駄目です風待さん! 出力上げすぎです! そんなことしたら、風待さんの体がッ!!」
あたしは尚もスキルの出力を上げ続ける隣りの風待さんに悲鳴のように怒鳴る。風待さんは聞こえていないのか一向にその手を弛めようとしない。
「……落とし前を、着けるんだ……! 俺の、この手で――」
聞こえていないはずがない。あたしの心臓の鼓動より、はっきりと。
やめて、と叫びたい。
でも――止まらない。
この人はまた、ひとりで背負おうとしている。
あたしの手が震えた。
それでも、振り上げる!
「〜〜〜ッ、こらあッ!!」
あたしは片手に光線を集約させ、空いたもう片方の手で風待さんの顔を思い切り張った!
風待さんは地面に尻餅をつき、打たれた頬に手を当て、何が起こったのか分からないような顔であたしを見上げた。
「…………ッ」
「ふーッ! ふーッ!」
あたしは気が昂ぶって、呼吸と鼓動が荒くなる。
仮面の魔法陣が、一瞬だけ揺らぐ。まるで、世界が戸惑ったかのように。
あたしは風待さんをまっすぐ見下ろしながら声も掠れ叫ぶ。
「どうしてそう、自分の命を大事にしないんですかッ!? シルフィに言われたばかりじゃないですかッ!!」
「……」
彼の表情は変わらず、呆然と無言のままあたしを見ている。
「そんな人の力は借りたくありませんッ! ここにいるみんなは、一緒に生きる未来しか、見てないと思うからッ!」
あたしは何故か悲しくなり、流したくもない涙が零れ落ちる。こんな涙、あの人が見たら――
奥歯を噛み締め、その名をぐっと呑み込む。
「……誰よりも、命の大切さを、知っている人だと思ってたのにぃ……」
後ろのみんなからの応援は今も感じる。この光を絶やしてはいけない。
だけど、事態は好転していないのも確かだ……。
四色の光は交錯する。だが、青は冴え、緑は満ち、黄は広がるのに、紅だけが、細い。熱が足りない。
燃え上がるはずの中心が、まだ眠っている。
その瞬間、仮面の魔法陣が不規則に脈動した。四色の光線が弾かれ、地面に深い裂け目が走る。
「ッ、まだ……!」
精霊エネルギーが暴れ、空間が軋む。まるで、天照が嘲笑うかのように。
倒れた彼にシルフィが手を差し伸べ起き上がらせるのが見えた。
彼女も居心地の悪そうな顔をしてしまっている。ごめん……。
「風待、あなたは自分が思うほど、他人に影響を与えていないわけではありません……」
風待の紅い頬に手を当てる。
「これは、治しません」
彼女は静かに言う。
「あなたが忘れないために」
頬に触れた手は優しい。けれど、その目は揺れていなかった。
「……」
後ろから無言の風待さんの視線が痛い。
やっぱり殴っちゃ駄目だよね……。アースにも手を上げちゃうし、あたしこそ、人のこと言えない……。
人生初のことが一日に二度も起き、あたしは自己嫌悪に陥りそうになるも、目の前の仮面がそれを許してくれない状況だった。
頬が熱い。
その熱を、そっと撫でる風があった。
やわらかい。
この世界に来てから、どこか忘れていた感触。視界が滲む。
(……俺は)
また、一人で終わらせようとしていた。
(……相川さん、泣いていた……俺を、止めるために……)
頬を撫でた風が、背中へ抜けていく。
押された気がした。
――前へ。
ずっと、どこかで待っていた風だ。
「……俺、は……」
胸の奥に絡みついていた“責任”が、少しだけほどける。
「……あり、がとぅ……ッ」
彼は目から溢れる涙に気づかず、ただ胸の奥から込み上げてくる熱いものに感謝する。
頬を撫でた風は、涙で滲むまひるの背中へと続いていた。
「…………」
シルフィはそっと彼の傍らに寄り添い、その顔を見た。
そして、見てしまったことに後悔するより先に、胸の奥がちくりと痛んだ。
彼女は目を瞑り、自分の大切な者たちを、想う。
風は、選ぶ。
どの温度に、どの声に、身を寄せるかを。
(いま彼の背を押した風は、私ではなかった……)
「……人生、ままならない……」
そう呟いた顔は、微笑んでいるようにも、泣いているようにも見えた。
「ぐぬぬぬぬ……ッ!!」
「ま、まひるッ!」
あたしの肩を心配そうに掴むアースの手に力が入る。こんな時だと言うのに、その入った力の分だけ、力が湧いてくるようだった。
あたしは尚も踏ん張り、仮面と対峙していた。仮面とあたしの技の放出エネルギーはほぼ拮抗している。
「くッ! このままじゃ、押し切られる……ッ!」
あたしは歯を食いしばり、出力を落とさないよう努める。
すると、またあたしの横から仮面に向けた手が差し伸べられた。今度は、二本。
「……ここまで来て、一抜けはやっぱり“無い”な」
「そうですとも。皆の頑張りを見てください」
風待さんがシルフィに叱られながら、静かに、しかし迷いのない目で戻ってきた。
「……今度は、一緒にやらせてくれ……!」
そう言ってまっすぐ前を見据える。
「……もちろんです!」
何だかあたしは嬉しくなって前に向き直った。
「本来《四属性結界陣》は四つの精霊すべてと契約していなくては使えない……今の相川さんは……!」
「はいッ! わかってます! だからこうして、みんなが力を貸してくれてる……それがわかるから――」
風待さんの言葉にあたしは取っておきの《勇者力》をその空間に発動させた!
「絶対に諦められないんですッ!! 大気よ! “柔らかく”なれッ!!」
ヒビが入ってた一帯の大気を、あたしは思い切って柔らかくしてみる。
「あれはッ!?」
アースが真っ先にその変異に気づいた。
大気を割るほどのエネルギーなら、“割れなく”してやればいい!
「……ふふ、ビンゴっ!」
力の打つけ所を失ったエネルギーが空中で霧散し始めた。このまま消えてしまえッ!
「まひるさんの能力に、こんな使い方が……!?」
普段冷静なシルフィも驚いている。何でも、やってみなくちゃ分からないものだ。
「吹雪の力がまた強まり始めた! 仮面の力が表面化したのか!?」
吹き付ける吹雪に視界と熱を奪われ、あたしたちはそれでも《四属性結界陣》のために伸ばした手を引っ込めるわけにはいかなかった。
「……ううッ! 世界が、凍る……ッ!?」
冷たさは痛みに変わり、睫毛が凍る。体から熱が、奪われる――
「止まってえぇええーーーッ!!」
あたしの無力な叫び声さえ凍らせようとするかのように、容赦なく仮面は冷気を吐き出してきた。
すると、次の瞬間、吹き付ける吹雪が和らいだ気がした――
ゆっくりと、凍った睫毛を剥がす痛みに耐え、その目を開けた。
「…………アース……」
彼女があたしの前で、両手を大の字に広げて立っていた。
全身に吹雪を受けながら――銀色の髪が、氷光の中で揺れていた。
あたしは後ろから彼女に片手で抱きついた。
「……ありがと、アース……」
「……まひる、こちらこそ」
あたしは顔を上げ、アースの後ろからキッと仮面を睨む。
「足りないなら、奪いに来なさいッ! それでもッ、生きるッ!!」
それは、祈りでも願いでもない、ただの、叫び――
「この身が凍てついてもッ! 心だけは燃やせるからッ!」
妙に、静かだ――
心臓の鼓動だけがやけに響く。
吹雪の音すら消えた世界に、あたしは叫んだ。
「だから……ッ!」
そして、その声は、届く。
『“炎”を、ご所望かい?』
あたしの目の前に差し出された手の中に、それはあった。
“それ”は燃えていた。
紅く、熱く。でも、どこか懐かしいような温かさを秘めた光だった。
「……これ……」
あたしは気づくと手を伸ばしてしまっていた。
すると突然、光が業火のように空高く舞い上がる。
「熱ッ!」
光に近づき過ぎたあたしの手を刺すような熱さが襲った。
だが、すぐにその光が手を優しく包んでいき、火傷の痛みを和らげてくれる。
紅い光は一点に凝縮し――それは、確かな“手”になった。
見ると、アースの目からも涙が零れ、その頬に流れ落ち、凍っていく。
「……あ……ああ……ッ」
手に取った手は、その体温を確かにあたしに伝えてきた。
炎のような紅い髪が吹雪の中に映え、長い睫毛の奥のルビーのような瞳に火を灯す。
そして、その腕があたしとアースをまとめて抱きしめた。
「……遅れてごめんな。まひるちゃん、球ねえ……ッ」
「あ……あぁあ……」
あたしは声にならない声で、その名を零した。
「ファイアあぁあ……ッ!!」
【次回予告】
[まひる]
……生まれて初めてが、
一日に二回も起きるなんて……
お兄ちゃんのこと、言えない……
あたしの、暴力女ぁ〜……
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第八十六話「地球色のリボン」
打った手のひらがいつまでも熱い……




