冒険者ギルド 三人称
「しかしあいつらなんなんだ。どういう経緯のやつらなんだ?」
「ははは。それはエルム教官が悪いな。事前に情報を入れない方が楽しめるとかいうのは相手が弱いときだけに通用するものだ。それこそ駆け出しレベルの――」
「普通の駆け出しではないということ?」
「そういうことだな」
そこは冒険者ギルドの執務室である。
その冒険者ギルドの執務室にはギルドマスターと、ギルド昇格試験に出たAランク冒険者でもある『教官』が、昇格試験の資料整理などを行っていた。
ギルドマスターは基本的に承認のハンコを押すだけだが、その内容等は確認する必要があるのだ。
あのエルフのお兄さんとは偉い違いがある。
「あいつらな。コンプレックス辺境伯の令嬢とそのお連れだ」
ギルドマスターは教官に簡単に答えを教えた。
「コンプレックス辺境伯だぁ? ――誰だいそりゃ?」
教官も馬鹿ではない。
馬鹿ではないのだが、その名前を思い出すのにしばしの時間が掛かった。
それくらい、コンプレックス辺境伯はマイナーな貴族であったのだ。
「まさか……。魔界地域の――」
教官は思い出す。
王国が国土として主張する魔界地域の一地域。
そこを起点とする領主家のことをコンプレックス家といっていたはずだ。
かつての英雄ソフィー・ヴァイオレッタの嫁ぎ先だ。
魔界からのモンスターからの侵攻を食い止めたからの辺境伯の指定らしい。
だが教官はその一家など見たことはない。国民の大半も同様だろう。
たとえ英雄の名前は知っていても、その晩年となれば――平民であれば名前すら普通は知らないのではないだろうか。
教官も貴族社会にも多少は明るいので、知識として持っていただけだ。
魔界に対しては魔石が採れるということで魔道列車が敷かれ、魔界ギルド支部が建てられ、護衛としてかなりの数の冒険者たちが雇われているが、それであっても教官自身コンプレックス辺境伯のことを見たことがなかったため、今までは名前だけの存在だと考えていた。
「そうだ。ちなみにご令嬢と今日戦った男がHランクで――男の方はGランクにになるが――、その令嬢さまの後ろにいたのがCランクだ」
教官もご令嬢というのはすぐにピンときた。
王立学園の制服を着ていたからだ。あの制服は基本的に貴族しか着ない。
新入生らしく真新しいことは覚えている。おそらくは1年生だろう。
そして、その後ろにいた女騎士にも気づいていた。
高貴な雰囲気からただ者ではないと思っていたが――
「すべて魔界ギルド支部の出身だな。ちなみに男の名前はロー・ナンデというらしい」
「そうか。難手の使い手か! あの強さは道理で――」
難手とは剣術であって剣を使わないことから、剣術の大会において『零戦無敗』を誇るという古式魔術の流派の一つである。
剣術の大会で剣を抜かない、というのであれば剣術の試合としては成立しない――つまり零戦と主張しても良いだろう。
「Hランクの男でさえあの実力だ。となると、貴族のお嬢さんはともかく、後ろのCランクの実力は一体――」
「――Cランクの経緯については魔界ギルドからの報告が来ておるよ」
ギルドマスターは紙の束を教官に差し出す。
すぐさま教官はそれに目を通した。
「いやはや、これは――」
オーク1万の軍勢に対し勇敢にも一人で戦い、従え、最後にはオークの集団を率いて地域のボスである怪獣モフデラデピを倒した。
(あの怪獣モフデラデピを倒した傑物か――)
かつての魔王たちが、モジリアーニ、デューデンベリ、ラチケット、デモンストレーション、ピグーといった凶悪なる魔物たちを合成してつくったという、最悪のモンスターだ。
内容としてはとても信じられないものである。
「これを信じられるのですか? ギルドマスターは?」
「信じられない要素がどこにあるのだね」
「すべて信じられないのですが?」
「そのレポートの発行者を見てみろ」
その名前は――ラチケット・コーカーだった。
「ダークエルフにありながら、冒険者ギルドの暗部として君臨する。≪冒険者ギルドの闇を担うもの≫ 3大ダークエルフが一派ラチケット家のコーカー、ですか……」
冒険者ギルドは冒険をしてモンスターを倒すという、庶民としては華々しい面がある。
だがその一方、乱暴な人間も多い――
その中には指名手配を受けるような冒険者もいた。
だが、そんな冒険者に限って強大な力を有しており、冒険者ギルド職員だけでは太刀打ちできない場合がほとんどだ。
冒険者ギルド職員は多くの場合、冒険者を引退後の就職先となっているため、実力としてはかなり落ちるのだ。
そんな中、それらの悪落ちした冒険者には懸賞金を付けるものの、割に合わない仕事で普通の冒険者は受けたがらない。
そんな強大で凶悪な冒険者を取り締まり、粛清するのが暗部と言われている存在だ。
その役目を担っているのが、ダークエルフのラチケット家である。
「あぁ。あいつらのレポートは異常に正確だからな」
「確かに……」
自らを誇りたいという欲求でもあるのだろうか。
余計な修飾語も多いそのレポートは、しかし正確無比なことで知られている。
特出すべきは、何かの救出というときだ。
彼らの情熱はどこから来ているのだろうか。
「そんなのがこの町に来て、いったい何をやりたいのやら――」
そんなところの出身である。
彼らが何をしても暗部であるラチケットは動かないに違いない。
つまり一層の警戒が必要だと教官は感じた。
「まずはお金を集めたいらしいぞ。家を買いたいそうだ」
「――その情報はどこから?」
「そりゃぁ同じ冒険者からだよ。ヤツに突っかかって行って酒を奢ったらすぐにネタを提供してくれたらしいぞ」
「――ふむ」
「この町に来たのは単にお嬢様が学校にいくためだとか言っていたらしいが、どこまで本当やら……」




