アリス・アメジスト
私は、アリス・アメジスト。
アメジスト王国の第一王女『でした』。
転生前と言うか、前世の記憶では私は千葉県西船橋に住んでいた女子校生でした。
転生前の最後の記憶は自転車で学校に行く途中だったから、きっと車に轢かれたんだと思う。
そして異世界転生して――
ようするに今の私の立ち位置、ジャンルというのは婚約破棄もの、なんでしょうね?
そういうものにあこがれたことは正直ある。
悪役令嬢だった女性が、突然王子さまから婚約破棄されたときに前世の記憶を思い出し、失意のうちに処刑されるのをなんとか回避、国を栄えさせつつ「ざまぁ」な展開へ持っていくというのが王道よね。
しかし現実はどうなんでしょう。
自分は悪役令嬢ではなく、絶世の美少女でしかも王女だった。
乙女系だったら学園に行ってよりどりみどりの男子から一人を選ぶポジションだろう。
なのに国は既に滅んでいる。
あのラチケット・コーカーという名前の謎のダークエルフに救出してもらったけれど、そこまで。
婚約者であるジョージ君がどうなったのかは分からないが、きっと彼からは婚約破棄されたのだろう。
でなければここに私はいない。
このシナリオなら本来ならば、ここで祖国が破壊されたところをなんとか奪還するというのが私のセオリーなのだろう。
そしてジョージくんを取り戻して国を救う。
救国の姫君として「ざまぁ」するのだ。
あぁ、なんということでしょう。
おあつらえむきにソフィアという強力な戦力もある。
ソフィアは私から見ても非常に流されやすい性格をしている。
ソフィアの彼氏であるローという少年も助けてくれるだろう。
言えば、きっと。
巻き込んでもきっと笑顔で。
もしかするとあの謎のダークエルフでさえ、言えば助けてくれるに違いない。
腹の中は真っ黒に見せかけているが、救出したときは紳士だった。
拉致は一族の誇りだとか、変なこだわりがあるようだ。
だが、そんなことがどうでも良いと思えるほど私は疲れていた。
滅んだ国を立て直す?
そんなこと、一人の少女ができるはずがないじゃない。
そんな物語じゃあるまいし。ありえないだろう。
私にはなんの力もないのだ。
いままで温室で育てられてきた姫さまにそんな力はない。
拉致された時点で私からは気力というものが抜けていた。
そして、前世の記憶ではまじめな普通のJKだったんだから。
気力が抜けている私は今――、流されるように生きている。
『くっころ』イベントは面白かったが、終わってみれば自分の弱さがよりはっきりと分かってしまった。
ローくんによる近代魔術の講義にしてもそうだ。
私にはあんなことできない。とても無理だ。
異世界転生者にはチートという特典もあるそうだ。
それは、ローくんを見ればわかる。
だが本当に?
私にあんな魔法が使えるのだろうか。
魔法を使うにはなにやらイメージが大事らしい。
そんなのは最近のファンタジーのお約束だ。
しかし、そんなインパクトの強いイメージを私は知らない。
強いて言うなら、拉致されたときの城が炎に包まれているシーンだろうか?
あれはきっと、城が陥落する直前であったのだ。
だが、それで良いの?
青年が使った近代魔術を思い出す。
無限に広がる剣のように、墓場が無限に広がるイメージを思い出す。
あれは都市だ。
都市が滅び去るイメージだ。
どこか物悲しい。
あれを、あの悲劇を、私が繰り返して良いのだろうか。
そしてそれは確実に人を傷つけるだろう。
――魔法とは。
本来もっと楽しいものでないといけない。
そんなことを考えながら、ソフィアの後ろで私はずっと立っている。
楽しそうなソフィアやローくんのことを見続けていたら、何か新しい、楽しいイメージが得られる。
そんな気がして――




