董卓顔の俺氏。ギルド昇格試験を受ける
ギルドの演習場の周囲には人だかりができていた。
この日は月に一度のギルド昇格試験の日である。
昇格の条件としては大きく分けて3つ。
・各支部のギルドマスターが特別認定する
・ポイントを貯めたあと試験を受けて合格する
・学院等を卒業して認定を受ける(同等の力を有すると国が認める者)
の3種類だ。
それにSランク以上は国の許可も必要になってくる。
俺たちの認定パターンもそれぞればらばらだ。
まず、ギルドマスター認定によるパターンがアリスである。
実力はともかくとしてアリスはすでにCランクだ。
学院等の卒業によるものがソフィアだ。
ソフィアは無事に卒業すればCランクが確定となる。
そして、ポイントを貯めるパターンが俺である。
俺の現状の方針はソフィアが学園を卒業してCランク認定を受けるまでに、同じCランクを取得するというものだ。
だが現状はHランクである。果てしなく遠い――
わけなのだが。
今の俺にはそんな昇進試験などどうでも良い光景が目の前に広がっていた。
「あぁ、ソフィア。あぁ、ソフィア――。俺は今、猛烈に感動している!」
「えへへ――」
なぜならば目の前にブレザー姿の少女がいるのだ。
この異世界にJKですよJK。
おもわずエリス王妃さま万歳と言わざるをえない。
学園に行く前のお披露目として、わざわざ俺のために学園の登校服でこの昇進試験に駆けつけてくれたのだ。
これは感涙せざるを得ないだろう。
周りからの視線などはものすごいものがあるが、俺は特に気にしないことにした。
その嫉妬の視線すら俺には気持ちいい。
「制服! ソフィア可愛いよ。可愛い。思わず後ろから抱きしめたくなるよ」
「あはは~」
ソフィアは照れくさそうに顔を真っ赤にしている。
褒められてだんだんと頬が桜色に染まっている。
特に、恥ずかしがりながらもはにかむ笑顔が素晴らしい。
「それじゃ、そろそろ行ってくるよ。ソフィア」
「――って、あのぉ……」
そういって、昇進試験に向かおうとする俺の服の裾を、ソフィアは掴んだ。
「抱きしめたくなるって言ったんだからぁ、その通り抱きしめてくれないのぉ?」
「はは。そんなことしたらそれだけじゃ終わらなくなっちゃうし、服もしわくちゃになっちゃうじゃないか」
「おじさまぁ。服は4着買ったからぁ。1着くらいはしわくちゃにしても大丈夫だよぉ」
「へぇ……。なら……」
――なんて会話をしていたら。
ギルドの偉い人っぽい人に目いっぱい怒鳴られた。
「こらぁ! そこのHランク! お前だお前! 早くこっちに来いやぁ! まったく最近の若いやつときたらすぐいちゃつきやがって……。最下位ランクなんだからお前が最初だぁ!」
ギルドの偉いおっさんは、顔に青筋を立てている。
俺らがいちゃいちゃしているのが気に入らなかったようだ。
周りからのひそひそ話も聞こえてくる。
「おい、あの兄ちゃん。あの教官怒らせてんぞ」
「教官いまだ独身だからなぁ。あんないちゃラブしてたら当然怒るよなぁ」
「教官ってAランクなんだろ。可哀そうに」
「あの女の子、学園の制服を着てるから間違いなくお貴族さまだろ。いいよなぁ」
「お付きの女騎士様もランク高いよなぁ」
「あんなぶさいくな男にどうして……」
だいたい聞こえていた。
教官にも聞こえているだろう。
だが、そんなことはお構いなしに教官はイベントを進行させた。
ストレスが溜まっているようだ。
「さて今から昇格試験を始める! まずはHからGへの昇格試験だ。最下級だからな。俺と模擬線をやってもらって、まぁ勝つことはないだろうが、見どころがあるなと思えば昇格させてやる。なんといっても俺はAランクだからな!」
Hランクの昇格試験を受けるのは、今日は俺一人らしい。
「小僧! それでお前のエモノはなんだ!」
俺は躊躇なく答える。
「ヒモです」
俺は荒縄を取り出した。
「おのれは! そう来るか!」
教官と呼ばれたおっさんは、まるで俺を目の敵のように睨んでいる。
「くそっ。それじゃぁそれでいい! さっさと始めるぞ。貴様に屈辱というものを教えてやる」
教官からは何か私怨のようなものを感じる。
本当に試験なのだろうか。
「よし、じゃぁ始め!」
教官の掛け声に合わせて俺は一歩引いた。
そして身構える。
教官は、荒縄なんて特殊な装備を持つ俺を警戒しているようだ。
相対する教官の主武器は短剣だ。聞いている限りは刃は潰してある。
しかし峰内とかされても相当に痛いだろう。
教官は手数で圧倒するタイプの軽戦士のようだ。
タイプとしてはソフィアに似ている。教官の方が背が高い分威力もありそうだが。
攻撃力が必要なモンスター戦とは違い、短剣使いは対人戦だと厄介な相手となる。
まず短剣だから大振りとかする必要がない。
敵がモンスターならば厚い皮や鱗を突破する必要があるだろうが、相手はヒトなのでそんなものは必要ないのだ。
刃が潰してあっても短剣で斬られれば手足の筋なんかは簡単に切れる。
少しの睨み合い。
だが、俺は急に、体にかかる力を弱めた。
そして俺は構えを解いて教官に無造作に近づく。いかにもフランクな軽い感じで。
「ん? なんだ? 急にどうした?」
不用意に近づいてくる俺に、何かアクシデントでもあったのかと教官も構えを解いた。
「いえ…。ちょっとヒモで縛ろうかと」
「な――」
それからは一瞬であった。
俺は教官の手足を縛り、天井に縄を這わせて仰向けに吊るした。
俺はついにヒモの正しい使い方を披露する。
そう、ヒモは――、縛るものだ!
「ふっ……。これぞ秘儀! 四条の縄手だぁぁ!」
「てめぇ卑怯だぞ――」
それは、遠く――、古からカンサイという地に伝わりし伝説の技である。
縄を用い、両手、両足を四個所を縛って人一人を仰向けに吊るしあげ、ぷらんぷらんさせるのだ。
ふっ。四條畷市民であれば一度は考える渾身のギャグを受けるがいぃ!
ぷらーん。ぷらーん。
教官は仰向けに吊るされたまま、振り子のように上下に振られている。
それは地球が自転していることの証明に使用されるフーコーの振り子のようだ。
だいたいイメージとしてはこんな感じだろう。
〇 ← 天井の柱
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| ← ヒモ
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+--+
┃ ┃
〇┻━┛
↑↑ ↑
頭腕 足
「おぃこら! てめぇ卑怯だぞ!」
先ほどから教官が叫んでいる。
だが、そんな状態ではまったく怖さが感じられない。
なぜなら、縛られているからだ。
「いや、戦闘訓練中にあそこで警戒を解くとかの方がありえないかと?」
「お前が急に構えを解いて近づいてきたんだ。普通怪我とか何かあったかと思うじゃないか」
「いやだなぁ。男がヒモ持って近づいたら縛る以外の行動するわけがないじゃないですか」
「おれは教官だぞ!」
「いやだなぁ。それこそ男女問いませんってー」
「やめろ! 速く解かんか!」
「ランク昇格させてもらえるなら解いてもいいですよ?」
「くっ――。手際としてはなかなかのものだが、こんな、こんな卑怯な――」
よし、あと一押しだ。俺は手をわきわきとさせた。
「ほぅ――、ならばここで、お前を賢者にしてやろうかっ」
「やめろっ。分かった。分かったからっ! 賢者はやめろ! 賢者は!」
「じゃあ床オナで――」俺は高さを床に触れるすれすれに高さを調整し、ヒモを揺らした。
「分かった! なんだか良くわからんが不穏なそのセリフはやめろ。合格! Gランク昇進合格だから! だから、やめるんだ!」
俺はソフィアの方をちらりと見た。
ソフィアは両手を胸の前で組んで目を輝かせている。
これは後で絶対、四条の縄手について教えて欲しいといってくるに違いない。
よし、四条の縄手大人気!
悲痛な叫びの教官に、俺はしかたなしに縄を解いて開放する。
その後の昇進試験はなぜか中止になったが、周囲は納得顔だった。
「ありゃぁ中止になるのも仕方がねぇな……」
「さすがに、あの状態で教官がランク昇格試験を続けたら、みんな困るだろう」
「俺は吹き出す自身があるね。『賢者にしてやろうかぁぁ――』」
「しかし、あいつ強えな」
「あぁ、あの手管の速さはすげぇ。教官も少しは油断していたのだろうが、俺には正直見えなかった」
「だから女に対してもあれだけ速いだろうな。なんといってもお貴族さまとだぜ」
「ちげぇね……」
小さな声で野次馬の冒険者たちが話していたが、やっぱり丸聞こえだ。
試合が終わるとその貴族然としたソフィアが俺に駆け寄ってくる。
「おじさまぁ。昇進おめでとうぉ」
「あぁ、ありがとうな。ソフィア」
「でぇ、賢者ってなぁに? あとあのヒモの使い方教えてぇ。かっこいい」
「んー。後でな……」
俺はどうやってヒモを使わせるか、頭を悩ませるのであった。
――そうだな。後でハンシン地方に伝わる〇甲という名のしばりとかも教えてあげよう。
賢者については――どう教えこもうか……。




