奪取
さらに実力を強化する
市場の鍛冶屋は軒を連ね、どの店も入り口に一番華やかな武器を並べ、新参の初心者プレイヤーを引きつけようとしている。
愚かだ。
真の鍛冶の名人は、こんな稚拙な呼び込みなど屑ともしない。
俺はインナーテストの記憶を頼り、僻地の路地裏へと曲がり込んだ。路地の奥に、ボロボロの店がひっそりと佇んでいる。門楣の看板は風雪に削られ、文字の判別もつかない。鉄錆のにおいと煤煙が半開きの木戸から漂ってくる。鼻につくどころか、重厚な手ごたえさえ感じる。
こここそ、俺が探していた場所だ。
戸を押し開けると、煤まみれの中年男が炉の前にしゃがみこみ、半製品の剣胚を握りしめ、まるで神聖な儀式でも見つめるかのように集中していた。
「この店、いくらで売れる」
俺は即座に切り出した。
主人は身についた灰を払い、頭も上げずに答える。
「銀貨五百枚」
現実の貨幣で五万。安くはない。しかし独自の技術を持つ鍛冶屋としては、タダ同然の値段だ。
「いい」俺は言った。「ただし条件がある。この素材で、刀を一振り鍛え上げろ」
俺はセフィリアから落とした素材を作業台に並べた。
鮮やかな緑色の甲殻、鋭い腕刃、完璧な一角……どれもかすかな魔力の波動を放っている。エリートモンスター特有の気配だ。
主人の目は一瞬で輝いた。彼は剣胚を置き、慌ただしく近寄り、素材に触れた指先がわずかに震えている。
「この素材……どこで手に入れた?迷宮でボスの次に位置する、超高級素材だ。久しく見ていない」
「俺と相棒が狩ってきた」俺は平然と答えた。「彼女のために、良い刀を作る。興味あるか?」
主人は豪快に笑いを上げた。
「興味? 当然だ!」彼は部下に命じた。「火をおこせ!」
炉の炎が舞い上がり、オレンジ色の光が店内を照らし出す。
温度が上がるにつれ、魔物の素材は固液の临界状態に変わる。主人自ら大槌を取り、セフィリアの甲殻を叩き延ばし、反転させ、さらに叩く。一振り一振りが流れるように無駄がなく、鍛冶というより、古の戦歌を奏でているようだ。
俺は傍らで静かに見つめていた。
これこそ、俺が求めていた職人だ。量産されたゴミを作る職人ではなく、鍛冶を芸術として生きる職人。
甲殻が理想の形に鍛え上げられると、主人は水盤に放り込んだ。「シュッ」と白煙が立ち昇る。そして甲殻を取り出して炭火で炙り、脇の助手に氷を作らせる。
「熱した刀を入れれば、氷は一瞬で融ける」
彼は独り言のように、あるいは俺に説明するように言った。
「そのあと、雷魔法で質を変える」
助手は微弱な雷撃を放ち、青い電気が甲殻の表面を跳ねる。
氷と雷の二重の作用によって、甲殻の質は不思議な変化を遂げた。あざやかな緑は深まり、表面には細やかな紋様が浮かび上がる。魔力が物質の内部で再配列される痕跡だ。
「どんな形がいい」主人は俺に問うた。
「鍛冶の技、見事だ」俺は直接答えずに言った。「独自の技法か?」
主人は長めの溜息をついた。
「先祖代々受け継いだ『混合錬成』だ。家訓は『独創の心、他にない風格』。……結果はどうだ? もうすぐ廃業だ」
俺は店の中を一瞥し、外のにぎわう人混みを眺めた。
人気を博す店は、量産されたゴミを売っている。真に価値のあるものは、むしろ誰にも見過ごされている。
この世界は、いつもこんなものだ。
俺は懐から金貨一枚を取り出し、空へ放り上げた。金貨はきらきらと弧を描いて舞い戻り、俺の手のひらに軽く叩きつけられた。
「この店、そんなに捨てがたいなら」俺は言った。「俺と、共に経営しよう」
主人は一瞬躊躇い、頭を上げて俺を見据え、疑いの目を向けた。
「お前が主人か、俺が主人か?」
「両方だ」
「そんなこと可能か?」
「不可能なわけがない」俺は淡く言った。「金は俺が出し、技はお前が出す。店の運営は俺が、鍛冶はお前に任せる。利益――お前が三割、俺が三割、残りの四割は従業員に」
主人は長い間、俺を見つめ続けた。
炎のゆらめきが彼の顔を照らし、煤で黄ばんだ目に複雑な色が浮かんだ。
「……良い」最後に彼は肯いた。「お前の言う通りにしよう」
「話は決まった」俺は金貨を作業台に置く。「これは手付金。さあ、この武器を鍛え上げろ」
俺は黒造主を抜き、漆黒の刀身を前に横たえた。
主人の視線は刀身に釘付けになり、目を見開いた。
「見たことがない武器だ……」彼は囁いた。「名前は?」
「黒造主」
「良い」彼は一息ついて、槌を握りなおした。「明日、取りに来い」
「いや」俺は首を振った。「ここで見ている」
主人は俺を一瞥し、余計なことは言わず、再び仕事に戻った。
――
鍛冶は一時間半近く続いた。
槌の打撃音が狭い店内に響き渡り、一振りごとに魔力が注入される。俺は素材内部の構造が変わっていくのをはっきり感じ取れた。無秩序に散らばっていた魔力の流れが、叩かれるごとに整えられ、最終的に完璧な回路へと生まれ変わる。
最後の工程は『雷槌』だ。
主人は電気を纏った槌を振り上げ、一撃を振り下ろした。
「ゴウ――」
雷鳴のような轟音が店内に鳴り響き、紫色の電気が飛び散る。光が収まると、翠緑の流線型の弯刀が作業台に佇んでいた。
刀身は水のように滑らかで、鮮やかな緑の中にかすかに金色の紋様が見える。セフィリアの甲殻に残る魔力の結晶だ。柄にはセフィリアの瞳がはめ込まれ、猩紅の宝石が薄暗い中で妖しく光る。鞘は胸郭で作られ、同じく翠緑に細やかな紋様が刻まれ、刀身と完全に調和している。
主人は一息つき、額の汗を拭った。「完成した」
俺は柄を握り取った。
冷たい感触が指先から伝わり、刀身の内側を流れる魔力がはっきりとわかる。滑らかで、安定して、強靭だ。
【鍛冶武器:無名】
鍛冶品質:紫
ステータス:攻撃力145 攻撃速度35
武器品質:紫 貫通力B+ クリティカル率35%
俺は刀を抜き、軽く一振り。
空気が切り裂かれた。
音もなく、抵抗もなく、刃の軌跡には翠緑の残像が僅かに残った。
「良い」俺は刀を鞘に収め、銀貨五十枚を作業台に置いた。「これで月謝。これから、共に頑張ろう」
「言われなくても分かっている」主人は銀貨を受け取り、珍しく微笑んだ。
「そうだ」俺は戸口で足を止めた。「天木という。お前は?」
「レグ・ストゥ」
「レグ……」俺はその名を唱え、肯いた。「これから、よろしく頼む、レグ主人」
――
宿舎に戻ったのは、夜も更けた頃だ。
システムパネルを開くと、徐敏芊からのメッセージが届いていた。
「部屋番号は何番?」と俺は返した。
「502です。ごめんね天木くん、部屋が一つしか空いてなかった……」
俺は眉をめぐらせた。
一部屋だと?
「広いか?」
「まあまあ。二人で寝られるよ」
二人で寝られる……俺は画面を数秒見つめ、ピンク髪の少女がそう言う表情を想像した。無邪気なのか、それとも計算された誘いなのか。
「なら、俺は床で寝る」
「あの……一緒に寝てもいいよ……」
俺は画面を見つめ、すぐには返さなかった。
一緒に寝る? 彼女が意味を知らないはずがない。信頼なのか、それとももっと深い計略なのか。
いや。彼女の性格からすれば、単純に照れて混乱しているだろう。それでも、俺は受け入れる気になれない。
道徳の問題ではない。リスクだ。
「いい」俺は打ち込んだ。「俺はお前を汚すような人間だ」
送信した。
返事を待たずにパネルを閉じ、階段を上った。
――
502号室の戸は少し開いていた。
押し開けると、ほのかな香りが押し寄せてきた。シャンプー、ボディソープ、それから少女特有の、かすかな体温のようなにおい。
徐敏芊はピンクのパジャマを着て窓辺に立ち、月の光がガラスを通して彼女に降り注ぎ、ピンクの髪を銀白色に染めている。頬はほのかに赤らみ、両手を体の前に合わせ、まるで静かな桜の木のようにじっとしている。
俺は一瞬、硬直した。
彼女の美しさのためではない――確かに美しいが――あまりにも完璧な光景だった。
完璧すぎて、まるで仕組まれた罠のように。
「どうしてそんなに開けているの?」俺は思わず口にした。予想以上に冷たい口調だった。
「え?」徐敏芊が振り返り、照れが一層強まった。「なんで冷静なの! こんなに恥ずかしいのに!」
彼女は枕を顔に押し当て、水色の瞳だけをのぞかせた。その瞳は月の光で揺らめき、怯え、期待し、そして微かに……試している。
俺は彼女を見つめ、黙った。
これが少女心というものか。
ゲームでも現実でも、何度も見てきた。同じ目、同じ言葉、同じ仕草。自分だけが特別だと思い込み、他にはない感情だと信じている。
だが俺の目には、すべてが同じに見える。
予測可能で、無邪気で、つまらない……
だが徐敏芊は違う。
特別だからではない。価値があるからだ。
財団Bの令嬢であり、インナープレイヤーであり、特殊職種――これらの身分が、彼女をきわめて重要な駒にしている。他の女と同じように扱うわけにはいかない。
彼女に心から味方になってもらう必要がある。
だから俺はひざまづいた。
「すまない」俺の声は低く、誠実だ。「俺は言葉が不得手で、小さい頃から人の顔色をうかがって生きてきた。女を怒らせるなど、初めてだ。許してくれ、頼む」
俺はうつむき、彼女の表情をうかがわない。
だが感じ取れる。
彼女の視線が俺に注がれ、驚き、戸惑い、そして……ときめいている。
徐敏芊はゆっくりと枕を下げ、鼻まで隠した。顔は血を注いだように赤く、水色の瞳は波立ち、葛藤し、それでも期待している。
「……わかった」彼女はやっと言った。声は蚊の泣き声のように小さい。「許してあげる。次に、心を……じゃなくて機嫌を損ねないでよ」
俺は顔を上げ、革帽を外した。
「ありがとう、徐敏芊」俺は言った。声にはちょうどいい優しさを込めた。
顔が赤くなった。
演技じゃない。
――
俺は床で寝た。
本気だ。隙に乗じるような真似はしないし、財団の令嬢と関係を持てば、事態は複雑になるだけだ。
翌朝、俺は六時二十八分にきっかり起床した。
徐敏芊は布団の中で丸まって眠っている。まるで怠けた猫のようだ。俺は彼女を起こさず、先に洗面を済ませた。
彼女が目を覚ます頃には、朝食を用意していた。簡単なパンと牛乳だ。ショップの買い置きだ。
「おはよう」俺は朝食を渡した。「食べたら出発だ」
「うん……」彼女は眠たげに頷き、パンを一口齧った。そして突然目を見開いた。「まずい!」
「ショップのものだ。期待するな」俺は淡く言った。「我慢しろ」
彼女は口を尖らせ、不満そうに朝食を食べきった。
――
蟻迷宮へ向かう道中、俺はシステムパネルを開き、現在のプレイヤーデータを確認した。
オンライン人数:4127人
たった一日で、さらに三千人以上が減っている。
「今は五千人以下になったから、蟻迷宮の攻略が可能になった」俺は徐敏芊に言った。「だが、すでに四百人以上が死んでいる。もし俺とお前がセフィリアを倒していなかったら、四百人どころでは済まなかった。だから時間は切羽詰まっている。状況が分かっているか?」
徐敏芊は親指を立てた。「わかった!」
俺はこの天然な顔を見て、ため息をつかずにはいられなかった。
「お前、本当に状況が分かっているのか?」
「分かってるよ!」彼女は瞬きをした。「危険なんだよね?」
「……まあいい」俺は説明するのを諦めた。「とにかく、蟻迷宮は残り15%が未探索だ。ボスの部屋はすでに見つかっている。リーダーはインナープレイヤーだと聞いている。冒険者協会で手に入れた情報だ。金さえ出せば、何だって手に入る」
「じゃあ、どうするの?」
「お前に、ある役目を頼みたい」俺は彼女を見つめた。「あの組織に潜入し、スパイになれ」
徐敏芊は目を見開いた。「私がスパイ? 大丈夫? 演技なんて全然できないよ! 教えてよ!」
「人の第一印象は非常に重要だ」俺は淡く言った。「お前の顔こそが、扉を開く最高の鍵になる」
「……わかった」彼女はためらった。「じゃあ天木くんは何するの?」
「俺は軍勢を強化し、街で情報を集める」俺は一瞬ついだ。「その前に、残りのエリアを探索しよう」
――
蟻迷宮の深部は、俺の予想以上に複雑だった。
俺たちは新たな生物、バグを発見した。
現実のセンザンコウのような姿で、全身は厚い鱗に覆われている。危険を感じると球体になって転がり、敵に激突する。鉱石を食べるため、穴を掘って蓄える習性がある。
「高利回りの魔物だ」俺は遠くのバグを見つめ、低く徐敏芊に言った。「だが、狭い通路では戦いにくい」
「じゃあどうするの?」
「罠を使う」俺は狭い曲がり角を指さした。「ここに麻痺の罠を仕掛けろ。俺がおびき寄せる」
「うん!」
俺は林狙の弓を抜き、バグの尻尾を狙って一撃放った。
「シュー」
矢は的確に命中した。バグは怒りの咆哮を上げ、即座に球体になって俺に向かって転がってくる。
「虚化」
俺の体は半透明の影になり、バグのスピードは一気に落ちた。俺はすぐに振り返り、罠の方向へ走った。
大跳びして、罠の位置を飛び越える。
「ドン――」
バグは壁に激突し、通路ごと震えた。だがすぐに姿を立て直し、再び俺に突進してくる。
その時、罠を踏んだ。
青い電気が地面から立ち昇り、バグの体に纏わつく。スピードはますます鈍り、ついには動けなくなり、体を痙攣させた。
「今だ!」
俺は新たに鍛えた翠緑の弯刀を抜き、バグの頭部に斬りかかった。
刃は空気を切り裂き、翠緑の残像を残した。
「カチン――」
バグの頭が落ち、黒い血液が噴き出した。
「すごい!」徐敏芊は叫んだ。「一撃で……」
「殻は硬いが、首が弱点だ」俺はしゃがんで素材を採取しながら言った。「失敗しなくてよかった。新しい刀の耐久が削れるところだった」
バグの落とし物は豊富だ。重い外殻、結晶鉱石、肉、爪牙……
「こんなにたくさん取れる!」徐敏芊は感嘆した。
「だから高利回りなんだ」俺は素材を収め、さらに進んだ。
――
その後の探索で、俺たちは新たな魔物に遭遇した。
月蛇。
全身は深い青色で、鱗は弱い光に照らされて金属のような輝きを放つ。体長は約三メートルの中型種で、露天の洞穴の中央にとぐろを巻き、頭上の月を見上げている。
深い青色の月が空に浮かび、冷たい光を月蛇に注いでいる。その光の下、月蛇の体は徐々に透明になり、やがて空気中に消えた。
「月隠れ」俺は低く言った。「月の光で姿を消す……」
「怖い……」徐敏芊は首をすくめた。
「それだけじゃない」俺は目を細めた。「氷属性の魔法を使い、月の加護が乗じれば……ほぼ完勝は不可能だ」
「じゃあ……」
「観察する」俺は遮った。「まず、様子を見る」
俺たちは洞穴の外に隠れ、月蛇の動きを静かに観察した。
月蛇は月の光の下で首を上げ、まるで青い月を拝んでいるようだ。その瞬間、俺は彼女の瞳を見た。三日月のような瞳。普通の蛇の縦目よりも、視野が広い。
「興味深い……」俺は囁いた。
俺は石を拾い、地面に落とした。
「ツン」
月蛇の体は一瞬、弓のように張り詰め、猩紅の瞳が音の方向を向いた。
俺は肉を投げた。
月蛇は匂いを嗅ぎ、一口で飲み込んだ。
「蛇は冷血動物なのに、死肉を食うとは……」俺は眉をめぐらせ、思わず声を上げた。
「うるさい!」徐敏芊は慌てて俺の口を塞いだ。
だが手遅れだ。
月蛇の頭が、俺たちの隠れ場所に向けられた。猩紅の瞳には、冷たい殺意が宿っている。
「クソ」
月蛇は口を開き、氷息を吐き出した。俺たちの前の岩が氷結し、分厚い氷の膜に覆われた。
「徐敏芊、火魔法!」
「ファイヤーボール!」
火の玉は襲いかかるが、月蛇は華麗に躱し、青い粘る液体を吐き出した。液は空中を滑り落ち、俺は徐敏芊を引きずって回避した。
青い粘液は地面に落ちて破裂し、その場は溶解と氷結が同時に起きている。
「氷と毒の二重属性……」俺は険しい目つきになった。「速度も速く、攻撃範囲も広く、常識を無視している……」
こいつは、手ごわい。
「召喚!」
俺は印を結び、中級の髑髏兵を召喚した。
通常の髑髏兵よりも頑丈で、骨には暗灰色の光が宿っている。魔力で強化された証拠だ。
「黒造主――闇夜の歌劇!」
黒泥が黒造主から湧き出し、髑髏兵に纏わつく。
黒泥は全身を覆い、やがて肉塊となる。鳥の頭、人間の頭、獣の頭、蛇の頭……さまざまな生物の頭が髑髏に乗り、目は猩紅に輝き、動きは一気に速くなる。
「合体技、穢泥侵蝕」俺は囁いた。
黒泥兵たちは月蛇に襲いかかり、息を合わせて体を捕まえ、体長を半径に回転させ、壁に叩きつけた。
「ドン――」
壁は大きく抉られ、月蛇は苦しげに鳴いた。
だが次の瞬間、再び透明になり、消え去った。
「岩の陰に隠れたな……」俺は即座に位置を見定めた。「黒泥兵、戻れ!」
黒泥兵たちは俺の周囲に集まり、盾となった。
月蛇は岩の影から飛び出し、スピードは目で追えないほど速い。青い残像を残し、俺に直撃してきた。
俺は身をかわしたが、ヘルメットが弾き飛ばされた。
「……」
黒い髪が額に落ち、月の光が顔を照らす。
月蛇の攻撃が一瞬、止まった。
その一瞬。
俺は高く跳び上がり、月蛇の背に乗り、黒造主を強く背中に突き刺した。
月蛇は痛みに狂い、体を振り回した。俺は振り飛ばされたが、黒泥兵たちが襲いかかり、取り囲んだ。
「徐敏芊、魔法で攻撃! お前は炎、俺は闇!」
俺は黒造主を杖モードに切り替え、黒いエネルギーを杖先に集めた。徐敏芊も杖を構え、手のひらに火が燃え上がる。
黒と赤のエネルギー波が襲いかかり、月蛇の氷息とぶつかった。
「ゴウ――」
激しい爆発が俺たちを吹き飛ばした。
月蛇は完全に怒った。鱗は逆立ち、鋭い逆鱗となり、氷冠のように全身を覆う。尾には氷槍が生え、牙には氷が纏われ、刺すような寒気を放っている。
一口で黒泥兵を飲み込んだ。だがその黒泥兵は、体内で闇夜の歌劇を解き放った。
月蛇の体は思うように動かなくなる。
「抵抗している……」俺は歯を食いしばり、魔力を込めた。「闇夜の歌劇!」
さらなる黒泥が溢れ出し、月蛇を包み込んだ。
月蛇は狂ったようにもがき、背中の氷棘はますます伸び、洞穴中は氷に覆われた。黒泥は凍り砕かれ、月蛇は解き放たれ、狂暴な気配をまき散らした。
「徐敏芊、火の玉!」
火の玉が月蛇に命中し、氷の鎧は砕け始めた。
俺は翠天弥音と黒造主を抜き、二刀を構えて月蛇に突進した。
月蛇は最後の力で氷槍の尾を作り、俺に突き刺してきた。
刃と氷槍が激突し、火花が散った。
「切り裂け!」
翠天弥音が氷槍を断ち、黒造主が月蛇の牙を受け止めた。
月蛇は絶望的な鳴き声を上げ、逃げ出そうとした。
「最後の力――闇夜の歌劇!」
黒泥が溢れ、月蛇をべったりと地面に押さえつけた。
彼女は数回もがいたが、ついに観念した。
俺は彼女の前に立ち、見下ろすように見つめた。
「話が分かるな?」
月蛇は頭を上げ、猩紅の瞳に俺の姿を映した。
「なら……」俺は手を差し出した。「俺の眷族になれ」
月蛇は俺の持つ黒造主を見つめ、そして俺の目を見た。
彼女は頭を下げ、額を俺の手のひらにつけた。
【システム通知:おめでとうございます! 眷族機能を解禁しました!】
【月蛇・アヌゴがあなたの眷族となりました。】
――
「この尻尾、使えると思う?」徐敏芊は地面の氷槍の尻尾を指さした。
「お前が尻尾を採取しろ。俺は抜け殻を探す」
俺は洞穴を探し回り、月蛇の抜け殻を見つけた。
完璧な、ほとんど傷一つない。
「良い素材だ」俺は殻を収め、「行こう、明夕城に戻る」
――
鍛冶屋で、レグが鉄を打っていた。
俺たちの姿を見て、槌を置き、驚いた様子だった。「どうしたんだ?」
「ジャジャーン!」徐敏芊は得意げに月蛇の素材を作業台に置く。「これ、なーに?」
レグは素材を持ち上げ、鑑定鏡で調べ、叫び声を上げた。「すごいじゃないか! これ、どんな蛇の素材だ?」
「月蛇」俺は言った。「夜に現れ、姿を消し、死肉も食べる。こんなの、普通か?」
レグは考え込み、説明した。「お前たちの常識では、蛇は生きた獲物しか食べない。だがこの月蛇は巨大で大脳皮質が広い。知能はお前と同じくらい。ただし体の制御に脳の大半を使うから、実質的には十四歳程度だ」
「……」俺は数秒黙った。「月蛇鎧を鍛えてくれるか?」
「できない!」レグは首を振った。「動きを見ずに、構造など分かるものか!」
俺は彼を見て、眷族空間を開いた。
黒い亀裂が空気に生まれた。
「飛び込め」俺はレグに言った。
「おいおい! お前たちプレイヤーの変な能力で実験するな! 俺はまだ三十五だ! 頼む!」
「徐敏芊」俺は振り返った。「俺を何だと思ってる?」
「本人に聞いたほうがいいんじゃない?」徐敏芊は笑いをこらえている。
俺はレグを見つめた。
表情は見えないが、彼は俺の視線を感じ取った。
「……小僧」レグは唾を飲み込んだ。「お前、怖い。暗闇の王のようだ。近づきがたい」
「……」
俺は面倒くさくなり、レグを蹴り落とし、自分も飛び込んだ。ついでに徐敏芊も引きずり込んだ。
――
眷族空間の中は、夜の八時だ。
月の光が果てしない黒い平原に降り注ぎ、遠くに月蛇の姿が見える。
レグは地面から起き上がり、辺りを見渡して驚いた。「何の場所だ?」
俺は答えず、アヌゴを呼び出した。
巨体が闇から現れ、レグは何段も下がった。
「怖がるな」俺はなだめた。「俺の眷族だ」
俺はアヌゴを見た。「尻尾はどうだ?」
「血は止まったが、肉の一部は再生できない」アヌゴの声が俺の頭の中に響く。眷族契約の翻訳機能だ。「だが氷で義尻尾を作れば問題ない」
「徐敏芊、治療しろ」
「え? 私、無理だよ?」
「お前は聖印魔医だろ?」俺は彼女の腰の杖を見た。「武器――女神裼杖、使えるはずだ」
「どういうこと? 見てみる!」
彼女は武器パネルを開き、息をのんだ。
【女神裼杖】
品質:黒
攻撃力:235
回復加成:27.5%
専用スキル:塵月・燦然
「すごいステータス! どうして知ってるの?」
「キャラメイク時に情報を全部確認した」俺は淡く言った。「お前のキャラと専用武器は大体把握している。このスキルは最上級の回復魔法よりも効果が高く、失った体を再生できる。器官だって。だが一日に一度だけ。さあ、アヌゴに使え」
「うん!」
徐敏芊は杖を挙げ、エネルギーを月蛇に放った。
輝く粒子が霧となって流れ、アヌゴの体を癒やす。目に見える速さで尻尾が再生された。
「ふっ……」俺は安堵し、珍しく笑顔を見せた。「すごい、徐敏芊」
「え?」彼女の顔は一瞬で赤くなった。
「命の輝きは太陽のようだ。アヌゴの魂の一部を、神から救い戻した」俺は彼女の手を握り、心からの喜びを込めた。「徐さん、一緒にいてくれて本当に嬉しい!」
「天木くん……」彼女の声は震えた。
「どうした?」
「……芊、って呼んでいい?」彼女はうつむき、声は小さい。「あだ名だよ」
「いいよ、芊」
「きゃあ!」
「どうした、芊」
「ちょっと……慣れさせて!」
彼女は両手で顔を覆い、赤みが頬から耳元まで広がっていく。
俺はそれを見て、思わず口元が上がった。
――
レグはとうとう我慢できなくなった。
「もう、いい加減にしろ!」彼は不機嫌そうに言った。「月蛇の調査をさせろ!」
俺はアヌゴに月隠れを使わせ、レグと共に体に触れた。
「軟質のゲルだ」俺は言った。
「そうだな」レグは肯いた。
「月蛇は絶えず液体を分泌し、それが固体化する」俺は分析した。「吸光性があるから、透明になる。蛇は視覚よりも温度感覚で捉えている」
「すごい」レグの目は輝いた。「この液体、採取させてくれ」
「いい」俺は一瞬言った。「だが、来い」
「何だ、小僧?」
俺は手についた月蛇の分泌物をレグの口に入れた。
彼は飲み込み、表情が歪んだ。
「何やってる!」
「味は?」
「味なんてない」
「なら、採取続けろ」
「食べても大丈夫か?」
俺は真剣な顔で言った。「分からない。三分、待て」
「この野郎!」
俺は懐から金貨十枚を出した。「これでいいか?」
レグは黙った。
俺はゆっくりと金貨を渡しかけ、言った。「月蛇の装備、二セット分」
「……わかった」
「名前は? 主人と呼ぶのは忍びない」
「レグ・ストゥ」
「いい名前だ」俺は金貨を手渡した。「これから、よろしく頼む、レグ主人」
「主人でいい」彼はつぶやいた。
――
眷族空間から出たのは、夜も更けていた。
俺は徐敏芊を冒険者協会に連れて行き、ギルドを探すつもりだ。
「これから、強いギルドを探す」俺は髑髏騎士の鎧を着た。
「??? 私だけで行くんじゃないの?」
「ああ。方針は変わっていない」
「どういう意味?」
「俺の穢泥侵蝕は、黒泥の分身を作れる」俺は説明した。「俺の代わりにギルドに入る。だから最初は俺も一緒に行く。あとは黒泥兵に言葉を覚えさせる」
「すげえ」
――
冒険者協会に入ると、多くの視線が集まった。
冒険者カードを登録し、さて帰ろうとすると、金髪の男がパーティーに誘ってきた。続いて次々と誘いが来た。
俺は翠天弥音を抜き、周囲は一瞬で散った。
「天馬ギルド、あるいは赤竜ギルドに入りたい。構成員は?」
「私は天馬ギルドの管理人、ミカエル」金髪のイケメンが近づいた。「二人とも、案内しよう」
――
天馬ギルドは図書館のような建物だ。
入り口には二人の用心棒がいて、ミカエルが一声かけると通行できた。
中に入ると、赤髪の男が俺を見つめている。
俺は刀を抜き、彼に向けた。
「きゃあ! 黒濁塵さん、どうしたの!」ミカエルは慌てた。
俺は振り返らず、その男に突進した。
「お前がギルドマスター、クリスティーンか?」
クリスティーンは驚いた。
「嗅覚が鋭い。合格だ」彼は低く囁いた。俺にだけ聞こえる声だ。「インナープレイヤー殿」
俺の心は凍った。
こいつ、インナープレイヤーだ。情報を武器にしている。
「お前もか」俺は低く言った。「情報特化型?」
「互い様だな」クリスティーンは笑った。「この子たち、可愛いな」
ミカエルはクリスティーンを紹介し、ギルドの理念を語った。夢を叶え、利益を全員で分け合う。
ギルドのランクは:木馬、銅馬、鉄馬、銀馬、金馬、白金馬、天馬。
俺と徐敏芊は金馬に登録された。
ミカエルが近づいた。「インナープレイヤー?」
「ああ。俺と彼女は」俺は言った。「自由時間だ。失礼する」
「待て! そのうちボスを攻略する。忘れるな」
「わかった」
――
協会を後にし、俺たちは格闘カジノに行った。
俺は方針を告げ、参加した。
最終的に利益を得て、蟻迷宮に向かった。
その後の探索で、あらゆる魔物に遭遇した。俺はいくつかを召喚獣にし、エリートモンスターの磐石蟹までも眷族にした。
ただし、餌は大量に必要だ。
今や俺の戦力は、一大ギルドに匹敵する。
俺たちは鍛冶屋に戻ったが、レグはいなかった。
弟子が、レグがビモン湖で月蛇装備を鍛えていると教えてくれた。場所は明夕城の南東。
――
ビモン湖の畔。
水は青く、空は清らかで、一点の曇りもない。
レグが湖辺に立って、二セットの月蛇装備を持っている。
「小僧」彼は言った。「月蛇の膜は湖水で磨かれ、完璧な透明度になった。着てみろ」
俺は受け取り、身にまとった。
水面を鏡にすると、優美な翠緑の鎧に宝石がちりばめられている。
マントを前にかぶれば、完全に姿を隠せる。
「性能は上々だ」俺は満足げに頷いた。「夜間の偵察と待ち伏せに使える」
「ふん、一晩かけて作ったぞ。大事にしろ」レグは欠伸をした。目の下の隈はひどく、まるでパンダだ。
俺は彼を見て、思わず吹き出した。
「おい、くするな、小僧!」
「ハハハ! すまない、可笑しくて……」
「俺はこの湖で休む」レグは水辺に目を向けた。
「それでは、レグさん」
俺と徐敏芊は湖辺に立ち、波紋を見つめていた。
柔らかい風が髪をなびかせ、木々の香りがした。
穏やかだ。
本当に穏やかだ。
俺は帽を外した。
風が髪をなびかせ、月の光が顔を照らす。
「天木くん……」徐敏芊は小さく呼んだ。
彼女は胸に手を当て、同情の瞳を向けてきた。
夜空に月が輝き、湖に映える。
彼女は俺を見つめ、瞳は月のように美しい。
月が弓を引き、光が矢となり、少女の心に射ち抜いた。
俺はただ、静かに湖を見つめていた。
この夜は、穏やかだ。
だが分かっている。
嵐は、すぐそこまで来ている。




