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昆虫迷路――闇が支配している  作者: Raven


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11/13

死霊術士の戦士

私は長い間、自分がこの世で唯一の死霊術戦士だと確信していた。


あの日、より若く、より純粋な同類が目の前に現れるまで。嫉妬が根を張り、黒の華が喉を通り、


魂は闇に少しずつ侵されていく。毒虫迷宮の中で、同源の力が互いに殺し合い、


さらに深い記憶の中では、


あの白髪の少年の最後の一言「俺のことを考えないでくれ」が、


まだ癒えぬ傷を刺し続けている。

我は長い間、死霊術戦士こそが自分だけに許された道だと確信していた。

この世にただ一人、私だけが特別なのだと、ずっとそう思い込んでいた。


死霊術戦士——この職業が秘める可能性は底知れず、プレイヤーも冒険者も、誰一人として再現できなかった。


だが、封印され、砕け散っていた過去がすべて戻り、完全な記憶が意識の深層に広がった今、私はようやく気づいた。

その執着こそが、自分自身を縛る枷だったのだと。


一年あまり前、もっと以前——私はあの黒髪の少年と偶然出会った。

当時の私は知らなかった。それが、記憶を取り戻す前で、まだ闇の本源を真に掌握していなかった天木だということを。

私の道は最初から書き換えられる運命にあり、私は決して、この世で最も特別な存在などではなかったのだ。


そして去年、私はあの怪物と出会った。


「大丈夫か?」


清冷な声が落ちると同時に、少年が手を上げて黒造主を振るった。潮のように黒泥が溢れ、私を取り囲んでいた魔物を食い止めた。

彼の手にある武器が流す漆黒は、私のものよりも遥かに濃く、純粋だった。闇属性の重厚な圧迫感が、面を直撃してきた。


その瞬間、私が長く守り続けてきた「唯一無二」は、完全に崩れ落ちた。


黒髪の青年が、魔物の包囲網に陥っていた私を救い出した。

彼が掌に握る武器もまた黒造主だった。だがその通体漆黒の色合いは、深く、濃密で、私の武器よりも遥かに純粋で、遥かに異様だった。


その瞬間、私の心は初めて、完全に打ち砕かれた。


死霊術戦士は、私が唯一の専属職業だと信じていた。

なのに目の前の少年は、本来私だけのものだったはずの職業を、しっかりと掌握している。

なぜ、私より年下の幼い同類が、死霊の才能も、闇属性への適応度も、全方位で私を圧倒しているのか?


嫉妬、劣等感、嫌悪、偏執、憎悪——無数の負の感情が心を絡め取り、狂ったように増殖した。

私は彼を抹殺し、この異類を消し去りたかった。

再び「唯一無二」の座に座り直すか、あるいは自分の手で証明する——私が結局のところ、彼より強いのだと。


「どうした?」


少年の困惑した視線が、私に落ちた。


私は眼底に渦巻く殺意を強引に押し殺し、引きつった笑顔を作った。

「あ? 何でもない。助けてくれてありがとう!」


「この魔物、本当に厄介だな」

彼は淡々とした口調で、私の認識を根底から覆す真実を、何気なく口にした。

「俺の本源の闇の力には召喚上限がない。生霊を次々と腐化させ、永久に配下の僕として取り込める」


私は心の中で嗤った。少年の妄言だとしか思えなかった。

彼が言葉を続けた。

「俺の職業特性で、生霊を腐化させて配下に取り込み、永久に使えるんだ」


私は心底から嗤った。目の前の小僧が、ただの傲慢なだけだと思った。


すべての死霊職業には厳格な召喚上限がある。通常の修士ならせいぜい百体の亡骸を操るのが限界だ。

彼の配下など、絶対に百体を超えられない。おそらく上限の半分にも達していないはずだ。ただの虚勢に過ぎない。


次の瞬間。


「骸骨亡海」


冷たい低喝が戦場に響き渡った。

びっしりと密集した骸骨が、干からびた地底から次々と湧き上がり、潮のように魔物の群れを席巻した。

鉄の鎧を身にまとい、鉄剣を握る鉄甲骸骨が、狂暴な魔物の潮へ押し寄せる。

骸骨兵の数は数え切れず、数体の巨大な亡骸は体躯を高くそびえさせ、魁偉な巨体が私の頭上を直接越えていく。

磅礴たる威圧が四方を覆い、面に迫ってきた。


この力は、すでに世界のルールと常識を打ち破っていた。


私の心神が震えるその瞬間、私は少年が魔物の潮に正面から立ち向かっている隙を突き、狼狽して身を引き、一路逃げ出した。

最終的に、自分の居所へと逃げ戻った。


密閉された部屋の中で、私は拳を強く握りしめ、制御を失ったように低く咆哮した。

「なぜだ……なぜだ? 明らかに俺こそが唯一無二の存在なのに、なぜ奴がこんなルールを破る力を掌握できるんだ?」


「答えが知りたいか、ベロシフさん?」


突然、見知らぬ声が部屋の暗部から響いた。


私は全身を硬直させ、猛然と振り返り、警戒しながら影を睨んだ。

「お前は誰だ? どうして俺の家に入り込んでいる!?」


闇の中から、暗紋の長袍をまとった男が歩み出た。影に潜み、口調は慵 lazy で、瞳の奥には十三魔術師特有の計算と蠱惑が潜んでいた。

「緊張するな。悪意はない。俺は十三魔術師麾下の連絡役だ。お前を助けに来た。死霊術戦士の可能性は本来無限だ。俺が、お前の体内に潜む闇属性の力を完全に覚醒させ、あの黒髪の少年を粉砕してやる」


ベロシフはしばらく沈黙した。

内心に積もりに積もった野心と不甘が、ついに理性を押し潰した。

ゆっくりと頷き、承諾した。


「方法は簡単だ」


男は一本の透明な試験管を取り出した。管の中は、純粋に渦巻く黒い流動体で満たされていた。

液体は生きている闇のように、絶えず翻り、攪拌され、まるで新鮮な血肉を栄養として渇望しているかのようだった。


「どうやら、すでに力を吸い取るのを待ちきれないらしい」


「これは一体何だ?」私は眉をひそめて問うた。


「この物は『黒の華』という」男は淡々と説明した。

「無数の魔物の暗核を抽出し、錬成したものだ。生霊の闇属性への適応度を大幅に高める。無数の修士が喉から手が出るほど欲しがる力の神薬だ。だが、代償ははっきりと承知しておけ。これはお前の魂の本源を侵食し続け、寿命を食い潰す。心智は闇の執着に徐々に飲み込まれていく。十三魔術師はお前を受け入れる。任務を果たせば、我々が反噬を抑える解药を提供する。これが、無数の人間が夢見る神薬だ。飲め。そうすれば、お前が望む力を手に入れられる」


「よこせ」


私は試験管を奪い取り、管内の生理的嫌悪を催す黒い液体を凝視した。

それが私の肉体を侵占したがっているのが、はっきりと感じ取れた。

そして私もまた、より強い力を渇望していた。あの黒髪の少年が私に与えた屈辱を、粉々に砕くための力を。


栓を抜き、私は仰向けに一気に飲み干した。


瞬時に、灼熱の力が四肢百骸を席巻した。血液が沸騰するほど熱くなり、高温が全身を浸透する。背中は瞬く間に冷汗でびしょ濡れになった。

耐えがたい劇痛が全身を襲い、私は制御を失って床の上で転げ回り、もがき苦しんだ。やがて力尽き、地面に硬直した。


赤々とした色が瞳を染め、温かい血液が涙腺を伝ってゆっくりと流れ落ちた。


嗄れた喘ぎ声が部屋に響き、地面に流れた鮮血は、まるで闇属性に引き寄せられるように、再び逆流して私の体内へと戻っていった。

元の紫の髪は色を失い、深い黒紫へと変わり、全身に邪気が暴騰し、異様を極めた。


「ふぅ……この力、受け取ったぞ」私は地面を支え、苦しげに身を起こした。


「無理に余裕ぶるな」男は私の窮状を一瞬で看破し、戯れを帯びた口調で言った。

「さっきお前は、魂が死ぬまであと一線だった。完璧に吸収することなど、そもそも不可能だ。黒の華の反噬は、お前の肉身と心神を持続的に苦しめ続ける。魔術師がお前に与えた任務——天木の截殺こそが、解药を手に入れる唯一の道だ。完璧に吸収したふりをする必要などない」


私は舌打ちし、張り詰めていた体が完全に力を失い、そのまま倒れ込んだ。

強大な副作用が、全身の筋肉の大半を粉砕していた。完全に回復するには、少なくとも数日の休養が必要だった。


「休養する前に、統領イスリンの大魔術師に会わせてやる。今後の猟殺計画を固めるためにな」


——————————


一方、毒虫迷宮の外。


ガル・スノウは青い品質の片手剣を手に、流れるような剣技で襲い来る魔物を斬り伏せていた。

この時すでに天木のすべての記憶が蘇っており、本体から分化した黒泥の分身であるガルは、天木と完全な意識と過去の記憶を共有していた。一挙一動が、本体の布石に従っている。

彼の目には、これらの凶悪な魔物など、まな板の上の食材に過ぎなかった。


戦闘の最中、魔物の毒腺が破裂し、紫色の毒液が地面に飛び散って、ジジという白い煙を上げて腐食した。

同類に飛び散った毒液は、かえって周囲の魔物の体躯を強化してしまう。


「油断するな。できるだけ遠距離で消耗しろ」


ベロシフが軽く舌打ちし、ガルの側へ後退すると、低く三つの言葉を吐き出した。

「穢泥侵蝕」


地面が翻り、漆黒の黒泥が無数の泥兵へと凝結した。

ガルは余光でその光景を捉え、心底に明確な理解が浮かんだ——かつて鉱場で偶然出会った死霊修士が、まさに目の前のこの男だったのだ。

同源の闇系の技、まったく同じ執着。今、すべてが裏付けられた。


この不快感は、ほんの一瞬で消えた。

ガルは表情を変えず感情を収め、引き続き外围の魔物を掃討しながらも、どこか得体の知れない違和感を覚えた。

目の前の男は、自分の能力をそのまま再現し、ひそかに自分を取って代わろうとする気配さえ漂わせていた。


ベロシフは動きを止めず、再び死霊術を駆使し、新たな魔物の僕を腐化させた。

強冠蜥蜴、高尾鸬鳥、破爪悪狼……一群の高階魔物が黒泥に奴隷化され、戦力は強大で、並の魔物とは比較にならなかった。


この男は、表面に見えるよりも遥かに偏執的で、遥かに神秘だった。


「暗夜オペラ」


ベロシフが手を上げると、専属の特殊死霊術が瞬時に残存するすべての魔物を禁錮し、その後一気に締め付け、すべての生き物を圧殺した。

戦場を片付けた後、彼はガルを見て、挑発を帯びた嘲りの笑みを浮かべた。


「見事だったな、おじさん」

ガルは淡々とした口調で言い、相手のすべての技の癖を静かに観察しながら、情報を本体の天木へと同期させた。


ベロシフはそれを聞いて、自ら名乗った。

「そういえば、まだ正式に名乗っていなかったな。俺はベロシフ。職業は死霊術戦士だ」


「ガル・スノウ。各地を旅する商人だ」


迷宮外の魔物の潮はすべて粛清され、がらんとした場所に二人だけが残った。


「行こう。俺が案内する」

ベロシフが自ら一歩を踏み出し、迷宮の入口へ向かった。


「わかった。よろしくお願いします、ガルさん」


道中、二人は絶えず世間話を交わし、表面的な雰囲気はそれなりに和やかだった。

ベロシフは自分の力をひたすら自慢し、ガルは流れに乗ってわざとらしく同調しながら、暗に相手の今後のすべての行動を予測していた。


「任せておけばいい」


「それにしても、君の実力はあまりに強すぎるな」


ベロシフは顔を上げ、自得に満ちた口調で言った。

「ふんふん、黒造主を握る俺は、すなわち無敵だ」


「それなら、迷宮の奥を探るのに付き合ってもらえると助かる。では、一緒に入ってくれ」


ベロシフの先導で、二人は毒虫迷宮の内部へと足を踏み入れた。

高濃度の魔素が空間全体に充満し、重厚な圧迫感が面を襲い、ほとんど窒息しそうだった。


「素晴らしい。こんなに濃い魔素、全部吸い取ってやろう」


ベロシフは宝石の花瓶を取り出し、瓶口に微かな光が瞬くと、周囲に漂う魔素を瞬く間にすべて取り込み尽くした。


「すごい……」


その後の探索の中で、ガルは本体の完全な記憶を頼りに、迷宮のすべての配置と機関・罠をすでに熟知していた。

過去の記憶を手がかりに、ベロシフを迷宮の奥深くに隠された宝箱の秘密室へと導いた。


厚い石壁の前まで来ると、ガルは手を上げて壁を叩き、正確に対応する機関の接点を押した。

鈍い機関音が響き、石壁全体が右側へ滑らかにスライドし、隠された密室が姿を現した。


「どうしてここにく密室があるのを知っているんだ?」ベロシフは満面の驚きを浮かべた。


「魔力で物質の構造を解析できる。同構解析に似たスキルだ」ガルは適当に説明した。

「これは俺が独学で身につけた能力だ。魔法学院の建築専門課程でも、似たような解析技術を教えるらしい。迷宮のすべての機関、転送陣、石像の加護の仕組み——俺はすでにすべて頭に入れている」


ベロシフは納得したように頷き、密室の内部に視線を向けた。


密室中央の巨石の台の上に、一本の杖が静かに立っていた。石中の聖剣のように、気場が並々ならぬものだった。


「この武器は間違いなく価値が計り知れない!」


貪欲に駆られたベロシフは即座に巨石に登り、素早い動きで、ガルに宝物を取られることを恐れた。

だが巨石の頂点に立ち、杖を握ろうと手を伸ばした瞬間、指先は杖の身を突き抜けた。


これはただの投影の罠だった。


同時に、密室に隠されていた不可視の赤い魔法陣が突然起動し、眩い赤い光が密室全体を包んだ。

ガルはすでに予測しており、事前に防御を固めていた。

一方、無防備だったベロシフは——ガルも含めて——二人は強制転送され、次の瞬間、がらんとした深い崖の底に現れた。


「何だこの場所は? ここは一体どこだ?」ベロシフは慌てて周囲を見回した。


ガルは前方を指差し、平静な口調で言った。

「ここが、毒虫迷宮の最終ボス・双翼毒龍蠍の巣だ。前方の石像が蠍王に遠距離攻撃を無効化する加護を与えている。遠距離の死霊術だけに頼るな」


「何だと!?」


巍峨たる暗影が谷の中央に居座り、体長三十六メートル、身長十三メートルの巨大な紫色の蠍が、そこに眠りについていた。

蠍の体には一枚の狰狞な龍頭が嵌め込まれ、均一な呼吸が低い鼾となって響いていた。

巨大な双鉗の表面には細かい毒腺がびっしりと並び、密集した孔が頭皮をざわつかせ、密集体質の者なら一瞬で崩壊するだろう。


「しっ、静かに。まだ眠っているうちに、そのまま撤退する」


「あそこを見ろ」ベロシフがガルの言葉を遮った。


ガルがその視線を追うと、密室の投影に映っていたあの杖が、今まさに女神の石像の掌に捧げられており、石像の位置はちょうど双翼毒龍蠍の背後にあった。


「馬鹿な真似はするな」ガルは制止した。相手の貪欲が簡単に収まるはずがないことを知っていた。


ベロシフはしばらく躊躇し、宝物を奪う執着が顧慮を上回り、一旦撤退して後で単独で戻るつもりで頷いた。


ベロシフはしばらく迷い、最終的に心底の貪欲を抑え、一旦撤退することに同意した。


BOSSの巣の範囲を脱出すると、ベロシフは率直に自分の執着を口にした。あの石像の杖を必ず手に入れると。


「俺と一緒にBOSSを討伐するか?」ガルが尋ねた。


「お前は横で見ていろ。俺一人で始末できる」ベロシフの口調は強硬で、戦利品を分け合う気などなかった。


「わかった。じゃあ俺は他の区域で宝物を漁ってくる。気をつけろよ、自求多福だ」


意見が対立した二人は、そこで別れた。

ガルは心の中で理解していた。相手が単独で戦えば、石像の遠距離加護に確実に克される。ちょうどこの機会に相手のすべての手札を見極められるし、心底では劇毒で強悍な双翼毒龍蠍と正面から戦いたくもなかった。

一方、ベロシフはすでに戦意が高まっており、二人はそれぞれ道を分かった。


一人になった後、ガルは指先を微かに動かし、静かに黒造主を呼び出し、迷宮の残りの支路を単独で探索し始めた。

同時に、頭の中の完全な過去の記憶を整理する——ミギルの過去がはっきりと広がり、心底の柔らかな傷が、はっきりと感じられた。


一方、ベロシフはすでに戦闘を開始していた。

彼は直接死霊術を駆使し、数百体の腐化した魔物の僕を召喚し、その勢いは壮大だった。


「高尾鸬鳥、破爪悪狼、全員攻撃!」


数百の魔物が押し寄せ、眠っていた双翼毒龍蠍を瞬時に包囲した。

その大きな騒ぎが、この頂点の魔物を眠りから叩き起こした。


「風刃! 影爪!」


破爪悪狼は暗夜専用の魔物で、身のこなしが诡异で、影に溶けて行踪を隠せる。

高尾鸬鳥は体躯が巨大で、一体だけで中小規模の町を破壊できるほどだ。

二重の攻勢が蠍王の躯体に叩きつけられ、滚々たる煙塵が谷全体を覆い尽くした。


煙塵の中の戦況を知る者は誰もいなかったが、答えはすぐに明らかになった。


紫色の光が煙塵の中で明滅し、次の瞬間、無数の紫色のレーザーが四方八方に迸り、戦場を横掃した。

瞬く間に、ベロシフ麾下の数十頭の魔物の僕が、レーザーによって抹殺された。


「攻撃を続けろ! 止まるな!」

ベロシフは諦めず、次々と攻撃指令を下した。


だがすべての遠距離攻撃が、半空で不可解に軌道を逸らし、ことごとく外れた。


ベロシフの視線が近くの女神の石像に固定され、瞬時に真相を看破した。

「くそ……加護の効果だ。あの女神の石像が、双翼毒龍蠍に遠距離免疫の専属加護をかけている!」


遠距離手段は完全に無効化された。


「ならば、全員近接だ! 死に物狂いで戦え!」


高尾鸬鳥と破爪悪狼は遠距離の技を捨て、自殺的な姿勢で蠍王へ突っ込んだ。

双翼毒龍蠍も決して並の存在ではなかった。双鉗を地底深くに埋め、蠍の尾を高く振り上げた。


瞬時に、満天の紫色の毒液が天から降り注ぎ、地面からも腐食の毒泉が噴き出した。

毒液に触れた魔物は、瞬く間に一滩の濁った液体へと腐食され、骨すら残らなかった。


「なんて恐ろしい毒液だ……」


麾下の大軍が全滅しそうになるのを見て、ベロシフの瞳に執拗さが閃いた。

彼は黒泥を全身に纏わせ、堅固な黒い鎧へと凝結させ、ただ一人で双翼毒龍蠍へと突撃した。


運よくすべての毒液を避け、ベロシフは黒造主を長槍に変え、蠍王の巨鉗へ容赦なく突き立てた。


予想した金属の衝突音は響かなかった。


長槍は巨鉗を突き抜けた。一見硬そうな蠍の鉗は、質感がスポンジのように柔らかかった。

次の瞬間、巨鉗が収縮し、蓄えていた劇毒が勢いよく噴射され、ベロシフの顔全体に浴びせられた。


幸い外層の黒泥の鎧が致命傷を防ぎ、ただ表層の黒泥が毒液に腐食されて剥がれ落ちただけだった。


「亡骸屍骨!」


幽暗な影の中から、無数の骸骨兵が次々と現れた。

ベロシフはすでに決意していた。この覇主の魔物と、生死を賭けた戦いを挑むのだと。


同じ時間、迷宮の別の場所。


ガルは漁った宝物をすべて黒造主の収納空間に収め、BOSSの巣へ向かおうとしていた。もしかしたら、隙を見て漁夫の利を得られるかもしれない。


歩きながらベロシフの死霊術を見て、完全な記憶が激しく翻り、ミギルに関するすべての過去がはっきりと浮かび上がった。

ぼんやりとした人影が、ガルの脳裏を一瞬よぎった。


「……この人の戦い方、どこか見覚えがあるな」


電光石火の間に、封印されていた記憶が猛然と蘇った。


「ああ! 思い出した」


ガルの瞳がわずかに収縮した。かつて自分が助けたあのおじさんも、同じく死霊術戦士だった。

ほんの短い間に会わないうちに、相手の実力はここまで成長し、穢泥侵蝕のような専属の技まで、そっくりそのまま真似している。


過去の断片が制御を失って脳裏に溢れ、優しく、そして寂しげな声が、繰り返し耳元に響いた。


「俺のことを、考えないでくれ」


「俺のことを、考えないでくれ……」


……


**11月第22章 別れ 11月13日**


11月13日から、俺とミギルはほぼ毎日、午後になると『昆虫迷宮』に入り、真夜中近くまで出なかった。


病院が彼に課した治療の時間が、俺たちの活動を制限していた。

バイオレットが彼のために特別に作った黒棺の治療機能で、ゲーム内での活動を維持することはできても、以前のように好きなだけゲームの中にいることはできなかった。


だから俺たちは、一日一日をできるだけ充実したものにしようと努めた。


冠陽市を出発し、コルビの他の都市へ向かい、計画したルートに沿って進んだ。


ミギルが目的地を選び、俺はただ彼についていった。


時には、面白そうな場所があると聞いて、途中でルートを変えることもあった。

時には、目立たない小さな店の前で長い時間立ち止まり、まだ食べたことのない食べ物を試すこともあった。


どれも、ごく普通の出来事だった。


普通すぎて、いつかこれほど鮮明に思い出す日が来るとは、夢にも思わなかった。


最初の日、俺たちはヴィサへ行った。


山に寄り添うように建てられた都市で、通りが斜面を登るように伸び、家々の壁はほとんどが淡い色で、窓辺には花が溢れていた。

都市の中央には古い時計台があり、夕方になると、長い鐘の音が響いた。


ミギルはそこがとても気に入った。


もちろん、彼が一番好きだったのは、時計台近くの食べ物だった。


俺たちは最初、時計台を見学するつもりだったが、市場に入った途端、彼はある屋台に引き寄せられてしまった。


「天木、これ見てみろ」


彼は屋台に並ぶ焼き餅を指差した。


「美味しそうだ」


「さっき、先に時計台に行くって言っただろ?」


「時計台は逃げないさ」


「だからって、店を通るたびに止まる必要はないだろ」


「これは現地の文化を体験するってことだ」


彼は真面目な顔で言った。まるで、さっき食べ物を欲しがっていた人間が自分ではないかのように。


結局俺は、彼に付き合って二個買った。


彼は一口噛むと、目をわずかに輝かせ、もう一つを俺に差し出した。


「食ってみろ」


受け取って食べてみると、確かに美味しかった。


「どうだ?」と彼が聞いた。


「悪くない」


「お前は本当につまらない奴だな」


口ではそう言いながら、彼の顔には笑みが浮かんでいた。


俺たちは市場を長い時間歩き回り、夕陽がだんだん沈む頃になって、ようやく時計台の下に辿り着いた。


最初の鐘の音が響いた時、広場はまだ賑やかだった。


二回目の鐘の音で、足を止める人が現れた。


三回目、四回目……


長い音が通りを伝い、家々と路地を抜け、都市のさらに遠くへと広がっていった。


ミギルは何も言わず、ただ時計台を見上げていた。


俺は彼の傍らに立ち、夕陽に照らされた彼の横顔を見ていた。


彼は、こういう時間がとても好きなようだった。


任務もなく、戦闘もなく、すぐに解決しなければならない問題もない。

周りの人々はただここで暮らし、日々働いて、話し、食事をし、鐘の音が響くと、しばし足を止める。


七回の鐘の音が終わると、彼はようやく視線を戻した。


「いいな」


「何が?」


「ここだ」


彼は周囲を見回し、笑って言った。


「機会があったら、また来たいな」


「難しいことじゃない。また来ればいい」


彼は俺を見た。


「じゃあ、約束だ」


そう言って、彼は地図を開き、ヴィサの位置に印をつけた。


俺が覗き込むと、彼は横に歪んだ時計台を描いていた。


「下手すぎるだろ」


「できるならお前が描けよ」


俺は地図を受け取り、横にもっと下手な時計台を描いた。


ミギルは数秒じっと見て、ついに笑いを堪えきれなくなった。


その夜、俺たちは真夜中近くまで遊んでから、冠陽市に戻った。


ログアウトする前に、彼はまた地図を開き、その小さな印を一目見た。


「明日はメセビロに行こう」


「いいよ」


「あそこに綺麗な川があるらしい」


「じゃあ川を見に行こう」


「お前、全然意見がないな」


「だって、場所を探すのはお前の役目だろ」


彼は笑いながら首を振った。


「じゃあ、また明日」


「また明日」


俺は深く考えなかった。


あの頃の俺は、「また明日」は「また明日」だと思っていた。


俺たちが一緒にゲームをしたいと願う限り、俺とミギルがまだここにいる限り、似たような会話は何度でも繰り返せるはずだった。


いつか、ごく普通の別れの言葉さえもが、贅沢なものになる日が来るとは、夢にも思わなかった。


---


**11月14日**


二日目、俺たちはメセビロへ行った。


川に囲まれた都市だった。


川が都市の中央を貫き、石橋が両岸の通りをつなぎ、沿岸の家々が水面に映っていた。

陽が落ちると、川面は細やかな光を反射し、遠くから見ると、無数の金箔が水の上に浮かんでいるようだった。


ミギルは川辺に長い時間立っていた。


「ここ、好きか?」と俺が聞いた。


「うん」


彼は身をかがめ、手を伸ばして川の水に触れた。


「昔、父親と一緒に釣りをしたことがある」


俺は禄庇湖を思い出した。


あの時も、俺たちは湖のほとりに座り、釣り竿を手に、いろいろな話をした。


ミギルは時折、自分の過去を口にした。

それらの往事を語る時の彼の口調は、いつも軽やかだった。どんなことがあったとしても、覚えている限りは、受け入れられないことなどない、とでも言うように。


「子供の頃、たくさん釣れたか?」と俺が聞いた。


「全然」


「なのに、そんなに覚えてるのか」


「子供の頃の俺は、すごくせっかちだったんだ。すぐ帰りたくなるのに、父親はいつも『もう少し待て』って言った」


彼は川面を眺め、口元にわずかな笑みを浮かべた。


「『急いでも結果が出るものじゃない』って」


「教育されてたんだな」


「実際、よく教育されたよ」


ミギルは立ち上がり、手の水を払った。


「でも今思うと、あの頃は悪くなかった」


そう言って、彼は俺を近くの渡し船へと引っ張っていった。


俺たちは川に沿って市街を巡った。船頭は漕ぎながら、沿岸の建物を紹介してくれた。

ミギルは真剣に聞き、時折いくつか質問を投げかけ、地図を取り出して、再び訪れたい場所をいくつか記した。


俺は船の縁に寄りかかり、両岸が次々と後ろへ流れていく景色を眺めていた。


「ミギル」


「ん?」


「なんでそんなに旅が好きなんだ?」


彼は手を止めた。


「行ったことのない場所がたくさんあるからだよ」


「それだけか?」


「他に何がある?」


彼は笑いながら反問した。


俺はすぐに答えられなかった。


しばらくして、彼はまた言った。


「それに、場所ごとに顔が違うんだ。同じ川でも、まったく同じじゃない。ここで暮らす人もいれば、向こうで育った人もいる。どの場所にも、それぞれの物語がある」


彼は遠くの石橋を指差した。


「あの橋を見てみろ。俺たちにとっては、地図上の一つの建物に過ぎない。でもここに住む人にとっては、毎日そこを通る場所かもしれない。そこで友達と会う人もいれば、そこで別れる人もいる。ただ通り過ぎて、夕食を買いに行くだけの人もいる」


そこまで言って、彼はふっと笑った。


「考えると、面白いだろ」


俺は彼の視線を追った。


それは、ごく普通の石橋だった。


特別な任務もなく、特筆すべき報酬もない。


だが俺はふと、ミギルがなぜ見知らぬ都市でこんなに長く足を止めるのかを理解した。


彼はただ景色を見たかったわけではない。


この世界が一体どんな姿をしているのかを知りたかったのだ。自分とは何の関わりもない人々が、どのように暮らしているのかを。


だからこそ、彼は一見どうでもいい物事に、いつも興味を持っていたのだろう。


その日の夕方、俺たちは川辺の食堂で食事をした。


ミギルは焼き魚を注文し、半分ほど食べたところで、ふと顔を上げて俺に尋ねた。


「天木、お前はこれからどうするつもりだ?」


「『昆虫迷宮』を攻略し続けるよ。お金を稼いで、ちゃんと勉強して、姉さんたちがいる大学に入れるように」


「悪くないな」


「お前は?」


「俺か?」


彼は少し考えた。


「まだ決まってない」


「ずっと旅がしたいって言ってたじゃないか」


「そうだな」


彼は窓の外の川を見た。


「だから、もっとたくさんの場所に行きたい」


あの時、俺はその言葉を特に気にも留めなかった。


ミギルは相変わらず、あちこち走り回るのが好きで、新しいことを見つけるのが好きで、地図上の見知らぬ名前を一つ一つ、本当に行ったことのある場所に変えていくのが好きなんだ、と思っただけだった。


だから俺は笑って言った。


「じゃあ、これから一緒に行こう」


彼は振り返った。


「本当か?」


「当然だ。手持ちの用事が片付いたら、お前のところに行く」


「じゃあ、約束だ」


彼は手を差し出した。


俺は彼とハイタッチをした。


そして彼は地図を取り、メセビロの位置に歪んだ川を描いた。


俺は一目見て、思わず笑った。


「それ、何だよ」


「川だ」


「虫かと思った」


「じゃあお前が描けよ」


また言い合いになった。


最後に、ミギルはその川の横にもっと小さな魚を描き、「これがお前だ」と言った。


俺はもちろん認めなかった。


その夜、俺たちがメセビロを離れる頃、空はすでに暗くなっていた。


ミギルは振り返って、川面を一目見た。


「また来よう」


俺は頷いた。


「ああ」


なぜか、彼は今日ずっとこの言葉を口にしていた。


だが俺は深く尋ねなかった。


ただ、その言葉を心に留めた。


---


**11月15日**


三日目、俺たちは粟米羅へ向かうことにした。


今回の旅の計画の最後の都市だった。


だがミギルは急いで道を急がなかった。


途中でいくつかの小さな町を通る時も、彼は足を止め、通りの商店を眺め、地元の人々の話に耳を傾けた。

時には、目立たない道標のために、俺を引っ張って遠回りすることもあった。


「今日は粟米羅に行くんじゃなかったのか?」と俺が注意した。


「わかってる」


「なのに遠回りするのか」


「せっかく通ったんだから、見ないのは惜しいだろ」


俺は仕方なく溜め息をついた。


「お前は本当に……」


「どうした?」


「救いようがない」


彼は嬉しそうに笑った。


「褒めてくれてありがとう」


俺たちはこうして歩きながら立ち止まりながら進み、午後になってようやく粟米羅に着いた。


この都市は広大な平原の端に位置していた。西側の展望台に立つと、遠くの田畑、川、風車が見渡せた。

都市の屋根が夕陽に徐々に暖かい色に染まり、地平線へと伸びる道は、一本の細い線のように、視界の果てへと続いていた。


ミギルはそこに立ち、長い間何も言わなかった。


俺は彼の隣に立った。


「どうだ?」


彼はすぐに答えなかった。


しばらくして、彼は静かに言った。


「本当に広いな」


「何が?」


「この世界だ」


彼は手を上げ、遠くを指した。


「俺たちはこんなに多くの場所を回ったのに、まだこんなに多くの場所に行っていない」


俺は笑った。


「じゃあ、また行けばいい」


ミギルは振り返り、俺を見た。


「うん」


彼は頷いた。


俺は、これで終わったと思った。


だが彼は突然また尋ねた。


「天木、もしある日、行きたい場所をすべて行き尽くしたら、お前は何をする?」


俺は少し考えた。


「新しい場所を探すさ」


「新しい場所がなかったら?」


「あるわけないだろ」


俺は遠くの平原を指した。


「コルビをすべて回ったとしても、他の場所はある。行きたいと思えば、必ず場所は見つかる」


ミギルはそれを聞いて、笑った。


「そうだな」


彼はそれ以上追及しなかった。


俺たちは展望台にしばらく座り、太陽がだんだん西に沈むまでいた。


帰る前に、彼はまた地図を開き、粟米羅に印をつけた。


その地図には、すでに多くの歪んだ絵が描かれていた。


時計台、川、魚、そして俺たちが道中で適当に描いたいろいろなもの。


綺麗とは言えないが、この三日間に通った場所が、確かに記録されていた。


ミギルは長い間見つめていた。


「よし」


彼は地図をしまった。


「今回の旅は終わりだ」


「終わったら終わったでいい。また来ればいいさ」


俺は何気なく言った。


彼はしばらく静かにしていた後、静かに答えた。


「うん。また来よう」


粟米羅を離れた後、俺たちはルートに沿って冠陽市へ戻った。


この都市は、数日前とは少し違っていた。


クラムチの努力が、徐々に実を結び始めていた。新しく舗装された道が遠くまで伸び、通りの店が増え、かつては古びていた区域も、少しずつ新しくなり始めていた。


ここにはまだ多くの問題が残っていたが、少なくとも冠陽市は、より良い方向へ進み始めていた。


ミギルは通りに立ち、それらの変化を眺めていた。


「いいな」


俺は頷いた。


「クラムチは他の都市も変えていくつもりだ。いつか、コルビ全体がもっと良くなる」


「それは本当にいい」


彼は言った。


「いつか、そんなコルビを見てみたい」


俺は、その言葉に何か異様なものを感じ取らなかった。


---


日、午前九時三十二分。


コルビ、冠陽市。


天木とミギルは、並んで市街の通りを歩いていた。

普段は明るく、楽観的で外向的なミギルが、今は顔中に陰鬱を漂わせ、全身に溶けない重苦しい空気をまとっていた。まるで末期の病を抱えているかのようだった。


彼はもともと非常に端正で、容貌は女性寄りだった。その死のような沈黙が、彼の清冷で壊れやすい気質を極限まで際立たせ、隣を歩く天木は思わず見とれてしまった。


天木は覚えていた。現実世界のミギルは、長く伸びた白い髪を持っていた。その独特の気質は、アジア連邦の多くの男性の視線をさえ引きつけていた。


「今日はどうした? ずっと沈んでるな。困ってることがあるなら、俺が助ける」天木が自ら口を開いた。


ミギルは黙って何も言わなかった。


「どんな難題でも、俺が解決してやる」天木は再び耐心強く慰めた。


長い沈黙の後、ミギルは重々しい溜め息を一つ、静かに吐いた。


彼は澄んだ白い瞳を上げた。仮面のような平静が完全に砕け散り、悲しみが顔全体を覆い、透き通った涙が目尻に浮かび、やがて地面に落ちた。


「俺たち、これから……もう一緒にゲームをすることはできない」


天木の表情が急に厳しくなり、静かに続きを待った。


「俺はずっと、ブラジルの病院で治療を受けてる」ミギルの声は咽び、涙が豪雨のように流れ落ち、途切れ途切れに言った。

「前は医者に、治療を続ければ回復の見込みがあるって言われたのに……でも俺は……」


天木は一歩前に出て、感情を崩したミギルを抱き、後ろを優しく叩き、唯一の温もりを与えた。


「心配するな。必ず何か方法を考える」


「実は……これが最後のログインだ」ミギルの声は、ほとんど聞こえないほど微かだった。

「もうすぐ高リスクの手術を受ける。これが、おそらく俺たちの最後の対面になる。だから……俺のことを忘れてくれ。考えないでくれ」


「何を言ってるんだ!?」天木の声が急に高くなった。


「考えないでくれ」


「行くな!」


天木は左手を伸ばし、ミギルの手首を強く掴んだ。指先が止まらずに震え、心底の恐慌が狂ったように広がった。


「もういい。俺のログイン制限時間は終わった」


ミギルは直接ゲームのインターフェースを呼び出し、指先を躊躇なくログアウトのボタンに向けた。


「行かないで……お願いだ、ミギル……」


天木は涙で顔をぐしゃぐしゃにし、完全に混乱し、最後には力なく左手を離し、両膝が地面に重く落ち、卑屈に懇願した。


「さよなら、天木」


白い光が突然輝き、ミギルの体は細かな光の粒となって、天地の間に完全に消えた。


広大な通りに、天木一人が残された。

彼は地面に跪き、肩を激しく震わせ、抑えた泣き声が通りに響いた。

拳を固く握り、何度も何度も硬い地面を強く叩き続けた。指の骨が折れ、血肉がぐちゃぐちゃになるまで叩き、地面に凹んだ深い穴を作っても、心底の絶望を吐き出すことはできなかった。


長い時間が経ってから、天木はボロボロで疲弊した体を引きずり、冷たい壁に手をつきながら、ゆっくりとその場を離れた。


……


回想が終わり、現実に戻る。


ガルの両目が突然見開かれ、細かい血の筋が白目に広がり、胸の奥に長く積もり続けていた悲痛と暴怒が、完全に爆発した。


「もういい!!!」


怒号が谷に響き渡り、周囲に残っていた魔物がこの狂暴な気場に震えて、四方へ逃げ散り、一歩も近づけなかった。


ガルは両手にそれぞれ黒造主と翠天弥音を握り、身を翻して、全速力で双翼毒龍蠍の巣へと駆け出した。


「クソが、ベロシフ……亡骸屍骨だけで、このBOSSを落とせると思ってるのか?」


谷の中で、ベロシフは大量の骸骨兵を操り、再び蠍王に猛攻を仕掛けていた。

密室に残っていた矢の機関がすべて起動し、満天の矢の雨が区域全体を覆ったが、矢はBOSSの周囲の盾に触れると、ことごとく方向を変え、逆に骸骨軍団を屠った。


甚大な損失を出しても、ベロシフは矢の雨をものともせず、強引に双翼毒龍蠍へ近づき、黒造主を振り下ろした。


鏗鏘——!


耳をつんざく金属の衝突音が炸裂した。


もう一柄の通体漆黒の黒造主が空中に現れ、ベロシフの致命的な一撃をしっかりと受け止めた。

ガルが高空から落下し、ベロシフと蠍王の間にしっかりと着地した。


「なぜ俺を止める!?」ベロシフの顔色が鉄青に変わり、激しく問い詰めた。


ガルの瞳は冷たく、一言一句はっきりと言った。

「この魔物は、俺が自らの手で殺す」


「もう話すことはないな、黒濯塵! 今日こそ殺してやる!」


二人の対立が完全に激化した瞬間、傍らで伏せていた双翼毒龍蠍が突然動き、双鉗に致命的な毒液を纏わせ、同時に二人を挟み撃ちにした。


ガルは剣を挙げて強引に受け止め、狂暴な衝撃で瞬時に弾き飛ばされ、岩壁に激しく叩きつけられた。

劇毒が翠天弥音の剣身に付着し、わずか数秒で、この武器をボロボロに腐食させた。


毒液が防御を貫き、ガルの腹部に狰狞な血の穴を開けた。


傷が致命的になりかけたその瞬間、黒造主の剣身に幽かな紫の光が走り、流れる黒泥が傷口を覆い、瞬く間に破れた肉身を元通りに修復した。

完全な記憶の支えのもと、ガルはすでに黒泥の肉身の再生能力を熟練して掌握していた。


ベロシフの瞳が急に収縮し、信じられないという顔をした。

「お前……自分の肉身を、完全に黒泥の体質に改造したのか?」


「この蠍が邪魔すぎる」ガルは正面から答えず、手を上げて谷の上空を指した。

「場所を変えて、ゆっくり恩怨を清算しよう」


二人は一時的な合意に達し、同時に黒泥を駆使して双翼毒龍蠍を一時的に封印し、その後黒造主を鉤爪に変え、力を借りて上層の空洞へと登り、迷宮に内蔵された全域転送陣を使って、直接地表へ転移した。


「迷宮内部で独立した太陽が生まれる本質は、全域転送陣のおかげだ。お前もこの秘密を知っていたとはな」ベロシフが言った。


「お互い様だ」ガルは淡々と口を開いた。

「内測の時期に俺たちは会っている。今、完全にすべての記憶を取り戻したおかげで、ようやくわかった。お前の名前はベロシフだったんだな」


過去の秘密が暴かれ、ベロシフは完全に制御を失った。

「だからお前は一体何がしたいんだ!? 内測でお前に会ってからずっと、お前は俺のものを全部奪い続けてる!」


「面倒くさいな。それがどうした?」ガルの口調は淡々としていた。本体の完全な記憶が、相手の偏執をすでに見下すほどにさせていた。


ベロシフは突然、陰湿に笑い始め、最も悪辣な切り札を投げつけた。

「ふふっ、ミギルがどうやって死んだか、知ってるか?」


ガルの全身の感情が一瞬で消え失せ、周囲の温度が急に下がった。

ミギルが亡くなった場面が意識の中に鮮明に浮かび、心底の傷が何の覆いもなく溢れ出した。


「そうだ、癌だ。ずっとお前の傍にいた親友は、最後に現実世界で病死したんだ」


ベロシフはガルを直視し、悪意をほしいままに吐き出し、狂ったように笑った。

「俺が一番好きなのは、お前がそんなに苦しむ顔を見ることだ! はははは——!」


「殺してやる!」


極限の怒りが理性を打ち砕き、二人は同時に動き出し、同源の二柄の黒造主が轟然と衝突した。


職業も武器も同源で、両者の実力はほぼ互角だった。

だがガルは完全な本源の記憶を持ち、闇の力の操控の層次で相手を全面的に圧倒し、戦闘技巧もベロシフの堅実な守備反撃のスタイルを完璧に克していた。

この状況で、勝敗を決する唯一の要素は、戦闘技巧だけだった。


ベロシフの戦い方は守備反撃で、着実に固めるタイプ。

ガルは極速の奇襲を主とし、殺伐が果断で、まさに前者を完璧に克する形だった。


ガルは武器の形態を変え、黒造主を片手剣に変え、上から下へと鋭い一剣を振り下ろした。


ベロシフは素早く武器を盾に切り替え、盾の表面に数本の漆黒の尖刺が突然生え、逆に突いてきた。

五本の黒刺がガルの腹部を直接貫いた。


ガルは顔色一つ変えず、剣を振って尖刺を斬り落とし、力を借りて後方へ飛び退き、黒泥の肉身が傷口を素早く修復し、痛みなどまったく感じなかった。


「お前も痛みを感じないのか?」ベロシフは驚きと疑念に満ちた。


ガルは答えず、両脚を曲げ、両手で黒造主を強く握り、身を低くし、まるで刃物のように力を溜めた。


「一閃」


魔力が全速で加勢し、極限の短距離突進。

ガルの姿が瞬時に消え、次の瞬間にはすでにベロシフの背後に現れていた。


(速い……)


細かい刺痛が頬に這い、温かい血液が顎を伝って流れ落ちた。

ベロシフが手を上げて触れ、指先が赤い液体に触れた瞬間、滔天の怒りが完全に心を飲み込み、五官が歪み、顔が狰狞に変わった。


彼はもう遠慮せず、大量の骸骨兵が地底から湧き上がり、戦場全体を覆った。


「穢泥侵蝕!」


「穢泥侵蝕!!」


まったく同じ死霊術が同時に放たれ、黒と白の二筋の黒泥の軍団が正面から衝突し、黒泥が凝結した兵刃が互いに殺し合い、戦場は瞬時に混乱した。


満天の泥兵が入り乱れる隙間から、二人の人影が同時に空へ舞い上がり、視線が空中でぶつかった。

ベロシフは魔力の踏板を足に作り、黒造主を重錘の形態に切り替え、万鈞の力を込めて落下するガルへ叩きつけた。


高空では魔力の踏板を作れず、ガルは身を落下させるしかなく、やむを得ず盾に切り替えて防御した。


ドゴォォォォォォ——!


巨錘が落ち、強大な衝撃がガルを真下の鞍馬鉱場の山体へ叩き込んだ。煙塵が空を覆い、視界を遮った。


ベロシフは瞬時に近づき、重錘を片手剣に戻し、身をかがめて、山体に埋め込まれたガルの心臓の位置へ真っ直ぐ突き込んだ。


「勝敗は決したようだ。この黒造主は、今から俺のものだ」


「そうとも限らない」


淡々とした声が煙塵の中から響いた。平静で、波一つない。

完全な記憶の加勢のもと、ガルはすでに相手のすべての攻撃を予測していた。


ベロシフの瞳が急に収縮し、心底に得体の知れない寒気が走った。

「この怪物め」


「ああ、多くの人間が俺をそう呼ぶ。お前一人くらい、大したことない」


ガルはゆっくりと身を起こした。心臓を貫かれた傷など、彼には何の影響もなかった。

彼は胸に刺さった黒造主を抜き、一歩一歩、顔色を失ったベロシフへと近づいていった。


ベロシフは完全に恐慌し、予備の佩剣を抜き、横に斬りつけ、一剣でガルの頭を切り落とそうとした。


頭のない体は、それでも着実に前へ進んだ。

ベロシフは本能的に相手の体内に残った黒造主を抜こうとしたが、武器はすでにガルの肉身と一体化していた。


極限の恐怖が全身を襲い、彼は連続して後退したが、背中が突然、温かくて硬い人影にぶつかった。


一本の漆黒の手が、静かに彼の肩に置かれた。


ベロシフは全身を硬直させ、体中の毛が逆立った。


視線の前方では、頭を斬り落とされたガルが、肉眼で見える速度で体を再構築していた。

黒い泥流が翻り、凝結し、首と頭を再形成し、その後余裕を持って体内の黒造主を抜いた。


漆黒で低い声が、がらんとした鉱場に響いた。


「天木様、属下は指令を完了いたしました」


ベロシフは硬直したまま振り返った。

映ったのは、彼が憎悪し、恐れ、心の底に何度も刻み込んだ、あの顔だった。

この時、天木のすべての記憶が完全に戻っており、瞳に迷いは一片もなかった。


「天木……」


少年は顔をわずかに傾け、漆黒の瞳を微かに細め、口角を上げ、冷たく危険な笑みを浮かべた。


「よう、ベロシフ」

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