↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昆虫迷路――闇が支配している  作者: Raven


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/13

毒虫の霧

深夜の貧民窟は、墓のように死に絶えていた。

黒金の長袍をまとった暗殺者が、影の中へと足を踏み入れる。

そして運命の盤面には、すでに毒虫迷宮の入口へと、静かに駒が置かれていた。

深夜の貧民窟は墓のように死に絶えていた。

崩れかけた低い家々が幾重にも重なり、残された月光さえも飲み込んでいた。


黒金の長袍をまとったベロシフは、がらんとした街路の中央に静かに立っていた。衣の裾は解けない闇に浸され、周囲を流れる空気さえもが腐食するような冷気を帯びていた。彼は十三魔術師の麾下で、最も潜入と暗殺に長けた執行者である。このたび、冠陽市に潜伏するよう命じられたのは、全サーバで指名手配されている天木を截殺するためだった。


指先に浮かぶ闇魔の通信晶石が微かに震えると、低く抑えた声が空しい街路に響いた。感情の欠片もない声だった。


「指令は承知した。直ちに行動を開始する。毒虫迷宮の範囲内は魔力の乱れと通信遮断があるため、以降はリアルタイムでの情報共有はできない」


彼は目を上げ、幾重もの建物を貫く視線で、遠くに灯りの消えていない宿屋の方角を正確に捉えた。そこには、極めて目立ち、純粋を極めた闇属性の気配が漂っていた。濃密で覇道的でありながら、まだ完全に沈殿しきっていないわずかな滞りを伴っていた。


ベロシフの瞳に、冷たい興趣が一瞬よぎる。


資料によれば、天木の闇属性への適応性は全サーバ随一で、ほとんど生まれながらの闇の主と言ってよかった。その極致の適合性ゆえに、彼はすべての闇系魔物や闇属性の修士に対して天然の抑圧力を持ち、並の闇族では彼の意志に逆らえない。


だが、今この気配は不安定に揺らいでいる。つまり、彼の体内の闇の力はまだ完全に吸収・安定しておらず、依然として隙が残っているということだ。


「ちょうどいいタイミングだ」


ベロシフは低く呟き、通信を断った。


次の瞬間、地面から黒霧が湧き上がり、全身漆黒で身のこなしが硬直した黒泥兵が八体、土を破って現れた。それらは死体の残骸を基盤に錬成されたもので、普通のスケルトン兵よりも遥かに強靭で血を好む。天木が配置した夜間の守衛だった。


明らかに、ベロシフの潜入と偵察はすでに守衛の警戒を誘発していた。


夜空の最後の一筋の月光が完全に消え、貧民窟全体が完全な闇に沈んだ。


無音の殺し合いが、突然に始まった。


---


**【現在・一月九日の朝】**


夜明けの光が差し、薄い霧が冠陽市全体を覆っていた。


私は早くに目を覚まし、心が微かに動くと、無意識に外に残していた黒泥兵を呼び寄せて点呼した。


八体の黒泥兵のうち、戻ってきたのはわずか三体だった。


残された闇の気配は荒々しく暴力的で、見知らぬ魔術師の術式の痕跡を帯びていた。残った黒泥兵が伝える曖昧な情報によれば、昨夜、高位の闇系強者が潜入して偵察に来たらしい。短時間の交戦の末、相手は奇妙で手強い実力を持ち、五体の黒泥兵を撃破した後、隠れて逃げ去った。深く追撃はしなかったという。


私の瞳がわずかに沈む。


十三魔術師の人間だ。ベロシフ。


彼は宿屋を強襲せず、不用意に姿を現すこともなく、ただ静かに私の外周の守衛を潰した。これは決して無駄な行動ではない。視野を事前に清掃し、目を埋め、後の迷宮狩りのための布石を打ったのだ。忍耐強く、狡猾で、一歩一歩着実に進む——それがこの男のやり方だ。


私は心の警戒を抑え、ひとまずこの件は伏せた。今、大敵が暗部に潜んでいる以上、慌てれば慌てるほど隙を見せることになる。


簡単に身支度を整え、佐天千代と徐敏芊を起こし、雷葛には新たに手に入れた鍛冶屋に残って管理するよう言いつけた。同行の必要はない。すべて手配が済むと、私は二人の少女を連れて馬車に乗り、この旅の核心地点——鞍馬鉱場へと出発した。


朝の道は穏やかで、馬車は一定の速度で進んだ。昨夜の休息が浅かったためか、千代と芊芊はどちらも眠気が抜けきらず、車内の両側に寄りかかってうとうとしていた。眉目は温順で、平素の生き生きとした様子はなかった。


私は静かに声をかけ、前方で御する車夫に側へ移るよう指示した。「先にどいてくれ。私が彼女たちを見ておく」


車夫が従うと、私は前側に座り、振り返って二人のうとうとする少女をそっと腕の中に引き寄せ、両肩に寄りかからせた。


二人の頬はわずかに赤く、少し恥ずかしそうだったが、逃れようとはしなかった。私の慰めに身を委ね、徐々に体を緩め、深く眠りについた。私の指先が彼女たちの柔らかな髪を優しく撫でると、細やかで温かい感触が、なぜか心を安らげた。


徐敏芊は特に深く眠っており、無意識に腕を締めて私の前腕を軽く抱いていた。この安らぎを貪っているかのようだった。佐天千代は格別おとなしく、静かに肩に寄りかかり、息は柔らかく長く続いていた。


おそらく、芊芊は古い夢に落ちているのだろう。


しばらくして、柔らかく細切れな寝言が小さく聞こえた。子供特有の悔しさと依存を帯びていた。


「……行かないで……ママ」


私の心臓が突然縮み、息がわずかに止まった。


また、この曖昧な記憶の空白だ。


私は幼い頃に彼女と共に過ごした些細な日々をはっきり覚えている。優しい眉目も、一緒に料理をした細やかな温かさも。だが、彼女の母親の顔、声、完全な過去だけがすべて曖昧で砕け散っており、まるで目に見えない力によって意図的に剥ぎ取られ、消し去られたかのようだった。


そして彼女の改名の秘密。かつての徐溟芊が、今の徐敏芊になったこと。長く心にまとわりついている疑問だが、私はまだ適当なタイミングを見つけて問い質すことができずにいた。


時機はまだ来ていない。


私は心の中で確信した。毒虫迷宮の秘密を完全に暴き、世界の底層に隠された神啓のルールを覗き見て初めて、消し去られたすべての真相を繋ぎ合わせる機会が訪れるのだと。


---


**【支線・雷葛の過去】**


同じ頃、鍛冶屋の中。


雷葛は鉄槌を握り、真っ赤に焼けた精鉄を何度も強く打ち据えていた。火花が飛び散り、落ち着きと滄桑の刻まれた横顔を照らす。炉の火は激しく燃え、鍛造室全体を熱く乾かしていたが、彼の瞳は虚ろで、心はすでに数十年前の、家国を滅ぼしたあの大災厄へと飛んでいた。


突然、低く冷たい男の声が脳裏に響き、彼を封印された血色の記憶へと引きずり込んだ。


「子供、早く行け」


赤髪に龍の角を持つ長身の男が、目の前の惨状の廃墟の中に立っていた。鱗紋が首を覆い、羽翼を背後に畳み、全身に龍裔特有の凛とした威圧を纏っていた。彼は幼い雷葛を見下ろし、淡々としながらもわずかな惻隠を隠しきれない口調で言った。


「ここはもう完全に陥落した。隠れて生きろ。魔物に見つかれば確実に死ぬ」


言葉を残すと、彼は数袋の乾し糧と清水を放り投げ、それ以上何も言わず、龍翼を広げて魔物の大群の中へと飛び込み、単独で滔天の災いを食い止めた。


幼い雷葛は全身傷だらけで、傷口が焼けるように痛んだ。彼は乾し糧を握りしめ、振り返ることもできず、全力で無人の安全地帯へと駆け出した。


尽きない恐怖と茫然が彼を包み、無数の疑問が心に渦巻いて離れなかった。


なぜだ? なぜ穏やかな故郷が一夜で崩れ落ちたのか? なぜ両親があの災難の中に永遠に留まったのか? 生霊を屠るあの魔物たちは一体どこから来たのか? 突然現れたあの龍角の強者は、なぜ見知らぬ自分を命懸けで救ったのか?


あの大災厄は深夜に始まり、音もなく、しかしメセビロ国全体の安寧を覆した。


耳をつんざく全域警報が夜を切り裂き、幼い雷葛は眠りの中で目を覚ました。聞こえたのは両親の慌ただしい足音と、慌てて荷物をまとめる音だけだった。父は必死に生存物資をかき集め、母は細々とした金銭を急いで包んでいた。彼の懵懂とした問いに、誰も答えなかった。


「ストゥ、先に下に降りて大人しく待ってて。パパとママが片付けたらすぐ行くから、もう少し待っててくれる?」


母の優しい声が、災難が降りる前の最後の優しさだった。


小さな雷葛は素直に頷き、ゆっくりと階下へ向かった。だが、階段を一歩踏み出した瞬間、激しい震動が家全体を襲い、連続する爆発の衝撃が壁や瓦を容赦なく叩き落とした。


恐慌が瞬時に幼い彼を飲み込み、彼は地にへたり込み、声を限りに叫んだ。「パパ! ママ! 怖いよ!」


「すぐ行く! 子供、金はもういいから、早く逃げて!」


「うん!」


ドゴォォォォォォ——!


真っ赤な火球が正確に家の最上階を直撃し、激しい爆発が建物全体を引き裂いた。狂暴な衝撃波が小さな雷葛を壁に叩きつけ、激痛が全身を襲い、視界が真っ暗になって意識を失った。


どれほどの時間が経ったのか、微かな冷たさが彼を呼び覚ました。


朦朧とした目を開けると、彼は瓦礫の中に横たわらされており、周囲には生気を失った無数の民衆が無秩序に横たわっていた。人混みを透かして見た先に、瓦礫の下で静かに横たわっている両親の姿があった。


頭は壊れ、全身が血にまみれ、すでに呼吸など残っていなかった。


小さな雷葛はその場で硬直し、泣き叫ぶことも、崩れ落ちることもなく、心はただの死のような静寂に包まれていた。故郷が滅び、肉親が死ぬ瞬間を目撃したその時、心の柔らかさと童心はすでに完全に死んでしまっていた。


「へえ、まだ漏れたガキがいたとはな」


嗄れた、狰狞な笑い声が突然背後から響いた。


小さな雷葛は硬直したまま振り返った。そこにいたのは、ハゲタカに似た姿でありながら、しわくちゃの老人の顔を持つ魔物だった。彼を見下ろし、瞳には貪欲と戯れが満ちていた。


「子供の血肉が一番新鮮で美味い」魔物はゆっくりと着地し、一歩ずつ近づいてきた。「お前の両親は金と食糧を抱えて必死に逃げ回ったが、一時しのぎができると思ったのか? まったく愚かだ。この土地はもう我々の占領下だ。お前らなどは、ただの屠られる子羊に過ぎん!」


耳障りな嘲りが鼓膜に突き刺さり、小さな雷葛の瞳は完全に暗く沈み、すでに運命を受け入れていた。彼は目を閉じ、静かに神に神罰を下し、生霊を屠るこの魔物たちを裁いてくれるよう祈った。


死の影が瞬時に降りかかり、魔物が翼を広げて急降下し、鋭い爪が致命的な冷光を帯びて彼の頭を狙った。


予想した痛みは来なかった。


一本の長い黒い影が突然現れ、片手で魔物の喉を容赦なく掴んだ。力は狂暴を極めていた。乾いた破裂音が響き、魔物の首は瞬時に砕かれ、紫色の汚血が飛び散って地面を染めた。


来た者は袖の血汚れを払い、少し苛立ったような口調で言った。「汚いな」


「助けてくれて、ありがとう」小さな雷葛は無表情のまま、低く礼を言った。


相手は答えず、ただ淡々と目の前の惨状の廃墟を眺め、静かに感慨した。「この街はもう完全に終わった。国家の援軍がすぐに着く。私も去るべき時だ」


画面が切り替わり、現在に戻る。


雷葛は記憶の末尾に縮こまり、心には依然として当時の恐怖と茫然が残っていた。あの災難の後、彼は崩れかけた廃墟の隙間に隠れ、最も絶望的な一夜を耐え抜いた。


馬蹄の音、刃のぶつかり合う音、魔物の咆哮、民衆の叫び声が入り混じり、長い夜を貫いた。彼は歯を食いしばって尽きない闇を耐え、ようやく夜明けを迎えた。


硝煙が晴れ、魔物が退き、守城の兵士たちが戦場を清掃する中で彼を発見し、難民キャンプに連れて行って保護した。


「坊や、ここで安心していなさい。我々はまだ残った魔物の掃討を続けなきゃならん」


「お願いします……みんなを必ず守ってください」


「任せてくれ! メセビロの繁栄と昌盛のために!」


一週間後、全国を席巻したこの魔物の大災厄は、人類陣営の勝利で幕を閉じた。


身寄りのない雷葛は、遠方の鍛冶職人に引き取られ、見知らぬ土地で鍛冶の徒弟となった。師匠が病死した後、彼は一人で日に日に寂れていく鍛冶屋を継ぎ、一つの技を守りながら穏やかに暮らしてきた。そして今日、天木と出会い、再び漂泊と冒険の人生を再開したのだ。


「旦那、何ぼーっとしてるんですか? 鉄の塊をずっと見つめて」徒弟の声が彼を現実に引き戻した。


雷葛は我に返り、瞳の奥のすべての滄桑と悲涼を収め、淡く微笑んだ。「何でもない。ただ、古いことを少し思い出しただけだ。もう過ぎたことだ。しっかり鉄を打て。心を込めて技を学べ」


---


**現在・鞍馬鉱場**


馬車は三十分ほど安定して走り、最終的に鞍馬鉱場の入口に静かに停まった。


私は商人ガル・スノウの身分で、事前に商人協会で鉱石取引と大量輸送のすべての手続きを済ませていた。車から降りると、鉱場の受付担当者が満面の熱意で駆け寄り、恭しく、限りなく機嫌を取ろうとしていた。


私は落ち着いて手を上げ、商人免許を見せ、穏やかな口調で言った。「こんにちは。ガル・スノウと申します。新参の貿易商人です。本日は鉱石の調達についてお話ししたく参りました」


「ガル様、お待たせいたしました! 昨夜協会から通知が届いており、すでに長くお待ちしておりました」担当者は満面の笑みで、態度は卑屈だった。


徐敏芊がそっと私の耳元に寄り、小さな声で疑問を漏らした。「天木、なぜこの人はこんなに機嫌を取るの? 熱すぎるくらいじゃない?」


私は低く笑い、耐心強く説明した。「商人はこの鉱業都市では資本と資源の象徴だ。私は資格も揃い、取引量も十分だ。彼らにとっては貴重な大口顧客だから、当然重視される」


芊芊は半ば理解したように頷き、おとなしく脇へ下がった。


担当者はタイミングよく話を引き取り、本題に入った。「ガル様は今回、どのような鉱石を調達なさるおつもりですか? すぐに人手を手配して準備いたします」


「鉄鉱、ミスリル、魔晶、龍胆石。あるだけ全部引き取る」私の口調は平静だったが、疑いの余地のない底力を帯びていた。


担当者の顔色がわずかに引きつり、困った様子を見せた。「鉄鉱と魔晶は在庫が十分です。ですがミスリルは埋蔵量が少なく、在庫も限られており、龍胆石に至ってはまだ採掘段階で、大量供給は当面難しい状況です」


私の瞳がわずかに凝り、口調に確固たるものが加わった。「採掘が滞っているだけではない。鉱場の内部で、かなりの厄介事が発生しているのだろう」


私の言葉は急所を突き、相手の心を一瞬で掴んだ。


担当者の顔色が急変し、慌てて声を潜め、恐慌した様子で懇願した。「ガル様、どうか声を大きくなさらないでください! 鉱洞の深部に最近、大量の蠍の魔物が湧き出しており、数が膨大で、殺しても殺しても尽きません。無数の冒険者がそこで命を落とし、採掘作業は完全に停滞しています。このままでは投資家が即座に撤退し、鉱場全体が閉鎖されてしまいます!」


「中を見てみよう」私は淡々と言った。


担当者は慌てて止めようとした。「絶対にいけません! 魔物の掃除は冒険者に任せればいいのです。ガル様は我々の大切なお客様です。危険を冒す必要などありません!」


「彼をガル様と一緒に行かせればいい」


低く厚い声が、突然担当者の背後から響いた。


筋骨隆々で筋肉のラインが鋭い黒衣の大男がゆっくりと歩み出てきた。気配は沈着で、全身にごく薄い闇属性の魔力の波が漂っていた。私の視界インターフェースにはプレイヤー専用のタグが明確に浮かび、情報はすべて暗号化されており、私の偽装状態とまったく同じだった。


彼の瞳には深浅の判別しがたい笑みが浮かび、私を見て言った。「こちらがガル旦那様ですか? 若くして商界に確固たる地位を築くとは、実に大したものです」


「貴方もなかなかの深みをお持ちのようだ」私は落ち着いて礼を返した。


「はは、客套の言葉は不要です。鉱洞の道は私が一番よく知っています。一緒に入って探ってみましょう」


私はわずかに頷いて応じた。


傍らの佐天千代がすぐに一歩前に出て、静かに念を押した。「ガル様、どうかご無事で。私たち二人は鉱場の外でお待ちします。決して離れません」


徐敏芊も慌てて同調し、瞳には心配が満ち、こっそりと私を見やり、大男への警戒を隠していた。


私はわずかに頷き、彼女たちに安心させる視線を送ると、黒衣の大男と肩を並べて、薄暗く深い鉱洞へと足を踏み入れた。


二人の姿が鉱洞の入口に消えると、徐敏芊はようやく小さな声で愚痴をこぼした。「あの人、すごく怖そう。筋肉が誇張されてて、気場が冷たい。どう見ても善人には見えない」


佐天千代の瞳は静かに沈み、淡々と言った。「見た目で人を判断してはいけない。でも、彼の身に漂う闇属性の気配は決して善いものではない。さっき天木がそっと目配せしてくれた。この人は、やはり問題がある」


鉱洞の中は暗く湿っており、奥へ進むほど空気がますます腐食して鼻を突いた。


道中の岩壁には一本の草もなく、まばらに生えていた低い雑草はすべて黄ばんで腐り、土壌は深刻に酸性化していた。至る所に毒虫が這った細かな痕跡があり、サササという異音が絶えず、頭の皮が引きつるようだった。


歩きながら、大男が突然、何気ない様子で口を開いた。「ガル様は常に顔を隠しておられますが、何か言いにくい事情でも?」


私は手を上げ、ゆっくりと顔の白狐の仮面を外し、平淡で清冷な眉目を露わにした。「ただ単純に仮面が好きで、顔を隠す習慣があるだけです」


大男はじっとしばらく観察し、眉を微かに寄せたと思ったらすぐに緩め、笑って手を振った。「いえいえ。ただ、私が想像していた姿と少し違っただけです」


「ほう?」私はわざと好奇心を装った。「もしかして、我々は以前どこかで会ったことが?」


「まさか。ただ、妙に親しみを感じただけです」彼は適当に誤魔化して、それ以上聞かなかった。


私は心の中で納得した。この男はやはりわざと探りを入れ、腹に一物あるようだ。


さらに鉱洞の奥へ進むと、道中には依然として多くの鉱夫が頭を下げて働いていた。大汗をかき、表情は麻木で、周囲に潜む致命的な危険などまったく気にしていない様子だった。


私はわずかに横目をやった。「魔物が猛威を振るっているのに、なぜ皆は無理に採掘を続けるのですか?」


「皆、哀れな人たちですよ」大男は軽く溜め息をつき、口調にいくらかの冷淡さを帯びていた。「大半は賭博で借金を負い、黒い契約にサインした人たちです。期限までに返済できなければ死あるのみ。死を待つくらいなら、鉱洞で命懸けで働いた方がまだ一線の生機があるというわけです」


私は視線を人々の上に走らせ、その中に何人かのプレイヤーのIDタグを見つけて、心中が複雑になった。


名利のために冒険する者もいれば、生き延びるために必死に生きる者もいる。ゲームの世界に足を踏み入れたとしても、階層と運命の不公平は依然としてどこにでも存在していた。


大男が突然感慨を漏らした。「この世に絶対の公平など存在しない。衆生は皆、運命に翻弄されている。借金に催眠され、無理やり命を売り渡すこれらの苦役のように、身の自由もきかない」


私は淡々と応じた。「私はもともと利己的で、天下を思う心などない。求めるのはただ、自分一人の安穏と、長く生き延びることだけだ」


「永生か?」大男は低く嗤った。「それは神にのみ許された権能だ。凡夫俗子がどうして望めるものか」


「その神は、本当に存在するのか?」私は反問した。


彼はしばらく沈黙し、ゆっくりと口を開いた。「存在するのかもしれない。あるいは、ただ世の人々の虚妄な幻想に過ぎないのかもしれない」


私は目を上げ、底の見えない鉱洞の奥を眺め、口調を確固たるものにした。「存在する。そして神の秘密は、この迷宮と密接に結びついている」


大男の瞳が一瞬動き、眼底に異色が閃き、笑って同調した。「どうやら我々の考えは一致しているようだ」


サササ——!


細かく耳障りな這い音が突然、地底の奥から炸裂した。密集して急促で、鳥肌が立つようだった。


周囲の空気が瞬時に凝り固まり、二人は同時に足を止め、表情を引き締めて足元の岩層を警戒した。


大男の目が鋭くなり、瞬時に専属武器「黒造主」を抜き、砲形態に切り替えた。濃密な紫色の魔力が砲口に集まり、轟然と地面を撃ち抜いた!


巨大な紫色の魔力光球が岩層を貫通し、真っ直ぐ地底の奥へと落ちていった。短い轟音の後、重いものが落ちる鈍い音が響き、地底の躁動が瞬時に収まった。


「探りを入れた毒虫を一匹始末した」大男は沈んだ声で言い、瞳には重さが満ちていた。「だが、下にあるものはこれだけではない」


二人は目を合わせ、言葉を交わす必要もなく、同時に撃ち抜かれた深い坑へと身を躍らせた。


失重感は一瞬で消え、両足が着地した瞬間、濃厚な腥く腐った毒気が面を襲い、吐き気を催した。


目を上げると、地底の空間は広大無辺で、光景は戦慄を誘うものだった。


一面に巨大な蠍やムカデの残骸が散らばり、岩壁には蜘蛛の巣がびっしりと張り巡らされ、漆黒の毒蜘蛛が糸の上にびっしりと居座り、殺気が満ちていた。視界の果てには、一面の巨大で古朴な石壁がそびえ立ち、石壁の紋様は斑に剥げ、まさに毒虫迷宮の封印の大門だった。


石門はすでに完全に開き、漆黒の洞口は巨大な獣が開いた血の口のように、すべての光を飲み込んでいた。


私の思考は瞬時に内測時期へと飛んだ。


私が内測でログインした最初の都市は、まさに冠陽市だった。そしてここで、賭場の老板クラムチと、ブラジルから来た親友ミギルと出会った。


三人の初心はそれぞれ異なり、最終的には道を違えた。クラムチは冠陽市に残って根を張り、ミギルは私と共に未知の秘境を探る道を選んだ。そしてこのまだ開発されていなかった鉱洞と隠された迷宮は、私たちが偶然発見した秘密だった。


初めてここを踏んだ時、山体はまだ採掘されておらず、周囲は人っ子一人いなかった。私とミギルが洞穴に入った途端、一頭の巨大な百足虫が道を塞いで襲ってきた。


「強化魔法をかけてくれ」私は沈んだ声で言った。


ミギルは手を上げて祷文を唱え、神聖な光暈が全身を包んだ。「神聖なる主神よ、迷える子に力と加護を与えたまえ!」


増幅の力が瞬時に四肢百骸に注がれ、全身の力が暴騰した。私は黒造主を握りしめ、力を溜めて洞穴を横切る一道の漆黒の剣気を放ち、巨大な百足虫を瞬時に両断して屍を落とした。


「無事に片付いた。苦労をかけたな、天木」ミギルが軽く笑った。


「先を続けよう。気をつけて」私は武器を収め、さらに探りを進めた。


ミギルは体質が弱く、私はずっと足元の状況に注意するよう彼に言い、不注意で怪我をしないよう気を配っていた。だが言葉が終わった瞬間、彼が前に踏み出した足が、ちょうど私の剣気が切り裂いた岩層の亀裂の縁に乗ってしまった。


岩層が震動し、全身漆黒で螯が鋭い巨大な蠍が突然亀裂から飛び出し、毒尾が致命的な劇毒を帯びてミギルの心口を突いた!


私の反応は極限まで速く、瞬時に刀を振って蠍の尾を斬り落とし、続けてスキル「暗夜オペラ」を発動した。漆黒の魔力が轟然と爆発し、巨大な蠍を徹底的に粉砕した。


ミギルが無事であることを確認して、私はようやく息を吐いた。だが下を見ると、深い亀裂の下では無数の毒虫が狂ったように蠢き、次々と上へよじ登り、びっしりと、際限がなかった。


「続けて防御と浄化をかけてくれ!」私は沈んだ声で叫んだ。


神聖なバフが再び全身を覆い、私は手を上げて魔力殲撃砲を放ち、通路を爆破して身を躍らせ、地底の毒虫に全面的な掃討を開始した。黒泥の腐化の力が四方を席巻し、逃げる毒虫をことごとく滅殺した。


すべての脅威を粛清し、私は頭を上げて亀裂の上を見て、静かに言った。「安全だ。飛び降りろ。私が受け止める」


ミギルが身を躍らせ、私は彼をしっかりと受け止め、軽く着地した。


彼は奥の漆黒の石門を見上げ、目を丸くした。「あそこは何だ? 普通の洞穴には見えない。異世界の迷宮みたいだ」


「わからない」私は石門を凝視し、瞳に重さを湛えた。「だが、不用意に突入するのはリスクが大きすぎる。我々二人だけで攻略するのは、あまりに冒険だ」


「だめだ!」ミギルが慌てて止めた。「もし迷宮がリフレッシュされて消えたり、石門が完全に閉じてしまったりしたら、二度と探る機会がなくなる!」


私はしばし沈吟し、最終的に頷いて応じた。「わかった。中を見てみよう」


あの初探の迷宮では、我々はずっと劇毒領域に沈み、何度も毒虫の包囲に遭い、解毒剤と神聖な加護でどうにか支えていた。一路困難を極めて奥へ進み、最終的に迷宮の核心に到達し、この秘境の終極の鎮守者——双翼毒龍蠍と遭遇した。


それは通常の魔物の等級を遥かに超える恐怖の存在で、攻防を兼ね備え、劇毒は解けなかった。激戦の最中、ミギルが不注意で毒液を浴び、毒素が瞬時に経脈に侵入し、傷勢は危急だった。


私に選択肢はなく、探索を強制中断し、重傷で意識を失ったミギルを連れて緊急撤退し、一路駆け抜けて洞穴を飛び出し、冠陽市の病院に運んでようやく彼の命を繋ぎ止めた。


そしてこの、まだ開放されていない秘境を勝手に探索したせいで、私は事後にGMからの警告通知を受け取った。


「迷宮はまだ正式に開放されていない。私的な探索は規約違反のリスクが極めて大きい。次回また勝手に侵入した場合、秘境探索権限を剥奪する」


私は頭を下げて従順に応じつつも、心の中ではすでにこの迷宮のすべての配置、魔物の習性、劇毒の弱点をことごとく刻み込んでいた。


当時GMが一時的に迷宮の洞口を封印し、毒虫の氾濫を抑えた。だが時が経つにつれ封印の力は年々減衰し、ついには完全に失効し、地底の毒虫が再び氾濫して鉱場を徹底的に席巻したのだ。


思考が戻り、現在に戻る。


目の前の石門は依然として古朴で重厚だったが、周囲の魔物の気配はさらに暴虐で陰惨で、迷宮内部の危険度は内測時期を遥かに超えていた。


私は横にいる黒衣の大男を見て、瞳は静かに、戦意が徐々に湧き上がった。


「準備はいいですか?」


大男は黒造主を握りしめ、瞳に鋒芒を露わにし、沈んだ声で応じた。「いつでも待命です、ガル旦那様!」


次の瞬間、尽きない毒虫が迷宮の洞口から狂ったように溢れ出し、空を覆い、殺気が凛冽だった。


私は手を上げて随身の鉄剣を握りしめ、魔力が全身に湧き、大男と肩を並べて立ち、押し寄せる毒虫の狂潮に直面した。


迷宮の奥、瘴気が渦巻き、暗部にベロシフが静かに姿を隠し、冷たい視線がすでにしっかりと私の姿を捉えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。