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TSしましたが、取り忘れてますよ?  作者: kero


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王宮は地獄

「まずはお名前ですね。王宮で『聡(さとし)』はさすがに無理があります」よろずが冷徹な声で言い放つ。


「じゃ、じゃあ『サトコ』で……」

却下です。安直すぎます。シャルロット様の妹君、あるいは遠縁の令嬢として通用する高貴な響きが必要です。


……そうですね、これからは『ステラ』とお名乗りください


ステラ。星という意味か。中身30歳のおっさん自衛官に付けるにはキラキラしすぎているが、今の俺(地味メガネ状態)の見た目なら、ただの「名前負けしている陰気な小娘」で済む。


「名前が決まったところで、次は『身だしなみ』です。シャルロット様がお待ちかねですよ」


よろずに連行されたのは、王宮の一室にある豪華な衣装部屋だった。


そこには、元に戻った絶世の美女・シャルロット姉さんが、目をキラキラ輝かせながら待っていた。


「待っていたわ、ステラちゃん! あなたがあのメガネを外した時の姿、本当に可愛いんだもの。色んなお洋服を着せてみたくて!」


「えっ、いや、姉さん、あの姿になるにはあの羞恥呪文を――」


「ほら、早く唱えて!」美人の圧に押され、俺は涙目で両手を頬に当てた。


「わ、わたしはっ、せかいいち可愛い魔法少女ですっ……☆(5回目)」

カチャリ。

メガネが外れ、爆発的な光と共に超絶美少女(魔法少女モード)に変身する。


「やっぱり可愛いわ! よろず、まずはこの最新流行のミニスカートドレスを着せてみて!」


「はい、シャルロット様!」

二人のノリノリな手によって、俺はフリフリの超ミニスカートドレスを着せられた。鏡を見ると、気分の悪くなるほどの絶世の美少女。

……なのだが。


「……あ」

よろずの手がピタリと止まった。

シャルロット姉さんも、俺の足元を見て完全にフリーズしている。


「あの……ステラ様……?」

「な、何だよ、よろず」

「……は、はみ出ています」


「何が」

俺が下を向くと、そこには短いスカートの裾から、明らかに女の子の衣服の限界を突破した

『立派なモノ』が、

自己主張激しくコンニチハしていた。そう、俺の下半身はハイブリッド仕様。女の子の身体ベースなのに、取り忘れられた特大のブツがそのまま残っている。

ミニスカートなんて穿いたら、物理的に収まるわけがない。


「きゃあああああ!? な、何よそれ! 本当に付いてるのね!?」


「シャルロット様、見ないでください! 目が腐ります! というか、女の子の顔して何てものぶら下げてるんですかこの変態魔法少女はーーーっっ!?」


「俺が望んでこうなったんじゃねえよおおお! 邪神に言え、邪神にぃぃぃ!」


絶世の美少女二人が「きゃあきゃあ」と顔を真っ赤にして逃げ惑い、俺はフリフリのミニスカート姿で股間を押さえて絶叫する。

お色気シーンのはずなのに、地獄絵図にしかなっていなかった。


ミニスカートは一生物理的に禁止、ということで落ち着きましたね。

次は『お清め』です」精神的に消し炭になった俺の前に、よろずが今度は湯浴みの準備を整えて現れた。王宮の巨大な浴場。

白い湯気が立ち込める中、縮こまって湯船に浸かっていた。


「さあ、ステラ様。背中をお流しします」

「いや、いい! 自分は元自衛官だ! 身体の洗浄くらい自分で行える!」


何を言っているのですか。

令嬢たるもの、身の回りの世話はメイドに任せるものです。

ほら、お湯から出てくださいよろずが容赦なく俺の手を引っ張り、湯船から引きずり出す。

湯気で見えにくいとはいえ、俺のハイブリッド仕様の全身がよろずの前に晒された。


「……ふむ。胸は大変立派なのに、やはり下半身は凄まじい違和感ですね。少し失礼します」


「ひゃんっ!? ど、どこ触って……バカ、そこは洗うな! 自分でする! 自分で――」

前世でどれほど過酷なレンジャー訓練を受けても、一滴の涙すら流さなかった長谷川聡曹長。

しかし、20歳そこそこのメイドに全身をガシガシと、

特に『トップシークレットな部分』まで事務的に洗われる羞恥心には耐えられなかった。


「あ、圧倒的……精神的敗北……」俺の脳の許容量は限界を突破し、白目を剥いてその場にバタリと倒れ込んだ。

「あら? ステラ様? しっかりしてください!」

お酒の三杯ルールではなく、純粋な羞恥心によって、俺は綺麗に気絶したのだった。


翌日。

お風呂での精神的ダメージからどうにか復活した俺は、ドレスの裾を捌くための


『ダンスレッスン』を受けていた。

ワン、ツー、スリー。ステップが硬いです、ステラ様。自衛隊のほふく前進ではありませんよよろずの指導のもと、慣れないヒールでよろよろと踊る。


そこへ、「おや、レッスン中失礼するよ。臨時の講師として派遣された、ドン・ファンと申します」ガチャリとドアを開けて入ってきたのは、いかにも「仕事ができます」風の、キザな笑みを浮かべた人間の男だった。


「あら、新しい講師の方ですね。よろしくお願いします」

よろずが頭を下げるが、俺は本能的にその男から漂う「異常な気配」を察知した。自衛官の危機管理センサーがビンビンに跳ね上がっている。


「では、僕がリードしよう。さあ、手を取って、可愛いステラちゃん」

男が俺の手を取り、腰を引き寄せる。

その瞬間、男が俺の耳元で、クスッと楽しげに囁いた。

いやぁ、ミニスカートからはみ出てたやつ、最高だったよ。

大きくしたかいがあったねぇ!

お風呂で気絶しちゃうのも可愛いねぇ、僕の魔法少女ちゃん♪


「――ッ!!」

この声、この喋り方。間違いない、あのステータス画面の向こうで爆笑していた【混沌神】だ!なんで人間の男に化けて王宮に乱入してきてるんだよ!?

「お、お前……!」


静かに。せっかく身近で見にきたんだからさ。

うん、やっぱり最高に僕好みのおもちゃだ。

これからもっと君の近くで、たくさん介入してあげるからね混沌神は糸目を開き、妖しく微笑んだ。

神の気まぐれな介入が、ここからさらに加速することなど、この時の俺には知る由もなかった。


クソメガネの終焉混沌神が講師として乱入してきてから数日後。手始めとばかりに、王宮でとんでもない事件が発生した。

王城の北側に位置する、長年封印されていた『呪いの離宮』の結界が突如として破れ、中から溢れ出た怨霊や呪いの魔物が、王宮のメイドや騎士たちを襲い始めたのだ。


「大変です、ステラ様! 離宮の怨霊たちが暴走しています! 騎士団でも抑えきれません!」

よろずが血相を変えて飛び込んできた。


「チッ、また俺の出番かよ!」

俺は覚悟を決め、衣装部屋へ走る。しかし、今回はよろずが他の避難誘導で離れなければならなかった。


「困ったわね。誰かステラ様のサポートに動けるメイドは――」


「あ、それなら新入りの私がやりまーす!」

ひょっこりと手を挙げて現れたのは、見慣れない新人メイドだった。

小柄で、どこかヘラヘラとした生意気な顔立ち。

……だが、俺はそのメイドの目を見てすぐに察した。


(またお前か、混沌神……!!)

だが、背に腹は代えられない。俺は神が化けた新人メイドを引き連れ、呪いの離宮へと突入した。

「さあステラちゃん、ここが戦場だよ! ほら、早くあのセリフを!」


うるせえ!

――わたしはっ、せかいいち可愛い魔法少女ですっ……☆(6回目)」

カチャリ。

メガネが外れ、最強の魔法少女へと変身する。離宮の奥からは、おぞましい形相をした巨大な怨霊のボスが咆哮を上げて迫ってきた。


「ギシャアアアアアッ!」

「お前らの相手は、中身おっさんの魔法少女だ! 鍛冶神の加護・グロック連射ァ!」光り輝く銃弾が怨霊を次々と撃ち抜く。

しかし、怨霊のボスは物理や通常の魔力を透過し、俺のフリフリドレスを切り裂こうと爪を振り下ろした。


「あぶないよステラちゃん! はい、これ使って!」

神化けメイドが、そこらへんに落ちていた『ただの鉄パイプ』を俺に投げつけてきた。

「鉄パイプで怨霊が倒せるかよ!」と掴んだ瞬間、【鍛冶神の加護】と【魔法少女の加護】が同時発動。

鉄パイプがまばゆい聖なる光を放つ「超重質量マジカルステッキ」へと魔改造された。


「自衛隊格闘術――撲殺ストライク!!」

俺は光る鉄パイプを両手で構え、怨霊のボスの脳面にフルスイングで叩き込んだ。ドゴォォォン!! という凄まじい衝撃音と共に、怨霊のボスは消滅を通り越して分子レベルで粉砕され、離宮を覆っていた呪いの霧が一気に晴れ渡った。


「ふぅ……。状況、終了」

鉄パイプを肩に担ぎ、俺はふぃーと汗をぬぐう。


「いやぁ、素晴らしい暴力だったよ、ステラちゃん! さすが僕の選んだ自衛官だ!」神化けメイドがパチパチと手を叩きながら歩み寄ってくる。


おい、混沌神。事件は片付いた。

さっさとそのメイドの姿を解け。俺はメガネをかけて地味女に戻る

俺は床に落ちていた、いつもの『丸メガネ』を拾い上げようとした。


しかし、その手よりも早く、神化けメイドが丸メガネをひょいと持ち上げた。


「あ、これ? もう必要ないよ」


「何がだよ。それがないと俺は地味女に戻れないだろ」


「君、まだ気づいてなかったの?」

混沌神はニヤニヤと笑いながら、手の中の丸メガネを口元に近づけた。

すると、そのメガネが生き物のようにドロドロと溶け、神化けメイドの身体へと吸収されていく。


「え……?」

このメガネ、呪いのアイテムなんかじゃないよ。僕の『分身』の一部さ。

君の顔に張り付いて、周りの認識を『地味な女』に書き換えて遊んでたんだ


俺が毎朝、顔の皮が剥がれるほど引っ張っても外れなかった理由。

それは、メガネそのものが【混沌神】の身体の一部だったからだ。


じ、じゃあ、これからはどうすればいいんだよ!? メガネがないと、俺は変身が解けた後、あのプロポーズ狂い共の前に素顔(狂気の美少女)を晒すことに――


「ひゃはは! だから言ったじゃない、もっと僕を楽しませてよって♪」

神化けメイドの身体が、徐々に光の粒子となって消えかけていく。

これからは、その自慢の素顔を隠すために、せいぜい頑張って隠密行動(ベール生活)でも送りなよ! 風が吹くだけで大パニックだなんて、次の遊びとして最高に楽しそうじゃない? あはは!

混沌神は最後に、最高に楽しげなウインクを俺に送った。

「また遊ぼうね、僕のステラちゃん☆」光の粒子が完全に消え去り、静寂が戻った離宮で、俺の変身が解ける。手元に残されたのは、メガネの消え失せた、無防備で絶世の素顔だけ。


待て……嘘だろ……。これからは、風が吹くたびにあの求婚津波に襲われるのかよ……!?」俺は震える手で、近くにあったカーテンの切れ端を必死に頭から被り、顔を隠した。新しく授かった『ステラ』という名前と共に、これからは「ベールがめくれたら即世界が狂う」という、さらなる綱渡りのハプニングライフが幕を開けようとしていた。



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