お披露目☆彡
バルタザールが捕縛され、王宮の地下牢へと連行された翌日。
俺は本来なら「王国を救った英雄」として称賛されるはずだったのだが、事態はそう簡単には進まなかった。
「聡ちゃん、本当にお願い。兄上や他の重臣たちが、どうしてもあなたの『魔法少女の力』をもう一度見たいと言って聞かないのよ」元の絶世の美女に戻ったシャルロット姉さんが、申し訳なさそうに手を合わせて頭を下げてくる。
ワニの姿の時も美人(声が)だったが、人間の姿になると破壊力が格段に上がっていて、中身がおっさんの俺でもちょっとドギマギしてしまう。
「いや、姉さん。あの変身、めちゃくちゃ恥ずかしいキーワードを叫ばなきゃいけないんですよ? 公開羞恥プレイですよ?」
「分かっているわ。でも、国の危機を救った謎の力が本物かどうか、重臣たちを納得させるためには必要なの。お願い……!」
うっ、美人の上目遣いは卑怯だ。自衛官、上官の命令(と美人の頼み)には逆らえない。結局、俺は城内の広大な訓練場へと連れていかれる羽目になった。
観客席には、国王陛下をはじめ、王国の名だたる貴族や重臣たちがずらりと並んでいる。みんな「噂の最強魔法少女とはどんなものか」と興味津々の目で見つめていた。訓練場の中央にぽつんと立たされた、地味メガネ姿の俺。
深呼吸を一つ。
よし、もう羞恥心はダンジョンの肥やしにしてきた。俺は両手を頬に当て、片目を瞑って叫んだ。「わ、わたしはっ、せかいいち可愛い魔法少女ですっ……☆(4回目)」
カチャリ。
メガネが外れ、爆発的な黄金の光が訓練場を包み込む。
光が晴れると、そこには可憐にポーズを決めた超絶美少女魔法少女が立っていた。
「おおおおお……!」
観客席から地鳴りのような歓声が上がる。
「よし、実演だな。ターゲットはあそこにある巨大な訓練用の岩だな」俺は魔法少女のステッキ――ではなく、腰から『銃剣』を抜いた。今の俺のサイズならショートソードサイズだ。これに魔力を込める。
【魔法適正:大】の効果により、銃剣の刃にドス黒い、だが超強力な魔力のオーラがまとわりついた。
「いくぞ……ハァァァァッ!」
地を蹴り、一瞬で音速を超えて間合いを詰める。
そして、巨大な岩に向かって銃剣を一閃した。
戦闘技術と魔法少女のパワーが融合した一撃は、岩を十文字に切り裂き、次の瞬間、凄まじい大爆発を起こして岩を文字通りの『塵』へと変えた。
衝撃波で訓練場の地面が大きく陥没する。
「な、なんという威力だ……!」
「あれが、王国を救った魔法少女の力……!」貴族たちが驚愕のあまり椅子から転げ落ちる。
よし、これで実演は十分だろ。
俺がドヤ顔で地味メガネをかけ直そうとした、その時だった。カツン、カツンと、観客席から一人の若い貴族の男が訓練場へと降りてきた。
その目は完全に血走っており、恍惚とした表情を浮かべている。
「素晴らしい……! 美しい! 強い! あなたこそ我が妻に相応しい! 魔法少女殿、どうか僕と結婚してください!」
「は?」
それを皮切りに、観客席にいた若い貴族や、警護の騎士たちが一斉に色めき立った。「ずるいぞ! 俺こそが彼女に相応しい!」
「いや、我が侯爵家が彼女を迎え入れる!」
「魔法少女ちゃん! 俺と結婚してくれ!」
「うわあああ! また始まった! 狂気のプロポーズ祭りだ!!」
俺はパニックになりながら、大急ぎで床から地味メガネを拾い上げて顔面に装着した。ピタッと張り付いた瞬間、俺の姿は「地味で陰気な小娘」へと戻る。押し寄せていた貴族たちは、急に現実に引き戻されたように「あれ? 魔法少女はどこへ行ったんだ……?」と周囲を見回し、我に返って恥ずかしそうに席へ戻っていった。呪われているのは俺の容姿(美貌)の方。
その事実を改めて突きつけられ、俺は訓練場の隅でがっくりと膝を突いた。――その様子を、遥か高みの、人間には決して知覚できない『世界の狭間』から見つめている存在がいた。
「ひゃはははは! 面白すぎる! 傑作だね、これは!」
混沌とした闇と光が混ざり合う空間で、一人の神がのたうち回って爆笑していた。【混沌神】。聡にあの奇妙なステータスと加護を授けた張本人である。
「いやぁ、まさかシャルロットのワニの呪いまで、あのおっさん自衛官の魔法少女昇龍拳で解決しちゃうなんてさ! 僕が仕込んだ『魔法少女の加護』、我ながら最高の仕事をしたよ!」混沌神は涙を流しながら笑い、楽しそうに指をパチンと鳴らした。
シャルロットの件も、最初から彼(彼女?)に解決させて楽しもうと思って、僕がちょっと運命の糸をいじっておいたんだけどさ。
期待以上のエンターテインメントだよ。あはは!
ひとしきり笑った後、混沌神は妖しく目を輝かせ、ニヤリと笑った。
こんなに面白いおもちゃ、簡単に手放すわけないじゃないか。
よし、次はどんな『試練(遊び)』に招待してあげようかな? もっとパニックになって、もっと面白い姿を見せておくれよ、僕の可愛い魔法少女ちゃん……♪
邪神の不穏な独り言は、当然、地上の聡の耳に届くことはなかった。
その日の夜、王城の豪華な晩餐会が開かれた。
バルタザール失脚とシャルロット王女の帰還、そして何より王国を救った(地味メガネ姿の)俺を労うための宴だ。
「聡ちゃん、本当にありがとう。今日のあなたの活躍、一生忘れないわ」
シャルロット姉さんが、隣の席で優しく微笑みながら、金色の美しい彫刻が施されたグラスを差し向けてきた。
いえ、姉さんのためならこれくらい。
でも、あのプロポーズの嵐だけは二度と勘弁してください
「ふふ、ごめんなさいね。さあ、これは王室御用達の最高級の果実酒よ。少しは疲れが取れるわ」
見ると、よろずやエドガーたちも、俺に感謝の眼差しを向けながらグラスを掲げている。
「……よし、今日は任務完了だ。飲むか!」
俺は腰の小袋にある無限ウォッカスキットルではなく、目の前にある高級果実酒に手を伸ばした。
パニックは収まっていたが、異世界のロイヤルな雰囲気に流され、喉も渇いていた。上品なグラスを傾け、一口ゴクリ。
「……美味い! なんだこれ、ジュースみたいにスイスイいけるぞ!」
前世のザルだった記憶が蘇り、俺は調子に乗ってもう一口、ゴクリ。カッと熱くなるウォッカとは違い、高貴な甘みが口いっぱいに広がる。
やっぱり王室の酒は格別だ。
「聡ちゃん、そんなに急いで飲まなくても……」
姉さんの制止の言葉が耳に入る前に、俺は完全に「明日の景気づけ」のノリになっていた。
「大丈夫ですよ姉さん! 俺の酒量を舐めないで――よし、もう一口、ゴクリ!」
通算、三杯目(三口目)。「あ」脳裏をよぎる、あの致命的な弱点。『俺の身体は、三杯で意識を失う』てっきり『スキットル』の呪いだと思っていたが眼鏡と一緒だった、おれ自身にかけられた呪いだった。高級ウォッカだろうが、王室御用達の高級果実酒だろうが、アルコールの種類は関係ない。
カウントされるのは「口にした回数」なのだ。「……あ、詰ん――」ガクッ。俺の意識は、王族や重臣たちが居並ぶ豪華なディナーテーブルの上で、高級ロースト肉の皿に顔面から突っ込む形で、またしても綺麗さっぱり途絶えたのだった。
(暗転)
「……うう、頭が痛い……」翌朝、俺は王城のゲスト用の、フカフカすぎる豪華なベッドの上で目を覚ました。案の定、皿にダイブした俺を、よろずあたりがここまで運んでくれたのだろう。
本当に毎回申し訳ない。
「あら、起きた? 聡ちゃん」ベッドの脇の椅子に、シャルロット姉さんが座っていた。その表情は、いつになく真剣だった。
あ、姉さん……昨夜は本当にすいませんでした。まさかまた三杯で潰れるとは……
いいのよ、その弱点はもう慣れたわ。
……それよりもね、聡ちゃん。あなたに、とても大切なお話があるの姉さんは俺の手を優しく握りしめ、じっと俺の目を見つめた。
あなたの中身が、異世界の高潔な『陸上自衛官』という男の魂であることは分かっているわ。
でもね、今のあなたの身体は、どこからどう見ても、そして世界のシステム的にも『女の子』なの」
「はぁ、一応下半身にはハイブリッドなアレが付いてますけど……」
それはそれとして! 今のままの名前(聡)や、そのガサツな自衛官らしい仕草のまま王城にいたら、いつか絶対に怪しまれてしまうわ。
バルタザールの残党だってまだ潜んでいるかもしれないのよ?」姉さんの言うことは、ぐうの音も出ないほど正論だった。
「長谷川聡、今年曹長になったばかり」というアイデンティティは、この異世界、特に王宮においては危険極まりない違和感でしかない。
だからね、聡ちゃん。今日からあなたには、もっと女の子らしい可愛い
『新しい名前』を付けるわ。
そして、よろずを先生にして、王宮の令嬢としても通用するような
『女の子らしい仕草の勉強』をしても there……ううん、してもらうわ!」
「ええええええええええっ!? 令嬢の勉強!?」
ベッドの上で俺の悲鳴が響き渡る。横から、いつの間にか現れたよろずが、これ以上ないほどサディスティックな笑みを浮かべて、ぶ厚い礼儀作法の本をドンと机に置いた。
「覚悟してくださいね、聡様。元がおっさんだろうと自衛官だろうと関係ありません。私の手で、完璧な淑女に調教……いえ、教育して差し上げますから」




