コボルト王国の職人たち
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### 第二部 山の中の大都市
#### 第一節 地下十層の街
翌朝。
俺は、王宮の客室で目を覚ました。
窓の外には、昨日と変わらず巨大な地下都市が広がっている。
いや、正確には山の内部に作られた都市だ。
天井はかなり高く、魔法の光を放つ結晶が星空のように散りばめられている。
その下には幾重にも重なった建築物があり、橋や通路が複雑に入り組んでいた。
「……これは、何度見てもすごいな」
俺はしばらく窓から景色を眺めていた。
「ステラちゃん、おはよう!」
扉が開き、混沌神が入ってきた。
「おはよう。朝から元気だな」
「今日は観光だからね!」
その後ろには始祖ママとエルミナ先生もいる。
「おはよう、ステラ。朝食の準備ができているわよ」
「ありがとう」
「今日は地下都市を案内してもらう予定だったわね」
「そうだな。楽しみにしている」
朝食を済ませると、昨日の宰相バルドが迎えに来た。
「ステラ様、本日は王都の地下街をご案内いたします」
「よろしくお願いします」
「まずは、王都の中央部からご覧いただきましょう」
案内されたのは、王宮の地下にある巨大な広場だった。
そこには多くのコボルトたちが行き交っている。
商店、食堂、工房、住居。
まるで地上の街がそのまま地下に移されたようだった。
「ここが第一層です。主に商業施設や公共施設が集まっております」
「なるほど」
「第二層から第四層までは住居が中心です。第五層から下は工房や倉庫、採掘施設などがございます」
「十層以上あるんじゃなかったか?」
「はい。さらに下には水路や地下農場、古い採掘跡などもございます」
「地下農場?」
「地下で育てられる作物があるのです。魔法の光を利用して、野菜や茸などを栽培しております」
「へえ」
俺は周囲を見回した。
確かに、壁際には植物を育てている場所がある。
光を放つ結晶が並び、その下で葉物野菜が育っていた。
「これは面白いな」
「地下で暮らす我々にとって、食料の確保は重要です。山の外から運び込むだけでは、何かあった時に困りますので」
「その通りだな」
俺は頷いた。
山岳国家ならではの工夫だ。
「それにしても、空気が綺麗だな。地下なのに息苦しさがない」
「換気設備が整っております。山の内部には自然の空洞も多く、そこを利用して空気の流れを作っているのです」
「なるほど。建築技術だけでなく、地形を読む知識も必要なんだな」
「はい。コボルト族は昔から、山の声を聞くと申します」
「山の声?」
「地面の振動や風の流れ、岩の音などから、山の状態を知るのです」
「それはすごいな」
俺は感心した。
地震や崩落の予兆を察知できるのなら、かなり有効な技術だろう。
「ステラちゃん、興味津々だね!」
混沌神が嬉しそうに言う。
「こういうのは面白いからな」
「じゃあ、パパがもっとすごい地下都市を作ってあげようか?」
「だから、作るな!」
「ええっ!」
「ここはコボルトの人たちが作った街だ。俺たちが勝手に手を加えるものじゃない」
「……そうだね」
混沌神が少ししょんぼりした。
始祖ママが、その頭を撫でる。
「パパはステラのために何かしてあげたいだけなのよ」
「気持ちは分かるけどな」
俺は混沌神を見た。
「俺は、ここの人たちが作ったものを見たいんだ。だから、勝手に新しいものを作るより、今あるものを教えてもらう方が嬉しい」
「……分かった!」
混沌神が笑顔になった。
エルミナ先生も頷いている。
「そういうことよ。あなたたちも、少しは学習しなさい」
「はい……」
「分かったわ……」
……よし。
#### 第二節 職人街の技術
地下都市の見学を終えた俺たちは、第五層にある工房街へ向かった。
そこは、まさに職人たちの街だった。
金属を叩く音。
木材を加工する音。
魔石を削る音。
様々な音が重なり、活気に満ちている。
「ここは、コボルト王国の産業の中心地でございます」
バルドが説明してくれた。
「我が国の職人たちは、代々受け継がれてきた技術を大切にしております。特に鍛冶や石工、魔道具製作は高い評価を受けております」
「なるほど」
俺は一つの工房の前で足を止めた。
中では、若いコボルトが金属を加工している。
その手つきは見事だった。
「少し見学してもいいですか?」
「もちろんでございます」
工房に入ると、職人が驚いた顔をした。
「こ、これはステラ様!」
「こんにちは。作業中にすみません」
「いえいえ! とんでもありません!」
俺は作業台に置かれた金属製の部品を見た。
どうやら、魔道具の一部らしい。
「これは何を作っているんですか?」
「これは地下街の換気装置に使う部品です。古くなったものを交換するために、新しいものを作っております」
「へえ。精密な加工が必要なんですね」
「はい。少しでも寸法が狂うと、空気の流れが悪くなってしまいます」
俺は部品を手に取らず、目で確認した。
加工精度はなかなかのものだ。
「この技術は、どれくらい昔からあるんですか?」
「我が家では、五代前から続いております」
「五代も!」
「はい。祖父も父も、そして私も、この仕事をしております」
職人は少し誇らしげに胸を張った。
「いつか、自分の子供にも技術を伝えたいと思っております」
「いいですね」
俺は素直にそう答えた。
「こういう技術は、長く続いてほしいものです」
職人の尻尾が、嬉しそうに揺れた。
その後も、俺たちはいくつもの工房を見学した。
鍛冶屋では、コボルトたちが丈夫な工具を作っていた。
石工の工房では、山の岩を利用した建築材料が加工されていた。
魔道具工房では、魔石を使った照明器具や換気装置が作られていた。
どれも興味深い。
「ステラ様、こちらをご覧ください!」
一人の職人が、俺を呼んだ。
作業台の上には、小さな機械が置かれていた。
歯車がいくつも組み合わされ、魔石を動力にしているらしい。
「これは?」
「自動で荷物を運ぶ装置です。地下街の倉庫から市場まで、荷物を運ぶために開発しております」
「おお!」
俺は思わず声を上げた。
「すごいじゃないか!」
「まだ試作段階ですが、うまくいけば人手を減らせると考えております」
「なるほど。これは便利になりそうだ」
俺は装置をじっくり眺めた。
「ただ、荷物の重さによって動きが変わるでしょう? 速度を調整する仕組みはあるんですか?」
「いえ、まだそこまでは……」
「それなら、荷重に応じて動力を調整できるようにすればいいんじゃないかな」
「動力を調整?」
「例えば、魔石から供給する力を一定にするのではなく、荷物の重さに応じて変えるんだ」
職人は目を輝かせた。
「なるほど! それなら、重い荷物でも安定して運べるかもしれません!」
「ただし、安全装置は忘れないこと。途中で止まった時に荷物が落ちたり、人が巻き込まれたりしたら大変だからな」
「はい!」
俺はそれ以上、口を出さなかった。
この国の技術者たちが、自分たちで考え、工夫していくことが大切だ。
「ステラちゃん、楽しそうだね」
始祖ママが笑っている。
「ああ。こういう場所は好きだ」
「じゃあ、もっと見て回りましょう!」
「そうだな」
ところが、その時だった。
「ステラ様!」
工房の奥から、年配のコボルトが歩いてきた。
白い毛並みで、片目には古い傷がある。
職人たちが一斉に頭を下げた。
「親方!」
「この工房の親方です」
若い職人が説明した。
「私はドランと申します。ステラ様、我が工房をご覧いただき、ありがとうございます」
「こちらこそ。興味深いものを見せてもらいました」
「それは何よりです」
ドランは、作業台の上に置かれた試作品を見た。
「先ほど、若い者から話を聞きました。荷物の重さに応じて動力を調整するという発想、実に面白い」
「いや、ちょっとした思いつきですよ」
「しかし、その発想は我々にはありませんでした」
「それは、皆さんが今まで別の方法を考えていたからでしょう。何が正しいかは、実際に試してみないと分かりません」
ドランは深く頷いた。
「その通りですな」
彼は少し笑った。
「若い者が新しい考えを持つことは、良いことです。年寄りの仕事は、それを頭ごなしに否定せず、見守ることでしょう」
「いい親方ですね」
「いやいや。まだまだ勉強中です」
その後、ドランは俺たちを工房の奥へ案内してくれた。
そこには、古い設計図や工具が保管されていた。
「これは、我が工房の初代が作ったものです」
「へえ……」
古い道具だったが、丁寧に手入れされている。
「技術は、先人たちの努力の積み重ねです。新しいものを作るのも大切ですが、古いものを忘れてはいけません」
「そうですね」
俺は、その言葉に共感した。
新しい技術を生み出すことは重要だ。
しかし、先人の知恵や経験を無視してはいけない。
この国の職人たちは、そのことをよく理解しているようだった。
#### 第三節 山の音楽
工房街の見学を終えた俺たちは、王宮へ戻る途中で、音楽堂へ立ち寄ることになった。
「ここが、我が国の伝統音楽を演奏する場所です」
バルドが説明する。
「コボルト族は、昔から太鼓や笛を使った音楽を大切にしてきました」
音楽堂の中に入ると、数人のコボルトたちが楽器の練習をしていた。
大きな太鼓。
小さな太鼓。
角笛のような管楽器。
弦楽器もある。
「おお、これは面白そうだな」
俺は演奏者たちの方へ近づいた。
「こんにちは」
「ステラ様!」
演奏者たちが驚いて立ち上がった。
「練習中にすみません。少し聞かせてもらってもいいですか?」
「もちろんです!」
演奏が始まった。
最初に聞こえてきたのは、低く響く太鼓の音だった。
その後に、笛の音が重なる。
さらに別の太鼓が加わり、リズムが複雑になっていく。
……これは、かなり独特だ。
音楽というより、山そのものの音を表現しているように感じる。
「いい曲ですね」
演奏が終わると、俺は拍手を送った。
「ありがとうございます!」
「これは、どんな意味の曲なんですか?」
年配の演奏者が答えた。
「これは、山に感謝する曲です。雨が降り、雪が積もり、岩が崩れ、川が流れる。山の変化と共に、我々は暮らしております」
「なるほど」
「山は恵みを与えてくれますが、時には厳しい顔も見せます。その両方を忘れないよう、この曲を演奏するのです」
「いい考え方ですね」
俺は感心した。
「ステラ様は、音楽に詳しいのですか?」
「詳しいというほどではありません。ただ、音楽は好きです」
「それなら、ぜひ一緒に演奏していただけませんか?」
「俺が?」
「はい!」
俺は少し考えた。
「いいですよ。ただし、俺は皆さんの伝統音楽を知らないので、合わせられるかどうか分かりません」
「それなら、簡単な曲から始めましょう」
演奏者たちは、いくつかの楽器を用意してくれた。
俺は太鼓の前に座る。
「これを叩けばいいんですか?」
「はい。最初はゆっくりで構いません」
俺は演奏者の動きを見ながら、リズムを合わせた。
ドン、ドン、ドン。
低い音が響く。
次第に周囲の楽器が加わり、音楽が形になっていく。
……なるほど。
これは面白い。
太鼓の音が山の鼓動を表しているのなら、俺の役割はその上に乗る旋律を作ることだ。
俺は歌い始めた。
最初は静かに。
そして、次第に力強く。
演奏者たちも、それに合わせて音を重ねていく。
最後には、音楽堂全体に響く大きな合奏となった。
演奏が終わる。
「おおお!」
「素晴らしい!」
演奏者たちが、嬉しそうに拍手を送ってくれた。
「ステラ様、ぜひ本番でも一緒に演奏してください!」
「そうですね。ぜひお願いしたいです」
俺は笑って答えた。
その時、音楽堂の扉が開いた。
そこに立っていたのは、コボルト王フェルドだった。
「おお! これは素晴らしい!」
王は嬉しそうに尻尾を振っている。
「ステラ殿! 今の演奏、余も聞かせてもらったぞ!」
「ありがとうございます」
「ぜひ、ライブでも我が国の音楽を取り入れてほしい!」
「もちろんです。皆さんがよければ、ぜひ一緒に演奏したいと思います」
「おお! それは楽しみだ!」
王は満面の笑みを浮かべた。
「それと、ステラ殿。実は、もう一つお願いがある」
「何でしょう?」
「我が国の若者たちが、ぜひステラ殿から歌を教わりたいと申しておるのだ」
「歌を?」
「うむ。今回のライブをきっかけに、音楽を始めたいという者が増えておる。できれば、若い者たちに歌の楽しさを教えていただけないだろうか」
俺は少し考えた。
歌を教える、か。
専門家ではないが、基本的なことなら話せる。
「俺でよければ、少しだけ」
「おお! 感謝する!」
王は嬉しそうに笑った。
こうして、コボルト王国でのライブに加え、若者たちとの音楽交流も行うことになった。
……今回も、なかなか忙しくなりそうだ。
#### 第四節 王様の悩み
その日の夕方。
俺たちは王宮の応接室に集まっていた。
コボルト王フェルド、宰相バルド、そして数人の大臣が同席している。
「ステラ殿、今日は楽しんでいただけただろうか?」
「はい。とても興味深い一日でした」
「それは何よりだ」
王は満足そうに頷いた。
しかし、その表情には少しだけ陰りがあった。
「実は、今日はもう一つ相談したいことがあるのだ」
「何でしょう?」
「我が国の若者たちについてだ」
王は地図を広げた。
そこには、山岳地帯に点在する村や町が記されている。
「我が国は山に囲まれた国だ。王都や主要都市は発展しているが、山奥の村々はそうではない」
「交通の問題ですか?」
「うむ。山道は険しく、冬になれば雪で閉ざされる場所もある。物資の運搬にも苦労している」
「なるほど」
「若者たちは、より便利な生活を求めて王都へ出ていく。もちろん、それ自体は悪いことではない。だが、山奥の村々では人手が不足し、古くからの技術や文化が失われつつある」
俺は地図を見た。
確かに、山の奥には小さな集落が点在している。
「それで、王様はどうしたいんですか?」
「交通路を整備し、山奥の村々にも人や物が行き来できるようにしたい。だが、費用も人手も足りない」
「それは大変ですね」
「我が国の技術者たちは努力している。しかし、山の地形は複雑で、簡単にはいかぬ」
俺は少し考えた。
「俺にできることは限られていますが、現地を見せてもらうことはできますか?」
「もちろんだ!」
王の表情が明るくなる。
「ただし、俺が何かを作るという話ではありません。まずは、皆さんがどんな問題を抱えているのか知りたいだけです」
「それで十分だ」
エルミナ先生が頷いた。
「ステラちゃん、無理をする必要はないわ。旅行の目的は文化交流なのだから」
「分かっている」
俺は王に向き直った。
「それに、山の村々にも音楽があるでしょう? できれば、そちらの人たちとも交流してみたいです」
「おお!」
王は嬉しそうに笑った。
「それなら、ぜひ案内させていただこう!」
その横で、混沌神が何か言いたそうにしている。
……嫌な予感がする。
「パパ?」
「うん?」
「余計なことを考えていないだろうな?」
「考えてないよ!」
「本当か?」
「……ちょっとだけ、山を平らにしたら便利かなって」
「やめろ!」
「ええっ!」
始祖ママも、なぜか頷いている。
「確かに、山道を平らにすれば移動は楽になるわね」
「だから、そういう話じゃない!」
エルミナ先生が二人を睨んだ。
「あなたたち。山を平らにするのは絶対に駄目よ」
「はい……」
「分かったわ……」
王と宰相は、何とも言えない表情で俺たちを見ていた。
……まあ、気持ちは分かる。
神様が山を平らにすると言い出したら、普通は困るだろう。
俺は大きく息を吐いた。
「とにかく、明日は山奥の村を見学させてもらいます。それから、ライブの準備を進めましょう」
「うむ! よろしく頼む!」
こうして、コボルト王国での二日目は終わった。
だが、翌日訪れる山奥の村で、俺たちは思いがけない出会いをすることになる。
コボルト王国編です。大きな方向性は決めているのですが、正直言ってブレぶれです。魔王領の後始末編が締めるタイミングだったのですが続けちゃいましたから。次のドワーフ編迄は大まかに考えているのですがなかなか難産しています。皆さま、こんな話が読みたいとかが有りましたらどうかお気軽に、書いてくださいませ、ただ書けるかどうかは、非才な私にお任せ下さい。方向性は違いますが『よろず屋ステラ』書いてます、よろしくお願いいたします。




