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TSしましたが、取り忘れてますよ?  作者: kero


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魔王領の後始末

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# 第58話 魔王領の後始末と、帰還を許されない歌姫


## 第一節:伝説のライブ、その後に待っていたもの


――終わった。


俺は、魔王城の中庭に敷き詰められたピンク色のフカフカ絨毯の上で、ただただ遠い目をしていた。


魔王領公式歓迎ライブ。


結果だけを見れば大成功だったらしい。


観客数は数万人。魔王領の各都市からも中継を通じて大勢が視聴し、黄金商会の集計によれば、過去に例のないほどの反響があったという。


歌も踊りも、観客の反応も、申し分なかった。


問題は、その後である。


「ステラちゃああああん! パパだよぉぉぉ!」


「ステラ! ママが特製スープを作ったわよぉぉぉ!」


「ステラちゃん、わしにも一口ぐらい味見をさせなさい!」


……うるさい。


俺の周囲には、世界の頂点に君臨する邪神と始祖の魔王、そしてエルミナ先生がいた。


いや、正確には、俺を取り囲んでいる。


混沌神は王子様姿のまま、巨大な鍋を抱えていた。


始祖ママは割烹着姿で、これまた巨大な鍋を持っている。


エルミナ先生は腕を組み、二人の様子を監視していた。


「……おい。何だ、その鍋は?」


「パパ特製のステラちゃん大好きスープだよ!」


「ママ特製の吸血鬼スープよ!」


「だから、何で二人とも五千リットル単位で料理を作るんだよ!」


「えっ? だって、ステラちゃんが美味しいご飯を食べたいって……」


「一人分でいいと言っただろうが!」


俺は思わず頭を抱えた。


先ほどの騒動で、チョーカーの翻訳機能がまたおかしくなったらしい。


俺の普通の苦情が、勝手に可愛らしいツンデレ台詞へ変換されるのだ。


しかも、その翻訳を聞いた二人が、いちいち感動してしまう。


もう勘弁してくれ。


「……エルミナ先生。何とかしてくれ」


「そうね。まずは二人に落ち着いてもらわないとね」


先生は二人の鍋を見た。


「あなたたち、料理を作るのは構わないけれど、魔王城の厨房を占領するのはやめなさい。料理人たちが困っているわよ」


「えっ?」


「厨房を占領?」


「そうよ。あなたたちが神力と始祖の魔力を使って料理を始めたせいで、厨房の設備が全部高級魔導調理器具に変わってしまったの。普通の料理人では使えないわ」


「……あ」


二人はようやく周囲を見た。


魔王城の料理人たちは、厨房の入り口で呆然と立ち尽くしていた。


その背後には、見たこともない巨大な魔導調理器具が並んでいる。


……何をやっているんだ、こいつらは。


「すまない。俺からも謝る」


俺が頭を下げると、料理長らしき魔族が慌てて首を振った。


「と、とんでもございません! ステラ様が謝罪されるようなことではありません!」


「いや、うちの親たちが迷惑をかけたからな」


「お、おや……?」


料理長の視線が、混沌神と始祖ママへ向かった。


そして、何かを察したように深く頭を下げた。


……まあ、説明しない方がいいだろう。


## 第二節:魔王領の熱狂と、増え続ける仕事


その頃、魔王城の別室では、黄金商会の幹部たちがライブの集計結果をまとめていた。


「報告いたします!」


幹部の一人が、興奮した様子で報告を始めた。


「今回の歓迎ライブは、魔王領の全都市で大きな反響を呼んでおります。特に、ステラ様が披露されたアニソンは、若い魔族を中心に爆発的な人気となりました!」


「そうか」


始祖ママが満足そうに頷く。


「映像中継の視聴者数は?」


「過去最高です。魔王領の人口を考慮しても、異常な数字となっております」


「ふふん。さすがは私のステラね」


「ママだけのステラじゃないよ!」


「何ですって?」


「僕だってパパなんだからね!」


「はいはい。二人とも、今は報告を聞きなさい」


エルミナ先生が間に入った。


幹部は咳払いをして、再び報告を続ける。


「それから、今回のライブ映像を記録した魔導記録媒体について、販売を希望する商人が多数おります。また、ステラ様が使用された衣装や楽曲に関する問い合わせも殺到しております」


「……待て」


俺は思わず口を挟んだ。


「衣装の販売?」


「はい。もちろん、ステラ様の許可をいただいてからと考えております」


「それならいい。俺が確認するまでは何もするな」


「承知いたしました!」


よし。


今回はちゃんと話が通じるようだ。


「それと、今回のライブで使用された舞台装置についても、魔王領各都市から導入の希望が届いております」


「舞台装置?」


「はい。特に音響魔道具は、これまでの魔導技術では実現できなかった性能を持っており、各地の劇場や公共施設から問い合わせが殺到しております」


なるほど。


それなら悪い話ではない。


俺が歌ったことがきっかけで、魔王領の文化や技術が発展するのなら、それはそれで意味がある。


「ただし、俺の名前を勝手に宣伝に使うなよ」


「もちろんでございます!」


幹部は深々と頭を下げた。


……今回はまともだな。


そう思った直後だった。


「それでは、ステラ様の公式ファンクラブを設立する方向で進めてもよろしいでしょうか?」


「駄目だ!」


即答した。


「えっ?」


「何でそうなるんだ!」


「い、いえ! すでに各都市から設立の要望が……」


「知らん! 勝手にやるな!」


俺は額を押さえた。


「ファンクラブを作るなら、俺の許可を取ってからだ。会員の個人情報をどう管理するのか、会費を何に使うのか、運営責任者は誰なのか、全部決めてからにしろ」


「は、はい!」


「それから、俺の姿を使った人形や抱き枕の販売は絶対禁止だ!」


「承知いたしました!」


よし。


今度こそ大丈夫だろう。


……多分。


## 第三節:魔王領の最高幹部たちと、ステラの評価


その後、俺は魔王領の最高幹部たちとの会談に参加することになった。


と言っても、俺が望んだわけではない。


始祖ママが、どうしても紹介したいと言い出したのだ。


魔王城の大広間には、魔族の幹部たちが整然と並んでいた。


その誰もが、俺を見るなり深々と頭を下げる。


「ステラ様。この度は魔王領にお越しいただき、誠にありがとうございます」


「……どうも」


「そして、素晴らしいライブを拝見させていただきました。魔王領の歴史に残る、まさに伝説の一夜でございました」


「それはどうも」


俺は少し居心地の悪さを感じていた。


別に、そこまで大げさに扱われるようなことをしたつもりはない。


ただ歌って踊っただけだ。


「ところで、ステラ様」


幹部の一人が、慎重に言葉を選びながら尋ねてきた。


「今回のライブで使用された魔法技術について、少々お伺いしたいことがございます」


「魔法技術?」


「はい。あの音響魔道具や映像投影装置は、我々の技術では到底実現できないものでした。混沌神様のご協力によるものと聞いておりますが……」


「ああ。あれはパパが用意したものだ」


俺は混沌神を見た。


「説明してやれよ」


「うん! もちろん!」


混沌神は嬉しそうに前へ出た。


「簡単に言えば、魔力を音や映像に変換する仕組みを作ったんだよ。魔王領の設備に合わせて調整すれば、各都市でも使えると思う」


「な、なるほど……」


幹部たちは驚いた様子だった。


「ただし、これは魔王領の技術者たちが管理できるようにしておくこと。神様の力がなければ動かせないようなものでは困るだろう?」


俺がそう言うと、混沌神は少し考えた。


「そうだね。ステラちゃんの言う通りだ。現地の技術者でも扱えるようにしておこう」


「それならいい」


始祖ママも頷いた。


「魔王領の発展につながるなら、ママも協力するわ」


幹部たちの表情が明るくなった。


……どうやら、今回のライブは単なる娯楽イベントでは終わらないらしい。


魔王領にとっても、思わぬ技術革新のきっかけになるようだ。


「ステラ様」


今度は別の幹部が口を開いた。


「今回のライブを拝見し、魔王領の若い世代が大きく刺激を受けております。音楽や舞台芸術を学びたいという者も増えているようです」


「それはいいことじゃないか」


「はい。今後は、魔王領の文化振興にも力を入れていきたいと考えております」


「好きにすればいい。ただし、俺を巻き込むなよ」


「ははっ!」


幹部たちは一斉に頭を下げた。


……よし。


ようやく話がまともな方向へ進んできた。


## 第四節:親バカたちの反省会


会談が終わった後、俺は魔王城の客室へ戻った。


部屋は広く、豪華で、ベッドもふかふかだった。


しかも、窓からは魔王領の街並みが一望できる。


「……悪くないな」


俺はベッドに腰を下ろした。


久しぶりに落ち着けそうだ。


そう思った瞬間、扉の向こうから声が聞こえた。


「ステラちゃん、入っていい?」


……来た。


「何だよ?」


「パパとママだよ!」


「知ってる。何の用だ?」


「少しお話がしたくて……」


俺はため息をつきながら扉を開けた。


そこには、混沌神と始祖ママ、そしてエルミナ先生が立っていた。


「何だ?」


「今日のことなんだけどね」


混沌神が少し真面目な表情になった。


「僕たち、またやりすぎちゃったかな?」


「……自覚があるなら、最初からやるな」


「うん……」


始祖ママも、珍しく素直に頷いた。


「ママも反省しているわ。貴方が喜ぶと思って、つい色々とやりすぎてしまったの」


「俺が喜ぶかどうかは、俺に聞け」


「そうね……」


「それから、俺が嫌がることはするな。何度も言わせるなよ」


「分かった」


「約束するわ」


エルミナ先生が二人の顔を見た。


「今回は、二人とも少しは学習したようね」


「先生まで……」


「当たり前でしょう。あなたたち、世界を作り替える前に、まず本人の意思を確認しなさい」


「はい……」


俺はその様子を見て、少しだけ肩の力を抜いた。


「まあ、今回のライブは楽しかった。それは認めてやる」


「本当!?」


混沌神の顔が明るくなった。


「うん。歌うのも踊るのも、悪くなかった。観客も喜んでくれたしな」


「ステラ……!」


始祖ママの目に涙が浮かんだ。


「ママ、嬉しいわ……」


「だから、泣くな!」


「だってぇ……」


「パパも泣かない!」


「う、うん……」


……やれやれ。


だが、今回の件で一つだけ分かったことがある。


こいつらは、俺に嫌われることを何よりも恐れている。


だからこそ、俺のためだと言いながら、何でもしてしまうのだろう。


それが正しいとは思わない。


しかし、少なくとも、俺の言葉を聞こうとする気持ちはあるらしい。


ならば、少しずつ教えていけばいい。


「……ところで、明日の予定は?」


俺が尋ねると、始祖ママが嬉しそうに答えた。


「魔王領の観光よ!」


「観光?」


「そう! ママが案内してあげるわ!」


「パパも一緒に行くよ!」


「……普通の観光だよな?」


二人は揃って笑顔になった。


「もちろん!」


「ええ!」


エルミナ先生だけが、何とも言えない表情をしていた。


「……一応、わしも同行するわ」


「先生も?」


「ええ。あなたたちだけでは、何をしでかすか分からないからね」


……やっぱりか。


## 第五節:魔王領観光計画と、予想外の知らせ


翌朝。


俺は、魔王城の窓から差し込む朝日で目を覚ました。


昨夜は久しぶりに、比較的まともな睡眠が取れた。


部屋の扉を開けると、廊下にはリリィとハイ・スライム、そしてルシアンが待機していた。


「おはようございます、ステラお姉ちゃん!」


「おはようございますにゃ!」


「ステラ様! 本日もお美しい……!」


「はいはい。おはよう」


俺は三人に軽く手を振った。


「今日は観光に行くんだよな?」


「はい! すでに馬車の準備は整っております!」


「馬車?」


「魔王領の各都市を巡る特別仕様の馬車でございます!」


……嫌な予感がする。


「普通の馬車でいいんだぞ?」


「もちろんです!」


ルシアンが胸を張った。


「ただし、魔王軍の精鋭部隊が護衛につきます!」


「普通じゃない!」


「えっ?」


「護衛は必要最低限でいい!」


リリィが小さく手を挙げた。


「お姉ちゃん、でも魔王領の人たちは、お姉ちゃんを一目見たいって大勢集まっているにゃ」


「……何?」


「昨日のライブを見た人たちが、各都市で歓迎の準備をしているそうです!」


「おいおい……」


俺は額を押さえた。


「まさか、街ごとに歓迎会をやるつもりじゃないだろうな?」


「その予定でございます!」


「やめろ!」


その時、背後から混沌神の声がした。


「ステラちゃん! パパも一緒に行くよ!」


始祖ママも続く。


「ママもよ! 今日は魔王領の美味しいものをたくさん食べましょうね!」


「……分かった。ただし、条件がある」


「何でも聞くよ!」


「まず、勝手に街を改造しないこと。次に、俺のために住民を動員しないこと。それから、俺を見世物にしないこと」


「うん!」


「分かったわ!」


「よし。では出発だ」


俺たちは魔王城の正門へ向かった。


そこには、黒塗りの豪華な馬車が一台待っていた。


その周囲には、魔王軍の騎士たちが整然と並んでいる。


……まあ、これぐらいなら許容範囲か。


俺が馬車に乗り込もうとした、その時だった。


「ステラ様!」


黄金商会の幹部が、慌てた様子で駆け寄ってきた。


「大変でございます!」


「何だ?」


「昨夜のライブ映像が、魔王領だけでなく、他の国々にも伝わっているようなのです!」


「……それが?」


「各国から、ステラ様の公演を開催してほしいという要望が届いております!」


「は?」


「すでに複数の国から、正式な招待状が届いております!」


俺は固まった。


「……ちょっと待て。俺は魔王領で一回ライブをしただけだぞ?」


「はい!」


「何で他の国まで話が広がっているんだ!」


「それほど素晴らしい公演だったということでございます!」


……勘弁してくれ。


混沌神が、嬉しそうに俺の肩へ手を伸ばした。


「ステラちゃん! 世界ツアーだね!」


「違う!」


始祖ママも目を輝かせている。


「ママ、各国の会場を用意するわ!」


「用意するな!」


エルミナ先生は、すでに頭を抱えていた。


「……やっぱりこうなるのね」


俺は空を見上げた。


せっかく魔王領での歓迎ライブが終わったと思ったら、今度は世界中から公演依頼だと?


俺は歌手になった覚えなどない。


中身は三十歳の元陸上自衛官。


本来なら、静かな生活を送りたいだけなのだ。


「……帰りたい」


小さく呟いた俺の言葉は、誰にも届かなかった。


「ステラちゃん! 次はどこの国に行こうか!」


「ママ、全部回りましょう!」


「お前ら、勝手に決めるなぁぁぁ!」


こうして、魔王領での歓迎ライブは大成功を収めた。


しかし、その成功は、俺に新たな問題をもたらすことになった。


どうやら俺は、知らないうちに世界規模の歌姫になってしまったらしい。


……頼むから、少しは休ませてくれ。

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