邪神はきっとニャーと鳴くに違いない。
呪いのアイテムだと!俺でした(泣)
呪われていたのはメガネではなく、俺の方でした。
やあ、シャルロット。
頼まれていた『鑑定』の件だけど、その子が例の地味メガネちゃんかい?
お昼過ぎのまったりした時間、店にやってきたのは、糸目で優しげな笑みを浮かべた中年人族の男だった。
凄腕の冒険者らしいが、「僕はね〜」とねっとり喋る、どこか一癖あるタイプだ。
「そうよ、エドガー。この子のメガネ、呪いで外れないみたいなの。見てあげて」
お安い御用さ。どれどれ……
『鑑定』」
エドガーと名乗る糸目イケメンが俺のメガネをじっと見つめる。
すると、すぐに「なるほどねぇ」とポンと手を打った。
外し方は簡単だよ。『私は世界一可愛い魔法少女です』って、ウインクしながら可愛く口に出すこと。
それがこのロックを外すキーワードだね
「はぁぁぁぁぁ!?」
何だその羞恥プレイみたいなキーワードは! 混沌神か魔神の嫌がらせか!?だが、超絶ウルトラ美少女の汚名を雪ぐためだ。
俺は意を決し、両手を頬に当て、片目を瞑って全力の裏声で叫んだ。
「わ、わたしはっ、せかいいち可愛い魔法少女ですっ……☆(死にたい)」
カチャリ、
と音がしてメガネが顔から離れた。
よっしゃ外れたァァァ! 俺はクソメガネをぶん投げ、バサァッと金髪をなびかせて顔を上げた。
「見たかコノヤロー! これが本来の俺の――」
言いかけた俺の言葉は、店内の異常な静寂にかき消された。
「…………え?」
シャルロット姉さんの口がワニの形のまま開きっぱなしになっている。
隣にいた『よろず(女)』にいたっては、持っていたポーション瓶を床に落としてパリンと割ったが、それにすら気づいていない。鏡を見る。そこには、この世の全ての光を集めたような、息を呑むほど輝く絶世の美少女が立っていた。
自分で自分に惚れそうになるレベルの超絶ビジュアル。
「やっぱり俺は美少女だったんだ!」
と勝ち誇ろうとした、その瞬間。ガタッ! と、いち早く我に返った糸目イケメンのエドガーが、俺の前にスライディング土下座を決めた。
「僕と結婚してください!!!!! 家も資産も全て君に捧げる!!!!!」
「はいぃ!?」
さらに、昨日の仕返しをしようと、外に仲間を大勢引き連れて店を覗き込んでいたあの『熊獣人』が、ドアを蹴破って突っ込んできた。
「お、俺と結婚してくれぇぇぇ! 毎日美味い肉を獲ってくるからぁぁぁ!」
「お前昨日モンスターって言ったじゃねえか!!」
それだけではない。店内にいた冒険者、外で見物していた野次馬までが、目を血走らせて「俺だ!」「いや俺と結婚しろ!」と津波のように押し寄せてきたのだ。
「うわあああ! くるな! 狂気を感じる!!」
俺は本能で察した。呪われていたのは、メガネではない。
この「美少女すぎる俺の容姿」そのものが、周囲の人間を狂わせる狂気の呪いのアイテム(美貌)だったのだ!
「嫌だぁぁぁ! こんなの絶対に嫌だ!!」
俺は泣く泣く、不本意ながら、床に落ちていた地味メガネをひったくるように拾い上げ、勢いよく顔面に叩きつけた。
ピタッ、とメガネが顔に張り付き、周囲の認識が「あ、地味で陰気な女に戻った」とリセットされる。
冒険者たちは急に賢者タイムを迎え、「あれ? 俺たち何してたんだ……?」と首を傾げながら解散していった。
バックヤードに避難し、息を荒くしながら死に物狂いでステータス画面を開く。
エドガーの鑑定によって、あのメガネと俺のステータスの詳細が更新されていた。
【装備】
変身阻害の丸メガネ(魔法少女セットアイテム・その1)【効果】 外すと『魔法少女(超絶美少女)』に変身する。周囲を魅了し、全ての魔法・身体能力がハネ上がる。
「スーパーマンかよ!!!」
アメコミのヒーローよろしく、普段はメガネをかけて地味な一般人としてひっそり暮らし、いざという時はメガネを外して超絶美少女魔法少女になって人々を救う……。
「混沌神の加護」の欄の横に、小さく文字が追記されていた。
『面白そうだからこの仕様にしてみたぞ☆ by混沌神』
「あの邪神、絶対にぶっ殺す……!!」
あの公開処刑プロポーズ事件から数週間。
俺は地味メガネを死守しつつ、シャルロット姉さんの店で平穏(?)に働いていた。
だが、平穏なんてものは異世界ラノベの1ページ目くらいしか持たない。
ある日のことだ。発光プレートが薄暗くなった時間帯、つまり強力な魔物が動き出す危険なタイミングで、セーフティゾーンに狂暴な魔物の群れが結界を破ってなだれ込んできた。
避難が遅れた冒険者たちが悲鳴を上げ、よろずもシャルロット姉さんも大ピンチに陥る。
「クソっ……! 陸曹長がここで見殺しにできるかよォ!」
俺は店の物陰に飛び込み、意を決して叫んだ。
「私は世界一可愛い魔法少女ですっ……☆(2回目)」
カチャリと
メガネが外れた瞬間、全身が眩い光に包まれる。
フリフリの魔法衣装(自動装着)に身を包んだ俺は、あの日以上の超絶美少女――いや、最強の魔法少女に変身していた。
「混沌神だか何だか知らんが、自衛隊格闘術(魔法少女補正:極大)を喰らいやがれェ!」
そこからは一方的な蹂躙だった。
可憐な美少女が、魔物を片手で掴んでジャイアントスイングで壁に叩きつけ、鍛冶神の加護で謎の光を放つようになったグロックを連射して一網打尽。
あっという間にピンチを脱した俺は、みんなが呆然とする中、即座に地味メガネを装着して一般人のフリに戻った。
無事に解決した。したのだが……。
ねえねえ、聞いた? このダンジョンに、危機を救ってくれる金髪の
『最強魔法少女』がいるらしいわよ
「ああ、おっかない魔物をワンパンでミンチにしたらしいな!」
助けた冒険者たちの口コミにより、噂はネズミ講式に拡散。
「魔法少女」
の都市伝説はあっという間にダンジョンを飛び出し、地上にまで轟いてしまった。
そして、ついにその日が来る。
ここに、巷で噂の『魔法少女』がいると聞いて参った。
我がアララット王家の命により、その者を王城へ連行……いや、お招きする!
店にやってきたのは、ピカピカの鎧を身にまとった本物の王国の使者たちだった。
完全に目をつけられた。
中身おっさんなのに王城デビューとか前世のどの訓練でも習ってない!俺が冷や汗を流して身構えた、その時だ。
「――その者を連れていくことは、私が許しません」
前に進み出たのは、シャルロット姉さんだった。
使者は鼻で笑う。
「ハッ、ただのダンジョンのワニ風情が何を――」
「控えなさい! このお方をどなたと心得る!」
ドンッ! と使者の前に立ちはだかったのは、あのナマイキな『よろず(女)』だった。
いつになくガチの顔をしている。
さらに、店内にいた常連客の何人かが一斉に立ち上がり、あの糸目のエドガーまでもが鋭い目つきで剣の柄に手をかけた。
「エ、エドガーさん!? よろず!?」パニックになる俺の前で、シャルロット姉さんが静かに口を開いた。
我が名はシャルロット・フォン・アララット。
呪いによってこのような醜いワニの姿に変えられ、ダンジョンに身を隠していた……この国の『第三王女』です
「はえぇぇぇぇぇ!?」
今日一番の絶叫が俺の口から飛び出た。ワニの姉さん、マジのロイヤルワニだった。よろずは彼女に仕える臨戦態勢の侍女。
そしてエドガーや常連の冒険者たちは、お忍びで王女を護衛していた王宮騎士団の精鋭だったのだ。どおりでみんな強いわけだよ!
「姉さんが、王女様……?」
ふふ、驚かせてごめんなさいね、聡ちゃん。でも、私の可愛い従業員を、無理やり王城へ連れていかせはしないわ。
……使者よ、私も同行します。兄上(国王)に直接掛け合いましょう
「は、ははっ! シャルロット様!!」
使者たちはワニの王女の覇気に圧倒され、地面にひざまずいた。こうして、事態は風雲急を告げる。
呪いのワニ王女、戦闘モードの侍女と騎士たち。
そして、腰にグロックをぶら下げた
「地味メガネ(時々、魔法少女)」の俺。異世界の常識を置き去りにした一行は、ついにダンジョンを出て、全ての元凶(?)が待つ王城へと向かうことになるのだった――。
(続く)




