公開処刑
超絶美少女の俺に向かって、地味メガネだと!‥事実でした(泣)
昼からもそこそこ忙しい時間が続いていた。
俺がシャルロット姉さんに頼まれた商品を手に、カウンターへ持っていった時のことだ。
並んでいたガタイの良い熊の獣人が、俺の顔を見るなり大声で指をさしてきた。
「おいおいおい! 何だこのモンスターは!?」
……あ? モンスターだぁ?失礼な! こんな絶世の美少女を捕まえて何を言う。
目ん玉ついてるの? バカなの?
死ぬの?
前世のネットスラングを総動員した必殺三段殺しのメンチを切ってやった。
だが、何故か熊野郎だけでなく、周りにいた客やあの『女』まで引きつった顔でこちらを見ている。
すると熊野郎はニヤニヤと下品な笑みを浮かべ、さらに声を張り上げた。
ハッ! 鏡を見てからほざきやがれ、女のフリした地味眼鏡が! 何が美少女だ。
お前昨日、よろず(女)に湧き水で洗われてた奴だろ!
俺は見たぜ、お前の股間のモノをよぉ!
ドッと周囲の冒険者がざわめく。
ちょっと人間じゃ拝めねえサイズだったよなぁ!?
この中にも見た奴はいるはずだ。
果たしてなぁ、女の顔して特大サイズの男のモノをぶら下げた
『人間』なんているのかなぁ!?
「――ッッッ!!」
よろずぅぅぅぅ!! お前の迂闊さのせいで俺のアイデンティティが、セーフティゾーンの真ん中で完全公開処刑されてるじゃねえか!!
殺す。
今すぐこの場にいる目撃者も含めて、グロックと手榴弾で全員消すしかない……
!俺が本気で腰の獲物に手をかけようとした、その時だった。
「――そこまでにしなさい」地を這うような、だがひどく冷たいシャルロット姉さんの声が響いた。
ワニの姉さんは熊野郎をギロリと睨みつけ、カウンターをドンと叩く。
これ以上うちの子を侮辱して虐めるんなら、今からでも店を閉めます。
どうしますか?
そもそも、本当にモンスターならセーフティゾーンの結界に入れるわけがないじゃない。
……まだ、その無駄口を続けますか?
完全なる覇気。一瞬にして周りの客の冷ややかな視線が、今度は熊野郎へと集中する。
姉さんの店が閉まったら、中層を攻略中の冒険者全員が干上がるからだ。
視線に耐え切れなくなった熊野郎は、冷や汗を流しながら両手を上げた。
「わ、わりぃ……ちょっと揶揄っただけだよ」
すごすごと退散していく熊野郎。姉さん、マジでイケメンすぎる。
一生ついていきます。
その後は、大きなトラブルもなく今日の一日が終わった。
夜。
バックヤードでの夕食時。
俺は昼間の言葉がどうしても引っかかっていて、恐る恐るシャルロット姉さんに聞いてみた。
「あの、姉さん。そんなに……私の容姿って、その、悪いの?」
鏡で見た時は、あんなに絶世の美少女に見えたのに。
するとシャルロット姉さんは、気まずそうに視線を泳がせながら、言葉を濁した。
う、うーん……醜いとは言えないけれど……その、良いとも言えないわね……
「え」
嘘だろ。じゃあ、あの鏡に映った絶世の美少女は一体なんだったんだ?美少女だと思って喜んでいた俺は、ただの「勘違いの激しい、股間に特大のモノをぶら下げた変な生き物」
だったってコト……!?あまりのショックに、脳のヒューズが完全にぶっ飛んだ。
現実逃避したい。今すぐこの現実からログアウトしたい。
「あああああ! 酒だ、酒!!」俺は半狂乱になりながら、腰の小袋からスキットルをひったくるように取り出した。
カパッと蓋を開け、ウォッカを一口、ゴクリ。あ。
「……あ」
脳裏をよぎる、朝の記憶。
『朝、起きた時に一口』
『昼、賄いを食べた時に一口』
そして今、『夜のショックで一口』
「……三杯目というのを、完全に忘れて――」
ガクッ。
俺の意識は、スープの器に顔面から突っ込む形で、綺麗さっぱり途絶えたのだった。
ガバッと跳ね起きると、そこは昨日と同じベッドの上だった。
昨夜の醜態が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
スープの器に顔面からダイブして気絶した俺を、きっとまたあの『女』あたりが呆れながらここまで運んでくれたのだろう。
恩に着る。
それはそれとして股間の件は絶対に許さん。
「……それにしても」なぜ、俺は自分のことを絶世の美少女だと思い込んでいたんだろうか。
ふと横を見ると、昨日シャルロット姉さんに借りた手鏡が、まだ机の上に置いてあるのが目に入った。
よし、もう一度ちゃんと確認しよう。
現実を受け止めるんだ、陸曹長・長谷川聡!おそるおそる、鏡を覗き込む。
「…………誰やこれ」
鏡の向こうには、前髪が重く、なんだか地味で陰気な目をした、どこにでもいそうな一般女性(やや暗め)が映っていた。
絶世の美少女要素、ミリメートル単位で見当たらない。
「おかしい。俺の脳のバグか? 記憶違いか?」
いや、違う。
俺が最初に鏡を見た時、間違いなくそこには輝くような金髪の超絶美少女がいたはずだ。
何が違う? 最初の時と、今とで、何が決定的に違っている――?脳細胞をフル回転させ、異世界に転移した直後の行動を逆算する。
……そうだ。「あの時、俺は鏡を見る前に、この『メガネ』を外したんだ!」そして、今朝目覚めた時には、掛けた覚えもないのにこの丸メガネが顔に張り付いていた。その後は力100の怪力で引っ張っても、ビクともしなかった。
こいつだ……! このクソメガネが原因に違いねえ!
つまり、このメガネには
『装着者をめちゃくちゃ地味で陰気な見た目にする呪い(あるいは認識阻害)』
がかかっているんだ。
メガネを外した本来の俺は、やっぱりあの超絶ウルトラ美少女に違いない!
よし、外そう。
何が何でも外して、あの熊野郎やよろずに
『ごめんなさい、私が間違っていました、あなたは絶世の美少女です』
って言わせてやる!
この超絶ウルトラ美少女(予定)の汚名を雪ぐことこそが、今の俺に課せられた至高のミッション!フンッ! ぬんっ! と、朝食の時間ギリギリまで、部屋に引きこもってメガネと格闘した。
顔の皮が引きちぎれるかと思うほど引っ張ったが、やっぱり外れなかった。
無念。
「シャルロット姉さん……昨夜は本当にすいませんでした」
食堂へ行き、まずはスープにダイブした昨晩の非礼を姉さんに平謝りした。
その上で、例のメガネがどうしても外れないこと、これが怪しいということを藁にもすがる思いで相談してみた。
すると、シャルロット姉さんは
「あら、やっぱりそれ呪いの装備だったのね」
と、驚くほどあっさり納得してくれた。
お店のお客さんの中にね、しっかりした『鑑定』のスキルを使える熟練の冒険者さんがいるのよ。
今度店に来たら、そのメガネのことをちょっと見てくれるように頼んであげるわ
「本当ですか! ありがとうございます、姉さん!」
暗闇の中に、一筋の光明が差した。
あの地味メガネさえ外れれば、俺の美少女ライフ(下半身ハイブリッド仕様)が本格的に大勝利を迎えるはずだ。
その希望を胸に、俺は今日も弾薬ベルトを腰に巻き、グロックを引っ提げてお店のカウンターへと向かうのだった。
(続く)




