翻訳バグによる親バカ三大崩壊
伝説の「アニソン特化型・ダークディーヴァコンサート」における王冠脱落パニック、そしてそれに伴う「神と魔王の直系の子供」という、世界を巻き込んだ都合の良すぎる大誤解の成立から数日。
俺――ステラ(中身30歳元自衛官)の専用宿舎のリビングには、またしても世界の終焉を予感させるほど禍々しく、そしてどこか致命的に頭の悪いオーラが満ち満ちていた。
「できたよ、ステラちゃん! 前回の王冠の反省を活かして、今度はどれだけ激しく歌って踊っても、自衛隊のほふく前進をしても絶対に外れない【首輪型・顔面安全解放デバイス】の完成だ☆」
白の王子様姿の混沌神が、糸目をこれ以上ないほどピカピカに輝かせながら、上品な黒いシルクのチョーカーを差し出してきた。
デバイスの心臓部には、始祖ママの魔力とエルミナ先生の古代エルフ魔導術式がこれでもかと高密度に圧縮されて組み込まれており、外すには三人の親全員の承認魔法が必要という、ガチガチのセキュリティ仕様である。
「これならもう、突然外れて学園中がプロポーズの阿鼻叫喚に陥る心配もないわね。さあステラ、早くつけて頂戴!」
始祖ママが目を血走らせて催促する。
(……おお、やっと。本当にやっと、ベールも王冠もなしで、このチョーカー一つで普通に顔を出して生活できるのか……!)
俺は感動のあまり、ベールのない素顔で少しだけ涙ぐみながら、その黒いチョーカーを自分の細い首へとパチリと装着した。
デバイスが正常に起動し、俺の放つ【狂気の美貌(魅了の呪い)】が完璧に制御され、周囲の人間を狂わせない「安全な超絶美少女」のビジュアルへと中和されていく。
「よし! 作動良好だな。……混沌神、今回はさすがに良い仕事をしたな。ありがと――」
お礼を言おうとした、その瞬間だった。
チョーカーのデバイスが不気味にピンク色に明滅し、俺の喉の奥の魔術回路がカチリと奇妙な音を立てた。
脳内で考えている自衛官らしい硬派なセリフが、喉を通る瞬間に強烈なノイズを帯び、世界のシステムごと強制的に「ある特定の概念」へと100%自動翻訳されて口から飛び出したのだ。
「――べ、別にアンタのために言ってるんじゃないんだからねっ! でも……今回のデバイスは、その……ちょっとだけ、パパの優しさを感じたっていうか……。いつも守ってくれて……ありがと、パパ……♡(※顔を真っ赤にして上目遣い)」
「はぁぁぁぁぁぁっ!?!? 何だ今の壊滅的に可愛すぎるツンデレ翻訳はァァァッ!?」
俺は自分の喉を押さえて驚愕の絶叫をあげた。
中身30歳の俺が、よりによってあのクソ邪神に向かって、顔を真っ赤にして「パパありがとう♡」と究極のツンデレヒロインの仕草付きで素直に感謝を述べてしまったのだ。
【魔法少女適正:極大】の魔力と、三人の親たちの魔改造術式が奇妙なバグ(化学反応)を起こし、【ステラが話すセリフが、すべて『超絶可愛いツンデレヒロイン』に強制翻訳され、なおかつ親(特にお父さん)に対して脳のブレーキが壊れたように素直に甘えてしまう仕様】へとアップデートされてしまっていた。
その、俺の破壊力抜群のツンデレお礼を正面から直撃した混沌神はというと。
「…………え?」
一瞬、魂が天界の彼方へと消し飛んだような顔で硬直した。
そして次の瞬間。
「ステラちゃんが……僕を『パパ』って呼んで……顔を真っ赤にして『ありがと』って……っ! ああ、あああああ! 尊い! 尊すぎて世界の概念が、僕の脳の許容量が崩壊しちゃうぅぅぅぅ(大爆発)!!!」
ドガァァァァァンッッッ!!!
混沌神は、長く生きすぎて初めて経験する「娘からのガチの感謝(ツンデレ仕様)」の破壊力に、完全に精神が消し炭になって【崩壊】。悶絶しながらリビングの床を転げ回り、壁に頭を打ち付け、嬉しさのあまり鼻血を大噴出してそのままのたうち回った。あの世界を統べる邪神が、娘の一言で完全な廃人と化していた。
だが、この地獄のバグハラスメントは、それだけでは終わらなかった。
その様子を横で見ていた始祖ママと、全盛期姿のエルミナ先生の瞳が、カッと嫉妬の炎で真っ赤に染まったのだ。
「ちょっとバカ邪神! 何お父さんぶって一人だけステラに甘えられてるのよ、ずるいわ!! ステラの本当のママは私よ!!」
始祖ママが、凄まじい嫉妬のあまり爪を立てて混沌神に掴みかかる。
「いいえ! 一年間寝食を共にして地獄のステップを叩き込んだこの私こそが、実質的な母親よ! 邪神だけ『パパありがと』なんて、嫉妬のあまりこの学園の敷地ごと重力魔法で更地にしてやりたいわ!!」
エルミナ先生までが、全盛期の魔導杖を振り回してブチ切れた。三人の親たち、完全に嫉妬のあまり壊れてやがった。
「ステラ! ママよ! ママにもさっきみたいな『別にアンタのためじゃないんだからねっ、ママ大好き♡』っていうやつを言いなさい! ほら、ママが最高級の吸血鬼の特製スイーツをあーんって食べさせてあげるから、甘えて頂戴!」
始祖ママが、よだれを垂らしそうな顔で俺の顔を両手で挟み込み、空回り全開の過保護なアプローチを仕掛けてくる。
「ステラちゃん、わしにも『先生、いつも指導してくれてありがと、好き♡』って言いなさい! ほら、わしが全盛期の魔力で貴方の肩を優しくマッサージしてあげるから、甘えなさい!」
エルミナ先生までが、目を血走らせて俺の肩をガシッと掴んで揺さぶってくる。
「や、やめろお前ら! 離せッ! チョーカーを今すぐ外させ――」
俺が必死に抵抗しようとしても、口から出る言葉はすべて100%ツンデレヒロインに自動翻訳される。
「――も、もうっ! 二人ともしつこいんだからっ! でも……そんなに私のことが心配なら、ちょっとだけ……ちょっとだけ抱きしめてあげても、いいんだからねっ……! ママも、先生も……だ、大好き……♡(※涙目でシーツを握りしめながら)」
「「――ッッッッ(尊死)!!!」」
始祖ママとエルミナ先生の二人は、その破壊力:95オーバーのツンデレ甘え攻撃を脳天に直撃され、興奮と尊さのあまり白目を剥いて、その場にバタリと二人揃って失神(大崩壊)した。
床でのたうち回る邪神と、失神した魔王と魔女。
「ハハ……。俺の学園生活、もうツッコミを入れる気力すら湧かねえよ……(虚無)」
俺は自分の首の新型チョーカーを呪いながら、本日一回目となる完璧な【宇宙猫】の顔になり、リビングの惨状を見つめて立ち尽くすのだった。
翌日から、俺の学園生活は、ある意味でこれまでにないほど凄まじい「熱視線」に包まれることになった。
頭のミニ王冠(デバイス仕込み)のおかげで、ベールなしの素顔で授業に出られるようになった俺。だが、俺が何か一言喋るたびに、チョーカーのバグのせいで「ツンデレヒロイン自動翻訳」が発動してしまうため、隣の席の変態王子ルシアン(執事候補)は、毎日授業中に「あああ! 尊い! 今の『ノート見せてくれてありがと、バカ』のセリフ、一生の家宝にしますぅぅぅ!」と、床にローリング土下座を決めながら鼻血を流していた。うるさくて授業に集中できん。
さらに最悪なのは、教室の後ろの席(※保護者席)で、よろず先生が新人メイドのピノ、リリィ(妹枠)、そして性別のないスライムを引き連れて、リアルタイムで俺のツンデレセリフをすべてメモし、新刊の原稿をその場で増産していることだった。
「ステラお姉ちゃん! 今の『別にアンタのために消し炭にしたんじゃないんだからねっ!』のセリフ、最高に萌えにゃ! はい、次はボクたちの持ってるこの【カンペ(カンペウチ)】のセリフを、そのまま読んでクラスの男子たちを全員胸キュンで爆発させるにゃっ!」
「お前ら、教室の中でまで薄い本のネームの素材を確保しようとするなァァァッ!!」
俺がキレて叫んでも、口から出るのは「も、もうっ! 授業中にそんな大声出させないでよ、バカぁっ……♡」というセリフになるため、教室中の生徒たちが「ステラ様、なんて可愛いんだ……」と、別の意味で完全に脳を焼かれていた。
そんな中、教壇に立つエルミナ先生(※相変わらずステラしか見ていない)が、古木の杖をトントンと叩いて真面目な顔で告げた。
「いいですか、特別Sクラスの皆さん。……いよいよ来週から、我がガザリア魔導学園の前期の【定期魔導試験】が始まるわよ」
「……定期試験、か」
その言葉に、俺の中の中身(元自衛官)のスイッチが、カチリと真面目に入った。
この学園に来てから、公開決闘だの、ダークステージライブだの、日替わり邪神の嫌がらせだの、ろくな目に遭っていなかったが、ついに本業である「魔導の実力を測る試験」がやってくるのだ。
一年の地獄のステップ訓練で鍛え上げた魔力と、アイテムボックスの中に眠る自衛隊の実弾や手榴弾を融合させた『魔改造ミリタリー魔法』。その本当の戦術的成果を、この大規模な公式試験の場で、存分に実戦データとして検証してやるチャンスだ!
「よし……。あのクソヤンデレ親バカどもと、変態メイド軍団の包囲網を一時的に忘れて、これより試験に向けた本格的な『戦術シミュレーション(猛勉強)』を開始する!!」
「お姉ちゃん、ボクも試験中にお姉ちゃんの下半身のバズーカのコンディションチェック(セクハラ)を頑張るにゃ!」
「ボクも、試験の邪魔をする悪い生徒たちを骨ごと透過しちゃうよ!」
「お前らは大人しく宿舎の雑務をしてろォォォォォッ!!」
ツンデレチョーカーの翻訳バグに頭を抱えながら、中身おっさんの吸血鬼魔法少女(ロベルタ仕様)の、世界の存亡と俺の社会的尊厳がかかった、波乱万丈すぎる『魔導学園定期試験編』が、いよいよ次章から本格的に幕を開けるのだった!




