顔見せコンサート 前編
「……できたわ、ステラちゃん! 三人のママ(パパ含む)たちの愛と技術の結晶が!」
魔導学園の専用宿舎のリビング。全盛期の姿のエルミナ先生が、これ以上ないほど誇らしげに、小さな淡い光を放つ魔導基盤を掲げた。
混沌神の神の技術、始祖ママの超高密度な始祖魔力、そしてエルミナ先生の古代エルフの魔導知識。
世界の頂点トリオが不眠不休(邪神は遊んでいたが)で共同研究し、ついに完成させた【広域認識阻害・顔面安全解放デバイス】である。
「ひとまず、ステラちゃんがいつも頭に載せているあのミニ王冠の裏側にセットしておいたよ☆ これが上手くいけば、次は可愛いネックレスやチョーカーのタイプも作ってあげるからねぇ♪」
白の王子様姿の混沌神が、糸目をピカピカと輝かせて俺の頭の王冠に魔導具をカチャリと組み込んだ。
(……おお。これで、本当にあの息苦しい黒ベールを外して生活できるのか……!?)
俺――ステラ(中身30歳元自衛官)は、ベールの下で不覚にも感動で胸を熱くしていた。
実を言うと、俺自身、この一週間ほど本気で悔しい思いをしていたのだ。
顔を黒ベールでガッチリ隠して特権階級扱いで学園に通っているものだから、廊下ですれ違うエリート生徒や他クラスの女子どもから、
「おい見ろよ、あの養女」
「ベールを外せないってことは、二度と見られないほどのドブスに違いないわ」
「顔全体に悍ましい痣でもあるんじゃない?」などと、陰口を叩かれまくっていたのである。
中身は30歳のおっさん自衛官とはいえ、現在の俺のビジュアルは邪神が盛りに盛って作った絶世の美少女(下半身は規格外バズーカ)。言い返したくても「顔を見せたら魅了の狂気で学園が崩壊する」という呪いのせいで何も言えず、自衛官のプライドとしても死ぬほど悔しくて歯噛みしていたのだ。
だが、俺のその「悔しさ」を、背後で見守っていた過保護すぎる親バカたちが、一ミリも見逃しているはずがなかった。
「ステラ……貴方がそんな不届き者たちの言葉に傷ついて、悔しい思いをしていたなんて……。ママ、胸が張り裂けそうだわ……!!」
始祖ママがボロボロと涙を流しながら、激しい怒りで始祖の魔力を爆発させた。
「そうだねぇ。僕の最高傑作のステラちゃんをブス呼ばわりするなんて、あの有象無象どもの目ん玉を全部消し消ししてあげなきゃねぇ?」
混沌神の笑顔の後ろから、世界を滅ぼすレベルの黒いオーラが噴き出す。
「わしの愛弟子を侮辱した代償は高くつくわよ。……よし、三人とも。大々的に『お披露目』をして、あの愚か者たちの度肝を抜いてやりましょう!」
エルミナ先生までが、杖を地面にドォン!と叩きつけて脳筋全開で同調した。
「え? お披露目って、普通に教室でベールを外すだけで――」
「甘いわ、ステラちゃん! 学園の運動場に【超特大の特設ライブステージ】を魔力で組み上げて、全校生徒……いや、世界中を招待して、貴方のその狂気の美貌をお披露目する『大コンサート』を開催するのよ!!」
「なんでそうなるんだよォォォォォッ!! 話の規模のインフレがマッハすぎるだろォォォッ!!」
俺がベールの下から全力で叫んだものの、三人のヤンデレ親バカたちに、俺の「断る自由」など最初から存在しなかった。
「準備と、世界中への招待状の発送があるから、本番は一週間後よ! 覚悟しておきなさい!」と、笑顔のママたちに強制決定されてしまった。
そこからの、一週間。
アララット王国、ひいては大陸全体の流通が、一人の魔法少女の「お披露目コンサート」のために完全にパニック(狂気)に陥った。
まず、移動中の街道でステラが命を救い、生涯VIPゴールドカードを授けてくれた国内最大の商会【大陸横断・黄金商会】が、全面協賛としてバックアップに参戦。
商会長自らが「ステラ様のお披露目ステージとあれば、我が商会の全物流を止めてでも世界最高の音響魔道具と照明を用意しましょう!」と、国費を超える巨額の資金と物資を学園に投入し、運動場の真ん中に城が建つレベルの巨大ステージをマッハの速度で組み上げ始めた。
さらに、王宮から連絡を受けた同人界のカリスマ超大手作家【よろず先生】が、新入りのメイド(リリィ、スライム)やサポートメイド軍団を率いて学園へ直撃。
「臨時増刊号『黒ゴスロリ死神ステラ様、純白の歌姫へ奇跡の変身編』の、当日会場限定パンフレットを十万部刷り上げます!! アシスタント、死ぬ気でトーンを削りなさい!!」と、
学園の女子寮の印刷ラインを占領して徹夜の修羅場を開始。
極めつけは、混沌神の気まぐれな神のパシリ(神への託宣)によって、【大陸中の各国の王族や皇帝、歴史ある大貴族たち】へ直接、強制的な招待状(※断ったら国を消し消しするよという神の脅迫状付き)が発送されたことだった。
「アララットの『同人の女王』、あの最強魔法少女ステラが、ついにその素顔を世界に公開するだと……!?」
「ガザリア帝国の精鋭を3秒で全滅させたあの死神が、今度は歌って踊るというのか……!? 乗り遅れたら我が国は滅びる、今すぐ全財産を積んで学園のプラチナチケットを確保せよ!!」
世界中の王侯貴族たちが青ざめ、国宝級の財宝を黄金商会に投げ打って席を奪い合う、前代未聞の国際的チケット大争奪戦が勃発。
学園の専用宿舎の窓から、日に日に要塞のように巨大化していく運動場の特設ステージと、世界中から集まってきた豪華な馬車の列を眺めながら、
俺はアイテムボックスからウォッカのスキットルを抜き、今日二杯目の酒を震える手で喉に流し込んだ。
……耐えろ。あと一杯で気絶する。だが、今気絶したら、本番のステージ衣装がどんなハレンチな仕様に書き換えられるか分かったもんじゃない。
「死にたい。ただブスって言われて悔しかったから言い返したかっただけなのに、なんで世界中の王族の前でアイドルコンサートを開くハメになってるんだよ……(泣)」
中身は30歳の元陸上自衛官。
己のプライドと、親たちの歪みきった過酷な愛の暴走により、ステラ(長谷川聡)の物語は、世界中の全権力者の脳を焼き尽くす、伝説の世紀の大コンサートへと突き進むのだった!
(次章へ続く)




