テンプレが見たいですか?
ガバッと跳ね起きると、そこは昨日見た平伏する学園長たちの姿――ではなく、見覚えのある「白いテーブルセット」の前だった。
「……う、頭が痛い。またやってしまった……」
学園の玄関前で、ストレスのあまりウォッカを三口一気飲みして完全ログアウト(強制気絶)した俺――ステラ(中身30歳元自衛官)。
目覚めたらまたしても、あの狂気のお茶会(ガザリア学園支部)が開催されていた。違うのは、対面に座っている面々だ。黒騎士の衣装からさらに気障な【白の王子様姿】へと戻った混沌神、そして銀髪を優雅になびかせた始祖のお母様(始祖ママ)。そこへさらに、全盛期の姿のエルミナ先生までもが当然のような顔で特等席に座り、三人で優雅に高級ハーブティーを嗜んでいた。
「おはよう、ステラちゃん☆ 学園支部での最初のお目覚めティータイムだよ!」
「よく眠れたかしら、私の可愛いステラ。ママもパパも先生も、貴方の寝顔をしっかりスケッチ(新刊の素材確保)しておいたわよ♡」
「……人数が、三人で確定してやがる」
この調子なら、次は『四人目の親』でも座っているのだろうか。次は一体誰がそこに座るのか、恐怖半分、興味半分だが……それよりも今の俺の格好だ。
下を向くと、俺はガザリア魔導学園のシックで高貴な『女子生徒用制服』を着せられていた。
ロングスカートの落ち着いたデザインで、そこは元自衛官としてホッとした。
……のだが。
頭の上に、妙な「違和感」がある。触ってみると、手のひらにカチリと冷たい金属の質感が伝わってきた。
鏡を見るまでもない。
頭の上には、小さめのキラキラ輝く銀の王冠が、ちょこんと少し斜めに載せられていた。
おい、混沌神。始祖ママ。エルミナ先生。
……まさかとは思うけど、これ(王冠)をつけて授業に出ろって言うんじゃないだろうな?俺がベールの下から引きつった声で尋ねると、三人は一斉にこれ以上ないほど満面の笑みで頷いた。
「「「はい、その通りよ(だよ)☆」」」
ステラちゃんは、学園のそこらにいる有象無象の有象(生徒)とは格が違うんだ。王冠くらい被っていきなさい
「そうよ、私の最高傑作の娘なんだから、それくらい当然の義務だわ!」
「わしの愛弟子じゃ、文句を言わずに被って登校しなさい」
親たちの過保護な全肯定トリプルアタック。
俺の意見など一ミリも通るはずがなく、結局、俺は
【地味ドレスの上に漆黒の防風ベール(紐固定)、さらに頭上には斜めのミニ王冠】という、不審者とロイヤルが最悪の融合を果たした姿で教室へと連行される羽目になった。
案内されたのは、今回の留学に合わせて新しく新設されたという【特別Sクラス】だった。全学年から、国家予算レベルの最高の才能と魔力を持ったエリート中のエリートだけを集めた特級クラスらしい。
(……そんなに、そんなにベタなラノベのテンプレが見たいですか、この世界のシステムはァァァッ!?)
顔を怪しい黒ベールで完全に隠し、頭にはミニ王冠を載せ、国費を無限に投入した専用宿舎から登校し、新設されたSクラスへ特別扱いされて放り込まれる小娘。
……反発されて当然ですよね。俺が逆の立場なら、
一秒で「おい、そこの特権階級! 面を貸せ!」って決闘を申し込んでるレベルでムカつく新入生だ。
教室に入ると、居並ぶ国家の天才エリート生徒たちから、肌がヒリヒリとするほどの激しい敵意と見下すような視線が一斉に突き刺さった。
「ふん、あれがアララットの養女か……」
「ベールで顔を隠して王冠? どんだけ高慢な女よ……」
うん、いいよ。みんなのその真っ当な怒り、元自衛官として100%支持する。
俺が全部悪い。だから早く誰か俺に決闘でも嫌がらせでも仕掛けて、この学園から叩き出してくれ……!
俺が心の中でそう願っていると、教壇の前に立つよう促された。
よし、それじゃあクラスの皆に、自衛隊仕込みの折り目正しい挨拶をして――と、
俺が一歩前に出ようとした瞬間、案内してくれた学園の職員に
「お待ちください、ステラ様。担当の担任教師からの挨拶がまだですので」と
手で制止された。
「……ん? 担任教師? 貴方じゃないのですか?」
職員はガタガタと震えながら教壇の端へ退く。
まさか、とは思った。バルタザールをぶっ飛ばした時も、ダンジョンに潜った時もそうだった。
嫌な予感がビンビンに跳ね上がる。
まさか、でも、まさか……。ガラリ、と教室の重厚なドアが開いた。
今日からこのクラスの担任を務めることになった、エルミナよ。よろしくね、有象無象(生徒)の皆さん
まさかと思っていたけど、本当にまさかだったァァァァァッッッ!!!
俺のベールの下から、魂の絶叫が響き渡った。教壇に堂々と上がってきたのは、混沌神の若返りギフトによって絶世のツルペタ美少女姿になった、俺の魔法の師匠――【エルミナ先生(戦闘力:100 殲滅魔女)】その人だった。
驚愕のあまり俺が固まっていると、ふと、教室の最後尾の窓際に目が向いた。
そこには、今日の衣装である『ガサザリ帝国の高級な学校制服』に身を包んだ混沌神と、保護者席(※そんなもの本来はない)に堂々と座った始祖ママの二人が、窓からの木漏れ日を浴びながら、これ以上ないほど満面の笑顔で立っていやがった。
(あかん、終わった。親たちが学園の教壇と最後尾を完全包囲してやがる……!)
そして、教壇の上のエルミナ先生による、第一声の「着任の挨拶」も、控えめに言って完全に最悪(地獄仕様)だった。
――あらかじめ言っておくけれど、私は私の可愛い愛弟子を近くで教え、育てるためだけに、この学園の教師の座を力ずくで(学園長を脅して)奪い取ったのよ。
だから、私はステラちゃん以外には一ミリの興味も関心もないわ。
……まぁ、私の高度な授業についてこれる命知らずがいるなら、勝手についてきなさい
「先生ぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!! 何てこと言うんだお前はァァァァッ!!!」原初の脳筋エルフ、着任一秒で
【Sクラスの全エリート生徒を完璧に敵に回しました】
教室中の天才生徒たちの顔が、怒りと驚愕で青筋を浮かべてプルプルと震えている。その殺気のベクトルは、当然、先生の溺愛の対象である俺へと100%集中していた。
「……ハハ、俺の輝かしい、平穏なはずの魔導学園生活、初日の1時間目にして完全終了(詰み)だな……」
最後尾で「ひゃははは! 先生、いいこと言うじゃないか! ステラちゃんの新刊のネタが捗るねぇ!」と大爆笑している邪神の姿を見ながら、俺はアイテムボックスの中のウォッカ(現在二杯まで)の残量を数え、これからの過酷すぎる学園生活に、ただただ白目を剥いて天を仰ぐのだった。
(続く)




