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TSしましたが、取り忘れてますよ?  作者: kero


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エリクサー

第三十九階層の安全地帯(セーフティゾーン)を発った俺たちは、第四十階層の門番である鋼鉄ゴーレムを再び「魔改造ミリタリー魔法」で瞬殺し、未知なる深層への歩みを進めていた。このダンジョンは、各階層のフロアボスを撃破し、彼らが必ず落とす固有アイテムを回収しない限り、次の層へ進む結界が解除されない仕組みになっている。

第四十階層のボスを処理した俺たちは、人類未踏の領域である第六十階層を一気に突破し、さらにその奥へと進軍を続けていた。

ふぅ……。

よし、このあたりまで降りてくれば、流石に他の冒険者の姿は一人もいないな

第六十二階層の薄暗い通路を歩きながら、俺――ステラ(中身30歳元自衛官)は、頭をガッチリと締め付けていた【漆黒の防風ベール】の紐を緩め、ついにそれをバサリと脱ぎ捨てた。一ヶ月以上の馬車旅と、ここまでの激しい戦闘の間、ずっと顔を布で覆われ続けていたのだ。

ストレスでハゲる一歩手前だった俺にとって、久しぶりに吸うダンジョンの生ぬるい空気(※ただし魔力濃度は激高)すら、至高のご馳走に思えた。

ベールが外れた瞬間、遮るもののなくなった俺の『狂気の美貌(吸血鬼魔法少女仕様)』が、薄暗い洞窟の中で燦然と輝きを放つ。

金髪の髪が揺れ、真っ赤な瞳が妖しく光るその姿は、自分で自分に求婚したくなるほどの超絶ビジュアルだった。


「ぷはぁーっ! 生き返る! やっぱり顔を出して歩けるのは最高だな!」


あら、本当にいつ見てもお美しいこと。

性別超越の始祖の輝きね。

目の保養になって素晴らしいわ

全盛期の姿(ツルペタ)のエルミナ先生が、腕を組んで至極冷静に俺の顔を眺める。長寿のエルフであり現世の美醜を超越している先生には、この魅了の呪いは一切効かない。本当に安心できる聖域だ。


ひゃはははは! やっぱりステラちゃんはベールがない方が最高に可愛いねぇ!

ほら、

しばらく素顔を見てなくて寂しかったから、

僕が全力で抱きしめてハグのチャージをしてあげようか!?

その隣で、今日の衣装である『白い割烹着に三角巾』という昭和のお母さんコスプレをした混沌神が、両腕を広げてウザ絡みを仕掛けてきた。


「一歩でも近づいたらグロックの弾丸を全弾叩き込むからな、クソ邪神!」

俺がロベルタ傘の銃口を向けて一喝すると、混沌神は「ちぇーっ」と割烹着の袖で涙を拭うフリをした。

本気で見破れない神気を出されたら終わりだが、今はわざと気配を緩めているので(またこいつか!)と100%見抜ける。

本当にタチの悪いオカンだ。


「にゃ、にゃにゃにゃ……!?」

ふと横を見ると、この街のギルドでの模擬戦(A級3組無双)を見てからパーティーに加わったケットシーの少女・アリスが、完全に言葉を失ってフリーズしていた。

アリスが俺の「素顔」をまともに、かつ至近距離で凝視したのはこれが初めての機会だった。

「あ、アリス? 大丈夫か? 体調でも悪いのか?」

俺が心配して顔を覗き込むと、アリスは顔を真っ赤にし、猫耳をピンと垂直に立たせてガタガタと震え始めた。

お、お姉ちゃん……。な、なんなのにゃ、そのこの世の全ての美を集めたような神々しいお顔は……! ボク、一瞬でお姉ちゃんの永遠の奴隷(ファン)になりそうなくらい、胸のドキドキが止まらないにゃ……!

アリスは俺の美貌の精神攻撃(魅了)を、百戦錬磨のベテランA級冒険者としての頑強な精神力で見事に耐えきったものの、そのあまりの神々しさにハァハァと息を荒くしている。

……だが、そこでアリスはハッと何かに気づいたように、俺の下半身へと視線を落とした。

で、でも……思い出したにゃ。お姉ちゃんたちのパーティーに入れてもらう前にね、王都から流れてきて、この街のギルドのベテラン冒険者たちの間でも衝撃作として大流行してた、

あの話題の小説本……『よろず先生』の薄い本に書いてあった挿絵と描写を……! 『混沌の邪神に愛される最強の魔法少女ステラちゃんは、股間には人間じゃ拝めないサイズの見事なバズーカをぶら下げたハイブリッド仕様である』って、リアルな挿絵付きで生々しく描写されてたのを……!

目の前にいるのはこんなに超絶美少女なのに、下半身には、本当にあの本に書いてあった通りの凄いのが付いてるのにゃよね……!?


よろずの薄い本、辺境のこの街のギルドにまで輸出されてんじゃねえェェェェッ!!

しかもベテランのA級冒険者にまでばっちり読まれてるじゃねえかァァァッ!!


アリスは俺の素顔の美しさと、王都から流通してきた「よろず先生の薄い本」の恐るべき先入観(脳内情報)のギャップの凄まじさに、本日一回目となる完璧な【宇宙猫(スペースキャット)】の顔になって頭を抱えていた。アリス、色々と本当に苦労をかける。


未知の六十二層安全地帯と、よろず先生の薄い本の呪いそのまま進むこと数時間。第六十二階層の奥深くで、俺たちの前に見慣れた神聖な結界の光が広がった。「あら? これは……安全地帯(セーフティゾーン)ね」エルミナ先生が杖をトントンと突き、驚いたように声を上げる。


「データにはない、完全未発見の安全地帯にゃ……!」宇宙猫からどうにか帰還したアリスが、目を輝かせて周囲を警戒する。第六十二階層の安全地帯。ギルドの資料にも一切載っていない、人類未踏のオアシスだ。当然、他の冒険者の姿は一人もいない。俺たちは広大な空間の隅に腰を下ろし、今日の分の探索を終えて朝までゆっくり休息を取ることにした。俺はアイテムボックスから毛布を取り出し、腰の小袋から二杯縛りのウォッカスキットルを引っ張り出した。


一口、ゴクリ。……ふぅ、アルコールが脳に染み渡る。

これで今日一杯目。

あと一杯は飲めるな。

そんな俺の様子を見ながら、アリスが焚き火の横で、ずっと気になっていたという顔で、ふと素朴な疑問を口にしてきた。


ねえ、ステラお姉ちゃん。ずっと気になってたんだけど……お姉ちゃんと、その後ろの怪しいストーカー執事(邪神)様って、一体どういう関係なのにゃ? ギルドの時もそうだったけど、いくらなんでも距離感が近すぎるというか、お世話の焼き方が異常に過保護というか……


アリスの質問に、俺はウォッカの入ったスキットルを握りしめたまま、ベールのない素顔で盛大に顔を歪めた。

「思い出したくもない……。アリス、聞いてくれ。俺が王宮にいた頃、あのクソ邪神は日替わりで衣装を変えて俺の部屋に不法侵入し、女官たちの前で巧妙に俺との『ラブラブ・ツーショット』を演出しやがったんだ。そのせいで、王宮では俺が『混沌神の最愛の愛妾(お気に入り)』だって公式設定になっちまって……」


「えっ!? 邪神様の、愛妾(奥さん)にゃの!?」


「違う! 全面否定だ!! さらに最悪なのは、我が専属メイドの『よろず』っていうバカ女だ! あいつ、今や何人ものアシスタント(下流メイド)を抱える同人界の大手カリスマ作家……通称『よろず先生』に成り上がっててな。俺のプライベートを勝手に切り売りして、さっきお前が言ってた【混沌の邪神×漆黒の吸血鬼(中身はおっさん陸曹長)】の、ガチガチのBL同人誌(薄い本)を王都中で大量出版・大規模販売しやがったんだよ!!」俺が血の涙を流しながら叫ぶと、


アリスは完全に顎が外れたような顔になり、王宮で繰り広げられていたというピノ(男の娘)の過剰なスキンシップ(服の着替えやお風呂でのギリギリアウトなハラスメント、そしてよろずと先輩メイド邪神の指導)の詳細を聞かされるに至って、精神的ダメージが頂点に達した。「そんな……お姉ちゃん、王宮でそんなハレンチで破廉恥な、薄い本のモデルにされてたにゃんて……。しかも、そのよろず先生の後ろでノリノリでネームの指導をしてたのが、混沌神様ご本人だったにゃんて……」アリスは、王宮から流通してきた「よろず先生の薄い本」の背後にある恐るべき真実を知らされ、ドン引きを通り越し、もはや精神が天界のよろずの印刷所へと強制転移させられたかのような顔で、本日二回目となる特大の【宇宙猫】になって焚き火を見つめてフリーズしてしまった。


「ひゃはははは! よろずちゃんのあの新刊、僕も天界の神棚に飾って毎日読んでるけれど本当に傑作だよねぇ! ステラちゃんが全裸シーツ巻きで『この体全部わかって作っただろ!』って絶叫するシーン、何回見ても大爆笑しちゃうよ!」後ろで、割烹着姿の混沌神が出席簿……ではなく、どこからともなく取り出した『よろず先生の新刊(限定ペーパー)』を嬉々としてペラペラとめくりながら、涙を流して大爆笑している。


「見るな! その呪いの本を今すぐ燃やせクソ邪神ォォォォォッ!!」俺の怒声の掌底が響き渡る中、ツルペタエルフのエルミナ先生だけは、フッと冷ややかな、そしてガチで引き切った瞳で混沌神をジッと見つめていた。


(……あ、これ、よろずがモニターでお漏らしした時に『ヤンデレ神』って怯えてたの、ガチだわ。この邪神、ステラちゃんを自分の世界に監禁して、オモチャにして、自分色に染め上げるプロセスを全力で楽しんでる……。

ステラちゃん、本当に世界のためにも、このストーカー神と一生添い遂げるしかなさそうね……)数百年を生きた最高峰の魔女すらも、邪神のカンストした愛の重さに背筋を凍らせる、第六十二層の静かな、だが狂気に満ちた夜なのであった。


それから数日。俺たちのパーティーは、さらに深き深層へと容赦なき進軍を続けていた。魔物の知能が下層に降りるにつれて徐々に高くなっていく異変を感じつつも、俺のロベルタ傘(現代実弾レールガン仕様)とエルミナ先生の超重力魔法のコンボの前に、敵は全滅の一途を辿るのみ。そしてついに、俺たちは大きな節目となる【第八十階層】のボス部屋の前へと到達した。


ここを越えれば、最下層の領域(90層以降)へ突入にゃ。

……みんな、気合を入れるにゃ!

妹の欠損してしまった両足を治すための『エリクサー』を求めて、目を血走らせているベテランA級鍵師のアリスが、短剣を構えて大扉を睨みつける。


「ええ、ステラちゃん。今回のフロアボスは、今までの有象無象とは格が違うわ。古代の怨念が物質化した『デス・ナイト』。物理無効と高位暗黒魔法の使い手よ」エルミナ先生が杖を構え、全盛期の魔力を全身から立ち昇らせる。


「了解です、先生。――ミッション、開始(エンゲージ)!!」大扉を蹴り開け、俺たちは室内へと突入した。

部屋の中央に佇むのは、黒い霧を纏った、巨大な漆黒の骸骨騎士。その手に握られた大剣から、空間を腐食させるほどの凄まじい暗黒魔力が放たれる。


「ギギギギギ……不遜なる侵入者どもめ……我が暗黒の刃で――」


「うるせえ! 実戦で大声で自己紹介するな! ――響け! 硝煙のレクイエム!

『マジカル・ミリタリー・バースト』……☆(※強制可愛い詠唱)」

俺はロベルタ傘のトリガーを引いた。放たれたのは、現代の鉛の実弾に、俺の極大魔力と吸血鬼の始祖並みの怪力を乗せて、音速の数十倍へと加速された魔改造レールガン。


――ズガァァァァァァンッッッ!!!

物理無効のはずのデス・ナイトだったが、俺の放った一撃は、ハート型のド派手なピンクのエフェクトを撒き散らしながら、その『物理無効の概念』ごと、骸骨騎士の頭部と上半身を一瞬で粉々に消し炭にしてブチ抜いた。

あまりの威力に、ボス部屋の天井が衝撃波でバリバリと崩落していく。


「ガ、ガハァ……!? 我が暗黒の絶対防御が、ただの鉄の礫(つぶて)に……!?」


まだだ! 自衛隊式・魔導手榴弾、投擲!!

『マジカル・フラッシュ・ボンバー』……☆」俺は安全ピンを口で引き抜くと、魔法少女の剛腕で、よろめくデス・ナイトの足元へ特製マジカル・グレネードを正確に放り込んだ。


ドガガガガァァァァンッッッッ!!!!

視界を失うほどの眩いピンクの爆炎がボス部屋を包み込み、第八十階層のボス・デス・ナイトは、破片一つ残さず『分子レベル』で完全消滅した。戦闘時間、わずか4秒。「ふぅ……. 状況、終了。八十層のボスも、現代兵器の前にはただの的だな!」俺は硝煙の立つ黒い傘をパッと閉じ、肩に担いでベールのない素顔でフンスと胸を張った。デス・ナイトが消滅したその場所には、お約束通り、フロアボスの撃破報酬である【眩い黄金の宝箱】がドスンと出現した。


「ア、アリス! 宝箱だ! 罠がないか確認してくれ!」


「う、うん! 任せてにゃ!」アリスは目を血走らせながら宝箱に駆け寄り、目にも留まらぬ速さでピッキングを開始した。「罠はなしにゃ! 開けるよ!」パカッ、と黄金の宝箱が開かれる。その中には、フロアボスの固有ドロップアイテムやいくつかの高位魔導書と一緒に、一本の、透き通るような美しいエメラルドグリーンの液体が満たされたガラス瓶が収められていた。


これ……これにゃ……! 伝説の万能薬、

【エリクサー】にゃああ案の定にゃあああああ!!

アリスはガラス瓶を両手で掲げ、大粒の涙をボロボロと流して歓喜の声を上げた。これで、ダンジョンで両足を欠損してしまった彼女の妹の足は、完璧に、元通りに治る。


作戦は大成功だ。「やったな、アリス! 本当によかった!」俺がベールのない笑顔でアリスの頭を優しく撫めると、


アリスは「ありがとう、お姉ちゃん……! ボク、一生お姉ちゃんについていくにゃ!」と、胸をときめかせて抱きついてきた。


可愛い。だが、俺が宝箱の底に残された『もう一つの古い羊皮紙(資料)』を拾い上げた、その時だった。「……ん? なんだこれ。ギルドの極秘資料か?」俺がその羊皮紙を広げて読むと、そこには驚くべき深層の魔物に関する詳細な記録(スカウティングデータ)が記されていた。――


『警告。第九十九階層に生息する個体名【ハイ・スライム】に注意せよ。この魔物は通常の液状生命体とは根本的に異なり、極めて高い言語知能を有し、自身の姿形、大きさ、質量、さらには性別すらも自由自在に変幻自在に変化させる、このダンジョン最凶の異形である。物理・魔法を完全に透過するため、未だ撃破例なし――』

「姿形、大きさ、性別すらも自由自在に変えられる、知能の高いスライム……?」俺が資料を読み上げると、後ろで『割烹着姿』の混沌神が、糸目をギチリと怪しく光らせてニヤリと歪な笑みを浮かべた。


「へぇ……。性別の概念を持たなくて、自由に姿形を変えられるスライムねぇ……。うん、合格☆ その子、僕のステラちゃんを傷つけるオス(男)の要素も一ミリもないし、足を引っ張ることもないから、君の二人目の『可愛い従者(おもちゃ)』としてパーティーに迎えてあげるのに完璧じゃないか♪」


「お前の下僕にするためにダンジョン潜ってんじゃねえよクソ邪神!!」俺の怒声が響き渡る中、ついに伝説のエリクサーを回収し、次なる最下層(90層以降)に眠る『変幻自在のスライム』と『吸血鬼の始祖』へ向けた、最凶の従者獲得フラグがバッチリと立つのであった。

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