魔改造ミリタリー魔法
よし、ここからはボクの本領発揮にゃ! みんな、ボクの後ろについてきて!」ダンジョン中層、第三十五階層。
これまでの上層での「後方師匠面マウンティング合戦」と「ハート型究極魔法」のせいで完全に宇宙猫と化していたアリスだったが、中層に入ったことでようやく冒険者としての正気を取り戻していた。
このあたりから、ダンジョンは魔物の強さだけでなく、嫌らしい罠の密度が跳ね上がる。
通路の床に仕込まれた感圧板、壁から飛び出す毒矢、触れた瞬間に大爆発を起こす魔法の地雷。
並みのパーティーなら一歩進むごとに脱落者が出る難所だ。
だが、アリスの動きは流石にA級の斥候だった。
「そこ、床の石がちょっと浮いてるにゃ。
……はい、解除完了!」小さな手先で器用にピッキングツールを操り、宝箱の呪いも、通路の凶悪な罠も、ものの数秒でサクサクと無力化していく。
「アリス、お見事! さすがは本職の鍵師だな」俺――ステラ(中身30歳元自衛官)がベールの下から素直に称賛の声を送ると、アリスは嬉しそうに猫耳をパタパタと揺らした。
「えへへ、お姉ちゃんに褒められると嬉しいにゃ! 脳筋の魔女さまと、後ろの怪しいストーカー邪神様の前では、ボクの存在価値が消えかけてたからにゃ……!」
「……フン、罠など魔力で通路ごと吹き飛ばせば済む話だと思うのだけれどねぇ」後ろで全盛期のエルミナ先生が、物騒すぎる脳筋発言をボソッと呟く。
「いやぁ、本当にその通りだね! 罠ごと空間を消滅させちゃえば時短になるのに、ステラちゃんが『アリスの活躍が見たい』って言うから、僕はこうして後ろで大人しく引率の先生をしてあげてるんだよ? 優しいだろ?」その隣で、今日の衣装である『ジャージ姿にホイッスル』という体育教師コスプレをした混沌神が、またしてもドヤ顔で頷いていた。
「お前らは一言喋るだけでダンジョンの難易度がバグるから黙ってろ!!」俺が黒いロベルタ風メイド服の裾を翻して一喝すると、二人はまたしても「ちぇーっ」と不満そうに口を尖らせた。本当にこの後方師匠面たちは油断がならない。
アリスの完璧なナビゲートによって、俺たちは中層の奥深く、第四十階層のボス部屋の前へとたどり着いた。重厚な大扉の向こうから漂ってくるのは、上層の魔物とは一線を画す強大な魔力の気配。中層の門番たる、巨大な鋼鉄のゴーレムのボスだ。「ステラちゃん、ここからの戦闘は貴方の単独で行きなさい。
一年の修行でどれだけ魔力を効率よく練れるようになったか、実戦データを見せてもらうわよ」エルミナ先生が、腕を組んで鋭い視線を向ける。
「了解です、先生。……よし、せっかくだから、今回は『新しい戦術』を試させてもらうぞ」俺は不敵に笑うと、システムを完全に使いこなせるようになった【アイテムボックス(小)】を開いた。
そして、その亜空間の底から、前世の自衛隊時代に肌身離さず愛用していた『現代兵器の実弾(9mmパラベラム弾)』の箱と、オリーブドラブ色に塗装された『M67破片手榴弾』をいくつか引っ張り出した。
「ステラちゃん、それは何かしら? 鉄の破片……? 魔法の触媒には見えないけれど」エルミナ先生が不思議そうに首を傾げる。
「フフ、ミリタリーとファンタジーの融合ですよ」俺はロベルタ傘(仕込み銃・鉄塊仕様)の銃身を開き、現代の金属薬莢(実弾)をガシャリと装填した。
そして、ステータスの【武器補正:中】と【魔法適正:大】を同時にフル駆動させる。
さらに、あのクソ可愛い魔法少女システム【魔法少女適正:極大】の魔力を、強引にその現代兵器の『鉛と火薬』の中へと流し込んで魔改造を施した。
キィィィィィン……!俺の手の中で、黒い傘が不気味なピンクと黒の魔力のオーラをまとい、パチパチとプラズマのような電撃を放ち始める。
ただの鉄の傘が、異世界の魔法技術によって「質量兵器兼魔導レールガン」へと一瞬で変貌を遂げたのだ。
「――作戦、開始!!」大扉を蹴り開け、俺は室内の巨大な鋼鉄ゴーレムへと肉薄した。
ゴーレムが大地を揺るがす咆哮を上げ、丸太のような鉄の拳を振り下ろしてくる。「遅いッ! ――響け! 硝煙のレクイエム! 『マジカル・ミリタリー・バースト』……☆(※強制発動のクソ可愛い詠唱)」俺はロベルタ傘のトリガーを引いた。放たれたのは、現代の火薬の爆発力に、魔法少女の極大魔力を上乗せして音速の数十倍へと加速された『9mm魔改造実弾』。――ズガァァァァァァンッッッ!!!閃光と共に放たれた一撃は、ハート型のド派手なピンクのエフェクトを撒き散らしながら、ゴーレムの頑強な鋼鉄の胸装甲を、まるで豆腐のように一瞬で消し炭にして貫通した。あまりの威力に、ボス部屋の奥の壁まで巨大な風穴が空いている。
「ギ、ギガァ……!?」装甲をブチ抜かれ、よろめくゴーレム。「トドメだ! 自衛隊式・魔導手榴弾、投擲(ピンを抜け)!!」俺は安全ピンを口で引き抜くと、魔法少女の【速:45】の剛腕で、ゴーレムの割れた装甲の隙間へと手榴弾を正確に放り込んだ。ただの手榴弾ではない、中に【魔法少女の加護】による高密度の圧縮火属性魔法がこれでもかと充填された、特製のマジカル・グレネードだ。
「きらきら輝け! 『マジカル・フラッシュ・ボンバー』……☆」ドガガガガァァァァァンッッッッ!!!!ボス部屋全体が視界を失うほどの眩いピンクの爆炎に包まれ、中層のボスであった鋼鉄のゴーレムは、破片一つ、ボルト一本すら残さず、文字通り『分子レベル』で完全消滅した。戦闘時間、わずか五秒。
「ふぅ……。状況、終了。現代兵器と魔法の相性、抜群だな!」俺は硝煙の立つ黒い傘をパッと開き、ロベルタさながらに肩に担いで、ベールの下でフンスと満足げに胸を張った。
一年の修行の成果と、自衛隊の知識が見事に噛み合った完璧な戦術データだ。「…………」だが、俺がドヤ顔で振り返った瞬間。
ボス部屋の入り口では、アリスが持っていたピッキングツールを床に落とし、本日二回目となる、完璧な【宇宙猫】の顔になって完全にフリーズしていた。
な……なんなのにゃ、今の暴力は……。傘から光線(弾丸)が出たと思ったら、鉄の塊が消し飛んで……そのあと、変なミカンみたいな鉄を投げたら、中層のボスが原型すら残らず消滅したにゃ……。
ボクの知ってる『魔法』とも『弓矢』とも、根本的に何かが違いすぎるのにゃ……!ドン引きを通り越し、もはや未知のオーバーテクノロジー(近代兵器)を前にして脳の理解が完全に拒絶を起こしている。
アリス、これが現代のミリタリースペックの恐ろしさだ。「ふむ……。実弾の質量に魔力を乗せて加速させる、物理と魔導の複合術式ね。荒々しくて、実によい破壊の美学だわ。さすがは私の愛弟子、合格よ」ツルペタエルフのエルミナ先生だけは、腕を組んで「フッ、私の指導の賜物ね」と、一人で満足そうにウンウンと頷いていた。
この先生もやっぱり本質が脳筋だから、大火力の現代兵器が大お気に入りらしい。
「ひゃはははは! さすが僕のステラちゃん! フリフリの傘を振り回しながら手榴弾を投げつける魔法少女なんて、長く生きてるけれど初めて見たよ! 最高にハレンチで物騒で可愛いねぇ!」後ろでは、ジャージ姿の混沌神がホイッスルをピピッ!と吹きながら、涙を流して大爆笑している。
「ハレンチって言うなクソ邪神! ――よし、中層のボスも瞬殺したことだし、このままのペースで、一気に50層、60層へと進撃(進軍)を開始するぞ!」
「お、お姉ちゃん……ボク、もう何が起きても驚かないように精神を鍛えるにゃ……」宇宙猫からどうにか帰還したアリスを先頭に、俺たちのパーティーは、魔改造されたミリタリー魔法の硝煙の香りを漂わせながら、さらなる深層へと向かって容赦なく突き進んでいくのだった。
(続く)




