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TSしましたが、取り忘れてますよ?  作者: kero


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ダンジョンの作戦説明会

『深淵の監視者』ダンジョン、突入前夜。俺たちは高級ホテルのスイートルームに集まり、結成記念を兼ねたダンジョンの作戦説明会――という名の親睦会を開いていた。

テーブルに並ぶのは、黄金商会のVIPカードで仕入れた最高級の料理の数々。そして、俺の前に鎮座するのは二杯縛りのウォッカスキットル。

すでに一杯目を舐めるように味わい、俺はベールの下で一息ついていた。

アリス。明日からいよいよ突入だけど、本当についてくるんだね? 死ぬかもしれないよ。

妹さんのことは、本当に大丈夫なの?

俺は改めて、目の前で小さなフォークを器用に使うケットシーの少女に問いかけた。

アリスはピクッと猫耳を揺らし、真剣なキャッツアイで俺を見つめた。

「うん。行くよ、ステラお姉ちゃん。……ボクね、この街のギルドで別のA級パーティーに所属してたんだ。でも、みんな女性ばかりのパーティーで、実力が頭打ちになっちゃって。これ以上は絶対に下層には潜れないって分かって、お互いのためにパーティーを抜けたの。新しい実力のある人を探してたら、お姉ちゃんの『A級3組ワンパン無双』の噂を聞いて、この人だ!って思ったんだ」アリスの耳が少し寂しげに垂れ下がる。「妹の命には別状はないよ。でもね、以前ダンジョンで魔物に襲われて、両足を欠損しちゃったの……。普通の回復魔法じゃ部位欠損は治らない。でも、最下層に出るっていう伝説の『エリクサー』なら、欠損すら完璧に治るから。ボクはそれに全てを賭けてるんだ」


「……なるほどな。分かった、そのエリクサー、絶対に獲りに行くぞ」中身がおっさん自衛官の俺は、彼女の不退転の覚悟(妹愛)に深く共感した。部下の、いや仲間の家族の足を治すための作戦だ。陸曹長として異存などあるはずがない。

すると、上座で優雅に紅茶を啜っていた若返りエルフのエルミナ先生が、コトリとカップを置いた。

「では、私からこのダンジョンの解説をしましょう。ステラちゃん、アリスちゃん、よく聞きなさい」先生が広げた地図を指差す。

この『深淵の監視者』は、いわゆる典型的な【洞窟型ダンジョン】よ。この世界には様々な形態のダンジョンが存在するけれど、洞窟型は一番オーソドックス。難易度の基準は『深さ=階層』で単純明快。階層が多ければ多いほど難易度は跳ね上がるわ。……

そして、この世界のダンジョン最大の特徴であり最大のクソ仕様は、

【ショートカット(中途再開)が存在しない】ということよ先生の言葉に、俺はベールの下で眉をひそめた。

「つまり、途中から始めることはできない。苦労して最下層まで降りたら、まったく同様の苦労をして自力で上がってこなければならないの。


行きに倒した各階層のボスと、帰り道でもう一度戦うことになる。帰りは当然、疲労も物資の消耗もある。行きに倒せたからといって、帰りに倒せるとは限らないわ」これぞ、ファンタジー世界の過酷な兵站(ロジスティクス)問題だ。


エルミナ先生は真剣な顔で指を三本立てた。「ダンジョン攻略は『実力三割』と言われているわ。その意味は、もし仮に【100層のボスを倒せる実力】を持ったパーティーがいたとしても、実際に安全に往復して攻略可能なのは【30層まで】という意味よ。往復分で60層分の疲労、プラス残りの40層分は不測の事態に備えるための余力。パーティーメンバー全員が最後まで無事とは限らないわ。ギリギリの戦力だと、帰り道で誰か一人が脱落しただけで、パーティー全員が全滅する可能性が一気に跳ね上がる……。これが、数多の冒険者の死によって積み上げられた『血の経験則』よ」自衛隊の行軍訓練でも、行きより帰りの方が圧倒的に脱落者が出る。全く同じ戦術思想だ。


「ただ、これには国レベルの例外があるわ。ある程度経験則が溜まった安全なダンジョンでは、国が【大規模な人数】を投入するの。各階層のボス部屋に『専属の引きこもりパーティー』を配置するのよ。仮に100層なら100組のパーティーを準備して、一段階ずつ攻略するごとにパーティーをその層に一つ置いていく。そうして最下層のボスまで攻略が終われば、最下層から順次上がって来次第、各層の居残りパーティーがその都度ボスを撃破して通路を解放し、上がってきた本隊と一緒に全員で上がっていくの。一度これをやれば完璧な攻略マニュアルができるから、冒険者の生存率は一気に上がる。

国としてもダンジョンを『産業化』しやすいから、どの国でも早急に行われているわ」なるほど、物量と人海戦術による「拠点の常駐化」か。実に合理的だ。「でも、この『深淵の監視者』はまだ60階層までしかデータがないわ。経験則で大体の難易度は分かっているし、今の私たちの実力なら最下層まで突入してボスを倒すことは可能でしょう。

……ただ、普通なら『帰ってこれない』。あのギルド長も、ステラちゃんがどれだけ強いパーティーを組んだところで、最下層から生きて戻れるとは思っていないわ。王家に繋がるワガママなお嬢様に、ダンジョンの本当の恐ろしさを『分からせて』、安全な上層で満足して帰ってほしかっただけなのよ」ギルド長のあの親切心の裏には、そんな大人の事情があったのか。


納得だ。すると、エルミナ先生はフッと不敵に、そして最高に美しく若返った顔で妖しく笑った。

「――まぁ、私たちは全員『イレギュラー』だから関係ないのだけれどね?」

「え?」「かつて国をいくつも更地にして『殲滅の魔女』と恐れられたエルフの最高峰の魔法使い(私)。

その魔女の弟子で、すでに師匠の魔力すら凌駕しつつある、ハートを乱舞させる最強の魔法少女(ステラちゃん)。……そして」

エルミナ先生は、部屋の隅で「完璧な執事」の姿のまま、優雅に紅茶のおかわりを注いでいる混沌神をチラリと見た。

「――その魔法少女のストーカーをして、甲斐甲斐しく後ろで見守っている本物の【混沌の神】。

ふふ、最下層のボスが可哀想ね。帰りの疲労? 物資の消耗? そんなもの、邪魔なボスごと全員原型が残らないレベルでボコボコにして、ステラちゃんの二番目の『魔法教師(サンドバッグ)』にしてあげましょう?」

「…………」

あ、俺、今になって完全に察した。エルミナ先生、知性的でエレガントなエルフのお婆さん(中身)だと思ってたけど、本質は【見た目と真逆の、超ド級の脳筋ゴリラ】だこれ!!! 筋肉(魔力)ですべてを解決する側のタイプの魔女だ!


「にゃ、にゃにゃにゃんだってぇぇぇぇぇっ!?!? 邪神!? 殲滅の魔女!? え、ボク、とんでもないパーティーに入っちゃったのにゃ!?」


隣を見ると、アリスが完全に『宇宙猫(スペースキャット)』

のような顔になってフリーズしていた。可愛い。

だがアリス、安心しろ。一番の被害者は、その邪神のオモチャにされてる俺だから。


「ひゃはははは! さすが魔導の長、いいこと言うじゃないか! 僕のステラちゃんを傷つける奴は、最下層の主だろうが何だろうが概念ごと消し去ってあげるからねぇ!」

部屋の隅で、王子様……ではなく執事姿の混沌神が、オカン全開の笑顔で嬉々として拍手している。……


いや、待てよ。混沌神の野郎、さっきからエルミナ先生に「邪神」ってダイレクトに呼ばれてるのに、苦虫を噛み潰すどころか、自分の独占欲(ヤンデレ)を肯定されてめちゃくちゃ満足そうな顔をしてやがる!

(チッ、先生の参戦は想定外で嫌がってたクセに、ステラを全肯定する脳筋発言にはノリノリなのかよ! 本当にタチの悪いストーカーだ!)

俺はベールの下で盛大にため息を吐きながら、二杯縛りのウォッカスキットルをキュッと閉め、腰の弾薬ベルトにロベルタ傘(仕込み銃)をセットした。

「よし……何はともあれ、戦力はこれ以上ないほど過剰(オーバーキル)だ。アリス、妹さんの足を治すために、明日からダンジョンを文字通り“殲滅”しに行くぞ!」


「う、うん……! ボク、鍵開けだけは絶対に頑張るにゃ……!」こうして、脳筋の魔女、中身おっさんの魔法少女、宇宙猫状態のケットシー、そしてすべてを裏で操るヤンデレ邪神という、世界のバランスを完全に崩壊させる最凶の4人(?)パーティーによる出発準備が整った。明日からいよいよ、地獄の、そして最高にストレス発散になるであろう『深淵の監視者』ダンジョン探検が幕を開ける。俺の本当の戦い(と、混沌神への物理的ざまぁのチャンス)は、ここからが本番だった。

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