正真正銘の本物の魔法少女爆誕
いいですか、ステラちゃん。魔術とは世界の理を紡ぐもの。
まずは基本の火属性初級魔術『ファイアボルト』を、
教えた通りの詠唱で放ってみなさい
「了解しました、エルミナ先生!」王宮の特別訓練場。エルフの老魔導師エルミナ先生の指導のもと、俺――ステラ(中身30歳元自衛官)は、防風ベールをガッチリと押さえながら精神を集中させた。【魔法適正:大】を解放し、自衛隊の射撃訓練を思い出しながらターゲットの的に向かって右手を突き出す。
脳内では教えられた通りの、厳かで神聖な古代エルフ語の詠唱を完璧に唱えた――つもりだった。だが、俺の口から出たのは、全く違う
「音」だった。
「――響け! 烈火のパッション! 『マジカル・ファイア・シュート』……☆」
「はぁぁぁぁぁっ!?」
自分の口から飛び出した、どこかの朝のアニメのような、鳥肌が立つほど可愛らしい魔法少女チックな詠唱に、俺自身が一番大声を上げて驚いた。さらに不思議なのはそれだけではない。俺の指先から放たれた初級の火属性魔法。それは、真っ赤に燃え盛る【どデカいピンクのハート型】の形をして、空中をキュルキュルと可愛らしく回転しながら飛んでいったのだ。ドゴォォォン!!標的の的に命中した瞬間、ハートは爆発し、激しい炎となって的を灰に変えた。当たった時の性質は確かに「火は火、水は水」と、教えられた属性通りの効果が出る。出るのだが、飛んでいく見た目が全部ハート型なのだ。
す、ステラちゃん……。
今のは古代エルフ語の『燃え盛る火の矢よ、我が命に従え』という詠唱のはずですが……周りには、全てそれっぽく可愛らしい少女の祈りに聞こえます。
……不思議なこともあるものですね
さすがのエルミナ先生も、数百年生きるエルフの知識にない「バグ魔法」を前に、細い眉をひそめて戸惑っていた。
これが【魔法少女適正:極大】の呪い(システム)か。俺が真面目にやろうとすればするほど、世界の理が強制的に「魔法少女仕様」へと書き換えられてしまう。さらに最悪なのは、この状態で『変身』を試した時だった。
「わたしはっ、せかいいち可愛い魔法少女ですっ……☆(7回目)」
カチャリ。
ベールを脱ぎ捨て、フリフリの最強魔法少女モードへと変身する。エルフのお婆さんであるエルミナ先生は、俺の美貌を見ても「ほう、大層美しい吸血鬼の姿じゃな」と至極冷静だ。よし、この状態ならどうだ! 俺は再び、ハート型の水属性初級魔法『アクアボール』を放ってみた。すると、先ほどとは比べ物にならない、ドン引きするほど派手な演出が訓練場を包み込んだ。頭上からキラキラとした星のラメや虹の光が降り注ぎ、空中に巨大な魔法陣が何重にも展開され、ファンファーレのような美しい音楽がどこからともなく鳴り響く。
「な、なんだこの無駄にゴージャスな演出は! 恥ずかし死ぬ!!」威力も、初級のはずの魔法が、自動的に中級並みへと最低でも一段階ブーストされていた。
さらに恐ろしいことに、俺が「ミリタリーの格闘術の癖」で、放つ瞬間にステップを踏むような『一段の踊り(ターン)』をうっかり加えて放ってみた。
――キュルルルルンッ! ドガシャァァァァァァァンッッッ!!!
ただの初期の初級魔法だったはずのハートが、訓練場の防護結界ごと山の斜面を丸ごと一つ消し飛ばすような、【地形変動レベルの究極魔法】へと大化けして炸裂したのだ。
「……ただの初期魔法にちょっとステップを混ぜただけで究極魔法……? じゃ、じゃあ、本物の『究極魔法』に踊りを加えたら一体どうなるんだ……?」
「ステラちゃん……それは、絶対にここで使ってはなりませんよ。王都が、いえ、この国が消滅します」エルミナ先生が、冷や汗を流しながら俺の鉄パイプ……ではなく杖を優しく下げた。変身後の魔法は、あまりの威力への恐怖と、無駄にキラキラした演出による「羞恥心」との、血を吐くような孤独な戦いだった。
その頃。王宮の遥か上空、人間には決して知覚できない世界の狭間で、混沌神はすっかり暇を持て余していた。
「あーあ、つまんないなぁ。ステラちゃん、真面目にエルフのお婆さんとお勉強しちゃってさぁ」混沌神は、空間に浮かべた特大のスクリーン(神の覗き窓)を見つめながら、だらしなく寝そべっていた。
長く、あまりにも長く退屈な時間を生きてきた邪神にとって、暇つぶしの『おもちゃ』として気まぐれに作った存在が、ここまで自分を夢中にさせ、目を離せなくさせたのは初めてのことだった。今の混沌神は、ステラのことが気白(気になって)気になって仕方がなかったのだ。寝ても覚めても、ステラがパニックになる顔や、酒を二杯で我慢している健気な姿ばかりが頭をよぎる。
「……でも、今は我慢、我慢。ステラちゃんがどんな風に僕を驚かせる成長をするのか、特等席で見届けたいからね」混沌神はニヤリと妖しく目を輝かせると、ふと思いついたように指をパチンと鳴らした。「そうだ。代わりに、あのエルフのエルミナお婆さんを、少し『手伝って』あげよう。僕の大事なステラちゃんの教師役なんだ。もっとマシな戦力にしてあげないとねぇ?」神の気まぐれな魔力が、訓練場にいるエルミナ先生へと降り注ぐ。数百年を生きて老いたエルミナの肉体から、みるみるうちに皺が消え、垂れていた耳がピンと張り、白髪だった髪が輝くようなエルフの金髪へと変わっていく。混沌神の力によって、エルミナ先生は【年齢を若返らされ、その生涯で最も力のあった全盛期の時代】へと強制的に肉体を固定されたのだ。
長く生きた知恵と、若かりし頃の圧倒的な魔力を持てば、僕の可愛いステラちゃんの教師もバッチリ務まるだろう?
……もちろん、期待外れの成長しかさせられなかったら、その時は代償として、あのエルフの命をいただくけれどね、ひゃはははは!
その様子を、王宮の陰で「新刊のネタ提供(邪神直出し)」として直接聞いていたよろずは、持っていた羽根ペンをポロリと床に落とした。よろずの心は、これまでにないほど、文字通り「完全に凍りついていく」のを感じていた。
……あ、アカン。混沌神様、これ『ちょっとお気に入りのおもちゃで遊んでる』とかそういう次元じゃないわ……。自分の所有物を完璧に育てるために、世界最高峰の教師を神の力で拉致・魔改造して、失敗したら殺すって……。
これ、正真正銘の、ガチの、ド直球な【ヤンデレ邪神】だわ……。
ステラ様、逃げて、超逃げて……っ!
さすがのヘンタイ同人作家・よろず先生も、笑えないレベルの邪神の愛の重さに、本気で恐怖を覚えるのだった。
「……え? せ、先生……? 一体どうしちゃったんですか、その姿……」
訓練場に向かった俺は、目の前に立っている『絶世のエルフの美少女』を見て、完全に戸惑っていた。昨日まで穏やかで優しかった数百歳のお婆さん先生が、今や俺と同じくらいの、ツヤツヤの肌を持った超絶美女に変身しているのだ。魔力の密度にいたっては、周囲の空気がビリビリと震えるほど跳ね上がっている。若返ったエルミナ先生は、自分の若々しい手を不思議そうに見つめながら、毅然とした声で言った。「分かりません。今朝目覚めたら、突然肉体が全盛期の頃に戻っていたのです……。
ですが、知恵も魔力も溢れるほどに高まっています。ステラちゃん、訓練を続けましょう」
「は、はい……」俺はベールの下で、冷や汗を流しながらコクコクと頷いた。(……おかしい。絶対にあのクソ邪神の仕業だ。何を企んでやがる……)だが、若返ったエルミナ先生を見つめながら、俺の中の中身(30歳元自衛官)は、ふとある重大な事実に気づいてしまった。
元の絶世の美少女に戻ったシャルロット姉さまや、肉食系の公爵令嬢。彼女たちは全員、出るところが出た「大変グラマラスで素晴らしい肉体」を持っている。
そして、今のこの俺の身体も、無駄に胸がでかくて手足が長い、勝ち組ビジュアルだ。しかし。目の前で若返ったエルミナ先生の胸元は、驚くほどに平ら――すなわち、【完璧なるツルペタ(貧乳)】であった。
(……待てよ。金髪、耳が尖っている、細くて華奢な体型、そして一切の起伏のない完璧な平らな胸元、それでいて放つ魔力は世界最強クラス……)俺はベールの下で、深く、深く確信した。
先生……あなたこそが、この世界における『正真正銘の本物の魔法少女』のビジュアルだと思います……。
俺のこの、無駄にでかくて下半身に特大のバズーカをぶら下げたハイブリッド仕様、絶対に魔法少女の文脈として何かが間違ってるよォォォォッ!!
「ステラちゃん? さっきから何をブツブツと失礼なことを考えているのですか? ほら、次は『マジカル・アクア・レイ』のステップの練習ですよ!」
「はいっ、先生!!」ツルペタの本物の魔法少女(元お婆さん)による、究極魔法をマスターするための地獄のステップ訓練が、今日も王宮の裏で盛大に幕を開けるのだった。
(続く)




