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TSしましたが、取り忘れてますよ?  作者: kero


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懐かしの我が家 分からされ。

「――姉さま、もう限界です。俺、このまま王宮にいたら、女子力(笑)のレッスンで脳がメス化する前に、腐女子の薄い本と日替わり邪神の精神攻撃でガチで発狂して死にます」

ある夜、俺は人目を忍んでシャルロット姉さまの私室へと駆け込み、床に五体投地を決めて涙ながらに訴えかけた。頭には予備のカーテンの切れ端を巻き、腰には二杯縛りのウォッカスキットル。現在の俺のフル装備(精神的限界仕様)である。


元の絶世の美女に戻ったシャルロット姉さまは、ベッドの上で優雅に紅茶を嗜んでいたが、俺のあまりに哀れな姿に困ったような苦笑いを浮かべた。


「ふふ、毎日お部屋の前が大変なことになっているものね。よろずの筆も最近ますます冴え渡っているみたいだし……」


「笑い事じゃないですよ姉さま! あいつら俺のプライベートを勝手に邪神とのラブロマンス(裏はガチ BL)に仕立て上げて、今や王宮の女官全員が俺をエロい目で見てくるんです! 頼みます、俺をこの王宮から脱走させてください! あの、かつて一緒に汗を流した、中層のセーフティゾーンにあった懐かしの『シャルロット雑貨店』へ連れていってほしいんです!」

俺の必死の懇願に、姉さまは「そうね……」と顎に手を当てて少し考え込んだ。シャルロット姉さまが王女として王宮に戻られてから数週間。ダンジョン中層にあるあの雑貨屋は、無くなれば深層を目指す冒険者たちが物資不足で全滅しかねないため、現在は王家から正式な管理人が派遣され、従来通り営業を続けているという。


「分かったわ、聡ちゃん――ううん、ステラちゃん。ちょうどお店の様子も気になっていたし、定期視察という名目でダンジョンへ向かいましょう。エドガーたちにも護衛を頼むわね」


「姉さま……! 一生ついていきます!」俺は心の中でガッツポーズを決めた。実は、俺はこのままあっちのダンジョンに住み着いてやろうと画策していたのだ。元自衛官として、泥臭いダンジョンでの生活の方が、女官たちに囲まれる王宮の百倍マシだ。それに、この身体の【武器補正:中】や【魔法適正:大】といった、まだ見ぬ実戦データも検証してみたかった。王宮のドロドロからおさらばして、目指せ、平穏なダンジョン引きこもりライフ!翌朝。作戦は迅速に決行された。「シャルロット王女殿下のダンジョン雑貨店・定期視察」という完璧な大義名分のもと、俺たちは王宮を脱出した。同行するのは、シャルロット姉さまと、お忍びの旅ということで糸目イケメンの精鋭騎士長エドガー以下、手練れの騎士5名。そして、頭からスッポリと【漆黒の防風ベール】を被った不審者極まりない俺だ。馬車に揺られること数時間、俺たちは再び懐かしのダンジョンの入り口へと到着した。一歩足を踏入れば、そこは懐かしのダンジョン。壁に不規則に張り付けられた『発光プレート』が、外の太陽と連動して爽やかな朝の光を放っている。魔物の出現パターンやドロップアイテムが時間で変わる、あの懐かしい戦術的環境がそこにはあった。セーフティゾーンへと続く馴染みの道を歩いていくと、懐かしの澄んだ音を立てる湧き水が見えてきた。


「ああ……帰ってきた……。俺の、俺たちのホームグラウンドに……っ!」コンコンと湧き出る水を見つめながら、俺は不覚にもベールの下で目頭を熱くし、ウルっときてしまった。ここでよろずにガシガシ洗われた時は殺意しか湧かなかったが、今となってはあの理不尽な日々すら輝かしい思い出だ。王宮の精神的ディストピアに比べれば、ここは天国である。すると、前方から狩りを終えた風の、見覚えのあるガタイの良い冒険者たちが歩いてくるのが見えた。


あ、おい! お前ら、久しぶり――」俺は嬉しくなって思わず手を挙げ、声をかけようとした。

……が、即座に手を下ろした。今の俺は、頭から不気味な黒い布を被った正体不明のベール不審者である。

声をかけられた冒険者たちは、一瞬だけギョッとしたように俺を見ると、「うわ、なんだあの怪しい奴……関わらんとこ と露骨に距離を取ってすれ違っていった。

「誰も相手してくれませんよ……(泣)。俺、一応このダンジョンを怨霊の暴走から救った最強の魔法少女なんだけどな……。地味女(時々、魔法少女)の隠密生活、孤独すぎて辛い……」ベールの下でシクシクと涙を流する俺を、エドガーが「まあまあ、ステラちゃん、元気を出して」と糸目で苦笑しながら慰めてくれる。気を取り直して、俺たちはついに目的の場所――


『シャルロット雑貨店』の前に到着した。木製の重厚なドア。懐かしい看板。中からは、朝のラッシュアワーを迎えているのか、冒険者たちの賑やかな声が漏れ聞こえてくる。「よし、今日からここが俺の新しい戦場だ! 存分に働いて、王宮のストレスを発散してやる!」俺は鼻息を荒くし、シャルロット姉さまと共に勢いよくドアを押し開けた。「いらっしゃいませー! 朝のポーション、今なら焼きたての携帯食料とセットでお買い得ですよーっ!」店内には、元気に、そして実に愛想よく接客をしている若い女性店員たちの弾んだ声が響き渡っていた。王家から派遣された管理人たちが、実に真面目に店を回しているようだ。素晴らしい。文化的でビックリだ。……だが、そのカウンターの奥でポーションを並べている少女の顔を、何気なく見た瞬間。俺の脳のすべての思考が、完全に停止した。

(……ん? あの、ハキハキと接客してるポーション担当のロリっ子メイド、どこかで見たような……)いや、それだけではない。「はい、中級ポーション5本ですね! 毎度あり!」と、奥の倉庫から巨大な樽を怪力で運んできた、スラリとした長身の美人店員の顔。さらに、レジでお金を数えている、おっとりとした眼鏡をかけたお姉さん店員の顔。全員の、その『糸目の奥にある底知れない闇の笑み』。「嘘……だろ……?」俺はガタガタと震えながら、店内にいる合計五人の女性店員たちの顔を順番に見回した。全員、姿形も、身長も、声のトーンも全く違う。違うのだが――その魂の波動、浮かべている「最高に意地の悪い笑い方」は、一人の例外もなく、あのクソ野郎の形状違いだった。そう。中でキビキビと働く店員、全員が【混沌神】だった。邪神が一人で五つ子(全員ビジュアル違いの美少女)を演じ分け、完璧なコンビネーションで超満員の雑貨屋をワンオペ(実質ファイブオペ)で回していたのだ。仕事のクオリティが高すぎて、冒険者たちも何一つ疑わずに買い物をしている。


「な、なんやねんこれ……。我が家が……俺の心のオアシスが、邪神の巣窟(ワンダーランド)に魔改造されてる……」あまりの絶望感と、逃げ場のないホラー展開に、俺の膝の骨がクラッシュしかける。俺が店の中央で呆然と立ち尽くしていると、店の奥にあるカーテンがすっと開き、そこから『仕立ての良いスーツをだらしなく着崩した、いかにも胡散臭いイケ叔父』の姿をした、本物の本体(?)がぬっと現れた。イケ叔父の混沌神は、周囲の冒険者やシャルロット姉さまたちには一切気づかれない神速の動きで、俺のすぐ目の前まで歩み寄ってきた。そして、立ち尽くす俺の傍らに静かにしゃがみ込むと、俺の頭を覆う黒いベール越しに、直接その冷たい唇を耳元へと近づけてきたのだ。薄い布一枚を挟んだだけの至近距離。奴は最高のエンターテインメントを楽しむかのように、ゾクッとするほど甘く囁いた。


「――言っただろ、ステラちゃん。僕からは逃れられないよ。君は、僕のものなんだからさぁ♪」


「ひ、ひぃぃぃぃっっ!!」俺の悲鳴がベールの中で窒息する。脱走作戦、開始からわずか数時間で、完全なる作戦失敗(作戦空間がすでに敵の絶対支配下)。


「姉さん……エドガー……。もうダメです、帰りましょう……。王宮へ戻って、よろずのスパルタ調教レッスンを受けます……」


「え? あら、もういいの、ステラちゃん?」シャルロット姉さまが不思議そうに首を傾げる中、俺は涙をボロボロと流しながら、トボトボとした足取りで馬車へと引き返すしかなかった。背後からは、五人の美少女姿の混沌神たちと、一人のイケ叔父姿の混沌神が、声を揃えて「またのご来店をお待ちしてまーす☆」と、地獄のような満面の笑みで俺を見送っているのだった。


(続く)

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