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TSしましたが、取り忘れてますよ?  作者: kero


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12/60

王宮に平穏な日々はない

「おのれ、よろず……。陸曹長の権限で絶対に全巻差し押さえてやる……!」

漆黒の防風ベールを深く被り、気配を完全に消した俺――ステラは、深夜の王宮の一角、怪しい熱気に包まれた秘密の会場へと潜入していた。

そこは、王宮のメイドや一部の腐った令嬢たちが集う、非合法の同人誌マーケット。

「はーい、列の最後尾はこちらでーす! 壁際の『よろず先生』のスペース、新刊の『邪神×吸血鬼陸曹長』の列は外まで続いてまーす!」ベールの中で俺の顔が怒りで引きつった。

見れば、会場の最奥で、よろず(女)が俺のプライベートを切り売りしたBL同人誌を山積みにし、ご満悦な顔でファンへのサイン会を開催しているではないか。


「一言文句を言って、このクソ本を全部没収してやる!」俺が殺気立ってブースへ近づこうとした、その時だ。


「よろず先生! 大ファンです! 新刊、保存用と観賞用と布教用、あと神棚に飾る用で合計十冊ください!」列の先頭で、両手いっぱいに俺の薄い本を抱え、目を輝かせているメイドがいた。


そのメイドの横顔を見た瞬間、俺の全身に冷たい戦慄が走った。


(……またお前か、混沌神ァァァァッ!!)

邪神の野郎、メイドに化けて原作者(よろず)に直々にサインを貰いに来てやがった。

「おい、お前ら――」俺が声をかけようとした瞬間、混沌神がニヤリと笑って指を鳴らした。途端にドロンと怪しい煙が巻き起こり、霧が晴れた時にはよろずも混沌神も、大量の薄い本もろとも綺麗さっぱり消え失せていた。


完全に煙に巻かれた。結局、一冊も回収できずに自室へ戻ると、なぜかシャルロット姉さまから


「ステラちゃん、新しい専属メイドを雇ったわよ」と告げられた。理由は明白だ。よろずが薄い本を作ることに全てのエネルギーを注ぎ込んだせいで、俺の世話にかける時間が激減したからである。


仕事しろよ、あのバカメイド!しかし、そこでやってきた「新人」が、俺の人生のキャパシティを完全に粉砕した。「初めましてー! ボク、今日からステラお姉ちゃんのお世話係になった『ピノ』だよ!」現れたのは、一見すると小柄でめちゃくちゃ可愛い、ロリっ気のある僕っ子の少女(?)だった。

だが、そのピノとかいう新人は、挨拶もそこそこに、部屋に入るなり問答無用で俺の身体に全力で抱きついてきたのだ。


「うわっ、ちょっと待て、離れ――」


「お姉ちゃん、だーい好きっ♡」小さな頭を俺の胸にぐりぐりと押し付けてくる。可愛い。見た目は天使のようだ。

……だが、次の瞬間、ピノはなぜか俺の手を力ずくで引っ張ると、あろうことか【自分の股間の部分】へと誘導し、力強く押し当ててきた。


「は、はあっ!? 何するの、お前――」その瞬間、俺の指先に、ピノの可憐で幼い見た目からは一ミリも想像がつかない、【とんでもなくゴツくて立派な、硬い手応え】がダイレクトに伝わってきた。

「…………え?」触れた先の、圧倒的な存在感。それは、今の俺の身体の下半身にある『取り忘れられたアレ』と、完全に同類――いや、それ以上のゴリゴリの凶器(男のモノ)だった。「あ……ああ……」脳の回路が一瞬でショートする。


察した。もう無理だ。女の子のベースに男のモノを持った俺(中身30歳自衛官)の専属メイドとしてやってきたのは、「見た目は超絶ロリ、中身はボクっ子の、立派にそびえ立つ男の娘」だった。


「酒! 酒!! 酒が今すぐ必要だァァァッ!」

俺はパニックになりながら、腰の袋からスキットルをひったくり、ウォッカを一瞬で一口ゴクリ!カッと喉が焼ける。

よし、少しだけ落ち着いてきた。だが、目の前のピノは


「えへへ、お揃いだね♡」とでも言いたげな顔で微笑んでいる。


現実逃避のためにもう一口、ゴクリ!

(通算、二杯目。あと一杯飲んだら即気絶する。だが、気絶する前にこの状況をどうにかせねば――!)


俺はすうぅぅっと大きく息を吸い込み、自衛隊の号令以上の大声で絶叫した。

「出ていけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」


「ひゃはははは! 最高のリアクションだね、ステラちゃん! 新しいお友達、気に入ってくれたかい!?」突如として、背後から爆笑する声が響き渡った。振り返ると、部屋の隅の空間が歪み、イケ叔父風の混沌神が腹を抱えてのたうち回っていた。

邪神は涙を流して大爆笑しながら、そのまま光の粒子となって消えていくところだった。


「混沌神め……最初から、これも全部お前の仕込みかよ……!」もう逃れられない。自分の周りが、邪神と、腐女子のメイドと、肉食系令嬢と、そして特大のブツをぶら下げたロリ僕っ子という「地獄の包囲網」で完成してしまった。


「……ハハ、もう嫌だ……」俺は全身の力が完全に抜け、全否定の現実を受け止めきれないまま、部屋の床へとずるずるとへたり込むのだった。


毎日のように繰り広げられる混沌神やよろずたちとの攻防戦。


これにすっかり疲れ果てた俺は、ある日の深夜、王宮の厨房(深夜食堂)からこっそりくすねてきた美味いつまみを手に、自室の片隅で一人寂しく酒を舐めるように味わっていた。

ベールを外し、カーテンの切れ端を横に置き、絶世の美少女(中身30歳元自衛官)の姿で、ただただ自身を憐れむようにチビチビとウォッカを煽る。


「はぁ……なんで俺、こんな異世界で邪神のオモチャにされてんだろ……」

愚痴をこぼしながら、つまみをモグモグ、酒をチビチビ。

だが、連日の精神的過労のせいで、俺の危機管理能力は完全に低下していた。

自分が今、何口酒を含んだのか。そのカウントを、完全に忘れてしまっていたのだ。気づかないうちに、運命の三杯目(三口目)を喉に流し込んでいたらしい。

脳が「あ、詰んだ」と察知するよりも早く、俺の意識はストンと暗闇の底へと落ちていった。


(暗転)

「……ん……っ?」次に目が覚めた時、俺はフカフカのベッドの上――ではなく、なぜか背もたれのついた小さな椅子の上に、背筋をピンと伸ばした状態でちょこんと座らされていた。

目の前には、上品な彫刻が施された小さな白いテーブルセット。そして、その向かい側の席には、黒を基調としたこれ以上ないほど豪華で仕立ての良い騎士服を身にまとい、絵画の王子様のように気障(キザ)っぽく足を組んで座っている男がいた。

糸目の奥にある、最高に楽しげな暗黒の笑み。


……言わずもがな、混沌神である。

「おはよう、僕の可愛いステラちゃん。よく眠れたかい?」

爽やかなイケメン騎士のボイスで話しかけられ、俺は自分の身体に目を落とした。その瞬間、全身の血の気が一気に引いた。

今の俺が着せられているのは、ピンクを基調としたフリフリの、しかも超ミニスカート仕様の最高級ゴシックメイド服だった。

さらに頭の上には、小さくてキラキラ輝く、これまた精巧で高そうな銀の王冠がちょこんと載せられている。

完全なる、お姫様(メイド仕様)扱い。

状況だけを見れば、爽やかな黒騎士と、可憐なミニスカメイドお姫様が、朝の木漏れ日の中で二人きり、優雅にお茶会を楽しんでいる麗しいイメージ図――――

のはずが、周囲の光景が完全なる世紀末(ディストピア)だった。


ハァハァ……!

朝一番の

『黒騎士邪神様×ゴスロリ王冠ステラ様のお目覚め早朝ティータイム』

……! 尊い、尊すぎて脳の血管が千切れそう……っ!!


「よろず先生、早く! 早くあの角度からシャッターを――じゃなくて絵を書き写してください!!」

お茶会が開かれている中庭の周囲には、朝もハヤ刻(はよ)から、王宮中から集まったと思われる大量の女官やメイド、さらにはあの肉食系の高貴な婦人たちが、ぐるりと幾重もの人間の壁を作ってこちらを包囲していた。

全員、一人の例外もなく、興奮のあまり鼻血をダラダラと垂らし、目を血走らせて俺たちのツーショットを凝視している。


よろず(先生)に至っては、アシスタントたちを従えて狂ったように羊皮紙にスケッチを取っていた。

爽やかな朝の空気の中に満ちる、ドロドロとした腐女子たちの狂気と熱気。

そして、目の前で「どうだい? 最高の朝のお茶会だろう?」とウィンクしてくる日替わり衣装の邪神。


「……ダメだ。起きたばっかりだけど、俺は意識を手放す」目覚めた直後、秒速で脳の許容量(キャパシティ)を限界突破した俺は、大人の大英断として、そのまま自ら白目を剥いて椅子の背もたれへと崩れ落ち、強制的に意識をシャットダウン(現実逃避)させたのだった。


(暗転)

「……う、うう……」

次に目を覚ました時、窓の外から差し込む光は、すっかり高くなった昼過ぎの太陽のものに変わっていた。

俺はがばりと跳ね起き、周囲を見回す。そこは、いつも通り静まり返った王宮の自分の客室のベッドの上だった。衣服も、いつの間にかフリフリのゴシックメイド服から、普段通りの地味なドレス(頭にはカーテンの切れ端)へと着替えさせられている。

中庭でのあの狂気のお茶会も、鼻血を流す女官たちも、タキシード……ではなく豪華な騎士服を着た混沌神の姿も、どこにもない。何事もなかったかのように、ただ静かな時間が流れていた。

「ゆ、夢……だったのか……?」

一瞬、壮大な悪夢でも見たのかと自分を疑いかけたが、俺の身体(特に下半身のトップシークレット部分)には、あの超ミニスカートドレスを穿かされた時の「スースーとした独特の心許ない感覚」の余韻が、ハッキリと、恐ろしいほどのリアルさで残っていた。

「……夢じゃねえ。あのクソ邪神、俺が寝てる間に完全に着せ替え人形にしやがったな……!」俺はベッドの上で枕を抱きしめ、ガタガタと震えながら天井を見つめた。気絶している間に、あの腐女子軍団と混沌神の手によって、どれほどハレンチなポーズを取らされ、どれほど破廉恥な新刊の表紙用イラスト(実写トレース)の素材にされたのか、想像するだけで精神が崩壊しそうだった。


中身は30歳の元陸上自衛官。酒の三杯ルールを逆手に取った邪神の「寝込み襲撃(お茶会仕様)」により、俺の尊厳は、今日も王宮の地下深くへと、また一歩沈んでいくのだった。(続く)

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