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Episode6:あなた、誰?

「なんで王子たちが、ここに!?」


 庭園の入口に立つ四人を見て、私は思わず声を上げた。


 レオン、シャルル、アーベル、ルカ。

 攻略対象の王子様が勢ぞろい。夢のような光景だけど、今はまったくうれしくない。

 それに、茂みから転がり出た金髪の少女が、なにやらそわそわしている。


「君がクライゼル嬢と庭園に入っていくのが見えてな。気になって来たんだ」


 レオンが腕を組んで言った。


「僕もだよ。サトリナが何をしているのか、少し気になってね」


 シャルルも穏やかな笑顔で続ける。


「サトリナが誰かを誘うなんて初耳だからな。純粋な知的好奇心で来ただけだ」


 アーベルは眼鏡の位置を直しながら、クールに言い放った。


「僕はサトリナ見つけたから、ついてきちゃった」


 ルカだけは、なんだか楽しそうだった。


(王子様同士、もともと面識はあったはずだけど……全員で来るなんてこと、ある?)


 そんなことを考えていると、レオンがふいに金髪の少女へ目を向けた。


「ところで、君の声……どこかで聞いた覚えがあるんだが」

「えっ?」

「どこかで会ったことがあるかな?」

「い、いえ!」


 少女は妙に高い裏声で答えると、さっと顔をそむけた。


(……ん? レオンが聞いたことのある声?)


 私は必死に記憶を探った。


(思い出せ。私はこの世界を知り尽くした女。『ロザリアの誓約』をやり込んだプレイヤー!)


 頭の中でテンポの良いBGMが流れ始める。

 レオンの個別イベント。親密度イベント。告白イベント。

 ゲームのシーンを片っ端から再生していく。


(うーん、こんな金髪の女の子、出てきたっけ?)


 頭の中のBGMは、すっかり鳴り止んでいた。

 私は名探偵になれなかった。


(……えー、この子、本当に誰?)


 ゲームの中にいないなら、この世界で会った子かもしれない。

 レオンと出会うイベント。学園でのイベント。ここまでだと、校門で会った場面くらい。


(そういえば、校門でレオンと並んで歩いたとき、周りの生徒たちが騒いでいたよね……)


 たしか、あのときのセリフは――


『見て! サトリナ様よ!』

『レオン様とサトリナ様が、ご一緒だわ!』


 あのとき、周りには何人か生徒がいた。その中に、金髪の女の子がいたような気がする。


 目の前の少女を、ちらりと見る。

 金髪。

 あのセリフを言っていた子の髪色も、金髪。


 止まっていた頭の中のBGMが、ふたたび鳴り出した。


(この感じ……もしかして、あのときの!)


「分かったわ……あなた、『レオン様とサトリナ様が、ご一緒だわ!』って言ってた女の子ね!」

「は、はい……」


(なんだー、あのときの子かー)


 謎はすべて解けた。名探偵、復活。


「それでは、私はこれで……」


 少女は一礼して、そそくさと立ち去ろうとする。


(……いや、待てよ)


 あの、少し高めの声。


(待って。あの声、少し低くしたら……)


「待って! あなた……シオン!?」


 少女がびくりと肩を震わせ、ゆっくりと振り返る。


「は、はい。サトリナ様……」


 そこにいたのは、私の執事であり、幼なじみでもあるシオンだった。

 普段の黒髪とは違い、長い金髪のウィッグをかぶっている。服装もいつもと違うから、まるで別人に見えた。


(そんな設定、聞いてない! ゲームでも同じ声だった気がするけど、モブキャラの声って、人件費節約で主要キャラの声優さんが兼ねてるだけじゃなかったの!?)


 それ以上に大事なことに思い至る。


「え、ちょっと待って。シオンも学園に通ってたの?」

「は、はい……」

「でも、いつも私を送り迎えしてくれてたよね?」

「それは、その……」


 シオンは困ったように視線を泳がせた。


「サトリナ様の学園でのご様子が心配で……お送りしたあと、バレないよう学園内で着替えて、ウィッグをかぶって、見守っておりました」

「えっ、毎日!?」

「……はい」


 そういえば、ゲームのシオンは、王子様たちの様子や主人公への好感度を教えてくれるサポートキャラだった。

 つまり、あの情報はこうやって集めていたのか。


「陛下からも、ご支援いただきまして……」

「陛下……って、お父様が!?」


 私は王女だから、父は国王ということになる。


(ああ……この学園は王立学園だからか……)


 執事を学園に送り込むことも、王の力で可能ということか。


「黙っていて、申し訳ありませんでした……」


 シオンがしゅんとうつむく。

 私は慌てて首を横に振った。


「大丈夫だよ。気にしてないから」

「本当ですか?」

「うん。むしろ、そんなに私のことを気にかけてくれてたんだね。ありがとう」

「サトリナ様……」

「でも、これからは一緒に登校しようよ」

「えっ?」

「せっかく同じ学園にいるんだもん。隠れて見守る必要なんてないでしょ?」

「……いいんですか?」

「当たり前でしょ。友達なんだから!」


 シオンの顔が、ぱっと明るくなった。

 その様子を見ていたヴァレリアが、ふと口を開く。


「ずいぶん、仲がいいのね」


 低く落ち着いた声だった。


「あ、うん。この子はシオン。私の執事で、幼なじみなの」

「そう……それに、王子様方とも、ずいぶん親しいようだけれど?」

「あっ」


 しまった。すっかり忘れていた。


(彼らは攻略対象の王子様たちです! ……なんて説明できるわけない)


「ええと、その……大事なお友達、かな?」


 私がそう答えると、四人の反応は見事に分かれた。


「……大事なお友達」


 レオンが、何か言いたげに私を見る。


「お友達なのかい?」


 シャルルはいつもの穏やかな笑顔。


「友、か……」


 アーベルは、なぜかその言葉を確かめるようにつぶやいた。


「へえー! 僕たち、サトリナの大事なお友達なんだ!」


 ルカは興味津々だ。

 四人の視線が集まって、なんだか妙に居心地が悪い。

 ヴァレリアは、その様子を静かに見渡した。それから、私へ視線を戻す。


「……友達、ね。それなら、私もそうでしょう?」

「えっ?」

「これからは、私のことをヴァリーと呼んで」

「……ヴァリー?」

「ええ」


 ヴァレリアの表情が、ほんの少しだけ柔らかくなった。

 その瞬間、四人の笑顔が、そろって一瞬止まった気がした。


(……時が止まった?)


 気のせいだろう。そう思いたいのに、なぜか嫌な予感がした。

 そのとき、鐘が鳴り響いた。


「あ! ほんとにごめん! 昼休みの約束だけど、しばらく、この子とお昼を取ることになりそう!」


 早口で言い放ち、シオンの手をつかむ。


「え、サトリナ様!?」

「行こう、遅刻する!」


 私は、後ろを振り返らずに走り出した。


* * *


 教室に滑り込んで、自分の席に座る。息が切れて、しばらく何も考えられなかった。

 するとすぐ、斜め後ろの席にシオンが静かに腰を下ろした。金髪のウィッグは、走っている間も外れなかったらしい。


(同じクラスだったんかい!)


 今までまったく気づかなかった。いや、気づけるわけがない。ウィッグをかぶっていたのだから。それに主要なキャラ以外は、プレイヤーの視界にも入ることがなかった。


 それにしても、思わずあの場から逃げだしてしまった。

 ヴァレリアともせっかく仲良くなれたところだったのに。


(あとでフォローしないと……)


 ただ仲良くなろうとしただけなのに、王子様たちが集まり、シオンの秘密が発覚し、ヴァレリアの呼び方まで変わってしまった。完全に、ゲームにない展開だった。


 もう、これっきりにしないと。このまま変な行動を続けたら、また私は悪魔祓いをされかねない。目を覚ました日の騒ぎを思い出して、私はぶるりと震えた。


(よし、これから軌道修正するぞ!)


 私は机の下で、そっと拳を握った。


お読みいただきありがとうございます!


Prologue(という名のゲームキャラ紹介)も、Episode1の前に投稿しました。

カタカナのキャラが多くて「誰?」となりそうでしたので……


引き続きよろしくお願いします!

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