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第23話「歪みの蓄積」

人間の感情における歪みは蓄積し、解放されるまで肥大し続ける。

イツキは村長タルエンを訪ね、リョカのことを伝えようとするが――。


オレの経験上――歪み(ひずみ)というものは蓄積する。

解放されるまで肥大し続けるのだ。

特に人間の感情において顕著だ。

そして、それは忘れた頃にいつも津波のようにやってくる。

だから、歪みは早期に解消されなければならない。


その日の夕方、オレは村の長の家を訪ねた。


長の家だけあって、他よりも一回り大きい。

戸口の梁も太く、扉は厚い。オレはノックした。


「誰だ」


「イツキだ。話がある」


沈黙ののち、扉が開いた。


「タルエン、大事な話だ。リョカのことだ」


オレは真剣な表情で言った。


「リョカがどうしたというのだ?」


それに気づいたタルエンが、表情を硬くする。

オレが言いかけたとき、外が騒がしくなる。

さらに扉を叩く音が響いた。


「やれやれ、今日は珍しく訪問者が多いな」


タルエンが戸口へ向かい、扉を開けると――見知った村人たちが七、八人。硬い顔で並んでいた。


「みんな、どうした。大勢で集まるほどのことがあったのか」


タルエンが驚いた顔をして言った。


村人の中から眉間に皺を寄せ、気難しそうな男が前に出た。


「おさ、折り入って話したいことがある」


タルエンが溜息をつき、オレへ視線を向けた。


「すまないが、また今後にしてくれんかな」


その言葉を聞いて、オレは家を出た。


直感が教えてくれる――もはや手遅れだと。


近いうちに嵐が来る。


そして、嵐への対処方法は二つしかない。

遠ざかるか、耐えるかだ。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


数日が経ち、そのときが来た-----


その日も、リョカは魔物討伐で倒れた守備隊員たちに祈りを捧げていた。

前日に、魔物が村を襲おうとしたため、守備隊と交戦になったそうだ。

そして、守備隊の一人が命を失った。若く勇敢な青年だったらしい。


オレは近くの椅子に腰掛け、黙って眺めていた。


ドン!


建物に衝撃音が響く。

女性だ。

戸口に立っていたのは女性――四十代くらいだろうか。扉を蹴り飛ばしたようだった。

その顔は涙と怒りで歪んでいた。


外から村人たちが建物に入ってくる。

十五人はいる。

そして、後ろの方にタルエンの姿も見えた。


来たか。


リョカは目を閉じたまま、祈りの姿勢を崩さない。



「もう、もう我慢できないわ!

あなたが‥‥‥」


「そう、わかってる!」

リョカは大きく声を出しながら立ち上がり、振り返った。


「みんなが、私を疑っていることを!」

ゆっくりと部屋にいる村人を見渡す。


その瞳には、力が宿っていた。


「私はこの村に拾われて、みんなに育てられたわ。

だから、この村が自分の故郷だと思っている」


リョカは、タルエンの方を見る。

「タルエンおじさん――親のいない私を、ずっと大切に育ててくれた。‥‥今でも本当の父親だと思ってる」


リョカは、悲しみを堪える様に、両手を握りしめる。


「そんな、私にとって、とても――とてもかけがえのない村」

そう言うと、リョカの瞳に強い決意が感じられた。


「でも、決めたわ」

リョカは唇を噛み、涙を溢れさせた。


「私は村を出る!

だって‥‥だって、それが、みんなの望みだから!」


村人たちは言葉を失った。

後ろからタルエンが前へ出る。


「すまない、リョカ。ワシの力が足りないばかりに」


タルエンは唇を震わせながら涙を流していた。


「ワシも、お前のことを自分の娘だと思って育ててきた。

お前が村を去ること、それは――ワシにとっても、とても辛いことだ」

その言葉を聞いたリョカは走り寄り、タルエンの胸に顔をうずめ、声をあげ泣いた。


村人たちはただただ弱く、

災いを取り除く理由を求めただけだったのだ。


そしてリョカには見えていたのだ。

村人たちの怒りと敵意そのものが。


信じていたものは崩れ去り、

彼女がすがるものは何一つ残らなかった。


見えるが故に、彼女は強さとは裏腹に――とても”弱かった”。


そして、そんな光景を、オレはただ黙って見つめるしかなかった。

次話は6/13更新です。

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