第21話「世界の仕組み」
イツキはオルグから、この世界の魔法――アーキオンについて学ぶ。
リョカは複数の神の言葉を使え、さらには世界の理すら変えられる――だが、それには大きな代償が伴う。カーティとともに、イツキは魔法の原理を理解しようと試みる。
「まず、魔法だ。昨日――リョカがやったこと。あれは何だ。誰でもできるのか?」
またしても固まるオルグ。
「そこからか――。確かにリョカが、あんたのこと何も知らないと言っていたが、ここまでとはな‥‥‥。まあ、いいさ教えてやるよ」
オルグは首を横に振る。
「誰でも、ってわけじゃねえ。素質が要る。"見えるやつ"だけだ。アーキオンが」
――アーキオン。昨夜、誰かがそんな言葉を言っていた気がする。
「アーキオンが"見える"?」
「見るって言っても目で見るんじゃない。もう少し分かりやすく言うと――空気の中の"そいつ"が、どこに溜まってるか感じるようだ」
「見えないけど分かるのか?」
「ああ。世界はいつでも固まってるわけじゃない。見られるのを待ってる部分がある。――それがアーキオンの渦だ」
オルグは井戸の縁に手を置き、指先で空をなぞる。
「神官は、それを"具現化"させる。未知なものを、形にする。火とか光とか風とか――神に許された形に」
「じゃあ、どの神官も同じことができるのか?」
オルグが腕を組む。
「いや。人によって違う。感じる範囲も、細かさも。広く雑に掴むやつもいれば、狭いけど精密に"分かる"やつもいる」
「個人差が大きい、か」
オレは呟くように言った。
「それに――普通は"ひとつの神"の言葉しか使えない」
「神の言葉?」
「信仰する神によって、神の言葉が変わる。そして、具現化できる神の言葉は人によって異なる。通常、神官はひとつの神に属する。それ以外の神の言葉では反応しないんだ」
そこで、オルグは言いにくそうに目を逸らした。
「――でもリョカは違う。あいつは例外だ。複数の神の言葉を使える」
「テオプエラ候補とか聞いたが?」
「そいつは、とてつもなく優秀な神官と認められた者だけが選ばれるものだ。そして、リョカは選ばれるだろう」
オルグは唇を噛む。
「それだけじゃない。リョカは――もっとスゲェことができる」
「スゲェこと?」
「あいつは、理を変えることができるんだ。――この世界の」
「この世界の理?そんなことができるのであれば、昨日の戦いだって簡単に雷王に勝てたのでは?」
オルグの目が、一瞬だけ鋭くなった。
「‥‥代償も大きいんだ。だから誰も頼めねぇ。代償の大きさは変えた内容によるらしい。影響が大きいほど、術士に返ってくる。あいつ自身も、むやみに使わない。使ったあと、あいつは――」
言葉が切れる。そのことが、代償の重さを物語っていた。
「リョカは神に祝福された子だと聞いたが、その能力が理由か?」
オルグは無言で頷く。
オレはここで一息つき、別のことを考える。
「都市があると聞いた――どんな場所だ。ここより技術が進んでいるのか」
「そうだな、とても進んでるよ。こことは、井戸も便所も仕組みが違う。ガラス窓の家もあるし、工房が並んで、鍵や刻印が売ってる」
「刻印?」
「神官がアーキオンを込め書いた"固定の言葉"だ。誰でも使えるようにしたやつ。でも万能じゃない。結局、強いのは"人の認識"だ。刻印は‥‥その代用品にすぎない」
オルグが、こちらを真っ直ぐ見た。
属人的で、複製が難しい。
だから魔法があっても工業化しきれない――理屈が繋がる。
「いろいろ聞けて助かった。少しだけ、この世界に馴染んだような気がする。ところで、そのリョカはどこにいるんだ?」
オレ周囲を見ながら聞いた。
「リョカ?あぁ、あいつなら神座にいると思うぜ。場所はというと、ほら、あの建物だよ」
オルグが広場の近くにある建物を指さした。
そこには見たことのない紋章を形取ったオブジェが飾られていた。
「わかった、ありがとう」
「気にすんなよ、じゃあな」
オルグが立ち去ろうとする。
「悪いが、最後にもう一つ聞きたいことがあるんだ」
オレは、聞かなければならないことが残っていることに思い当たる。
「なんだよ?」
「この井戸ってやつだが、、どうやって水を上げるんだ?」
オレは真面目に聞く。
「はああっ!?」
オルガの大声が広場にこだました。
オレは、オルガと別れた後、リョカがいると聞いた、神座と呼ばれる場所に向かった。
その建物に向かう途中、オルグが言っていたアーキオンと呼ばれるものについて考えていた。
「カーティ、アーキオンと魔法の仕組み、どう考える?」
『えっとね、カーティ的には、かなり"萌える"構造だと思うよ!(ドキドキ)アーキオンは"未確定状態の情報粒子"――つまり確率雲の集合体かも。でね、認識されると波束が収束して確定するの!(きゅっ)この世界には観測者の原則に似た、認識者の原則があるのかもね。で、どう確定するかを決めるのが神の言葉ってことじゃないかな!?(えへへ)つまり、神の言葉には、遺伝子のように、この世界を形作る力があって、すべては"言葉"により、自己組織化されていくの!(えらいでしょ?)』
「カーティ、サルでもわかるように説明してくれ」
オレは表情を変えず言った。
『むぅ〜! じゃあ噛み砕くね。(バリバリ)つまり、アーキオンは、心の目で見るまで具体的な物質にならないの。そして、心の目と言葉を通すことで、思い通りに具現化させることができるの』
「なるほど、少しわかった気がする」
『お兄ちゃん、その調子! で、問題は保存則!アーキオンが何を保存して、どんな対称性で縛られてるか――そこが未解明。でもね、お兄ちゃんは気にしなくていいよ。だって脳が焼けちゃうもん(ぴえん)』
オレはあたまが痛み始めたところで言った。
「カーティ、よくわかった。全く意味がわからないということが――」
『えぇ〜!? 分かってよぉ!カーティ、頑張って簡単にしたのにぃ!(ぷくー)』
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