第20話「戦いの翌朝」
翌朝、イツキは目を覚ます。
体には昨夜の戦いの疼きが残るが、リョカの治癒のおかげで傷は癒えていた。
村の中央広場へ向かう途中、村人たちから感謝の言葉をかけられるが、イツキは困惑する。
井戸の前で再会したオルグと、雷王戦の武器について会話を交わす。
――翌朝
家を構成する木々の隙間から漏れでる光の筋の中で目が覚めた。
肩、腕、足が鈍く疼く。
昨日の傷はリョカのお陰で治ったが、体が傷を覚えているようだ。
オレは頭の中で記憶をゆっくり反芻する。
そして、今見えている現実との隔たりが修正されたことを確認すると、気だるげに体を起こした。
部屋を見渡すが、時間を表すものは存在しない。
だが、外からは鶏の鳴き声や、子どもの笑い声が聞こえ、すでに活動すべき時間だと教えてくれる。
光の中に漂っているホコリがとてもゆっくりと横切っていく。
それは、まるで自分以外の物質の時間が、別の速度で流れていると錯覚する。
そして、その穏やかな流れは、昨日起こった出来事――雷音、焦げた匂い、傷を負った痛み――すら夢だったのではないかと感じさせる。
オレにとっては、夢の方がむしろ現実感を伴っていた。
そして、胸の痛みと共にリリのことを想った。
(オレは、元の世界に戻れるのか?なぜオレはこの世界に来た?リリは一体――)
部屋の隅に鎮座している木でできた低い机の上から、カーティを手に取ると、耳に装着した。
電源に指を置き、一呼吸してからゆっくり力を込めた。
『お兄ちゃんおはよ。今日もカーティのこと大切にしてね♡』
――よし、通常モードだ。
まず、顔を洗って"この世界"に馴染むとするか。
オレは、慣れない手つきでドアを開け、外に出た。
オレは、昨日歩いた村の景色を思い出す。
確か、村の中央広場近くに井戸があるとか言っていたな。
そこに行けば顔も洗えるはずだ。
あと、確か近くに共同トイレもあったはず。
オレは家を出ると、村の中央につながる道をまっすぐ歩いた。
道とはいっても草が刈られているだけの筋道で、踏み固められた土がところどころ湿っている。
「‥‥‥キさん、イツキさんですよね?」
右後ろから名前が聞こえたため、振り返った。
そこには、麻で作られた簡素な服を着た四十代くらいの男性が立っていた。
相手の表情はやや硬かったが、目尻の皺が深く、人の良さそうな雰囲気が滲み出ていた。
「今、オレを呼んだ?」
呼び止められる理由は思いつかなかったが、オレ以外にいないようだ。
「守備隊の人に聞いたんですが、昨日の魔物の襲撃でイツキさんが、伝説の雷王ケラウノス‥アルクトスを倒したとか」
(もう、戦いに参加していない村人にまで情報が回っているのか。まあ、こんな小さい村だとすぐ皆に伝わるのだろう)
「それは違う。雷王を倒せたのは守備隊との連携、そして特に神語者だったか?リョカの助けがなければこちらが負けていた」
オレは型どおりに返す。
「おぉ、さすがリョカさんだ。ですが、あなたの助けがなければ、村は――おそらく壊滅していたでしょう」
(こういう話はニガテだ。何とかさっさと切り上げたいところだ)
「気にしないでもらいたい。オレはこの村に休む場所まで提供してもらっている立場、悪いが、ちょっと所要があるので」
相手はまだ何か話をしたそうだったが、オレは気にせずその場を離れた。
それ後も、途中で子供たちが何人かいて、オレを見つけると声をかけてきた。
「あ、雷王を倒した兄ちゃんだ!」
「マジで!?不思議な筒見せてよ!」
「その槍触らせて!」
オレはすさまじいスピードで通過すると、ようやく中央広場についた。
(まずいな、このままだと、村人に会うたびに厄介な会話に捕まる‥‥‥さっさとリョカに会ってお別れの言葉を告げ村をでるか?いや、まだまだこの世界についての情報が不足しすぎている。しばらくは借家で静かに過ごして、この状況を耐えるしかない)
そんなことを考えながら井戸がある場所に着く。
井戸の縁に桶が置かれている。
‥‥待て。これ、どうやって水を上げる?
井戸の仕組みを覗き込んでいるとき、ポンポンと左肩を軽く叩かれた。
顔を上げ叩かれた方を向くと、そこに立っていたのは、――オルグだった。
「よお、傷は大丈夫か?」
腕を組みながらオルグは言った。
オレは、姿勢を正し、オルグを見て言った。
「あんたの幼馴染のお陰で、この通りピンピンしてるよ」
「そいつは良かった」
そういうと、オルグはオレの全身を確かめるように見た。
「にしても、お前なかなかやるじゃないか。昨日の雷王との戦い、最後にあいつに向かっていったところ、痺れたぜ!」
オルグが嬉しそうに話す。
(ん?なんなんだコイツは?何がそんなに嬉しいんだ?)
「そうか?あの場で、雷王にダメージを与えられる武器を持っていたのがオレだけだった、ただそれだけだ」
「何だよ、えらく謙虚じゃねえか」
オルグは鼻で笑い、すぐに目を輝かせた。
「ところで、あんたの武器、特にエクスフォームガンだったか、あれはどういう仕組みなんだ?魔法が込められた武器なのか?」
「いや、魔法ではない。これは、分子破壊波動弾(MDW弾)と量子共鳴弾(QR弾)により攻撃する武器だ」
オルグの表情が固まり、その表情の意味が言葉になる。
「分子破壊波動弾(MDW弾)と量子共鳴弾(QR弾)ってなんだ?」
その質問が、オレの武器マニア心にスイッチを入れる。
「いいだろう、説明しよう。MDW弾というのは振動で微小領域が急激に加熱・脆化し、装甲や骨格が粉砕するものだ。そして、もう一つのQR弾だが――」
「ちょっと待て!」
オルグがオレの説明を遮る。
「どうしたんだ?」
「悪いが、馬鹿でも分かるように説明してくれないか‥‥」
オルグが冷や汗を流しながら言った。
(まあ、そうなるか。この世界の技術レベルだと、説明してもわからないな)
「すまない。簡単に言うとだな、あれは"飛ばす"武器だ。そして、その飛ばしたものが対象に当たると、中身を内側から壊す武器だ」
イツキはゆっくり子供に諭すように話す。
オルグは、まだ納得がいかない表情をしていた。
「雷王の体に穴が空いたろ?あれは切ったわけでも、焼いたわけでもない。中から"崩れた"だけだ」
オルグは、それでも意識が異世界に飛んでしまったような表情をしていた。
「おい、聞いているのか?」
オルグは急に意識が戻ったように意識が現実に戻る。
「な、なるほどな、そりゃすげえ武器だな。と、ところでよあんた、リョカとどういう関係なんだ?」
急に話題を変え、オルグが咳払いをした。
「関係?なんだそれは?」
「いや、違うんだ!リョカは村で大事な神語者だし、それにテオプエラ候補だ。だから心配してるだけだ!」
(――何をそんなに焦ってる?)
「カーティ、どう思う?」
『お兄ちゃんドンカンすぎ!きっとオルグにいちゃんは、リョカおねえちゃんに♡なんだとら思うよ(てれ)』
「そういうことか」
オレは小さく息を吐いた。
「オルグ、安心しろ、オレとリョカは昨日知り合ったばかりだ。それ以外は何の関係もない」
「そ、そうなのか?そいつは良かった。いや、まあなんというか」
落ち着きなく視線を泳がせるオルグ。
昨夜の戦いの時と同一人物とは、到底思えなかった。
「逆に、こちらも聞きたいことがある」
「何だ?なんでも聞いてくれよ」
オルグは肩をすくめた。
オレには、確認したいことが山ほどあった。
それは――この世界の仕組み。
次話は5/23更新です。




