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第19話「夢の中の戦場」

再び眠りに落ちたイツキは、過去の記憶を夢に見る。

AI支配下の施設内部で、リリとともに潜入作戦を遂行していた時のこと。

脳機能拡張とAIガーディによって超人的な能力を発揮するリリ。

彼女の戦いぶりを見て、イツキは思う――。


――夢の中でも戦いは続く


そこは、静寂が支配する建物の内部。

リリとイツキが音もなく壁を背にしながら内部を進んでいた。


壁、天井、床のすべてが機能的に構築され、無駄を徹底して排除した幾何学的構造が続いていた。

静寂の中で唯一耳に届くのは、空調ダクトの低い風音と、周期的に反応するセンサーの微かな振動音だけ。


しかし、リリには全てが"視えて"いた。


リリには脳機能拡張が限界まで施されていた。

そして、その視界には、常人には"情報"として処理できない世界が重なる。


左目と右目は別機能として働く。

視界は脳内でレイヤとして分離され、同時に統合される。

左目には空間そのものが危険度で塗り分けられて映る。

壁も床も空気も、死に近い領域ほど"濃く"描写され、数秒先の変化まで滲むように反映される。


右目は意識的に二つのモードを切り替えられる。

第一モードは、リリが取り得る行動の候補が線として走るモード――半歩、回転、跳躍。

その分岐が二、三本だけ提示され、確度の高い線だけが太く残る。

第二モードは、波動逆算による透視輪郭を呼び出すモード――遮蔽物の向こうの配置が"骨格"として浮かび、距離に応じてズームで解像度を上げられる。


さらにAIガーディと脳チップで連携することで、左右のレイヤは統合され、ノイズは除去され、確度が付与される。リリの身体は"理解"より先に、最適解へ至る。


このことから、敵の攻撃がリリに到達することができる可能性は、限りなく0に近似する。


つまり、彼女は近代科学が生み出した人間とAIのハイブリッドによる奇跡的成功例と言えた。


その彼女の右目には、空間の歪みや電力配線の流れ、壁内構造の密度分布まで浮かび上がっていた。


「イツキ、ここから先は‥‥見つかるわ」


「そうか。覚悟はできている」


――次の瞬間、リリの視界が"赤"に染まる。

視界左上、壁のパネルがわずかに隆起。

0.4秒後、超音波を伴って周囲の気圧が歪む。


(開く。上部――自動ガトリング砲、左下――レーザー照射ユニット、右壁――投影型スタナー)


「伏せて!」


リリは叫ぶより早く、リームの肩を押しながら自らも滑り込むように低く姿勢を取った。

次の瞬間、世界が閃光に包まれる。

四方から火花が弾け、壁の装甲が展開し、銃口とレンズが顔を出す。


ガーディの声がリリの脳内に鋭く響いた。


『3秒後、照射開始。前方通路より高速目標2体接近。戦闘AI、警戒レベル6へ移行』


イツキがエクスフォームガンを手に取る。

その眼差しは、冷静というより、戦術的な緊張に満ちていた。


一方でリリの瞳は、視覚の波動情報を最大出力に引き上げていた。


(赤外線ジャミング‥‥無効。音響探知機も稼働中。右天井裏にドローン1体。左通路、犬型2体。背後に――)


「後方にも来る。挟まれる。‥‥突破しかない」


リリの声には、迷いがなかった。

その言葉に、イツキもすぐに応じた。


「了解。行くぞ、リリ。タイミングは任せる」


「‥‥行ける」


その瞬間――リリが体をくねらせ斜めに飛んだかと思った刹那、天井と横壁からのガトリング射撃が鼓膜を破るような轟音と共にリリの横顔と体のすぐ横をすり抜けていく。

手が地面についた瞬間、また空高く、美しい弧を描きながら跳躍。


その弧の内側を、無数のレーザー光線が通過していく。

それは、まるでリリがいない場所を正確に選び抜いているかのようだった。


だがそれは偶然ではないとオレは知っている。

戦うときの彼女の瞳には、いつだって"先の未来"が描かれているのだから――


次話は5/16更新です。

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