第17話「方針変更」
リョカの結界に救われたイツキ。
だが雷王は突如、標的をリョカへと変える。
その瞬間、イツキの中でリョカとリリの姿が重なる――。
——ゆっくり目を開ける。
生きてる?ダメージも受けていない。
オレは電撃を直接受けたのではなかったのか?
顔を上げると、オレの前に薄い膜のようなものが築かれていたが、
すぐに泡のように消え去った。
そして後ろ方向を見ると、リョカが杖をこちらに向けているのが見えた。
まさか、彼女が助けた?防御膜を分割できるのか?
『おにいちゃん胸郭に導電束、今よ!充電される前に!』
オレはハッとし、雷王を見た。
すると、突然、雷王はオレから顔をそらし向きを変えた。
——それは”リョカ”の方に動き出すため。
まただ。なぜこいつらは”リョカ”ばかりを狙う?オレはリョカを見た。
そのときリョカは凛とした表情で、オレをまっすぐ見ていた。
その強い意志を持ったまなざしに、オレは見覚えがあった。
まさか‥‥‥オレを”信じて”いるのか?
まだ、会ったばかりだというのに‥‥?
一瞬オレの目の前でフラッシュバックする。
”私、人の心の中のいろんな断片が見えたりすることがあるの。”
そのとき、初めてリョカとリリが、——”重なった”。
そして、同時に理解する。そうか、オレは‥‥‥オレは、リリを”守れ”なかったのだ!
現実と向き合うことをずっと避けていたんだ。
腹の底から湧き上がる自分に対する激しい憤りと無力感。
もう、わかっていた。
この場で正解を積み上げることに意味はない。
そうだ——オレの優先順位は勝つことでも生き残ることでもない。
“あいつを守る“ことだ。
「カーティ」
『なぁに?』
「方針変更だ!!」
『え?ちょっと待ってお兄ちゃん、それマジ・ダメなやつ!意思決定プロトコル違反だよ!?』
「悪い、時間がない」
『よくない!! “プリン”じゃすまないからね!』
オレはそれを”完全に!”無視した。
雷王に狙いを定め複数回連射——限界突破だ!
乾いた発射音が短く重なるたび、銃身の奥で熱が跳ね上がっていく。
『お兄ちゃん、それ以上連射したら危険! 放熱が追いついてないよ!
保持フレーム温度、限界域突破!(やけちゃう!)』
それでもオレは撃つのを止めなかった。
発射するたび、握り込んだ銃把の熱が掌を突き破って骨まで届くようだった。
もはや熱いではなく、完全に焼けていた。
手を覆う保護グローブの内側で皮膚が貼りつき、焦げた臭いが自分の手から立ちのぼった。
放たれたMDW弾のうち、雷王の両後ろ足に一発ずつ命中する。
着弾と同時に、雷王の脚部内部で鈍い破裂音が連なる。筋肉の深部が震え、巨体がわずかに沈む。
『両脚部命中!でも止まらない、止まらないよ!(マダダメ)』
「今はそれで十分だ!」
オレは銃を投げるようにアーマー内に収める。
そして、すぐに背中からスピアを抜き雷王の方向に地面を蹴った。
一歩で距離が大きく縮んだ。
常人ならありえない速度で、オレは雷王へ突っ込む。
(まずは、オレが接近戦を選ぶことで雷王の注意をリョカから完全に引き剝がす。
どうやって倒すかは——即興だ!)
網膜にリスク情報が並ぶ。リスクが高いせいか、文字は赤く表示されていた。
〖雷王:近接優位個体前脚初動 0.12 sec
局所放電圏 推定半径 1.8 m/その他予測不能攻撃の可能性
急所到達前想定被弾数 3.6
生存率 68% → 接近継続で 37%〗
『ダメ! 近づけば近づくほど雷撃と爪撃の複合圏に入っちゃう!
生存率が低すぎるよ!(しんじゃう!)』
雷王は、足を負傷したため、動きがわずかに鈍くなっていた。
なら今しかない。
――そう考え、雷王の目を見る。
ぞくり、と背筋が粟立つ。
その視線は、傷を負い追われる獣のものじゃなかった。
狩る側の目だった。
雷王が右前脚を大きく持ち上げる。
爪が、ぎち、ぎち、と不気味な音を立てて伸長していく。
前脚の爪の一つ一つが剣のようにそそり立つ。
そして大きく振りかざした。
なんだ?まだ間合いに入っていないのになぜ爪を振りかざした?
『ダメ!刃が飛んでくる!』
カーティの甲高い声が響く。
気づいたときには、5本の刃が夜気を裂き飛んできた。
不味い!!この距離では避けきれない!
それは、まさに刹那。
オレの頭の中にある神経モデムが熱を帯びる。
――避けるんじゃない、”死なない角度”で受けろ――
通り過ぎた五筋の刃は、オレの体を切り裂きながら通過する。
遅れて肩・腕・足から血が噴水のように溢れだす。
「っぐ……!」
激痛が全身を襲い、体が悲鳴を上げる。
しかし、オレの勢いは——変わらない。
そこにあったのは痛みを超えたゆるぎない決意。
『お兄ちゃん突っ込みすぎ、止まって!(ヤバイって!)』
ここで止まるわけにはいかない。
オレは血を撒きながら、気力だけでそのまま前へ出た。
雷王はオレが間合いに入った瞬間、左前脚を振りぬく。
横薙ぎの一撃は、負傷しているとは思えないほど、重く速かった。
オレは瞬時に右前に滑り込む。だが、完全には避けきれず、爪先がオレの左肩を浅く切り裂く。
(ここで決める!)
そして静かに振動している刃を雷王の首めがけて力強く突き出した。
雷王も顔を後ろに倒す——刃は雷王の首を浅く切り裂き肩口に刺さる。
雷王の表情に驚きと苦痛が表出する。
そう見えたのは一瞬で、次の瞬間、雷王の口角がわずかに持ち上がる。
同時に雷王の全身の毛が逆立ち、青白い稲火が走った。
(浅かったか!まさか狙っていたのか!?)
『お兄ちゃんまずいよ! 局所放電、槍ごと焼く気だよ!』
❛❜我は高みに轟く者──雷霆を執る!❛❜
バチィッ!!
柄を通して電流が腕に食い込む。
筋肉が勝手に収縮し、指が痙攣する。
握力が失われたような感覚を覚える。
「ぐ……っ!」
焼ける。
骨の中まで火花を流し込まれるような衝撃がオレを襲った。
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