番外編10 リトルボス産駒その4 アマミファイア(前編)
私の名は天水里加。
大学卒業後、税理士となり結婚を機に退職、そして独立。
子育てしながら税理士業に勤しんでいたが父親が高齢化したため近畿地方のとある寿司店を引き継ぎ、そのタイミングで株式会社アマミを立ち上げた。
子は三人いたが全員社会人になり事業を本格化。好景気のおかげか数年で事業拡大に成功。
仕事も順調に軌道に乗ったタイミングで父親があの世に行ったので父が所有してた馬を引き継ぐことになりそのタイミングで中央の馬主資格を得た。
父が競走馬を数頭所有していたのは知っていたが元々そこまで馬に興味があったわけではなかったし、父の馬はそこまで勝てなかったこともあった私が馬主になるとは思わなかった。
父の所有馬がすべて引退したタイミングでせっかくだからと1頭、試しに馬を買うことにした。
趣味らしい趣味がない私には仕事がてら馬を所有するのも悪くないだろう。
父がお世話になっていた真野牧場は廃業してしたので当てのない私はセレクトセールで買うことにした。
そこにいた当歳馬達を見たがその中に一頭、ぴょんぴょん跳ねている一頭の栗毛の仔馬に目がいった。
今思えばあれは多分一目ぼれだったのだろう。周りの参加者評価は低かったようで4400万円で落札できた。周りから少しどよめきがあったが後悔はない。
自宅に戻り家族に話したら馬一頭で4400万円は高すぎって怒られた。
億じゃないからそこまで高くはないだろうと言いたかったが。
その馬がデビューできる保証もないのに…とも言われたがあの馬なら大丈夫じゃないかな?
最悪、私が稼げばいいし。
競走馬の購入、アマミファイアと名付け、栗東の菊池調教師に預託、そしてデビューと瞬く間に日が進んでいった。
・・・
『おい、お前。またレースに負けたのか?』
『あ?うるせーな、たまたま調子が悪かっただけだ。』
『それ、前も言ってなかった?俺は何とかオープンて奴に勝てたからまだいいが、お前、もう3歳だろ?それに芝でもダートでも勝てないまま未勝利戦がなくなって1勝クラスで走っても全然勝ててないだろ?』
『だって、よーいどんでどうしても出遅れるし、頑張って走っていても全然追いつけないんだもん。』
『まぁお前は俺が見てきた馬の中でスタミナはあるからもっとスタミナを生かしたレースをすればどこかで勝てると思うんだがなぁ。』
『ははは、おだてるなよ。』
『だが、いい加減勝たないとマジで引退させられるぞ?良くて地方行きだぞ?』
『引退か。それもよくね?』
『あのなぁ、俺達牡馬は戦績が良くない状態で引退すると馬刺しにされるかもだぞ?』
『またその話か?よく分からんがその話ホントか?なんで俺たちの世話をする人間が本当にそんなことするのか?』
『俺も先輩から聞いた話しか知らないからホントかは分からない。とにかく、後悔しても知らんからな。』
・・・
「…そういうわけで我々としてはアマミファイアは中央では通用しないと判断しております。」
「そうですか。たしかに色々な騎手に乗せたり、芝だけでなくダートでも最高4着、この前の1勝クラスでも9着でしたから致し方ないと思います。」
「では、前回の打合せ通り地方に移籍、でしょうか?」
「そう思ってましたが地方だと最大2000m程と距離が短いでしょ?あの子はスタートは苦手ですが2200m以上ならまだ掲示板内に入ってくれてますし走ること自体を嫌がってるわけではないと聞き及んでますので地方はなしで考えてます。」
「引退はさせない、地方は考えないっとなると残る道はこのまま芝の中長距離の1勝クラスを目指す、または…」
「ええ、あの子は芝もダートも苦にしてませんし、一度その線で挑戦してみようと思います。」
「分かりました。ではそれで調整してみましょう。あと、騎手ですが…」
・・・
うだるような暑さからすっかり涼しくなった。
俺はほかの奴らと違い夏休み、があるわけなく厩舎にとどまりいつもと違う調教、坂路や平地を緩めで走る、ゲート練習、ここまではいつもと差がないが小さい柵を跨ぐに始まり徐々に高い柵を飛び越える訳の分からない事をやってる。本格的な柵?を超える練習は林という見慣れぬ若そうな野郎が乗って飛び越える練習をやっている。まだレースは近くないはずだが、なんでいつもの調教助手とかが乗らずに林という奴が乗って来るんだろ?こいつ何者?
「林、どうだ?ファイの感触は良いか?」
「そうですね、物覚えは悪くないですし、跳躍力は悪くないですし、メンタル面も問題ないと思います。まだ上手く障害を飛べてない感じはありますがもう少し時間をかければ大丈夫だと思います。そろそろ障害デビューの日程を決めてもいいかと思います。」
「それなら一度走らせてみるか。今は9月だから10月中旬の東京の障害未勝利に出してみるか。」
・・・
「…結果は14着と最下位になりました。申し訳ございませんでした。」
「まぁ無事に走ってくれて良かったよ。しかし、最下位か…まぁ初の障害だし唯一の3歳馬だったし仕方ないか。とりあえずご苦労様。今後について後日連絡するわ。」
・・・
「…というわけでして。障害2戦目は11着とまたふがいない結果になってしまい申し訳ございません。」
「いえいえ、少しずつ順位は上がってますので大丈夫ですよ。ファイの様子はどうですか?」
「今は栗東トレセンで調教しております。…次戦ですが、引き続き障害で走るとすれば12月中旬の阪神のレースを想定しておりますが…」
「そうですね、引き続き障害でそのレースでお願いします。」
「分かりました。騎手も引き続き林騎手で想定してます。」
「お願いします。」




