↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/164

044 万能剣聖

(およそ4,300文字)

「怯むな! いつもより数が多いだけだ! 対処法は同じだ!」


 繁みから飛び出して来る狂喰狼(リュカオン)を戦鎚で叩き潰しつつ、マックスは大声を張り上げる。


「コイツらは図体がデカい狼に過ぎん! 首の下が急所だ! 冷静に狙え! 勝てない敵じゃない!」


 最初こそいきなりの襲撃に混乱していたが、ベテランのレンジャーを中心に徐々に戦況が立て直されていく。


「よし! このまま一気に……ん?」


「ヒィャーッハッハッァ!!」


 気の狂ったような笑い声を上げ、まるで疾風のように走って来る血塗れの男がいた。


「クソがッ! もう嗅ぎつけやがったか! “狂犬ドゥマ”!」


 マックスは不快そうに眉を寄せる。


 ドゥマは両手に持った小剣で、レンジャーたちの戦っている横から割り込み、リュカオンを次から次へと刺殺していく。


 ドゥマが真っ赤に染まっていたのは、刺殺した後に少しも後ろに退くことなく、次の敵へ、次の敵へと前進して、ひたすら返り血を浴びたためであった。その常軌を逸した戦い方から、ついた渾名こそが“狂犬”である。


「テメェ!」


 あと一撃で倒せると、槍を突き出そうとしていたレンジャーが怒る。


「ケッ! チンタラしてんのがワリィんだよ! 早い者勝ちだぜ!!」


 ドゥマは先割れした舌で血に濡れた唇をベロリと舐め、次のリュカオンの元へと走って行く。


「これじゃどっちが魔物か分からん! 血に飢えたチンピラめッ!」

 

 マックスは、ドゥマとは距離を置いて戦うように指示する。その戦いっぷりが、仲間をも斬り捨てんばかりの傍若無人なものだったからだ。


「悪ぃね〜。ウチの切り込み隊長がやんちゃでよ。可愛い尻揉んでいたら、なんか火がついちまったみてぇでさ。悪いヤツじゃねぇんだぜぇ」


「ヴァルディガ!」


「おっと、余所見してちゃ危ねぇよ」


「チッ!」


 後ろから喰らいつこうとするリュカオンを、マックスは目も向けることなく裏拳で殴りつける。怯んだところを、戦鎚の柄を落とし、その頭を叩き潰すのに、ヴァルディガは「やるねー」と口笛を吹いて称賛した。


「あーあ、リーダーが囲まれちったねぇ」


「チッ! 俺としたことが!」


 ヴァルディガの登場に気を取られたせいで、マックスはいつの間にか孤立しており、リュカオンたちに囲まれてしまう。


 側にいたヴァルディガも危険には変わりないのに、当の本人は剣も抜かずに口笛を吹いていた。


「聞いていたより数が多すぎる……。次から次へと湧いてくるぞ」


 ざっと見ただけでも周りに10数体はいた。単体では大した脅威ではなくとも、数が増えれば話は別だ。しかも繁みの先にはまだいるようで、ギラギラと黄色く光る目が無数に覗いていた。

 

「切り抜けるには時間がかかりそうだ……」


「そうかぁ? ま、これぐらいは想定内だろ」


「なんだと? ……そういえば、貴様だけなのか?」


 ヴァルディガが部下を引き連れていないことを、マックスはようやく今になって疑問に思う。


「向こうだよ。俺は群れて戦うのは好きじゃなくてね」


 兵団の精鋭たちは、ドゥマも含めレンジャーたちが集まっているところの敵を片付けに向かっていた。


「囲まれたのは貴様も同じだろうが……」


「あー? 俺も? 冗談はよしてくれ」


「なにが冗談だッ」


「俺は(・)囲まれてねぇからだよ」


「は?」


 コイツは何を言っているのだと、マックスは苛立たしそうにする。

 どう見てもリュカオンの狙いはマックスだけじゃない。その側にいるヴァルディガも当然対象だ。 


「マックス。お前さんは休んでていいぜ。茶でも飲んでてくれ」


「ああ!? この状況が見えていないのか! ここは協力して包囲から抜け……」


「言ったろ、群れて戦うのは好きじゃねぇんだ。それに抜ける必要なんてねぇよ。せっかく倒しやすい位置に来たってのにもったいねぇだろ」


「さっきから何を言って……」


 ヴァルディガは背中からロングソードを引き抜く。刀身は真っ黒で、明らかに大金が掛かっている特注品だと思われた。


「なッ?!」


 そして、ヴァルディガが縦に黒剣を一回転させたかと思うと、刃にボッと着火して炎で包まれる。


「流剣派の剣士とは噂に聞いていたが、まさか魔法剣士(マジックナイト)なのか?」


 驚いていたのはマックスだけではなく、徐々に間合いを詰めようとしていたリュカオンたちも、炎を見てわずかに怯んでいた。


「ああ? まだ俺のことをそんな風に呼んでるヤツがいんのか。マジックナイトとは古風な言い方だねぇ」


 ヴァルディガは「さあ、やるか」と剣を八の字に振り始め、やぶれかぶれに突っ込んできたリュカオンの頭を次から次へと叩き落としていく。


「おっと、ちと浅かったか」 


 その中の1匹のリュカオンが致命傷を免れ、距離を取ろうとしたが、斬りつけられた傷口から炎が燃え拡がり、全身が一瞬で消し炭となる。


(強い! 並の強さじゃない!)


 ヴァルディガが黒剣を振るたびに盛大に飛び散る火の粉を目の当たりにし、マックスはあんぐりと口を開いた。


「おいおい、そんで裏をかいたつもりか?」


 リュカオンたちが後ろに回り込んで来たのに、ヴァルディガは口の端を笑わせる。



──スキル【カウンターマジック】、【アイシクル・ダート】──



 背中から襲い掛かって来たリュカオンの牙が届く前に、その身に氷の矢が何本も突き刺さった。


「どうしたぁ? ケダモノども! こんだけ雁首揃えて、俺に傷の1つもつけられねぇのか!? ほらほらほら! 死ぬ気でかかってこいよ!」


 個別に襲いかかっても無駄だと本能で判断したリュカオンたちは、連携を取り始め、タイミングを合わせて四方から一斉に喰らいつこうとする。


「ったく、芸がねぇ犬っころどもだ!」



──【ライトニング・シールド】──



 右手に持った剣で右方から迫るのを斬り伏せ、空いた左手が半透明な電撃の盾を生みだし、死角から狙ってくる敵をシールドバッシュで迎撃する。


 盾の雷撃を受けたリュカオンは、地面に落ち数回痙攣して絶命した。


「なんだこれは……?」


 炎の剣、雷の盾、氷の矢と、あまりにも多彩な攻撃手段を持つヴァルディガを前に、攻撃に参加することも忘れてマックスは思わず立ち尽くす。


 魔法剣士は希少で、マックスも目にするのは初めてであったが、それでも自身の剣に魔法を付与したり、または補助魔法や回復魔法などを使える程度という認識だったのだ。


「俺はマジックナイトの上位互換ってとこでな。五大剣客がひとつ、万能剣聖(オールマイティー)って……そうは誰からも呼ばれてはいねぇけどな!」


 ヴァルディガは鼻歌を披露する余裕を見せながら、次から次へとリュカオンを血祭りに上げていく。


「さすがヴァルディガのアニキだぜ!」


 まるで自分のことのようにドゥマは誇らしげに声を上げた。

 

 リュカオンの脅威度はB+だ。いかにレッドランクのレンジャーといえど、急所に当てなければ一撃で倒すことは難しい。それにもかかわらず、まるでゴブリンやオークでも相手にしているかのような立ち回りを見せるヴァルディガは、仲間たちからすれば鬼神の如き強さに思えた。

 兵団はもちろんのこと、レンジャーたちのある者は畏怖を、ある者は尊敬を込めたような目でその戦いぶりに見惚れる。


「確かに大口を叩くだけはある……。だが、“オールマイティー”などいう肩書きは聞いたこともないぞ」


 強さに対する嫉妬……そんな悔しさを懸命に隠しながら、マックスはヴァルディガを睨む。


「ん? そりゃそうだろ。冒険者ギルド本部(セルヴァン)が勝手に名付けたシロモンだからな」


 ヴァルディガは、「俺独りしかいない職名なんて意味ねぇよなぁ」と自嘲する。


「ま、どうあれ、今の俺は単なる“警備責任者”さ」


 リュカオンの首を足で踏みつけてヴァルディガは笑う。


「アニキ! こっちの方は片付きましたぜ!」


 ドゥマが餌を貰う犬のように走って来る。


「そうか。なら、あとはこの群れを率いているボスだけだな」


「マンティコアを倒したら、オイラもレッドランクっすかね!」


「ドミニクの野郎に聞いてみろ。安モンのバッジくらいはタダでくれるんだろ」


 ペルシェの冒険者ギルドでは、現在はレッドランクのレンジャーが最高位だ。安モンなんて言ってよい地位ではない。

 しかし、そんな軽口を元レンジャーに叩かれても、これだけの実力差を見せつけられてしまったマックスは唇を噛むだけしかできなかった。   


「しかし、このリュカオンどもは一体どこから集まって……」


 そんな疑問をドゥマが口にした瞬間、メキメキという木が圧し折られる音がした。


「ようやく、お出ましか……」


 ヴァルディガのニヤケた顔が、即座に真顔となる。


「ドゥマ! 避けろ!」


「へ?」


 音のする方を警戒していたドゥマを、ヴァルディガが思いっきり蹴り飛ばす。



──【アイシクル・シールド】──



 ヴァルディガは自身を氷の盾で守り、木が倒れる方とは反対側から燃え盛る炎が吹き荒れ、さっきまでドゥマがいた所を焼いた。


「な、なんだぁ!?」


 突然のことに、マックスたちは狼狽える。


 そして、炎を放った者が姿を現す。


「ああ?」


 ヴァルディガは片眉を上げ、怪訝な声を漏らした。


 森の奥の暗がりから、腹の底にまで響くような雄叫びが上がり、全員が思わず身を竦ませる。


 何か大きな羽ばたき音が、周囲の木々の枝を圧し折りながら近付いて来る。


「ず、すいぶんと、でかいぞ……」


 高い位置にある木々の暗闇の間から、巌のような獅子面が現れた。


「で、出た! あれ? まだ他にも……」


 そして、獅子の上に山羊の貌が幽鬼のように浮かび、その脇の木の幹の向こうから、大蛇が鎌首をもたげてこちらを睨んでいた。


「あ、ああ! な、なんだこれ……1体じゃないのか?!」


「違う! い、1体だ!」


 獅子の胴の上に、歪な山羊の頭が生えており、気味悪く甲高い苦悶の叫びを上げる。  

 そして、尾の代わりに、丸太のような大蛇が爛々と黄色い瞳を輝かせてのたうちまわっていたのだ。


「こ、これが……」


「ふざけんな! なぁにが老面獅子(マンティコア)だッ!」


 ヴァルディガが額に血管を浮き立たせて急に激昂する。


「あ、アニキ?」


「見間違える馬鹿があるかッ! コイツは合成獅子(キマイラ)だ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。