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【受賞】ノアの学園~国父とよばれた高校生~  作者: 大塚 可修
第4章 革命事件
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第79限 校舎裏の企み

大人だけが消えた世界……

……そしてやがて、学園は国家となる

「……で、どうするんだ?」


 桐可学園。新校舎、校舎裏。四階建て白い校舎と、三メートルほどのコンクリートの壁に挟まれた、暗く、細く、狭いそこで、二人の男子生徒がひそひそとやり取りをしていた。


「いいか、俺が考えていることは……いわば、『革命』だ」

「……革、命」


 革命をする、そう口にしたのは、長い前髪をセンター分けにした男子生徒。

 彼の名は伯耆(ほうき)。


 革命という言葉に緊張して、唾を飲んだのは、覇気のない顔付きをした但馬(たじま)という同級生の男子生徒だ。


「そうだ。きっと今、安芸から生徒会長の座を奪おうと思っても、まず選挙では勝てない」

「……ああ、だろうなぁ……」


 彼らの革命の画策。

 それは、安芸を生徒会長の座から引きずり下ろし、そして自分たちで学園を支配しよう、というもの。


「だから、俺たちは選挙以外の方法で学園のトップに立つ」

「選挙、以外で……」


 但馬は手の平が汗で湿り、それを慌ててゴシゴシと制服のズボンで拭った。

 そんな冷や汗を頬に伝わせる但馬に、伯耆はこう続ける。


 それは、彼の心の奥にあった野心を、現実の世へと解き放つ術(すべ)。


 人差し指を但馬の眼前で立てながら、左右を何度か見渡して、伯耆は小声で言った。


「銃を奪い、安芸の直属状態とも言える《風紀委員会》や《校外委員会》を制圧する」


 銃を奪う。制圧。

 それらの言葉にいよいよ但馬の緊張がピークに達する。


「……は、は?! 制圧ってお前……!」

「馬鹿! 騒ぐな!」


 慌て始めた但馬の肩を突き飛ばし、伯耆は彼を黙らせる。


 注意された但馬は慌てて口を自分で塞ぎ、きょろきょろと辺りを見回した。人影がないことを確認してから、彼は伯耆に近づいて、声を押えながら彼に抗議する。


「ほ、本気で言ってんのか! 委員会を制圧なんて、そんなことしたら……!」

「大丈夫だ。必ず成功するさ」


 但馬は伯耆の腕を掴んで彼を揺らしたが、その抗議に伯耆は笑みを浮かべてそう言った。


「大丈夫って……。そ、そもそも何でそこまでして安芸のポジションを奪う必要がある?! 今のままでもいいじゃないか!」


 多くの人からの恨みを買うかもしれない伯耆の計画に、但馬はその実行の価値がないことを説こうとした。


 しかし、伯耆は少し不機嫌そうになってから、自分の二の腕を掴んだ但馬の腕をバッと払い、彼に背を向けた。しばらくの間(ま)を置き、肩を震わせ始めた伯耆。


 彼の背に、但馬は数歩、後退(あとずさ)る。


 そして伯耆は歯軋りをしながら勢いよく振り返り、但馬の胸に指を突き立てながら激しく言った。


「俺は嫌なんだよ! あんな平凡な奴の下にいるこの現状がッ!」


 伯耆と長く友人をしている但馬は、彼がすぐ不機嫌になったり、多少傲慢なところがあることを知っている。だがそんな彼を知っていてもなお、但馬は恐怖でまた後退ってしまう。


「俺がいま享受している安全も、日々の飯も水も! 認めたくはないが、全て安芸から与えられているものだ! 俺はこの現状が嫌なんだ! 俺は施しを与える人間であって、決して与えられる人間ではない! 俺の誇り(プライド)が許さないんだ!」


 言葉の区切り区切りで、ドンと強く但馬の胸を押す伯耆。その力に、やがて但馬の背中が校舎の壁に当たる。

 但馬の怯えで見開かれた両目を睨みながら、荒れた鼻息と呼吸する肩、威圧的な剣幕を徐々に落ち着けていく伯耆。彼は目線を少し落とし、「だから」と続ける。


「だから、奪ってやるんだ。俺の方が、学園の指導者に相応しい。俺に全員が従えば、学園はもっと安全で、快適で、素晴らしい場所になるはずだ」


 伯耆は数歩下がり、但馬に決断を迫る。


「……どうする、但馬」

「は、は、え?」

「……この計画の実行には仲間が必要だ。お前も、やるのか」


 唾を飲む但馬。

 決断のために与えられた数秒が、異様に長く感じられる。だが混乱した頭ではその長く感じられた時間を有効活用はできない。

 彼の脳内を巡るのは、「計画を実行するか否か」「計画が成功するか否か」というリスクとリターンの比較する理性的なものではなく、「伯耆についていくか否か」という天秤、ただそれだけであった。


「……もしついてくるなら、俺はお前に莫大な報酬を支払うぞ」

「……え?」


 俯いた顔を上げてそこにあったのは口角を上げて余裕そうな表情を浮かべた伯耆の顔。

 彼は両手を広げたりしながら、「計画が成功した暁には」という話を始める。


「俺は安芸の報酬点数制をそのまま利用しようとも思っている。計画が成功したら、お前に100……いや、500RPをくれてやろう。このRPは今後学園の運営に欠かせないものになるはずだ。これで、お前は大金持ち」

「お、大金持ち……」

「そうさ。お前は生徒会長の側近として、大量の報酬を受け続ける! その金をどうしようとお前次第だが……。そうだな……お前、クラスに好きな女がいただろ、その女でも買ったらどうだ」

「か、買うって……!」

「いいか。お前も、与える人間になるんだ。貧しい奴らに施しを与える人間になれるんだ。……まあ、ただで恵みをやるっていうのもアレだからな、何か……奉(・)仕(・)でも要求すればいい」

「お、俺が、人の上に……立てるのか?」


 但馬の最後の疑問に、伯耆はにやりと笑い、彼を納得させるように、


「……ああ」


 と、力強く言った。


 但馬はもう一度俯いて考える。

 革命が上手くいき、現状「金」と呼んで相違ないRPを大量に手に入れ、成功を手にした自分の姿。

 自分に跪(ひざまず)く人々、媚(こ)びる人々。

 片思いのあの人を、その立場と身分と資産とを以て、好き放題にできる自分の姿。


 そして、ついていくべき人間は誰か、という最後の疑問。

 優柔不断で、ぐずぐずすることの多い但馬に、これまで伯耆は「こうしろ」「これにしろ」「こっちにこい」と、強い指示と命令を与えていた。

 今までそれに従ってきただけの、強い意志という自分を持たない但馬の取れる選択と言うのは、決まっていた。


「つ、ついていくよ、伯耆。ずっとそうしてきたんだ……!」


 小さく頷きながら、伯耆は「それでいい」と笑った。


「正しい選択をしたな。お前は今まで通り、俺の後について、俺の真似をしていればいい」

「あ、ああ」


 但馬の肩を叩いてから、伯耆は来た道を引き返し始める。


「ほ、伯耆。どこに行くんだ?」


 早歩きで校舎の方へ戻り始めた伯耆の後を追う但馬。

 となりを歩き始めた彼には一瞥もくれず、まっすぐ前を見ながら伯耆は計画の詳細を語り始める。


「……今はチャンスだ。安芸と甲斐の二人は大之谷へ向かっているし、《校外委員会》はその半分が同様に大之谷の防衛に向かっている」

「鬼のいぬ間に……ってことか。だけど最初の一手は何をするんだ?」

「……仲間を募る」

「……仲間……」

「そうだ。計画には……そうだな、五人から十人は欲しいな」

「そ、その次は……?」


 チッと舌打ちをして、伯耆は足を止め、それに合わせて但馬も足を止める。

 なぜ止まったのか、と不思議そうな顔をした但馬を、伯耆は自身の顔と彼の顔の距離を頭突きできるほどまでに詰めて、睨みつけた。


「……あとで、ちゃんと、話す、から。お前は、俺に、言われた、ことだけを、しろ」


 苛立ちと怒りを噛み殺しながら、聞き分けの悪い子供に言い聞かせるように言う伯耆に、但馬はうんうんうんと小刻みに頷く。


「黙って、ついてこい」

「あ、ああ。すまん」


 口を閉じた但馬に、ふんと鼻を鳴らして、伯耆はまた大股で進み始めた。


「……で、ど、どこに行くんだ……?」

「…………」


 もはや伯耆は一言も発することはなく、二人は校舎の人混みへ消えていった。

最新話を追ってくださっている、ありがたい読者様。第75話の最後にイラストを追加いたしました。エッなのにしか興味のない紳士方は楽しめません。よろしくお願いします。



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時間を定めず投稿しているので、本作を少しでも気に入って頂けた方は[ブックマーク]をお願いいたします! 読んでくれてありがとうございます!

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