↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【受賞】ノアの学園~国父とよばれた高校生~  作者: 大塚 可修
第3章 学園国家の礎石
PR
72/84

第72限 農業高校救出作戦・生存者たち

大人だけが消えた世界……

……そしてやがて、学園は国家となる

 大之谷農業高校、校舎一階、生徒玄関。


 三入(みいり)の合鍵(けんじゅう)のおかげで校舎内に突入できた僕たち七人は、集まってきたフラッドたちと戦闘になっていた。

 ガンッという銃声や、グチャッという何かが潰れる音、そして生き物とは思えない不気味な声が校舎で木霊している。


「くそっ、数だけイッチョマエだなぁおい!」


 三入はベテランたちと並んで、教室からわらわらと溢れてくるフラッドに小銃を向け、必死に引き金を引いている。ガンッ、ガンッ、と射撃音を連続させ、確実にフラッドを仕留めていた彼だったが、途中でそれが止む。


「ちっ、弾切れかよ……!」


 彼は小銃を背負うと、背中から近接武器のゴルフクラブを取り出して、歯を食いしばりながらフラッドの方へ「ほら、かかって来いよウスノロがぁ!」と挑発しながら距離を詰めていく。さすがしばらくは不良をしていただけあって、唾を吐きながら悪態をつくその姿はよく板についている。


「この太った眼鏡野郎ッ! それ以上太りたくないだろォ!」

「ぐぅぅ、ぐがああああああッ!!」


 彼の挑発に腹が立ったのか、大きな腹をした眼鏡のフラッドが突進してくる。三入も負けじと大股で距離を詰めながら、その突進の直線コースから少し右にずれ、すれ違いざまに思いっきりフラッドの膝にゴルフクラブを叩き込んだ。


「ぐべえッ!!」


 太ったフラッドは勢いそのまま滑るように倒れ、顔面を廊下に強打する。「ぐふぅぅ」と小刻みに揺れる頭をフラッドが起こすと、粘着質な鼻血がその鼻と床との間で糸を引いた。


「……二度と食事できないようにしてやるよ」


 そして三入はフッと短く息を吐いて得物をフラッドの無防備なうなじにお見舞いしてやった。


「ああ……くっそ」


 トドメを刺したのはいいが、返り血に彼の顔が濡れる。


「死んだあとにも迷惑かけんじゃねえよ」


 それを拭うと、彼はゴルフクラブを仕舞って、再び小銃のグリップを握ると、腰から新しい弾倉(マガジン)を取り出した。


「ぐううう……」


 すると騒ぎを聞きつけた別のフラッドの群れが教室から現れる。先頭のフラッドは教室から廊下に出ると左右を見回し、僕らを見つけると血まみれの歯茎を見せて笑い掛けてきた。


「くそっ、こっちからも新手だぞ!」


 別の委員の声。今度は数体のフラッドが階段から転げ落ちながらやって来た。

 僕が近くにいたので、拳銃で踊り場にいるフラッドと応戦する。だがだめだ。やはり数が多い。


「三入! 数が多い! 一旦さがろう!」


 廊下の先に現れたフラッドと睨み合っていた三入にそう声を掛けたが、彼の背中は微動打にしない。


「その必要はねえ。カイチョたちは階段の奴ら片付けててくれ」


 彼はそう言って、廊下のフラッドの方へ進み始めた。ポキポキと指を鳴らし、手首を振った三入は、左手だけで小銃を構え、右手にゴルフクラブを握って、口角を上げながら僕らから離れていく。


「……こいよ」


 三入が小さく呟く。

 その姿はまるで戦闘狂(バーサーカー)だ。


「……仕方ない。そこの二人(ふたり)で三入(みいり)を援護して! 君は背後をカバー! 僕と残りで階段から来るフラッドを倒すよ!」

「了解!」

「分かりました!」


 僕は戦闘を継続する選択をし、仲間に指示を飛ばす。階段のそばにあった掃除ロッカーを倒して、フラッドたちへの簡単な障害物を作ってから、階段から距離を取り、上から降りてくるフラッドに狙いを定めては、引き金を引いた。

 指示通りに仲間も動き、背後の警戒もしながらフラッドへ銃撃を浴びせかける。


 片目を閉じて拳銃の照準にフラッドを入れて戦い、装填のタイミングで三入の方をチラッと確認する。


 彼は左手の小銃を大して照準も覗かずに発砲し、反対の手のゴルフクラブで近づいてきたフラッドを殴りつけていた。小銃の弾は大体がフラッドの下半身に命中しており、おそらく移動速度の低下を狙っているようだった。そして銃撃により動きが鈍ったり、怯んだりしたフラッドを、ゴルフクラブで殺す、という戦い方だ。


「ほらどうしたッ! 数だけかァッ!!」


 三入の援護を指示した二人がいたが、ほとんどを三入が仕留めていくので、その二人はどこか所在なさげだった。

 吠えながら小銃を撃ち、ゴルフクラブでフラッドを始末していく三入。


「ぐがああああああッ!!」

「っ! 会長、弾切れです! 援護をお願いします!」


 僕もいつまでも三入に注意しているわけにもいかず、階段を転げ落ち、掃除ロッカーを乗り越えようとしてくるフラッドに拳銃を向け、よく狙って発砲。僕の弾はフラッドの大きく開いた口に突入し、項靭帯の辺りに穴を開けて体外へ貫通する。だがマイクロチップの破壊には至らず、その教員のフラッドは血の噴き出る口の中に両手を突っ込んで「ぐぶふっ、ぐぶぶっ」と嗚咽しながら、こちらを目指して前進してくる。

 もう一度銃口を向け、トドメを刺そうとしたが、僕よりも先にそのフラッドの首を撃ち抜いた弾丸があった。


 となりでした銃声に目線を向けると、そこには女子の委員……三入の妹が小銃を構えて立っていた。

 彼女は構えを解くと僕の方を見て、「や、やりました……!」と笑った。


「は、初めて倒しましたよ! 今のは会長が怯ませたからですけど……私ももっと頑張ります!」


 彼女も兄同様に、中々頼もしくなってくれそうだ。


 ◆


「お前たちは動きを止めてくれ。俺がトドメを刺す」

「「了解です」」


 倉庫横、馬術場。

 厩舎に群がる三体のフラッドの駆除のために、一人は装甲車の機銃で待機し、山城たち四人が馬術場を横断している。


 山城に指示され、委員三人がその場で小銃(ライフル)を構える。山城はフラッドへのトドメを刺す要因として、金属バットを握りながら厩舎の方へ近付いていく。

 当のフラッドはといえば、なぜか必死になって厩舎の両開きの扉を叩きつけている。


「……おい! その小屋のなかに誰かいるのだろう⁈」


 山城が厩舎へ歩みながら大声で厩舎へ離し掛けた。

 すると三体のフラッドが山城に気付いて振り返るが、同時に女子の声が厩舎の中から山城へ届いた。


「……! ええ! ここにいるわ! フラッドに追い詰められてたの!」

「お主たちが最上とかいう男の言っていた食糧確保班だな!」

「そうよ! お願い! 助けて!」

「そのつもりだ! 少しばかり銃を撃つから、頭は下げておけ!」

「分かったわ!」


 さてと、と山城が金属バットを握り直し、空いた手でハンドサインを後方へ送る。

 その合図を受けて、三人の委員が小銃をフラッドへ発砲する。


 山城に気付き、牙を剥いて駆けだしたフラッドたちに、最初の弾が着弾した。「ぎっ」「かァッ」「んぶっ」とそれぞれ胸、脚、頭に弾を受け、呻き、よろめき、血が流れる。弾丸を受けた部位によって山城に迫るスピードに個体差が生まれ、それを見た山城も前進。


 まず胸に弾を受けていたフラッドが不器用に駆けてきたので、それを何事もなく金属バットで横凪に撲殺する。次に足に風穴が開いたフラッドが片足を引きずりながらやって来て、山城に飛び掛かったが、それを一本背負いの要領で躱し、仰向けに倒れたそのフラッドの首を踏みつけ、マイクロチップを破壊した。


 そして最後の一体を、山城はその長身で見下ろす。


 その一体の様子に山城はピクッと目元を痙攣させた。


「ばあ゛あ゛あぁぁぁ……あがががあァァァ……」


 片腕の肘から下がなく、足にも異常があるのか、その肉が剥き出しの肘を地面について、四つん這いで移動しているのだ。まるで蜘蛛のようなそのフラッドは額にさっきの弾丸を受けていて、新鮮な赤い血をどくどくと垂れ流している。


「哀れな姿であるな」


 山城はその無惨な動く死体に憐れみを覚える。


「死が慈悲であることを願うばかりだ」


 そう言って山城は歩みの遅いフラッドにトドメを刺そうと金属バットを両手に持ち直す。

 ゴキゴキと首を倒しながら、「がぁ、がぁ」とアヒルのような鳴き声を発し、ガチンガチンと歯を合わせる不気味なフラッドに、山城はゆっくりと近付いていった。


「……ぐぅわ゛あぁぁァッ!!」


 ……だがしかし、大きく雄叫びを上げたその四足歩行のフラッドが、山城の視界から消える。


「……部長!」

「山城さん!」


 山城は後ろから掛けられた後輩たちの声を聞いたが、それ以外は何も分からない。彼は時間をとてもゆっくりと感じる。


 地面から消えたフラッド。そこに残された、影。


 山城は戦いの経験から、答えを探して、顔を上げた。


 ……眼前に現れる、灰色の顔をした化け物の口腔。


「……っう?!」


 咄嗟に自分の顔とフラッドの顔の間に金属バットを構える。

 突然勢いよく飛び上がって山城を襲った四足歩行のフラッドはその口にバットを噛まされたが、それでも飛び付くように山城を地面へ押し倒した。


「がぁっ! がぁぁぁっ!」

「ぐ……うぅ」


 山城は背中を地面に着けながらも、噛まれまいとフラッドの口に噛ませた金属バットを両手で支える。だがフラッドの怪力に山城の剛腕も小刻みに揺れ、押し戻され、二人の顔は徐々に近付いていく。


「ぶ、部長を助けないと!」

「ばか! 銃はやめろ! 山城さんとフラッドが近過ぎる! 誤射るぞ!」

「……ちっ! くそ! 結局バットかよ!」


 山城の班員たちは銃を下げ、金属バットを持って駆け出した。


 しかし、それとまったく同時に、彼らと反対側で音が響いた。バタンッ!と、何かが勢いよく開く音。そして、ドドド、ドドド、と地面を力強く蹴る、何かの足音が続く。……いや、分かりやすく言うならパカラ、パカラ、だろうか。


「やあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 女子の低い雄叫びがその場にいた全員の肩を揺らした。

 班員たちが見たのは、白馬に乗った一人の女子生徒が、ピッチフォークを騎馬兵の槍のように構えた姿。馬を駆り、馬術場の障害を乗り越え、窮地の山城の元へ向かう、槍を構えた女子生徒。


「……なんだ、あれ」


 白馬の……女子生徒は農具(ピッチフォーク)を地面と平行に構えたまま、山城とフラッドに突進。

 そして山城の横を通り過ぎるその瞬間に、狙いすました四つ叉のピッチフォークの先端で、山城に覆い被さるフラッドの腹を突き刺し、二人を引き剥がす。


「ぐばあ゛ァァァッ」


 四足歩行のフラッドは腹にピッチフォークを突き刺され、その勢いで吹き飛ばされて、ふわりと宙を浮き、やがて地面に落ちる。


「今よ! 撃って!」


 馬の前足を浮かせ、その場で止まった彼女に言われ、山城の班員たちは思い出したように銃を構え、落下の衝撃で血塗れになったフラッドに弾丸を乱射した。

 あちこちに銃弾を受けたフラッドはゴボッ、ゴボッと口から血を溢れさせてから、どさりと倒れる。


「……ぬ、うぅ」


 危うく死にかけた山城は体を起こし、辺りを見渡して何が起こったのか整理する。

 自分を襲っていたはずのフラッドは遠くでぐちゃぐちゃになっていて、となりには馬がいる。その上には血塗れで物騒な、大きな四つ叉のフォークを持った女子生徒。


「……助けに来てくれてありがとう」


 馬上の女子生徒から手を差し伸べられた山城は、その手と彼女の顔を見比べる。


「……こちらこそ、助かった。感謝する」


 そしてその手を掴み、山城も立ち上がる。


「あたし由良(ゆら)。あなたは?」

「……山城だ」

「そう。よろしくね、山城」

「う、うむ」


 食糧確保班の保護に、山城たちは成功した。


 ◆


「職員室、クリア」

「校長室も大丈夫です」

「二階の教室にいたフラッドも片しました」

「別の校舎に続く連絡通路がありましたが、施錠されていました」


 続々と下駄箱にいる僕の元に報告がやってくる。

 一つ一つの報告と、下駄箱のそばの柱に付いていた校内見取り図を比べて、校内の安全圏を確認していく。

 この校舎は別棟と繋がってはいるが、鉄扉が固く閉ざされているので、一階と二階の制圧ができれば、ここにフラッドはいないことになる。


「トイレも全部みてきた。使用中でも掃除中でもなかったぜ」


 三入がポケットに手を突っ込んで、欠伸(あくび)をしながら階段から下りてきた。


「……トイレも安全……と」


 持って来たペンで、壁の地図のトイレ二箇所にペケ印をして、僕は「うん」と頷いて下がる。


 各教室、職員室、校長室、廊下、トイレ……全ての場所に「×」を書けた。


「……よし。君たち二人はここを見張ってて。山城たちが来たら上へ来るように伝えてほしい」

「「はい」」


 そばにいた二人組みを指差して見張りを指示。


「残りの人員で三階へ繋がる階段を塞いだバリケードを除去しよう」


 僕を含むその他は生存者たちが籠城する三階四階を守るバリケードを撤去だ。


 ◆


「おーい、誰かいるー?」


 バリケードは思ったよりも頑丈そうだった。

 二階から三階へ上がる「階段」と呼べるスペースの全てが机や椅子、掃除ロッカーで埋まっている。机や椅子の足と足が絡み合っていて、崩れないように工夫されていた。


「あぁ、いるぜ」


 二階から上へ声を掛けると、男の声が返ってくる。


「……最上くんだね?」

「そうだ」

「校舎内のフラッドは片付けたよ。だからバリケードを撤去しようと思うんだけど、いいかな?」


 校舎内のフラッドは片付けた……僕がそう言ったところでバリケードの向こうから「おおお」と歓声が上がった。


「……なら撤去しよう。下からもバリケードを崩していってくれるか?」

「あぁ、分かった」


 最上くんとの話し合いが終わると、すぐに上からガラガラというバリケードを崩す音が聞こえ始める。

 このときをずっと待っていたのだろう。「早くどけようぜ!」「こっち持て!」などの声の掛け合いが始まっている。


「……よし、僕らもやるよ」


 腕捲りしながら言うと全員が「ういす!」と言って撤去作業を開始。


 そして十分ほど作業を続けると、上からの撤去と下からの撤去が、階段の踊り場でぶつかった。


 僕が踊り場に横たわっていた三つの掃除ロッカーを崩すと、その向こうにやつれた男子生徒の顔が見えた。最上くんではないが、彼は僕の顔を見るとパァと顔を明るくして、三階の方を向いた。


「あ、最上先輩! 撤去終わりました! 来てくれましたよ!」


 彼は掃除ロッカーを引き倒して、階段を下ってくる一人の人物の道を開ける。

 僕もずいぶん見晴らしのよくなった踊り場から、階段の上を見やった。


「……よぉ」


 そう言って下りてきたのは、松葉杖を突いた体の大きな男子生徒。山城は筋骨隆々な体の分厚い男だが、筋肉の付き方が彼とはちがう。

 山城よりも細身だが、筋肉のしっかりした体付きをしていて、背が高い。松葉杖を突いて、怪我をしているようだが、彼と今ケンカしても勝てないとすら思う。


 堂々とした彼の様子は、正しくリーダーのものだ。


「……さっきも自己紹介したが、最上だ。よろしく」


 最上は上から僕を見下ろしていた。他の生徒が「助かった!」と喜んでいるのを背景に、ただ一人、じっと僕の顔を真顔で見つめている。


挿絵(By みてみん)


「……ここじゃなんだ。下の……そうだな……校長室で話し合おう」


 彼の提案に僕は頷き、階段を下った。


 そして、ここからが僕の仕事だ。

 最上くんたちと話をつけ、ここ大之谷農業高校を学園の食糧生産拠点とするのだ。


「どうやら、強敵そうだ」


 誰にも聞こえないように呟き、僕は決戦の舞台、校長室のドアを開けた。

[いいね][ポイント評価][感想]、残していって頂けると嬉しいです!

時間を定めず投稿しているので、本作を少しでも気に入って頂けた方は[ブックマーク]をお願いいたします! 読んでくれてありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。