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【受賞】ノアの学園~国父とよばれた高校生~  作者: 大塚 可修
第3章 学園国家の礎石
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第64限 学内通貨Ⅱ

大人だけが消えた世界……

……そしてやがて、学園は国家となる

 翌日。

 生徒会・広報である和泉が報酬点数制度の周知・浸透を目指した活動を開始。


 伝えられたのは以下。


 今回、生徒一人当たりに与えられる点数は5点。学園のためとなるような働きをした者には週ごとに報酬点数(RP)を支払い、何か欲しいものがある場合には、物資を保管・管理する《災害対策委員会》の元へ向かい、モノと報酬点数(RP)を交換することができる。

 この簡単な通貨制度が施行されたとはいえ、その浸透が突然十分になることは考えられないので、しばらくは食糧の配給は維持される。ただし、しばらくの時間が経ち、生徒会や生徒の間で報酬点数制が根付いてきたと考えられた場合は『働かざる者、食うべからず』という古来よりのルールに則って、この配給制を停止することとする。


 ◆


 また同時に、新聞部と美術部、生徒会広報部の協力の下で、『求人広告』が壁新聞として掲示された。


 求人内容は以下。


 ----------------------------------------------------


『集え! 秩序の守り手! 風紀委員、大募集ッ!』

 今回は《風紀委員会》から、新たな委員の募集を行います。


 仕事内容は、

「校内の見回り」……文字通り、校内に異常がないかパトロールします。

「騒動の鎮圧」……混乱があれば、その収拾に務めます。

「事件の解決」……盗難、傷害などの事件の解決を行います。

「不良生徒の確保」……問題を起こした生徒を確保、拘禁します。

 などで、学園内の治安秩序を守る警察として働いていただきます。


 給与は新たに施行される報酬点数制を利用して支払われ、週に『10RP』が与えられます。


 ただし、風紀委員の登用には以下の試験を設けます。

(1)風紀委員長・伊予との面接

(2)運動能力試験

 生半可な気持ちの者に、拳銃の携行を許し、校内秩序を委ねるわけにはいきません。また、体を俊敏に動かせない者、運動能力が著しく悪い者に務まるものでもありません。覚悟がある生徒のみ、《風紀委員会》をお訪ねください。


 以上。


 ----------------------------------------------------


『次の英雄は君だ! 立てよ五百生徒! 守れよ学園! 急募、校外委員!』

 《校外委員会》から、大規模な委員募集を行います。


 仕事内容は、

「戦闘訓練」……フラッドとの闘いに備え、発砲などの訓練を実施します。

「校外出動」……校外に赴き、フラッドと戦い、物資・資源の確保を行います。

「学園守護」……日頃から学園の周囲を警戒します。

 の三つです。


 ご存知の通り、校外委員は危険な仕事です。実際に死者も出ました。

 しかし、外の世界で化け物と勇敢に戦うこの《校外委員会》なくして、学園の存立はありえません。守るのも、生かすのも、全て校外委員の仕事なのです。

 そんな学園を守る英雄に、あなたが立候補することを期待しています。男女も、運動能力も問いません。

 ただ、自分以外の誰かを守りたいという崇高な志(こころざし)ある者……それだけが校外委員となる条件です。


 給与は新たに施行される報酬点数制を利用して支払われ、週に『20RP』が与えられます。

 加え、『校外出動』が実施された際には、追加報酬として『50RP』を与えます。


 この『校外出動』の頻度は月に一度ほどと予定しています。また校外出動は危険を伴う団体行動であり、和を乱す者や練度の足りない者は、これへの参加を認めず、参加には副委員長・山城の許可を必要とします。


 以上。


 ----------------------------------------------------


 ……これらの委員会への求人広告には、美術部の作成したポスターも一緒に掲示されていた。


 桐可学園の校舎を守るように、一列に風紀委員が並んだ《風紀委員会》のポスター。


 そして《校外委員会》のそれは、まるでハリウッドの戦争映画広告のような仕上がりだった。

 本物よりも男らしく、凛々しく描かれた生徒会長・安芸が校旗を高く掲げながら、小銃(ライフル)を提げた数千人の校外委員を後ろに従えているポスターだ。荒廃した桐可市を背景に、安芸は何かを叫びながら、白目を剥いたフラッドを踏みつけている。

 美術部渾身の迫力ある劇画のポスターだが、後日、安芸がこれを見つけると顔を赤くして「顔の部分だけ修正してください」と頭をさげたという。


 ◆


 旧校舎二階の一室。

 そこは細長く小さなセミナー室だったが、現在は《生徒会》からの許可を受けて、《風紀委員会》が占有使用している。

 その部屋の奥、窓際の部屋を見渡せる席にはショートカットの少女が座っていて、約10人の男女が彼女の前に列を作っていた。


「はい、これ。今までご苦労様でした。これからもよろしくね」

「は、はいっ。頑張ります!」


 生徒会長・安芸から《風紀委員会》を預かる委員長である伊予が、委員全員に封筒を手渡していた。

 それを受け取った男子生徒は列から離れると自分の席に座り直し、封筒の口を開けて中身を取り出しはじめる。


「これが……報酬点数(リワード・ポイント)……」


 中に入っていたのは、5枚のトランプカード。「5」と「4」が二枚ずつと、「2」が一枚入っており、その合計は20。カードの真ん中にはでかでかと生徒会長と書かれた赤い判が押してある。


 その後も続々と委員たちは伊予からこれまでの労働の対価である報酬点数を受け取っていく。一般生徒たちが5点のRPを受け取る中で、風紀委員たちは共通して、その4倍に当たる20点を与えられている。


 全員に封筒を渡し終えると、部屋が少し騒がしくなる。真面目な伊予が率いる《風紀委員会》は普段、厳格な雰囲気の中で仕事に当たるが、このときばかりは初めての「働いて稼いだ給料」を受け取る喜びを生徒たちは噛みしめ、伊予も笑顔でその様子を眺めていた。


 ◆


 新校舎、一階。体育館前。

 運動部などが利用するジムのとなりにあった倉庫は、中にあった荷物が取り払われて、いまは《災害対策委員会》管轄の資源保管庫となっている。厚いコンクリートで囲まれ、窓もないその部屋はモノの保管には最適で、扉は施錠もできたので、物資の管理を《災害対策委員会》が、保管庫の警備を《風紀委員会》が行うにはちょうどよい場所だったのがこの体育館倉庫だ。


 普段は食糧や水の配給の準備にやってくる災害対策委員しか訪れる者のいないその保管庫は、いま、非常に賑わっていた。


「うわ! カップラーメンだ!」

「みろよ! 山のようにチョコレートがあるぜ!」

「これリップクリームだわ! 助かるぅ~」

「ああぁ……炭酸飲料(サイダー)だ……ごくり」


 生徒たちが狭い倉庫に押し寄せてきている。災害対策委員も、列を維持する風紀委員もてんてこまいだ。


 倉庫にやってきた生徒たちは、みな一様にその手にトランプのカードを握っている。《生徒会》が発行した学内通貨『報酬点数(RP)』である。

 このRPで保管庫にあるモノを購入することができるため、多くの生徒が久々の「買い物」に訪れているのだ。


「お、おいこれ! これ、何点(いくら)だ?」


 倉庫に一番乗りした男子が、板チョコを一枚鷲掴みして、災害対策委員の女子に詰め寄った。

 部屋の片隅にテーブルを置いて、それをカウンターのようにして座る災害対策委員の女子生徒は、手元の目録と板チョコとを交互に見比べ、その購入に必要な報酬点数《RP》を伝える。


「……えぇーと、4RPね」

「よ、4RP⁈ おいおい、そりゃちっとばかし高すぎねえかぁ!?」

「適正価格よ。あなた貧乏なの? 買えないなら他の人が買うわ、元に戻しておいてちょうだい」

「ぐぎぎ……!」


 板チョコを持った男子生徒は悔しそうに変な声を出した。

 それも仕方ない。受付の彼女は「適正価格」と言ったが、板チョコ一枚にしては高価すぎることを《災害対策委員会》も《生徒会》も承知だ。

 今は生徒会長・安芸の命令で、あらゆるモノが少しばかり高めの値段設定にされているのだ。「買えないことはないが……少しばかり痛手だな」程度の価格に。安芸の狙いは、労働の推奨だ。働き、稼ぐことを学内に浸透させるためである。


 そのため、《風紀委員会》や《災害対策委員会》、《環境委員会》、《校外委員会》などでこれまで働いてきた者たちならば……


「すみません。これ、ください」


 板チョコを買うかどうか踏ん切りの付かなかった男子生徒の後ろから、別の二年男子生徒が現れた。その彼の手にも、同じ板チョコが握られていて、品物をカウンターに置くと、彼は「いくらですか?」と言いながらポケットに手を入れた。


「4RPよ」


 値段を聞いて、彼はポケットからトランプを取り出す。だが、他の生徒とは様子が違う。明らかに合計点数が一般生徒とはかけ離れている。その合計、25RP。

 風紀委員として働いていたこの二年の男子生徒は、これまでの給与に加え、一般生徒が無条件に与えられる5RPも持っているのだ。


「お釣り、ください」


 そう言って彼はたくさんの手札の中から「スペードの5」を引き、受付の女子に差し出した。

 彼は「クラブの1」をお釣りとして返してもらい、カウンターの女子委員に「ありがとう」と伝えると、板チョコを胸ポケットに仕舞って、保管庫を後にする。


 茫然とそれを眺めていた一番乗りしたはずの男子は彼がいなくなってから我に返り、「ぐううう! ちくしょー! かっこつけやがってぇ!」と叫び散らしてから、カウンターにドンと「3」と「1」のカードを叩きつけた。


「……まいどどうも」


 それを受付の女子は不愛想に回収し、目録に掛かれるチョコレートの在庫個数に訂正を入れる。


 学園経済は、ここに本格的な始動を始めたのだった。

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